知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第3章 帝都潜入作戦

閑話20 ザイン(オムカ王国ジャンヌ隊部隊長)

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 負傷したルックに肩を貸しながら最後の扉を開け放つ。

 たどり着いた最後の部屋。
 広い。

 見上げる天井。
 その一部に透明な部分があって、誰か人影が見える。

 隊長だ。
 2階部分になっているらしく、透明な壁に遮られて声も聞こえないけど間違いなく隊長だ。

「隊長殿ー! あなたのためにクロエが来ましたよー!!」

 クロエも元気になって何よりだ。
 しかし、こいつもわけわかんねーところがある。

 いっつも隊長殿隊長殿ってべたべたしてたと思ったら、人が変わったように仕切りだしやがって。
 まぁ、別にいいけど。
 マールも無事だし。

 とにかくこれで終わり……なんだけど納得いかない。
 何故って?
 もちろん俺が戦ってないから。
 ったく、せっかくあいつの前で良い格好つけようと思ったのによ。

『さてさて、ゲームクリアお疲れ様。こうして勇者たち一行は、怖い魔王様に捕まったお姫様の元へたどり着きましたとさ』

 天から聞こえるこの声。
 なんだか不愉快なんだよなぁ。

「ならさっさと隊長殿のところに案内する!」

『慌てない慌てない。ほら、そこの奥にある扉。そこが君たちの『隊長殿』の場所に通じる扉だよ』

 確かに自分たちの入ってきた扉の正反対の位置に、白い扉があった。
 けどこの場所自体がかなり広いため、少し歩かないといけない。

「大丈夫か、ルック」

「んー、まぁもうちょっとだし。頑張る」

 怪我をしたルックは辛そうだが、そう返してきた。
 こいつはこんな時もマイペースだ。だが心強い。

 ふと右手。隊長のいるところとは逆の壁が気になった。
 あれは……扉?
 けど、それにしては大きい。普通の5倍以上の高さと広さがある。

 まぁいいや。
 今さらそれがなんであろうともう終わりなのだ。

 だが、その期待は部屋の半ばまで来た時に打ち砕かれた。

『しかし、残念。どうやら魔王様はタダでお姫様を返す気はなさそうだ。さぁ、最後の試練だ、勇者たち。この敵を倒し、無事にお姫様を助け出せるかな!?』

「なっ! まだ敵がいるとか!」

「そうです! 騙しなんて正義ジャスティスじゃありません!」

『いやいや、ボクは騙してなんかいないよ。最後の部屋までたどり着いた君らは、無事に『隊長殿』に会った。ほら、約束はちゃんと守ってるじゃないか。ただ、門番がいないとは言っていないだけで』

「くっ……なんて汚い」

「いやいや、マール。いいんじゃね? ここまで来たんだし。楽勝でしょ」

 何より、俺の出番が来たってことだ。腕が鳴る。
 肩を貸してたルックには悪いけど後ろに下がってもらう。

「というわけで。俺の出番ってことだけど、相手は誰だ?」

『慌てないでよ。すぐに来る。けど今回はボクプレゼンツのバトルじゃないからね。皆でかかった方がいいと思うよ? いつものバリアフィールドも用意しないし』

 ふん、そんだけ自信満々ってことかよ。
 ちょっとイラっと来た。俺1人でやってやる。

 待つ。
 静寂の時。
 そして、奥の扉が開いた。

 そこから現れたのは、小柄な少女。
 クロエと同じくらいの背丈だが、訓練を受けてはいないのだろう。全体的になよっとした感じだ。

 …………え、これが相手?

 俺が拍子抜けしているのと同じように、皆の反応も同じようなものだった。

 と、その時。右手から音。
 見ればあの巨大な扉が重々しく開いていく。そしてそこから現れたのは――

「てぃ、Tレックス!」

 イッガーが叫ぶ。
 そうだ。あのクロエが苦戦したキョーリューとかいう奴!

 マズイ。
 今ここには怪我人がいるし、身を守ってくれる緑の壁もない。
 しかも身を隠す場所もないここで、あれを相手にするのは厳しい。

 咆哮。

 キョーリューが吼え、そしてそのままこちらに突っ込んできた。

「逃げて! 私とザインで時間を稼ぐ!」

 クロエの判断。間違っちゃいない。
 これが最後の門番。厄介な相手だが何とかしてみせる。

 だが――

「あはははははははは!」

 笑声。
 ゾッとするような、どこかネジの狂ったような、心胆を寒からしめる何か。

 例の現れた女だった。
 今気づいた。その腰に剣を差している。
 それを抜き、女は走り出す。キョーリューに向かって。

 死ぬ気か。
 いや、死んでくれた方がいい。
 その間に皆を逃がせる。

 だが、起きたのは一瞬で激烈だった。
 キョーリューの頭部を一刀両断し、そしてそのまま押しつぶした。あの狂暴で、クロエも行動不能にするので精いっぱいだったキョーリューを、こうも圧倒するなんて……。

 なるほど、強い。
 だが、それでこそ燃えるってもんだ。

 だが俺の横から水をさすようような言葉が漏れた。

「ザイン、逃げよう」

「は? 何言ってんだよクロエ。確かにあの馬鹿力には驚いたけど――」

「違う。あれは……『収乱斬獲祭ハーヴェスト・カーニバル・カニバリズム』」

「あ? ハー、なんだって?」

「いいから! 入ってきたってことは扉が開いてるでしょ! あれにかかわる前にさっさと――」

『残念無念。もうすでに『収乱斬獲祭ハーヴェスト・カーニバル・カニバリズム』は君たちを敵として認識した。さぁ、始めよう。最終関門、バトルスタートだ!』

 瞬間、敵が来た。
 速い。クロエ。俺。いや――

「きゃあ!」

 マールの悲鳴。

「てめぇ、俺の女に――」

 一瞬で火がついた。
 相手が女だからって容赦はしない。
 斬りかかる。

「手ぇ出すなぁ!」

 手ごたえがない。ステップで避けられた。
 着地と同時にその反動で前に出る。今度は俺。来る。剣。構える。衝撃。折られた、いや、斬られた!?

「ザイン!」

 クロエの双鞭が間に入る。
 1秒でも遅かったら、返す刀で斬られていた。

「すまん」

「いいから。私らは足止め。イッガー、皆を奥へ!」

「あ……あぁ」

 的確な指示だ。本当にあのクロエか、と疑いたくなる。
 イッガーは力ないし、リンドーはへばってるし、ルックは重傷。マールは俺が守るから戦えないのだ。

「しょうがねーな。俺の独壇場にしたかったけど、ちょっとこれは骨が折れる。共闘してやるよ」

「軽口叩けるなら問題ないけど。で、剣はどうするの?」

「心の剣が折れなきゃいい!」

「……馬鹿?」

 こいつに馬鹿にされるのムカつく!
 けど確かに剣がないのは痛い。

「ザイン!」

 マール!?
 視界の隅に何かが飛んできたのを捉える。一歩引く。そしてそれを視界に収めると、空中でつかみ取る。
 マールの剣。

「百人力だ!」

 鞘を払う。敵。来た。
 迎撃。折れない。当たり前だ。これが愛の力!

 つばぜり合いにクロエが介入しようとする。だが相手は後ろを見ないままクロエに蹴りを入れた。そしてこちらも一瞬の隙を突かれて弾き飛ばされる。
 ちっ、化け物かよ!

 今度はクロエから行く。
 斬り結ぶ。だがクロエの鞭がするりと切り裂かれる。そこへ俺が斬りかかる。だが、相手の女は鞭を斬った勢いで回転し、こちらにそのまま斬りかかってきた。
 危なっ!
 すんでのところで頭を下げてかわす。

 そこへクロエが肉薄する。拳。入った。女の体がわずかにずれる。さすが格闘大会優勝者。
 俺も斬った。浅い。かすり傷。

 けど行ける。耐えられる。
 あいつらが逃げるまでの時間を――

「…………はぁ」

 女が笑った、いや、嗤った。
 何かを見つけたような、捕食者のような瞳。
 視線は俺たちを見ていない。

 ――マズイ!

「はっ!」

 女が走る。
 目的はもちろん、今にも扉にたどり着こうとするマールたちだ。

 同時、走り出す。

「だから俺の女に――」

 問題ない追いつく。
 今なら後ろからやれる!

「駄目、ザイン!」

 背後からクロエの声。
 先手は俺。次はお前だ。そのつもりで更に加速。

 女だからって手加減はしねぇ。
 あのキョーリューを瞬殺した力は脅威。だから両手に剣を構えて、一刀両断にしようと力を込める。

「あはっ!」

 女の笑い声が聞こえた。
 女が停止して、こちらに剣を構えている。

 マズイ、誘いだったのか。
 回避。いや、いける。行かなきゃまたマールが危険になる。
 それは、格好悪いことだぜ。

 行った。

 何かが、断たれた。

 宙を飛ぶ俺、いやマールの剣。
 そこに、何か別物のように2つの見覚えのある棒がついている。

 見覚えどころじゃない。
 俺の腕だ。
 肘から先が断たれていた。
 鮮血が舞う。

 あぁ、俺の腕。
 いつか、あいつを抱きしめようと思った俺の腕。

 さらに返す剣が来る。
 衝撃。痛みは、多分ない。

「ザイン!!」

 クロエが飛び出す。
 相手は振り切った態勢。初めての隙らしい隙。クロエの拳が入り、蹴り飛ばす。

「ザイン!」

 見る。マールたちが出口にたどり着いていた。
 その扉からマールの悲痛な顔が見えたような気がした。
 それをイッガーが扉の向こうに押し込む。

 あーあ、泣いても美人だよなぁ。
 あんな子がフリーだもんな。もったいねぇ。だから、俺が傍にいたい。そう思ったんだ。

「……クロエ、行け」

「でも――」

「いいから……がふっ……いけ!」

「……マールに伝えることは?」

 あぁ、そうだな。
 伝えたい事。いっぱい思い浮かんだ。
 楽しかったこと。嬉しかったこと。悲しかったこと。寂しかったこと。
 けどやっぱり、伝えたいのは――

「……何もねぇ。フラれるの、怖いし」

 そう。俺はいつも意気地なしだ。
 こうやって強がっていても、本当は泣き出したい。逃げ出したい。何より、マールに嫌われるのが何より怖かった。

「まっ、惚れた女を守れたんだ。悔いはねぇよ」

「あっそ……」

「彼女と……ジャンヌ隊長を頼んだ」

「ん、言われるまでもないから」

 別れの言葉はいらない。
 なくても、伝わる。
 それだけ、濃密な時間を過ごしてきたつもりだ。

 だから笑って見送る。

「あああああああああああ!」

 女の声。
 ったく。まだやるのかよ。

 女がクロエに飛びかかろうとする。そこへ逆に跳びついた。
 腕がない。けど渾身の力を込めて、肘のところまででなんとか抱き着く。
 行かせない。
 なにがなんでもここで止める。
 みんなを、あいつを守るため。

「あああああああああああああああああ!」

「おいおい、ちょっとは落ち着けよ……っ!」

 体に何かが入ってきた。
 激痛が全身を駆け巡る。口から血が出た。

 けど離さない。
 それがあいつへの、そしてあの人への力になると信じて。

 目の前が暗くなった。

 少しは、好きな女の前で格好つけられたかなぁ……。

 飛んだ。
 彼女の元へ。
 それで満足だった。
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