知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第3章 帝都潜入作戦

第30話 絶望

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 取り押さえられた俺が連れていかれたのは隣室。広く明るい部屋だった。

 天井にさんさんと輝く蛍光灯があり、右側の壁一面は大きなガラス張りになっている。
 そのガラス窓の前に2つの椅子が向かい合うようにして置かれていた。2階席になっているらしく、ガラスから外を見ると、5メートルほど下に広い空間がある。
 まるでVIP席みたいな場所だ。

 そして、これはありえない部屋なのだ。
 まだガスも電気もないのに蛍光灯なんてあるわけなく、ガラスもこんなものが作れる技術レベルじゃない。

「驚いていますね。電気などこの世界にはあるはずないのに。ですがあるはずないものがある。それが麗明の『限界幻怪世界リミテッド・ファンタズム・ワールド』の作った世界なのです」

「スキルか……」

 真横に立つ煌夜をにらむ。
 だがそれ以上はできない。
 里奈に右手を背中側にひねられ、抵抗しようとすると激痛が走るからだ。

「その通りです。これまでの彼らの戦いの場所も、ここも。麗明のスキルが作り上げた仮想空間に仁藤さんの『遊戯願望ゲームメイカー』が組み合わさったもの。まぁそれもあと1時間ほどで消えますが」

「……どういう意味だ」

「時間制限です。麗明の作ったこの世界は24時間しかもたない。そして消える時にこの世界にいた人間は……同じように消えます。この世から。肉体も精神も全て。まぁ簡単に言うと、死にます」

「っ!」

「安心してください。だからこのゲームにはタイムリミットがあるのですよ。この世界が消えるまでに、そこのドアから外に出れば無事に脱出できます」

 煌夜が指さすのは俺たちがここに入ってきたのとは別の扉。
 ガラス窓の対面に位置する扉だ。

「鍵がかかってるとかじゃないよな?」

「まさか。そうしたら私も里奈さんも脱出できないではないですか」

 そりゃそうだ。
 ということはこいつは命をかけてまでここに留まっているということか?

「いいのか、俺に。そんなことまで喋って」

「構いません。貴方は私たちの仲間になるのですから」

 この自信。どこから出てくるんだ。
 正直、俺はこの男がうさんくささではナンバーワンだと思っている。
 というより里奈をこんな目に遭わせて、クロエたちを危険にさらし、さらにヨジョー地方の民衆を見捨てたこいつを信用できていない。
 だからたとえなんと言われようと、俺がこいつの仲間になることはありえないと思っている。

「さて、来ましたね」

 煌夜がガラス窓を見て言う。
 里奈の動きに合わせて俺も無理やりガラス窓に立たされる。

 眼前に広がる空間。
 そこの右側にある扉が、開いた。

「クロエ……皆……」

 無事だ。良かった。
 ルックが怪我をしているらしく、ザインに肩を貸してもらっているが、それでも全員が生きてここまでこれたことに安堵する。

 彼らは周囲を見回した後に、こちらに気づいたらしい。
 手を振って自身の無事を示してきた。

 だが防音になっているらしく、向こうの声は聞こえない。
 こちらから必死に呼びかけるが、向こうには届いている気配もないのだ。

「さて、彼らは無事に終着点までたどり着いたわけですが……里奈さん」

「はい」

「準備を」

 突如、体が自由になった。
 里奈が俺から離れたのだ。
 だが次の瞬間には首に圧迫を感じた。
 それが首輪によるものだと分かるまで、数秒の時を要した。
 動くと鈍い鉄の音が響く。動こうとするが、ある一点で鎖が突っ張りそれ以上前へ行けなくなる。どうやらガラス窓の傍にある椅子とつながれたらしい。

 俺の手がギリギリ届かない場所で、煌夜は細い目をさらに細めてこちらを満足そうに見てくる。

「……お前、そういう趣味があったのか」

「これは温情ですよ。こうしておけば、何が起きても誰も傷つかない」

 意味が分からない。
 だがこれは筋力最低の俺にはどうしようもできない束縛となっている。

『煌夜。本当にやるのかい?』

 急に天井から声が聞こえた。
 聞き覚えがある。
 モニターから聞こえてきていた、ニトーというこのゲームの進行役の声だ。

「ええ。これで私の目的は達せられます」

『怖い人だよ、まったく』

 それでニトーの声は途切れた。

「では里奈さん。よろしくお願いします」

「はい、煌夜“様”」

 無表情に答える里奈は、俺を一瞥することもなく、すたすたと反対側のドアへと歩いて、そして出ていってしまった。

 何をやらせる気だ……?
 嫌な予感がする。
 嫌な予感しかしない。

「さて、それではこんなことをした目的を話しておきましょうか」

 煌夜は鎖がつながれたものとは逆の椅子に腰かける。
 そして俺に着席を促す。

 俺は納得いっていないのを態度で示しながらも、どかりと椅子に腰を下ろした。
 聞いてやろうと思ったからだ。

「ありがとうございます」

 煌夜は口元に笑みを浮かべて深くお辞儀をする。
 そして再び顔をあげた時には、笑みは消え、薄く見開かれた瞳にはどこか禍々しいものを感じた。

 気圧されたと言ってもいい。

「この世界。貴方はどうお思いですか?」

「どうって……別に」

「別に、ですか。どうやら貴方はこの世界に満足しているようだ」

「満足って、それは……」

 それはどうだろう。
 確かに元の平和な世界に帰りたい思いはある。
 けど、ここで出会った人たちには、元の世界にはないどこか充足したつながりがあるのも否めない。

「私は、憎んだ」

 それは、これまでおっとりとした様子で語る煌夜からは想像できない、感情のこもった言葉だった。

「この世界を。この世界を構成するすべての国を、人々を、戦争を、文化を、海を、大地を、空を風を植物を動物を、そして、神さえも」

 吐き出される慟哭どうこく
 何をそこまで感じさせるのか。
 特に、神に仕える者でありながら、神を憎んだとはどういう意味なのか。

 煌夜は感情的になったのを少し恥じたからか、自嘲気味に笑うと瞳と一緒に再び感情を隠してしまった。

「失礼しました。しかし、この想いこそが貴方をここに招いた理由なのです」

「どういう意味だ」

「1つはこの世界に対する姿勢。それをはっきりさせておくべきなのでこうして対談をしてみたかった。それは先ほどお話しさせていただきました。残念ながら良いお返事はいただけませんでしたが……」

「そりゃ拉致して仲間になれなんて言われてはいと頷くほどお人よしじゃない」

「ええ。そこは私の認識が甘かったということでしょう。未来視なんて言っても、自分の未来は見えないのですから。ですから予防策を張らせていただきました」

「予防策?」

「はい。貴方を味方に入れられなかった場合。そして、里奈さんが貴方と会うことで変わってしまった場合」

「それが、どうした」

「まず貴方が味方にならなかった場合。貴方をオムカに返すわけにはいきません。貴方ほどの人物をみすみす逃すのは、エイン帝国にとってかなりのマイナスですから」

 過大評価だとは思う。

「では殺してしまうか。それもノーです。人道的な意味ではありません。貴方ほどの力を持つ人を死なせるには惜しい。来るべき戦いのために、貴方には生きていて欲しいのです。私の目的のために手を貸してくれる。その可能性をまだ私は捨てていません」

 一体この男の来たるべき戦いとは何を示すのか。
 分からない。

「里奈さんの方も同じです。貴女にどこか強いこだわりを持っているようで、失礼と思いながらも聞かせていただきました。なんでも、元の世界で恋人だったとか」

「違う。ただの友達だ」

「ですがそのこだわりは一線を画すほどと私は感じました。そんな貴方に里奈さんが出会ったら? そして、彼女の秘密を知ってしまったら? その時は、もう二度と彼女は戦場に立たないと思えたのです」

「当然だ。彼女が戦場に立つなんてこと……」

 喋りながらも嫌な予感はまだ続いている。
 一体何がそうさせるのか。この男の喋り方が、声が、態度が、すべてが落ち着かせない。

「いいえ。貴方は何も知らない。ここに来て彼女が何をしてきたのか。どういう生き方をしてきたのかを。だから、貴方は知る権利がある。いえ、義務がある。これによって、貴女と彼女。その2人を逃がすことなく、殺すことなくこの場に留める最良の策。お見せしましょう」

 煌夜の顔が、視線がずれる。
 その先。ガラス窓から見える下層。
 クロエたちが入ってきたのとは別の入り口。

 そこが、ゆっくりと開く。
 そこから1つの影が

 里奈だ。

 夢遊病のようにふらふらと歩く里奈が、どことなく人ではないような印象を抱かせる。

 なんで彼女があんなところに。
 クロエたちと対峙するような形に。

 ふと地鳴りを感じた。
 次の瞬間、下層の側面にあるシャッターが開き、そこから巨大な怪物が現れた。
 Tレックスだ。

 すでに怒り心頭のようで、凶悪な口を大きく開けながら、一直線にクロエと里奈たちに迫る。

「逃げろ! 皆、逃げろ!」

 そう言うのが精いっぱいだった。
 混乱した思考に混乱した状況。もう何がなんだかわからない。

 だがそれは起きた。
 里奈が腰に差した刀を抜くと、様子が激変した。

 声は聞こえない。
 けど空に向かって高らかに笑声をあげると、そのままTレックスに向かて飛んだ。
 跳んだではなく、文字通り飛んだ。10メートルほどの跳躍を跳ぶとは言わない。

 Tレックスの顔面。口が大きく開かれる。
 それが閉じた時、里奈の体はいともたやすく噛み千切られる。
 叫び声をあげていた。何を声に出したのかも定かではない。
 とにかく恐ろしい思いが到来し、俺はガラス窓にすがりつくようにして両手をひたすら打ち付けた。

 そして、それが起こった。

 大きく開かれたTレックスの口。
 そこに飛び込むようにして、里奈は――

 頭部を縦に一刀両断した。

 Tレックスの頭部が縦に切り裂かれる。
 さらにそこへ里奈の体が重力に引かれ落ちる。そのまま裂けた頭部に左手を添えると、赤べこの頭を振るような容易さで頭部を下へ。着地と同時に地面にたたきつける。

 血が飛び散り、絶命したTレックスの上で、里奈は楽しそうに笑っていた。

 圧倒的な力。
 そして狂奔きょうほん。狂声。

 おぞましい。
 俺はこれまで里奈に、いや、人に対して抱いたことのない感情を覚えた。覚えてしまった。
 なんで、こんな……。

 その答えは、赤星煌夜から来た。

「紹介しましょう。彼女は帝国が有する最強にして最凶、スキル名『収乱斬獲祭ハーヴェスト・カーニバル・カニバリズム』の立花里奈さんです」

 言われた言葉の意味が理解できなかった。

 いや、その名前は知っている。

 初めて聞いたのは王都包囲戦の夜襲の時。
 ジルとサカキが戦慄し、ブリーダが負傷、さらに副官を失ったという。

 初めて見たのは王都包囲戦の終盤の時。
 サカキの部隊を1人で相手して全滅させた。

 最後に見たのはビンゴ王国との共同戦の時。
 人や馬が別物のように飛んでいた。

 それが兵ではない、女性の姿だとは確認できていた。
 それが今この状況において語られることの意味が分からない。

 いや、分かってる。
 今の動き。そして風貌。
 すべてが合致する。

 だから俺はあり得ない、あり得てはいけない組み合わせを認めざるを得なかった。

 立花里奈と『収乱斬獲祭ハーヴェスト・カーニバル・カニバリズム』。
 それが合致して、離れない。

『あの……と、友達になってくれませんか?』

 そう言った彼女の顔は、今は醜悪に歪み、血だまりの中にたたずむ彼女は、おぞましいながらも鮮血のヴィーナスと表現できるほど美しかった。

 いや、違う。あれは里奈じゃない。
 けど里奈だ。

「言ったでしょう? 貴方は後悔する、と」

 赤星煌夜の声が呪いのように頭に響く。

 嘘だ。こんなわけがない。
 嘘だ。こんな現実あってはならない。
 嘘だ。こんな再会求めてはいなかった。
 嘘だ。嘘だ嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ!

「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
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