241 / 627
第3章 帝都潜入作戦
閑話20 ザイン(オムカ王国ジャンヌ隊部隊長)
しおりを挟む
負傷したルックに肩を貸しながら最後の扉を開け放つ。
たどり着いた最後の部屋。
広い。
見上げる天井。
その一部に透明な部分があって、誰か人影が見える。
隊長だ。
2階部分になっているらしく、透明な壁に遮られて声も聞こえないけど間違いなく隊長だ。
「隊長殿ー! あなたのためにクロエが来ましたよー!!」
クロエも元気になって何よりだ。
しかし、こいつもわけわかんねーところがある。
いっつも隊長殿隊長殿ってべたべたしてたと思ったら、人が変わったように仕切りだしやがって。
まぁ、別にいいけど。
マールも無事だし。
とにかくこれで終わり……なんだけど納得いかない。
何故って?
もちろん俺が戦ってないから。
ったく、せっかくあいつの前で良い格好つけようと思ったのによ。
『さてさて、ゲームクリアお疲れ様。こうして勇者たち一行は、怖い魔王様に捕まったお姫様の元へたどり着きましたとさ』
天から聞こえるこの声。
なんだか不愉快なんだよなぁ。
「ならさっさと隊長殿のところに案内する!」
『慌てない慌てない。ほら、そこの奥にある扉。そこが君たちの『隊長殿』の場所に通じる扉だよ』
確かに自分たちの入ってきた扉の正反対の位置に、白い扉があった。
けどこの場所自体がかなり広いため、少し歩かないといけない。
「大丈夫か、ルック」
「んー、まぁもうちょっとだし。頑張る」
怪我をしたルックは辛そうだが、そう返してきた。
こいつはこんな時もマイペースだ。だが心強い。
ふと右手。隊長のいるところとは逆の壁が気になった。
あれは……扉?
けど、それにしては大きい。普通の5倍以上の高さと広さがある。
まぁいいや。
今さらそれがなんであろうともう終わりなのだ。
だが、その期待は部屋の半ばまで来た時に打ち砕かれた。
『しかし、残念。どうやら魔王様はタダでお姫様を返す気はなさそうだ。さぁ、最後の試練だ、勇者たち。この敵を倒し、無事にお姫様を助け出せるかな!?』
「なっ! まだ敵がいるとか!」
「そうです! 騙しなんて正義じゃありません!」
『いやいや、ボクは騙してなんかいないよ。最後の部屋までたどり着いた君らは、無事に『隊長殿』に会った。ほら、約束はちゃんと守ってるじゃないか。ただ、門番がいないとは言っていないだけで』
「くっ……なんて汚い」
「いやいや、マール。いいんじゃね? ここまで来たんだし。楽勝でしょ」
何より、俺の出番が来たってことだ。腕が鳴る。
肩を貸してたルックには悪いけど後ろに下がってもらう。
「というわけで。俺の出番ってことだけど、相手は誰だ?」
『慌てないでよ。すぐに来る。けど今回はボクプレゼンツのバトルじゃないからね。皆でかかった方がいいと思うよ? いつものバリアフィールドも用意しないし』
ふん、そんだけ自信満々ってことかよ。
ちょっとイラっと来た。俺1人でやってやる。
待つ。
静寂の時。
そして、奥の扉が開いた。
そこから現れたのは、小柄な少女。
クロエと同じくらいの背丈だが、訓練を受けてはいないのだろう。全体的になよっとした感じだ。
…………え、これが相手?
俺が拍子抜けしているのと同じように、皆の反応も同じようなものだった。
と、その時。右手から音。
見ればあの巨大な扉が重々しく開いていく。そしてそこから現れたのは――
「てぃ、Tレックス!」
イッガーが叫ぶ。
そうだ。あのクロエが苦戦したキョーリューとかいう奴!
マズイ。
今ここには怪我人がいるし、身を守ってくれる緑の壁もない。
しかも身を隠す場所もないここで、あれを相手にするのは厳しい。
咆哮。
キョーリューが吼え、そしてそのままこちらに突っ込んできた。
「逃げて! 私とザインで時間を稼ぐ!」
クロエの判断。間違っちゃいない。
これが最後の門番。厄介な相手だが何とかしてみせる。
だが――
「あはははははははは!」
笑声。
ゾッとするような、どこかネジの狂ったような、心胆を寒からしめる何か。
例の現れた女だった。
今気づいた。その腰に剣を差している。
それを抜き、女は走り出す。キョーリューに向かって。
死ぬ気か。
いや、死んでくれた方がいい。
その間に皆を逃がせる。
だが、起きたのは一瞬で激烈だった。
キョーリューの頭部を一刀両断し、そしてそのまま押しつぶした。あの狂暴で、クロエも行動不能にするので精いっぱいだったキョーリューを、こうも圧倒するなんて……。
なるほど、強い。
だが、それでこそ燃えるってもんだ。
だが俺の横から水をさすようような言葉が漏れた。
「ザイン、逃げよう」
「は? 何言ってんだよクロエ。確かにあの馬鹿力には驚いたけど――」
「違う。あれは……『収乱斬獲祭』」
「あ? ハー、なんだって?」
「いいから! 入ってきたってことは扉が開いてるでしょ! あれにかかわる前にさっさと――」
『残念無念。もうすでに『収乱斬獲祭』は君たちを敵として認識した。さぁ、始めよう。最終関門、バトルスタートだ!』
瞬間、敵が来た。
速い。クロエ。俺。いや――
「きゃあ!」
マールの悲鳴。
「てめぇ、俺の女に――」
一瞬で火がついた。
相手が女だからって容赦はしない。
斬りかかる。
「手ぇ出すなぁ!」
手ごたえがない。ステップで避けられた。
着地と同時にその反動で前に出る。今度は俺。来る。剣。構える。衝撃。折られた、いや、斬られた!?
「ザイン!」
クロエの双鞭が間に入る。
1秒でも遅かったら、返す刀で斬られていた。
「すまん」
「いいから。私らは足止め。イッガー、皆を奥へ!」
「あ……あぁ」
的確な指示だ。本当にあのクロエか、と疑いたくなる。
イッガーは力ないし、リンドーはへばってるし、ルックは重傷。マールは俺が守るから戦えないのだ。
「しょうがねーな。俺の独壇場にしたかったけど、ちょっとこれは骨が折れる。共闘してやるよ」
「軽口叩けるなら問題ないけど。で、剣はどうするの?」
「心の剣が折れなきゃいい!」
「……馬鹿?」
こいつに馬鹿にされるのムカつく!
けど確かに剣がないのは痛い。
「ザイン!」
マール!?
視界の隅に何かが飛んできたのを捉える。一歩引く。そしてそれを視界に収めると、空中でつかみ取る。
マールの剣。
「百人力だ!」
鞘を払う。敵。来た。
迎撃。折れない。当たり前だ。これが愛の力!
つばぜり合いにクロエが介入しようとする。だが相手は後ろを見ないままクロエに蹴りを入れた。そしてこちらも一瞬の隙を突かれて弾き飛ばされる。
ちっ、化け物かよ!
今度はクロエから行く。
斬り結ぶ。だがクロエの鞭がするりと切り裂かれる。そこへ俺が斬りかかる。だが、相手の女は鞭を斬った勢いで回転し、こちらにそのまま斬りかかってきた。
危なっ!
すんでのところで頭を下げてかわす。
そこへクロエが肉薄する。拳。入った。女の体がわずかにずれる。さすが格闘大会優勝者。
俺も斬った。浅い。かすり傷。
けど行ける。耐えられる。
あいつらが逃げるまでの時間を――
「…………はぁ」
女が笑った、いや、嗤った。
何かを見つけたような、捕食者のような瞳。
視線は俺たちを見ていない。
――マズイ!
「はっ!」
女が走る。
目的はもちろん、今にも扉にたどり着こうとするマールたちだ。
同時、走り出す。
「だから俺の女に――」
問題ない追いつく。
今なら後ろからやれる!
「駄目、ザイン!」
背後からクロエの声。
先手は俺。次はお前だ。そのつもりで更に加速。
女だからって手加減はしねぇ。
あのキョーリューを瞬殺した力は脅威。だから両手に剣を構えて、一刀両断にしようと力を込める。
「あはっ!」
女の笑い声が聞こえた。
女が停止して、こちらに剣を構えている。
マズイ、誘いだったのか。
回避。いや、いける。行かなきゃまたマールが危険になる。
それは、格好悪いことだぜ。
行った。
何かが、断たれた。
宙を飛ぶ俺、いやマールの剣。
そこに、何か別物のように2つの見覚えのある棒がついている。
見覚えどころじゃない。
俺の腕だ。
肘から先が断たれていた。
鮮血が舞う。
あぁ、俺の腕。
いつか、あいつを抱きしめようと思った俺の腕。
さらに返す剣が来る。
衝撃。痛みは、多分ない。
「ザイン!!」
クロエが飛び出す。
相手は振り切った態勢。初めての隙らしい隙。クロエの拳が入り、蹴り飛ばす。
「ザイン!」
見る。マールたちが出口にたどり着いていた。
その扉からマールの悲痛な顔が見えたような気がした。
それをイッガーが扉の向こうに押し込む。
あーあ、泣いても美人だよなぁ。
あんな子がフリーだもんな。もったいねぇ。だから、俺が傍にいたい。そう思ったんだ。
「……クロエ、行け」
「でも――」
「いいから……がふっ……いけ!」
「……マールに伝えることは?」
あぁ、そうだな。
伝えたい事。いっぱい思い浮かんだ。
楽しかったこと。嬉しかったこと。悲しかったこと。寂しかったこと。
けどやっぱり、伝えたいのは――
「……何もねぇ。フラれるの、怖いし」
そう。俺はいつも意気地なしだ。
こうやって強がっていても、本当は泣き出したい。逃げ出したい。何より、マールに嫌われるのが何より怖かった。
「まっ、惚れた女を守れたんだ。悔いはねぇよ」
「あっそ……」
「彼女と……ジャンヌ隊長を頼んだ」
「ん、言われるまでもないから」
別れの言葉はいらない。
なくても、伝わる。
それだけ、濃密な時間を過ごしてきたつもりだ。
だから笑って見送る。
「あああああああああああ!」
女の声。
ったく。まだやるのかよ。
女がクロエに飛びかかろうとする。そこへ逆に跳びついた。
腕がない。けど渾身の力を込めて、肘のところまででなんとか抱き着く。
行かせない。
なにがなんでもここで止める。
みんなを、あいつを守るため。
「あああああああああああああああああ!」
「おいおい、ちょっとは落ち着けよ……っ!」
体に何かが入ってきた。
激痛が全身を駆け巡る。口から血が出た。
けど離さない。
それがあいつへの、そしてあの人への力になると信じて。
目の前が暗くなった。
少しは、好きな女の前で格好つけられたかなぁ……。
飛んだ。
彼女の元へ。
それで満足だった。
たどり着いた最後の部屋。
広い。
見上げる天井。
その一部に透明な部分があって、誰か人影が見える。
隊長だ。
2階部分になっているらしく、透明な壁に遮られて声も聞こえないけど間違いなく隊長だ。
「隊長殿ー! あなたのためにクロエが来ましたよー!!」
クロエも元気になって何よりだ。
しかし、こいつもわけわかんねーところがある。
いっつも隊長殿隊長殿ってべたべたしてたと思ったら、人が変わったように仕切りだしやがって。
まぁ、別にいいけど。
マールも無事だし。
とにかくこれで終わり……なんだけど納得いかない。
何故って?
もちろん俺が戦ってないから。
ったく、せっかくあいつの前で良い格好つけようと思ったのによ。
『さてさて、ゲームクリアお疲れ様。こうして勇者たち一行は、怖い魔王様に捕まったお姫様の元へたどり着きましたとさ』
天から聞こえるこの声。
なんだか不愉快なんだよなぁ。
「ならさっさと隊長殿のところに案内する!」
『慌てない慌てない。ほら、そこの奥にある扉。そこが君たちの『隊長殿』の場所に通じる扉だよ』
確かに自分たちの入ってきた扉の正反対の位置に、白い扉があった。
けどこの場所自体がかなり広いため、少し歩かないといけない。
「大丈夫か、ルック」
「んー、まぁもうちょっとだし。頑張る」
怪我をしたルックは辛そうだが、そう返してきた。
こいつはこんな時もマイペースだ。だが心強い。
ふと右手。隊長のいるところとは逆の壁が気になった。
あれは……扉?
けど、それにしては大きい。普通の5倍以上の高さと広さがある。
まぁいいや。
今さらそれがなんであろうともう終わりなのだ。
だが、その期待は部屋の半ばまで来た時に打ち砕かれた。
『しかし、残念。どうやら魔王様はタダでお姫様を返す気はなさそうだ。さぁ、最後の試練だ、勇者たち。この敵を倒し、無事にお姫様を助け出せるかな!?』
「なっ! まだ敵がいるとか!」
「そうです! 騙しなんて正義じゃありません!」
『いやいや、ボクは騙してなんかいないよ。最後の部屋までたどり着いた君らは、無事に『隊長殿』に会った。ほら、約束はちゃんと守ってるじゃないか。ただ、門番がいないとは言っていないだけで』
「くっ……なんて汚い」
「いやいや、マール。いいんじゃね? ここまで来たんだし。楽勝でしょ」
何より、俺の出番が来たってことだ。腕が鳴る。
肩を貸してたルックには悪いけど後ろに下がってもらう。
「というわけで。俺の出番ってことだけど、相手は誰だ?」
『慌てないでよ。すぐに来る。けど今回はボクプレゼンツのバトルじゃないからね。皆でかかった方がいいと思うよ? いつものバリアフィールドも用意しないし』
ふん、そんだけ自信満々ってことかよ。
ちょっとイラっと来た。俺1人でやってやる。
待つ。
静寂の時。
そして、奥の扉が開いた。
そこから現れたのは、小柄な少女。
クロエと同じくらいの背丈だが、訓練を受けてはいないのだろう。全体的になよっとした感じだ。
…………え、これが相手?
俺が拍子抜けしているのと同じように、皆の反応も同じようなものだった。
と、その時。右手から音。
見ればあの巨大な扉が重々しく開いていく。そしてそこから現れたのは――
「てぃ、Tレックス!」
イッガーが叫ぶ。
そうだ。あのクロエが苦戦したキョーリューとかいう奴!
マズイ。
今ここには怪我人がいるし、身を守ってくれる緑の壁もない。
しかも身を隠す場所もないここで、あれを相手にするのは厳しい。
咆哮。
キョーリューが吼え、そしてそのままこちらに突っ込んできた。
「逃げて! 私とザインで時間を稼ぐ!」
クロエの判断。間違っちゃいない。
これが最後の門番。厄介な相手だが何とかしてみせる。
だが――
「あはははははははは!」
笑声。
ゾッとするような、どこかネジの狂ったような、心胆を寒からしめる何か。
例の現れた女だった。
今気づいた。その腰に剣を差している。
それを抜き、女は走り出す。キョーリューに向かって。
死ぬ気か。
いや、死んでくれた方がいい。
その間に皆を逃がせる。
だが、起きたのは一瞬で激烈だった。
キョーリューの頭部を一刀両断し、そしてそのまま押しつぶした。あの狂暴で、クロエも行動不能にするので精いっぱいだったキョーリューを、こうも圧倒するなんて……。
なるほど、強い。
だが、それでこそ燃えるってもんだ。
だが俺の横から水をさすようような言葉が漏れた。
「ザイン、逃げよう」
「は? 何言ってんだよクロエ。確かにあの馬鹿力には驚いたけど――」
「違う。あれは……『収乱斬獲祭』」
「あ? ハー、なんだって?」
「いいから! 入ってきたってことは扉が開いてるでしょ! あれにかかわる前にさっさと――」
『残念無念。もうすでに『収乱斬獲祭』は君たちを敵として認識した。さぁ、始めよう。最終関門、バトルスタートだ!』
瞬間、敵が来た。
速い。クロエ。俺。いや――
「きゃあ!」
マールの悲鳴。
「てめぇ、俺の女に――」
一瞬で火がついた。
相手が女だからって容赦はしない。
斬りかかる。
「手ぇ出すなぁ!」
手ごたえがない。ステップで避けられた。
着地と同時にその反動で前に出る。今度は俺。来る。剣。構える。衝撃。折られた、いや、斬られた!?
「ザイン!」
クロエの双鞭が間に入る。
1秒でも遅かったら、返す刀で斬られていた。
「すまん」
「いいから。私らは足止め。イッガー、皆を奥へ!」
「あ……あぁ」
的確な指示だ。本当にあのクロエか、と疑いたくなる。
イッガーは力ないし、リンドーはへばってるし、ルックは重傷。マールは俺が守るから戦えないのだ。
「しょうがねーな。俺の独壇場にしたかったけど、ちょっとこれは骨が折れる。共闘してやるよ」
「軽口叩けるなら問題ないけど。で、剣はどうするの?」
「心の剣が折れなきゃいい!」
「……馬鹿?」
こいつに馬鹿にされるのムカつく!
けど確かに剣がないのは痛い。
「ザイン!」
マール!?
視界の隅に何かが飛んできたのを捉える。一歩引く。そしてそれを視界に収めると、空中でつかみ取る。
マールの剣。
「百人力だ!」
鞘を払う。敵。来た。
迎撃。折れない。当たり前だ。これが愛の力!
つばぜり合いにクロエが介入しようとする。だが相手は後ろを見ないままクロエに蹴りを入れた。そしてこちらも一瞬の隙を突かれて弾き飛ばされる。
ちっ、化け物かよ!
今度はクロエから行く。
斬り結ぶ。だがクロエの鞭がするりと切り裂かれる。そこへ俺が斬りかかる。だが、相手の女は鞭を斬った勢いで回転し、こちらにそのまま斬りかかってきた。
危なっ!
すんでのところで頭を下げてかわす。
そこへクロエが肉薄する。拳。入った。女の体がわずかにずれる。さすが格闘大会優勝者。
俺も斬った。浅い。かすり傷。
けど行ける。耐えられる。
あいつらが逃げるまでの時間を――
「…………はぁ」
女が笑った、いや、嗤った。
何かを見つけたような、捕食者のような瞳。
視線は俺たちを見ていない。
――マズイ!
「はっ!」
女が走る。
目的はもちろん、今にも扉にたどり着こうとするマールたちだ。
同時、走り出す。
「だから俺の女に――」
問題ない追いつく。
今なら後ろからやれる!
「駄目、ザイン!」
背後からクロエの声。
先手は俺。次はお前だ。そのつもりで更に加速。
女だからって手加減はしねぇ。
あのキョーリューを瞬殺した力は脅威。だから両手に剣を構えて、一刀両断にしようと力を込める。
「あはっ!」
女の笑い声が聞こえた。
女が停止して、こちらに剣を構えている。
マズイ、誘いだったのか。
回避。いや、いける。行かなきゃまたマールが危険になる。
それは、格好悪いことだぜ。
行った。
何かが、断たれた。
宙を飛ぶ俺、いやマールの剣。
そこに、何か別物のように2つの見覚えのある棒がついている。
見覚えどころじゃない。
俺の腕だ。
肘から先が断たれていた。
鮮血が舞う。
あぁ、俺の腕。
いつか、あいつを抱きしめようと思った俺の腕。
さらに返す剣が来る。
衝撃。痛みは、多分ない。
「ザイン!!」
クロエが飛び出す。
相手は振り切った態勢。初めての隙らしい隙。クロエの拳が入り、蹴り飛ばす。
「ザイン!」
見る。マールたちが出口にたどり着いていた。
その扉からマールの悲痛な顔が見えたような気がした。
それをイッガーが扉の向こうに押し込む。
あーあ、泣いても美人だよなぁ。
あんな子がフリーだもんな。もったいねぇ。だから、俺が傍にいたい。そう思ったんだ。
「……クロエ、行け」
「でも――」
「いいから……がふっ……いけ!」
「……マールに伝えることは?」
あぁ、そうだな。
伝えたい事。いっぱい思い浮かんだ。
楽しかったこと。嬉しかったこと。悲しかったこと。寂しかったこと。
けどやっぱり、伝えたいのは――
「……何もねぇ。フラれるの、怖いし」
そう。俺はいつも意気地なしだ。
こうやって強がっていても、本当は泣き出したい。逃げ出したい。何より、マールに嫌われるのが何より怖かった。
「まっ、惚れた女を守れたんだ。悔いはねぇよ」
「あっそ……」
「彼女と……ジャンヌ隊長を頼んだ」
「ん、言われるまでもないから」
別れの言葉はいらない。
なくても、伝わる。
それだけ、濃密な時間を過ごしてきたつもりだ。
だから笑って見送る。
「あああああああああああ!」
女の声。
ったく。まだやるのかよ。
女がクロエに飛びかかろうとする。そこへ逆に跳びついた。
腕がない。けど渾身の力を込めて、肘のところまででなんとか抱き着く。
行かせない。
なにがなんでもここで止める。
みんなを、あいつを守るため。
「あああああああああああああああああ!」
「おいおい、ちょっとは落ち着けよ……っ!」
体に何かが入ってきた。
激痛が全身を駆け巡る。口から血が出た。
けど離さない。
それがあいつへの、そしてあの人への力になると信じて。
目の前が暗くなった。
少しは、好きな女の前で格好つけられたかなぁ……。
飛んだ。
彼女の元へ。
それで満足だった。
0
あなたにおすすめの小説
Re:攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。【第一部新生版】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
剣と魔法が交差する世界——。
ある男女のもとに、一人の赤子が生まれた。
その名は、アスフィ・シーネット。
魔法の才能を持たなければ、生き残ることすら厳しい世界。
彼は運よく、その力を授かった。
だが、それは 攻撃魔法ではなく、回復魔法のみだった。
戦場では、剣を振るうことも、敵を討つこともできない。
ただ味方の傷を癒やし、戦いを見届けるだけの存在。
——けれど、彼は知っている。
この世界が、どこへ向かうのかを。
いや、正しくは——「思い出しつつある」。
彼は今日も、傷を癒やす。
それが”何度目の選択”なのかを、知ることもなく。
※これは第一部完結版です。
聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~
猫野 にくきゅう
ファンタジー
国を追放された聖女が、隣国で幸せになる。
――おそらくは、そんな内容の小説に出てくる
『嫌われ役』の王子に、転生してしまったようだ。
俺と俺の暮らすこの国の未来には、
惨めな破滅が待ち構えているだろう。
これは、そんな運命を変えるために、
足掻き続ける俺たちの物語。
追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚
ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。
しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。
なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!
このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。
なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。
自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!
本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。
しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。
本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。
本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。
思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!
ざまぁフラグなんて知りません!
これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。
・本来の主人公は荷物持ち
・主人公は追放する側の勇者に転生
・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です
・パーティー追放ものの逆側の話
※カクヨム、ハーメルンにて掲載
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて
ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記
大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。
それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。
生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、
まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。
しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。
無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。
これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?
依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、
いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。
誰かこの悪循環、何とかして!
まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて
究極妹属性のぼっち少女が神さまから授かった胸キュンアニマルズが最強だった
盛平
ファンタジー
パティは教会に捨てられた少女。パティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳だったため、村人からは忌子といわれ、孤独な生活をおくっていた。この世界では十歳になると、神さまから一つだけ魔法を授かる事ができる。パティは神さまに願った。ずっと側にいてくれる友達をくださいと。
神さまが与えてくれた友達は、犬、猫、インコ、カメだった。友達は魔法でパティのお願いを何でも叶えてくれた。
パティは友達と一緒に冒険の旅に出た。パティの生活環境は激変した。パティは究極の妹属性だったのだ。冒険者協会の美人受付嬢と美女の女剣士が、どっちがパティの姉にふさわしいかケンカするし、永遠の美少女にも気に入られてしまう。
ぼっち少女の愛されまくりな旅が始まる。
勇者をしている者なんですけど、キモデブ装甲のモブAにチェンジ魔法を使われて、身体が入れ替わった!? ありがとうモブA!やっと解放された!
くらげさん
ファンタジー
雑草のように湧いてくる魔王の討伐を1000年のあいだ勇者としてこなしてきたら、キモデブ装甲のモブAに身体を取られてしまった。
モブAは「チェンジ魔法」のユニークスキル持ちだった。
勇者は勇者を辞めたかったから丁度良かったと、モブAに変わり、この姿でのんびり平和に暮らして行こうと思った。
さっそく家に帰り、妹に理由を話すと、あっさりと信じて、勇者は妹が見たかった景色を見せてやりたいと、1000年を取り戻すような旅に出掛けた。
勇者は勇者の名前を捨てて、モブオと名乗った。
最初の街で、一人のエルフに出会う。
そしてモブオはエルフが街の人たちを殺そうとしていると気付いた。
もう勇者じゃないモブオは気付いても、止めはしなかった。
モブオは自分たちに関係がないならどうでもいいと言って、エルフの魔王から二週間の猶予を貰った。
モブオは妹以外には興味なかったのである。
それから妹はエルフの魔王と仲良くなり、エルフと別れる夜には泣き止むのに一晩かかった。
魔王は勇者に殺される。それは確定している。
薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる