知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第3章 帝都潜入作戦

閑話16 玖門竜胆(フリーのプレイヤー)

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 次の部屋は先ほどの部屋とは違って、何もないまっさらな部屋だった。
 最初の部屋と似てるけど、その広さは20メートル四方はありそう。

 その部屋の中央に怪しい黒いローブをまとった1人の人物がいた。

 おそらくそれが次の正義ジャスティスの相手!

「じゃあ私が――」

 クロエさんが名乗りを上げる。
 それを遮ったのは意外な人物だった。

「連戦は無理でしょ。だから、ここは私がやらせてもらうわ」

 マールさんだ。
 いつも大人しくて控えめな彼女にしては珍しいと思った。

『おやおや、いいのかな。この試練は2人まで参加が可能だよ。たぶん、1人じゃ厳しいからね』

「そう……じゃあもう1人」

「はいはーい! 俺、俺! 俺がやる!」

 ザインさんが熱烈に手を挙げてアピールしている。

 むむ……この感じ。
 ラブレーダーに感ありです。

 そのマールさんもザインさんに視線を向け、「そうね」とつぶやく。
 おお、これはもしや!

「リンドー、お願いできる?」

「おお、ラブゲッ……んん? 私です?」

「ええ、お願い」

「えっと……でも」

 ちらりとザインさんを見る。
 期待していた分、かなりしょげ返ってしまっているようで見るに堪えない。

 うーん、代わってあげたい。
 けど、なんだかそれも違う気がする。

「はっ! そうです、心を鬼に! それもまた正義ジャスティスです!」

「? よくわからないけどよろしくね」

「はい!」

 愛は障害があってこそ燃え上がるもの。
 そう漫画にも描いてありましたし!
 ここは私が障害となることこそ正義ジャスティスです。

『それじゃあ参加者以外は壁際の緑色の部分に行ってくれたまえ。そしてルールは簡単。そこにいる魔術師を倒せば君たちの勝利。逆に“時間までに倒せなければ”君たちの敗北、即死亡! アー・ユー・レディー?』

正義ジャスティス!」

 うん、思いのほか簡単そうで良かった!

『それでは、第二関門! バトル・スタート!』

「先手必勝、正義ジャスティスです! スキル『九紋竜くもんりゅう』! 第六もん! 閃竜せんりゅう!」

 木刀が来る。色は白。
 そしてその特性は――

「ハイパー・ジャスティス・ビーム!」

 振り下ろした木刀の先端から光が発射される。
 光の束は光速で空間を進み、魔術師に直撃――

「プロースクレセープロースクレセー……」

 何かが霧散した。
 魔術師じゃない。違うものに当たった。
 それは次々と床から現れてくるもの。何やら気持ち悪い液体のようなもの。

 いや、それを知っている。
 よくゲームとかに出てくるやつだ。

「スライム……」

 と思ったけど、本当かな。
 私が知ってるのはもっとまとまったもの。
 けどこれは黒いヘドロみたいなドロドロの水分が多いもので、正直、気持ち悪いし近づきたくもない。

 しかもそれが床のいたるところから湧き出るように出現してくる。

「リンドー! 左右で同時に行くわよ!」

「了解です!」

 マールさんの声に反応する。

 そうだ。見た目に惑わされちゃだめだ。
 敵はすぐそこにいるのだから。

九紋竜形態変化チェンジフォーム、第一もん! 火竜かりゅう!」

 相手がスライムなら焼き斬ったところで問題なし!
 というわけで突撃!
 私が右から、マールさんが左から魔術師に攻撃をしかける。
 途中にあるスライムがぐにょおっと身をもたげてくる。キモいから叩き斬った。

「もらったわ!」

正義ジャスティス!」

 たどり着いたのは同時。
 だが――

「いない!?」

 そこには魔術師の影も形もなかった。
 あるのはスライムのみ。

「プロースクレセープロースクレセー……」

 声。右。いた。10メートルほど離れた壁際にいつの間にかいる。

 なら!

九紋竜形態変化チェンジフォーム、第三もん! 風竜かざりゅう!」

 地面に木刀を当てる。
 すると風の力で飛ぶような加速を得ることができるのだ。

正義ジャスティス!」

 だが、充分な加速からの攻撃にもかかわらず、木刀は空を切った。
 再び魔術師の姿は影も形も消えていた。

「リンドー、あそこ!」

 マールさんの声。
 振り向くと、部屋の反対側の辺りに魔術師は立っていた。

 まさか……ワープした?
 そんなとんでもスキル……悪ですね!

 とはいえ――

「えっと……これどうするんです?」

 近づくとワープで逃げられる。
 その逃げた先を捕えようとしてもどこに出てくるか分からない。

 よく分からな過ぎて頭から煙が出てきそう。
 元から考えたりするのは苦手だった。

 だからとりあえず一旦落ち着くために、マールさんのところへ戻ることにした。

「近づけば消えて逃げる。その間にこの気持ち悪いのを呼び出す」

「これはスライムというのですよ」

「そ、そう……。このスライム。まったく強くないけど……もしかしてこれで時間稼ぎしてタイムオーバーを狙う気?」

「うぅ……そんなの正義ジャスティスじゃないです」

 けどどうすればいいのか分からない。
 今やスライムは床の半分以上まで増殖し、壁にも張り付いている。
 好奇心もあり、ちょっと失礼して踏んでみた。

「うわー、ぐにゃっていった……気持ち悪いー」

 思ったより弾力性がある。
 初期装備がブーツでよかった。
 普通のシューズとかだったら、足首からスライムが入り込んで大変な――

「ん?」

 違和感。
 粘り気のあるスライムから足を引っぺがすと、ブーツの表面が溶けてドロドロになっている。

 元からそうだったわけがない。
 スライムに触ったからそうなった、ということは……。

「こ、これ……ヤバさ正義ジャスティス級では!?」

 見ればマールさんの顔も青ざめている。

「タイムオーバーじゃなく、溶かして殺すってわけ……熱っ!」

 マールさんの肩にスライムが垂れたらしく、服が焦げている。
 見上げれば天井にもスライムが現れ、どろどろとした体を滴らせている。

「おい、ヤバいのか!? 早くあいつ倒せよ!」

「いやーザイン、無理じゃないかなーこれ。あの距離……自分が出ればよかったかなー」

 観戦中の皆からざわめきが起きる。
 皆は緑のバリヤーで守られているようで、スライムの被害は全く受けていない。

 受けてない……あれ、じゃああの魔術師は?

「マールさん、あれ。魔術師はダメージ受けてないんです?」

「それは……そうね。スライムのいないところに逃げて、私たちの周囲で発生させてるみたいね」

「むぅ……私たちのところばかり、卑怯です!」

「待って、リンドー。ということは……」

 マールさんが考え込む。
 その間もスライムが足元を侵食してきて気が気でない。

 こうなったら仕方ない。

「マールさん、いったん移動します」

「え……きゃ!」

 マールさんの腰に手を入れて、右手で風竜を振る。すると風が起こって、私たちを逆側、スライムがまだ少ない反対側に飛んだ。

「すごいのね。それ、なんか特別な力?」

「いえ、正義ジャスティスです!」

「そ、そう……えっと、なんだっけ。どこまで考えたんだっけ」

 再びマールさんは考えこんでしまった。
 自分はそういったことが得意じゃない。
 ただ、何が良くて何が悪い事か。それを考えることは得意だ。
 というより、両親にそう育てられた。

 他の何を間違ってもいい。
 けど、自分の中にある正義ジャスティスだけは間違っちゃいけないって。
 だからそのために、何が良くて何が悪いか考えるんだと。

 だから考える。
 先輩は私を救ってくれた大恩人。
 だから先輩を誘拐したニトーは悪!
 そしてその手先の魔術師も悪!

 もうそこまで考えればやることは簡単だ。

 まずやってみる。やってから考える。
 たとえそれで間違っても、きっと自分の正義ジャスティスは正しい方向を向いていれば、それは後悔にはならないはずだから!

 分からなくてもいい。
 間違っててもいい。
 それに考えることはマールさんがやってくれている。
 だから自分は得意なことをするだけ。

 とにかく動く!
 そして正義ジャスティス

 とりあえず、当たって砕けろ!

「行きます! 正義ジャスティス!!」
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