知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

文字の大きさ
235 / 627
第3章 帝都潜入作戦

閑話15 クロエ・ハミニス(オムカ王国ジャンヌ隊副隊長)

しおりを挟む


「てぃ、Tレックス……! 逃げるんだ、人間じゃ勝てない! あれは恐竜だ!」

 イッガーの珍しい慌てた声。

 キョウリュウ。
 聞いたことがない。
 いや、それでも自分の倍以上のデカさからくる圧迫感。ぎろりと睨みつける人間とはまったく異なる瞳。ギザギザの切れ味抜群そうな歯は、噛みつかれたら胴体が半分持っていかれそうだ。それを見るだけでもヤバさが伝わってくる。
 というか私の頭の中で、危険の警報がガンガン鳴っているのだ。

 逃げろ。こいつは危険だ、と。

『さぁ、やってまいりました! Tレックスのティラ子ちゃん! 10歳、メス! いやー、可愛いねー!』

 どこが! と心の中でツッコミを入れる。 

『ルールは簡単。挑戦者とティラ子ちゃんの時間無制限一本勝負! 武器も反則もなんでもありの、相手が戦闘不能、降参、または死んだら負けのバーリトゥード!!』

 うーん。これを見ると教官殿……じゃなくニーアは可愛いレベルだなぁ。
 などと軽く現実逃避。

『あ、Tレックスっていうとスカベンジャー(腐肉食動物)って説もあるけど、やっぱボクはハンター説を推したいねー。というわけで今回はゴリゴリのハンター・Tレックスだから安心して』

 ちょっと何を安心していいのか分からなかった。

『それでは、第一関門! バトル・スタート!』

 こうなったら仕方ない。
 迎え撃とうと双鞭ジャンヌとダルクを腰から引き抜く。

 咆哮。

 そのド迫力の音声に思わず身がすくむ。
 エイン帝国の大型船を前にしてもこれほどの脅威は感じなかった。
 そして自分を標的と定めたのか、ティラ子とかいう怪物が突進してくる。

 速い。
 巨体に似合わず、超高速で大地を揺らしながらの突進。

 ヤバい。動け動け動け動け!

 横っ飛び。

 あ、しまった。
 ここで避けたってことは、ザインたちは……。

 衝撃。
 見ればティラ子がザインたちのいた辺りを押しつぶして――

「…………はっ」

 いなかった。
 無事だ。
 ザイン達の周囲を緑の壁にティラ子の獰猛な牙が喰い込むがそれ以上は通さない。

『言っただろう? いかなる攻撃も通さない。つまりティラ子ちゃんの攻撃も完全シャットアウトのバリアーさ』

 ホッとするのも一瞬。
 ティラ子はザインたちを食べられないと諦めて、残る獲物の私に狙いを定めてきた。

 来る。ティラ子の凶悪な頭部が迫り、私なんて一飲みにできそうなほど大きく開かれた口が閉じる。
 それを紙一重で地面に転がって回避する。

「クロエ! そんな奴に負けんな!」

「下よ下! 回り込んで!」

「クロエさん! 正義ジャスティスは勝つのです!」

 あぁ、もう!
 あのお気楽連中は簡単に言う!

 けど応援してくれるのはありがたい。
 それになんとなく弱点も見えた。
 あれだけの巨体に反し、脚は異様に小さい。
 ならそこを思い切り打ち砕けば――

「覚悟ぉ!」

 ティラ子の頭が迫る。
 迫力さえ無視すれば、ニーアより遅い。
 だから体を横に。あぎとを回避して懐に飛び込む。
 この巨体だ。小回りはきかない。
 だからその細い脚に対し、両手に持ったべんを振るう。
 もらった!

「がわわわわわわ!」

 だが返ってきた衝撃は、体全体を震わすほどの反動だった。
 硬い。その気になれば石も砕く私の鞭だけど、鉄でも入っているんじゃないかと思うほどの硬さで全く歯が立たない。

 くそ、こうなったら何度でもやってやる!

 だがその前に相手が動いた。
 少しかがむように脚が折れたのだ。

 そしてそこから放たれるのは歩行――いや、それを活かした蹴りだ。

「がふっ!」

 衝撃。
 ニーアの攻撃の何倍も強力な衝撃が襲った。

 瞬間、ジャンヌとダルクを交差して防がなかったら、鋭利に尖った爪が体に突き刺さっていただろう。
 だがその代償は後方への飛翔。
 要は吹っ飛ばされたということ。
 草を裂き、幾本の木の枝を折った末、大樹に背中を打ち付けてようやく止まった。

「がっ……はっ!」

 息を漏らす。
 全身が痺れたように動かない。

 あー、ヤバい。勝てない、これ。
 さすがにあんな化け物退治、専門にしてないし。

 地鳴りが聞こえる。
 身動きの取れなくなった私に、とどめをさそうと来る。

 もう、いい。
 これ以上は辛いだけだから。楽にして。

 だからバイバイ、皆。
 後は頑張って。私はここで脱落。
 皆ならきっと隊長殿を……。

「――いやいやいやいや!」

 ふざけるな。
 なんで諦めモード入ってんの。
 てか隊長殿は!? 隊長殿を助けてない! それにここで死んだらあの馬鹿ウィットが絶対勝ち誇った顔をするに違いない。
 それだけは許せない。

 考えろと言われた。
 だから考えてここに来た。
 それなのに私が死んで、あの人が喜ぶはずがない。

 なら考えろ。
 思考の限りを尽くして、あの化け物に勝つ方法を考えろ。

 ティラ子をにらみつける。

 なんだか笑えてきた。
 初めて見た時、恐ろしいと思ったけど、こうやって正面から見るとちょっと笑ってしまう。
 あの突き出した口の先。鼻? 巨体に反して小さなお手て。確かに可愛いのかもしれない。
 改めて見れば、怖いという思いは消えて、可愛いという思いしか残らない。

「ふっ」

 そんな可愛らしい相手が、私を隊長殿と引き離そうとしている。
 許さない。
 動きはニーアより遅い。一撃の破壊力はちょい上。そして、無駄にデカい。
 なら、勝てない道理はない。

 咆哮。

 ビリビリと大気が揺れる。
 それがどうした。
 よだれをまき散らし、巨大な口が大きく開く。
 だからどうした。
 ギザギザの尖った歯が、獲物を噛み千切らんと襲う。
 それが――

「なんだってのよ!」

 木の幹を蹴った。跳躍。そのまま化け物の口の中――その上へと跳ぶ。
 そこにあるのは2つの穴。鼻。
 そこに向かってジャンヌとダルクを思い切り振り下ろす。
 衝撃。硬い。いや、脚ほどではない。ティラ子が悲鳴をあげ怯んだ。もう一発。左右から挟み込むように殴りつける。
 本気を出せば人間の頭くらい簡単に吹き飛ばせるべんだ。これをくらって無事な奴がいるものか。

 着地。そのまま前へ。脚。たたらを踏んでる。これがあるからこの怪物は走る。ならこれを叩き折ればいい。
 本気で振りかぶり、全力で足を打った。次。左を振りかぶり、打った。次。右。打った。次。左。打つ。右。打つ。

 思えばこいつが隊長殿と会わせるのを邪魔した。こいつが隊長殿を悲しませようとした。こいつが隊長殿を閉じ込めた。こいつが隊長殿をこいつが隊長殿をこいつがこいつがこいつが隊長殿隊長殿隊長殿こいつが隊長殿こいつが隊長殿隊長殿こいつが隊長殿こいつが隊長殿隊長殿こいつが隊長殿こいつが隊長殿隊長殿隊長殿隊長殿こいつが隊長殿隊長殿隊長殿隊長殿隊長殿隊長殿隊長殿隊長殿隊長殿隊長殿隊長殿――

「隊長殿隊長殿隊長殿隊長殿隊長殿隊長殿隊長殿隊長殿隊長殿隊長殿隊長殿隊長殿隊長殿隊長殿隊長殿隊長殿隊長殿隊長殿たいちょうどのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!

 一発でダメなら二発。二発でダメなら三発。三発でだめなら……二度と立ち上がらなくなるまで殴ればいい!
 雨だれ石を――いや、意思を穿つ!

 いつしか返ってくる反応は、すべてを跳ね返すいわおのような感触から、柔らかいものを殴っているような感触へと変わっていく。
 そして、反応がなくなった。

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

 息も絶え絶えに見る。
 あの恐ろしくも可愛らしい怪物が、地面に横たわってもがいているのを。脚を必死に動かそうとしているけど、膝から下が動いていない。完全に折れた、いや、粉砕されていた。

 それを見ると、少し可哀そうになってくる。

「ニトー! 相手が戦闘不能で終わりって言ったよね! ならこれで終わりでしょ!?」

 頭上に向かって叫ぶ。
 ただ相手の出方によってはこの子を殺さないといけない。それは少しだけ、気が進まない。てゆうか疲れたからそんな無駄なことはしたくなかった。

『うん、見事だ。ティラ子ちゃんは可哀そうだけど戦闘不能。よって勝者、ジャンヌ・ダルク奪還チーム!』

 だからそう言われて少しだけホッとした。
 てかジャンヌ・ダルク奪還チームっていいな。今度、仲間外れのウィットをからかってやろう。

 少し離れたところで歓声があがる。
 あぁ、そういえばいたんだっけ。
 まったく、要らない心配して。
 私が隊長殿を助けるまで死ぬわけないっての。

 そう思いつつも、なんだから少し心が弾み、死闘の余韻よいんも相まって頬を緩ませた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚  ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。  しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。  なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!  このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。  なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。  自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!  本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。  しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。  本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。  本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。  思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!  ざまぁフラグなんて知りません!  これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。 ・本来の主人公は荷物持ち ・主人公は追放する側の勇者に転生 ・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です ・パーティー追放ものの逆側の話 ※カクヨム、ハーメルンにて掲載

聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~

猫野 にくきゅう
ファンタジー
国を追放された聖女が、隣国で幸せになる。 ――おそらくは、そんな内容の小説に出てくる 『嫌われ役』の王子に、転生してしまったようだ。 俺と俺の暮らすこの国の未来には、 惨めな破滅が待ち構えているだろう。 これは、そんな運命を変えるために、 足掻き続ける俺たちの物語。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

処理中です...