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第3章 帝都潜入作戦
閑話17 玖門竜胆(フリーのプレイヤー)
しおりを挟む「九紋竜形態変化、第六紋! 閃竜! ハイパー・ジャスティス・ビーム!」
魔術師に向かってビームを放つ。
魔術師が消えた。
きっと出るのはスライムがいないところ。
それは意外と近い。この部屋にスライムじゃないところが少なくなったからだ。
「さらにビーム!」
ビームの連射。
魔術師はきっとまたワープするだろう。
そう思ったが――
「プロースクレセープロースクレセー……」
スライムが壁となって、ビームを防いだ。
んん、惜しい。もういっちょ!
「ビーム!」
ビームがスライムを突き破り、その奥にいる魔術師に……当たらなかった。
またワープされていた。
「うぅ、あれ卑怯です! あんなの無理ですよ!」
「ちょっと待ってリンドー。今のは……」
「へぅ? 何かありました?」
マールさんが更に考え込む。
そうしている間にもスライムがじわじわと増殖していく。
うぅ、このままじゃ溶かされちゃいますよ!
「いや……そういうことね」
なんてギリギリの葛藤をしていた時。
突如、マールさんが閃いたみたいだ。
「何か思いついたんですか!?」
「ええ……あいつの倒し方は分かったわ」
「すごい! じゃあやりましょう!」
「でも……それをやる手段がないの」
「へぅ?」
「せめてこのスライムを床一面に広げられるまで耐えられればいいんだけど……」
「あぁ、なんだ。そんなことですか」
「え、そんなことって……?」
それができればいいなら何とでもなる。
「私がやります! でもここでやると自分たちも危ないんですけど……」
「あっち、クロエたちがいるあの緑の箱に行ける? さっき飛んだみたいに」
「もちのろんです! 九紋竜形態変化、第三紋! 風竜!」
風を起こし、マールさんを抱えて飛ぶ。
クロエさんたちがいる、緑のバリアー的な何かの上。
「うぉ! びっくりした!?」
ザインさんの驚きの声。見れば足元にザインさん、クロエさん、ルックさん、イッガーさんがいる。
「マール、大丈夫なの? 勝てる?」
「ええ、何とかするわ」
クロエさんの問いにしっかり答えるマールさん。心強いです!
『おやおや、いいのかなー。確かにそこは足元は安全だけど……にやにや』
ニトーの言う通りだ。
私たちの足元にはスライムは湧かないけど、壁に、そして天井にスライムが次々と現れる。
しかも魔術師は部屋の反対側。
ここからじゃあ閃竜も簡単に避けられるだろう。
「それでいいの。じゃあリンドー。お願い」
「任されました! 九紋竜形態変化、第二紋! 水竜!」
水色の木刀。
それを壁に突き立てた。
「正義力、マックス!」
力を籠める。
すると、その壁の一点から水が噴き出した。
ダムの放水のように、壁から出た水は部屋の床を洗い流していく。
もちろんスライムごと。
ヘドロ状のスライムだから、水に流されやすいのだろう。たぶん。
「凄い、リンドー!」
「えへへ。けど、これいつまでやります……? このままだとスライムがここまで来るというか、ちょっと疲れが……」
体力がなんかどんどん削られていく気分。
頭がずきずきと痛み始めてきた。
「ごめん。もうちょっと。きっとあいつは――」
そう言った視線の先。
魔術師の足元にも水に流されたスライムが侵食していく。
表情も見た目も遠くて良く分からないけど、どこか落ち着きをなくしているようにも見えた。
そして、スライムが足元に達した時。
「ギョオオオオオオオオ!!」
人間とは思えない悲鳴が響いた。
思わず耳を塞ごうとしたけど、水竜を止めるわけにはいかないと踏ん張る。
「クロエ、もういいわ。その代わり伏せて!」
何故、という反論は出ない。
木刀を壁から抜いて、そのままへたり込む。
言われなくてもほとんど限界だった。
そして、
「そこ!」
マールが剣を振るって何かを斬った。
何が、と思った刹那、
「ギョオオオオオオオオ!!」
魔術師の叫び。
しかも至近距離。
マールが斬ったのは、この緑のバリアーにワープしてきた魔術師だった。
「足場がなくなったらここにしか来れないってことね。そこを狙い撃てばいいってこと」
斬られた魔術師は、バリアーの床から落ちて、そのままスライムの海へとダイブ。
悲鳴が次第に弱くなったかと思うと、その体は光の結晶となってそのまま消滅した。
『なんとまぁ、力業で足場をなくすとは……でもまぁいいでしょう! 第二関門、勝者、ジャンヌ・ダルク奪還チーム!』
ニトーの宣言と同時、部屋を覆っていたスライムがパッと消えた。
これ以上ドロドロされると困ったけど、どこか寂しい気分。
さようならスライム。フォーエバー……。
というわけで!
「勝ちましたね、マールさん! やっぱり正義は勝つのです!」
「ええ、やったわ、リンドー! あなたのおかげよ」
「えへへー、ブイです!」
そしてハイタッチ!
うん、これぞ正義です!
『あ、スライムが消えたから、そのバリアーも消えるからね。ご注意を』
なにが、と聞き返す前に、足場が消えた。
一瞬の浮遊感。
もちろん人間に空を飛ぶ力はなく、その後に起こるのは当然――
「きゃあ!」「ぎゃふ!」「どあぁあ!」
落下した。
それほど高くなかったのと、やわらかいクッションに阻まれて痛みはなかったけど。
「うわあああ!」
「きゃああ!」
ザインさんとマールさんの叫び声。
まさに重なりあった状態の2人はまさにラッキースケベという超展開!
「この、変態!」
「なんで俺の所為!? でもごっちゃんです!」
パンっと乾いた音が響く。
うわーマールさんのビンタ、痛そう。
「り、竜胆、さん。どいて……重い……」
下を見ればイッガーさんが私の下でもがいている。
むむ、ちょっとその言葉はカチンですよ。
「イッガーさん! 女子に重いは禁句です!」
「わ、分かった……ごめん、だから……」
もう仕方ないですね。
イッガーさんの上からどくと、水で浸された床に降り立つ。
うん、これで完全勝利です。
というわけで次の部屋へと思った時、ニトーが割り込んできた。
『ザインくん、同じ男としてそのラッキースケベ。羨ましいと思うよ。けど、バリアーが半透明だからって、下から覗くのはどうかなぁ……』
「ちょ! おい! それを言うな――」
「どういうこと、ザイン?」
マールさんが首をかしげる。
と、ピーンと来た。
「マールさんってスカートだから……」
「あ――」
空気が固まった。
ふぅ、危ない危ない。
動きやすいショートパンツで正義でした。
「殺す!」
「誤解だマール! それに俺だけじゃなくルックも!」
「え、ザインそれはないんじゃ――うわぁ!」
剣を振りかざすマールさんと、それから逃げようとするザインさんとルックさん。
「うーん、平和ですねぇ」
「どういう感覚してるのよリンドー……。まぁ、いっか」
クロエさんも肩を落としつつ、苦笑してザインさんたちの光景をしばらく眺めていた。
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