知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

文字の大きさ
250 / 627
第3章 帝都潜入作戦

閑話24 コーモ・ノウム(対オムカ戦線砦守備隊長)

しおりを挟む
 失態だ。

 いや、違う。
 これは当然の結果だ。

 最前線にもかかわらず、1万に満たない兵で守備を命じたあの将軍。
 ハルトとか言った、オムカ王都すら落とせず、ビンゴ王国とオムカ王国に手こずる弱卒の将。

「あいつのせいで、わしは……」

 怒りで昨日は眠れなかった。

 やぐらから外を見る。
 砦から少し離れた位置に約1万5千ほどのオムカ軍。
 朝っぱらから憎々しいほどに泰然たいぜんとしている。

『あー、俺たちは帝都まで退くから頑張って守ってね。教皇様のお告げでは、しばらく来ないだろうってことだから。ま、もし来ても少数だろうし、弱卒ばかりでしょ。もちろん誇り高き軍人の隊長殿は、打って出て敵を撃退してくれますよね?』

 くそ、あの若造が。全然嘘ではないか!
 いや教皇様のお告げは絶対。パルルカ神が我らを裏切るはずがない。
 ならばやはりあの若造が嘘八百を並べ立てたということだ。

 オムカ軍、予想以上の数、そして強さだった。
 おかげで大きく兵を減らし、こうして籠城に方針を切り替えなくてはならなかったのだが……。

「隊長! て、帝都から伝令です!」

「すぐに会う!」

 櫓から降りて伝令が待つ本陣へと移動する。
 そこには軽装の若者が膝をついて待っていた。

「帝都からの伝令と?」

「はっ! オムカ軍襲来の報を受け、大将軍が7万を率いて南下中! 2日後には到着するとのこと!」

 おお、さすが大将軍。
 我らを見捨てはしなかった。どこかの若造とは違う。

「あい分かった。さすが大将軍殿である」

「なお、大将軍は隊長殿にここの死守を厳命されました」

「死守?」

「はっ、オムカ王国軍を野戦で破るは簡単。しかし砦にこもられると厄介であると大将軍は懸念しております。そのため、隊長殿にはこの砦を死守していただかないと困ると」

「し、しかしあと2日であろう?」

 こちらは5千、相手は1万5千。
 無理ではないが、かなり難しい。

「7千の兵ならば囲まれても2日は持つ。そう大将軍はおっしゃっておりました」

 ぎくりとした。
 わざわざ兵数を言ったことに、何か言下に示すものがありそうだ。
 まさか野戦をして大敗したとは言い出せない。何よりこの若者、どうせそれを知れば嘲笑うに違いない。

「そ、そう……だな! ははは! もちろんだ! 大将軍には安心して向かってくださるよう返事くだされ!」

「……本当に、よろしいのでございますね?」

「くどい! わしがやると言っているのだ! 軍人に二言はない!」

「承知しました。では、ご武運を」

 そして伝令の兵は去っていった。

 くそ、どうしてこうなった。
 あと2日。本当に持つのか!?

 もともとここは最前線とは名ばかりの、お気楽な勤務地点だったのだ。通行税を取り、商人の荷物を改め、夜は女の体にうずくまる。それだけしていれば良い場所だったのだ。
 それがなんでこんな……。

「敵に動きがあります!」

 見張りから報告があったのはその直後だった。

 だから弾かれたように立ち上がり、そのまま櫓に登る。

 見れば敵は南に一部を残して東西の左右に、つまり3手に別れていた。
 恐らくそのまま北も包囲するつもりだろう。

 そうなれば相手は各方面に4千ほど。
 しっかりと防衛すれば、2日は持つ。いや、持たせる。

 1つの城門に犠牲を問わず投入されたら困ったところだったが、これならば何とかなるぞ。

 そもそもあのオムカ王国だって、5倍以上の包囲に対し7日も耐えてみせたのだ。
 このわしがそれができんわけがない。

 そんな希望の光が差し込んできたら、急速にやる気が出てきた。
 ここをしのげば、元帥府における大将軍の覚えも良くなり、こんな厄介な場所ではなく、帝都に招集されることもありえる。あるいは帝都を守る国門の守備を任される可能性もある。あれはほぼ敵の侵略もなく、通行と商売にかかる税を吸い上げるだけの安全で楽で儲かる仕事だ。

「やってやる……」

 声に出すとさらにやる気が出る。
 そうだ、オムカ王国がなんだ。

「すぐに迎撃の態勢を取れ! 各門は1千2百! 残りはわしが率いて遊軍とする!」

 それだけ命じて、敵軍の動きに目を凝らす。
 移動している2つの隊はそれぞれ西門と東門に取り付こうとする。
 そこから更に北門に向かう軍勢が出て包囲と――

「な……」

 ならなかった。
 敵は南、西、東の門を攻めるだけで、北門には見向きもしない。
 これは完全包囲より厄介だった。

 まず兵力の差がさらに出る。
 たった1千ほどだが、それが矢避けの盾を持つだけで完全に攻城力が上がる。

 さらに北門の備えを解くわけにはいかなくなった。
 北門の守備を他に回した途端、北門に軍勢が移動する可能性もある。

 どうする。この状況。

 迷う間も戦況は進む。
 各地の被害の報告を受けながらも、死守を言うだけでどうしようもない。

 味方が更に劣勢になる。
 このままでは落ちる。
 そうなればわしの輝かしい栄光も、何もかもが崩れ去る。
 何より死ぬ。
 大事なこの命が失われる。
 それは避けなければならない。

 ちらりと北門を見る。
 そこは敵はいない。
 今なら……こっそり……。

「も、もうダメだ! 北門に敵はいないぞ、逃げろー!」

 誰だ、わしと同じことを――いや、敵前逃亡など!

 櫓から見下ろす。
 北門の辺りで兵が騒いでいる。
 その兵は他の兵を糾合きゅうごうしているようで、北門の守備の兵に何か言い募っている。
 するとそれに当てられた兵士が、北門に取り付き始めた。

「ば、馬鹿! よせ!」

 言って届くわけがない。
 櫓を降りる。
 その間にすべてが終わっていた。

 北門が開き、そこを守っていた守備兵も我先に逃げ出す。
 するとその様子を見て取った他の門の守備兵も、うろたえ出し、ついには持ち場を離れて北門へと殺到した。

 ぐ、ぐぐぐ……こうなったら……。

「ぜ、全軍退却! 北門より離脱するのだ!」

 声を枯らして怒鳴りながら馬に乗り、北門へ駆ける。
 とにかく残った兵を集め、そして砦を捨てて北上するのだ。
 そうすれば後は逃げるもよし、いや、卑怯な手を使われて砦を落とされたことにして大将軍に合流できる。そうなればおとがめも最小限になるはずだ。

 だから今は脱出。
 北門を抜け、外に出た。

 昼の陽光が大地を照らす。
 だが心境は大雨だった。

 まだだ。
 わしはこのままでは終わらん。

 兵を集める。
 2千もいない。
 だがいないよりマシだ。

「これより我々は北上し、大将軍に合流する! 我に続け!」

 そして走り出す。
 ほとんどが歩兵だからそれほど急ぐわけにはいかない。

 それでも敵の追撃がないかと背後を気にして見る。
 来ない。
 前方に丘。
 そこを抜ければひとまずは安心だろう。

 だがその時だ。
 鉦の音が鳴る。
 見れば丘の上に軍勢。

「残念ながらここは通行止めっす」

 騎馬隊。
 いや、オムカ軍!?
 何故こんなところに!?

 騎馬隊が来る。
 逆落としの格好になった。
 そもそもこちらは歩兵だけで、馬止めの柵などない。

 意味が分からない。
 なぜこうなったのか分からない。
 どうすればいいのか……それだけは分かる。

「ふ、防げ! 防げ!」

 わしを守るために。
 わしを逃がすために。

 そう言うのがやっとで、歩兵を置いてとにかく馬を走らせる。

 わしがこんなところで死ぬわけがない。
 だってわしだ。これまで上手く立ち回って危険を回避してきたわしだ。きっとこの状況もギリギリで潜り抜ける。そして栄達の道を駆け上るのだ。

 そもそも卑怯な相手だった。その卑怯な手にわしはかかってしまった。だからわしは悪くない。それを大将軍に伝えなければ。この大事な情報。だからわしは悪くない。部下も散り散りになったが、それもわしのせいではない。あんなところに伏兵を置くのが悪い。だからわしは悪くない。

 だからわしは悪くないのだ!

 その時だ。
 背後から声が聞こえたのは。

「部下を置いて逃げる卑怯者、逃がすわけにはいかねっすよ!」

 誰が卑怯者か!
 そう怒鳴ろうとして振り返る。

 目の前に光があった。
 それだけだった。

 衝撃。すべてが暗転した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Re:攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。【第一部新生版】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
剣と魔法が交差する世界——。 ある男女のもとに、一人の赤子が生まれた。 その名は、アスフィ・シーネット。 魔法の才能を持たなければ、生き残ることすら厳しい世界。 彼は運よく、その力を授かった。 だが、それは 攻撃魔法ではなく、回復魔法のみだった。 戦場では、剣を振るうことも、敵を討つこともできない。 ただ味方の傷を癒やし、戦いを見届けるだけの存在。 ——けれど、彼は知っている。 この世界が、どこへ向かうのかを。 いや、正しくは——「思い出しつつある」。 彼は今日も、傷を癒やす。 それが”何度目の選択”なのかを、知ることもなく。 ※これは第一部完結版です。

聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~

猫野 にくきゅう
ファンタジー
国を追放された聖女が、隣国で幸せになる。 ――おそらくは、そんな内容の小説に出てくる 『嫌われ役』の王子に、転生してしまったようだ。 俺と俺の暮らすこの国の未来には、 惨めな破滅が待ち構えているだろう。 これは、そんな運命を変えるために、 足掻き続ける俺たちの物語。

追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚  ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。  しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。  なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!  このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。  なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。  自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!  本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。  しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。  本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。  本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。  思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!  ざまぁフラグなんて知りません!  これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。 ・本来の主人公は荷物持ち ・主人公は追放する側の勇者に転生 ・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です ・パーティー追放ものの逆側の話 ※カクヨム、ハーメルンにて掲載

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

勇者をしている者なんですけど、キモデブ装甲のモブAにチェンジ魔法を使われて、身体が入れ替わった!? ありがとうモブA!やっと解放された!

くらげさん
ファンタジー
 雑草のように湧いてくる魔王の討伐を1000年のあいだ勇者としてこなしてきたら、キモデブ装甲のモブAに身体を取られてしまった。  モブAは「チェンジ魔法」のユニークスキル持ちだった。  勇者は勇者を辞めたかったから丁度良かったと、モブAに変わり、この姿でのんびり平和に暮らして行こうと思った。  さっそく家に帰り、妹に理由を話すと、あっさりと信じて、勇者は妹が見たかった景色を見せてやりたいと、1000年を取り戻すような旅に出掛けた。  勇者は勇者の名前を捨てて、モブオと名乗った。  最初の街で、一人のエルフに出会う。  そしてモブオはエルフが街の人たちを殺そうとしていると気付いた。  もう勇者じゃないモブオは気付いても、止めはしなかった。  モブオは自分たちに関係がないならどうでもいいと言って、エルフの魔王から二週間の猶予を貰った。  モブオは妹以外には興味なかったのである。  それから妹はエルフの魔王と仲良くなり、エルフと別れる夜には泣き止むのに一晩かかった。  魔王は勇者に殺される。それは確定している。

究極妹属性のぼっち少女が神さまから授かった胸キュンアニマルズが最強だった

盛平
ファンタジー
 パティは教会に捨てられた少女。パティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳だったため、村人からは忌子といわれ、孤独な生活をおくっていた。この世界では十歳になると、神さまから一つだけ魔法を授かる事ができる。パティは神さまに願った。ずっと側にいてくれる友達をくださいと。  神さまが与えてくれた友達は、犬、猫、インコ、カメだった。友達は魔法でパティのお願いを何でも叶えてくれた。  パティは友達と一緒に冒険の旅に出た。パティの生活環境は激変した。パティは究極の妹属性だったのだ。冒険者協会の美人受付嬢と美女の女剣士が、どっちがパティの姉にふさわしいかケンカするし、永遠の美少女にも気に入られてしまう。  ぼっち少女の愛されまくりな旅が始まる。    

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

処理中です...