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第3章 帝都潜入作戦
第36話 撤退か迎撃か
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「ったく、ブリーダがいるなら最初から言えよ」
「敵を欺くならまずは味方というじゃろう? ちゃんと呼んでおいたわ」
「それで俺に黙って逃げた敵を討たせた、かよ。ずるい爺さんだ」
ぶつくさ言いながらも砦に入る。
残った1千ほどの敵兵は投降した。あとは散り散りになったということか。
「しかし……『いしひっけつ』と言ったか? なかなか面白い策じゃのぅ」
「まぁ、敵の心理を突いたものだからな」
完全包囲されてしまえば、どんな愚将の下でも兵は必死になる。
だが1つ逃げ道を与えてやれば、逃げれば生き延びられるかも、という欲が出て、徹底抗戦の気勢がそがれるのだ。
「そしてイッガーと言ったか。あの諜報部隊の」
「あぁ。あいつがいたからやりやすかった。昨夜潜入させて、北門に向かって逃げる演技をする。命がけの仕事だったから不安だったけど、予想以上に城兵はヘタレだったのが助かった」
「うむ。その戦功はしっかり女王様に報告しよう。しかし……お主は会ったのだったのぅ。この砦の連中とは」
そう。アヤと共に一夜を過ごした連中。
そのどれだけが命を落とすことになったのか。
名前を知るわけじゃないけど、やはり辛い。
「そう、だな……」
「だが沈んでいる場合ではないぞ? すぐに敵の本隊がやってくる。その間にどうするか決めなければな」
「野戦か、籠城か」
「それじゃ」
「いや、籠城は無理だろ。南下してくる敵は10万に近いって話だろ」
「ま、恐怖は敵を多く見積もるからの。多くて8万か7万とかではないか?」
「だとしても、だ。王都の時と同じかそれ以上の規模の敵が来るんだ。王都ならまだしも、こんなちっぽけな砦で守れるわけがない。南郡の連中の尻を叩けば援軍は出せるかもしれないけど、少なくとも1週間以上はかかる。どのみち籠城は無理なんだよ」
「となると野戦か。ブリーダが加わって1万8千にはなったが……7,8万の前では焼け石に水だのぅ」
「過去に少数が多勢を破った例なんていくらでもあるだろ」
「どうかのぅ。それも相手の油断を突くであったりした場合じゃろ、今回のように。だが聞いたであろう? 南下してくる軍の旗は白地に金の縁取り。帝国軍最強、元帥府の人間じゃぞ。噂では北方で20万の異民族を5万で破ったとか。そんな大将が、そう簡単に油断してくれるかのぅ」
「それは……」
帝国軍最強。
あの尾田張人より上ってことかよ。
「ましてや相手は大軍。大将を討てば確かに勝つだろうが、そのためには多大な犠牲を払わなければ勝てぬぞ?」
「…………」
それを言われると辛い。
河越、厳島、桶狭間。
日本の三大奇襲と呼ばれて名高い戦みたく、敵の総大将を討ち取れる戦いばかりではない。
敵も必死の思いで防いでくるだろうから、よほど天運に恵まれるか、敵が暗愚でなければ勝ち目はないのだ。
兵たちが慌ただしく動いている。
籠城の選択肢もある以上、補修や防御の備えは必要だ。
「爺さんの想定は?」
「ま、野戦じゃろ」
「ん……じゃあ砦の補修とかする必要なくね!?」
「馬鹿者。10万が迫ってくると言って、落ち着いて休んでられるか。お主ほど肝の座ってる奴はなかなかおらん。だからまだ陽のあるうちは動いていた方が兵は楽じゃて」
「そういうもんか」
「そういうものじゃ」
やはり実戦に参加する身ではないから、どうもそこらへんが疎いらしい。
てかさりげなく今褒められた? 図太いと言われたようなきもしたけど。
砦の本陣に入る。
そこにはすでにウィットと、何故かクロエがいた。
クルレーンは自分の隊のところにいるらしい。
「隊長殿、お疲れ様です! お風呂にしますか、ご飯にしますか? それとも……ク・ロ・エ?」
「……なんでいるの?」
俺は所在なげにたたずんでいるウィットに視線を移した。
「それが……自分も軍議出るの一点張りで……」
「それはウィットだけがずるいからですー。私も副隊長なのに!」
はぁ……成長したと思ったら全然じゃないか。
「部隊は?」
「あ、それはマールに押し付――任せてくださいって言われたんで、しぶしぶお願いしてきました」
「貴様! そういうのを責任放棄というのだ! いい加減にしろ!」
「ふーん、ちょっと部隊を率いたからって先輩面? だったらウィットが部隊を見なさいよ!」
クロエの滅茶苦茶論理に、さすがに雷を落とそうと思ったが、
「まぁまぁ、いいではないか。若い女の子がいた方が華やかじゃて」
ハワードの爺さんがどうでもいい理由で宥めやがった。
エロジジイめ。ちなみに今の俺の方が若いけどな。
ん? それってつまり俺が華やかじゃないってことか?
……いや、いいけど。俺、男だし。悔しくないし。
「お、さすが総隊長殿。話が早い!」
「もちろんじゃ。どうだ、今夜?」
「ごめんなさい。私、隊長殿一筋なので!」
「ほほーう。さすがジャンヌじゃのぅ。去年よりもずっと心をつかんでいるようじゃ。何をしたんじゃ?」
そういえば爺さん、カルゥム城塞に来た時くらいしかクロエと会ってないのか。
あの時はクロエと出会ったばかりで、こんなじゃなかったのになぁ……。ちなみに俺は何もしてません。
ふとウィットの様子が変なのに気づいた。
クロエになんだか怒りのような、畏れのような複雑な視線を向けていた。
きっとクロエがハワードの爺さんに、ずけずけと物言いしていることに対する思いだろう。安心しろウィット。これが異常なだけだ。
「てゆうか! 敵が来るっつってんだろ! なんだこれ!?」
机を思い切り叩く。
この緊張感のなさ。ありえねぇ。
「まぁ焦ったところで仕方あるまい。今できるのは戦うか逃げるか、戦うとしたらどこで戦うか決めるくらいじゃろ。幸い地図は残ったまま。今からピリピリしても、2日後までもたんぞ?」
「そうです! だから隊長殿、今日は一緒にここのお風呂入りましょう!」
「おお、良いではないか。わしも良いかの?」
「お断りです! ちなみにウィットみたいに覗くのもノン正義です!」
「ほーーーう。なんじゃ、ウィット。お主、ジーンのような真面目な朴念仁かと思ったが、よろしくやってたってことか。やるのぅ。どうじゃ? ジャンヌの裸は見れたか?」
「はっ、いえ、その、あれは……事故というか……」
「お二人とも、それ以上はリンドーちゃん呼んで正義執行ですよ!」
はぁ……いつまで続くんだ、これ。
しょうがないから独り軍議でもしてよう。
地図は、あった。
ウォンリバー北岸の一帯。
この砦で歓待を受けて、次の日に竜胆と出会ったんだよなぁ。
あそこら辺の地形。
ところどこに小さい林があるくらいで見晴らしの良い平原だった。
つまり迂回とか奇襲とかそういうものが通用しにくい場所ということ。
さらに言えば、兵の数がもろに影響するということ。
1万8千対8万。
どう考えても、勝てるわけない。
じゃあもうちょっと別の場所……といってもダメだ。
あまりこの砦から遠ざかってしまうと、この砦を奪われるだけでなく、この砦を橋頭保としてヨジョー城が攻められるようなこともありうる。
さらに最悪のシチュエーションとして、砦に1万、俺たちに3万を張り付けて動けなくさせたうえで、残りの4万で南下すればヨジョー城どころか王都まで危なくなる。
つまりこの平原で迎撃するしかないのだ。
あとは……逃げるか。
聞くところによると、ハワードの爺さんは1万5千を早速作った中型船で、河を渡したらしい。
ただ1隻に150人くらいしか乗れず、何十往復もして一昼夜かかったという。
だからもし逃げるなら今のうちだ。
今から撤退すればギリギリ、敵が来る前に南岸へ渡ることは可能だ。
だがそれでどうする?
帝国軍はこないだのように河を渡ってくるかもしれない。
あの時は3万ほど。
今回は8万だ。
もちろん船で渡るという行為がある限り、兵力差はそのまま戦力につながるわけではない。
だがこないだの3万でも、なんとか勝ちを拾ったくらいなのだ。正直、撃退できるかというと全然自信がない。
そして一カ所でも渡河地点を作られたら後はなし崩しだ。
地震の影響でヨジョー城は守りに堪えられないし、王都近くの砦も同じ。
そうなるとヨジョー地方のどこかで野戦を挑むか、王都を盾にして防衛戦を行うしかない。
このヨジョー地方を手に入れたのが4月末。今は7月中旬。
たった3か月もしないままに、支配地域を奪い返されて去年に続き2度目の王都防衛戦をやるなんてことになれば、オムカ王国は国としての信頼を失う。
特に南郡が『オムカ弱し』と見て反旗をひるがえす可能性はある。西と東の戦線にも影響は出るだろう。
そうなると、ここで野戦するか、ヨジョー地方で野戦するかの二択となる。
それなら断然、ここでの野戦の方がいい。
土地に不慣れとはいえ、ここまで何もなければ不慣れも何もない。
そもそも自国内ではやはり国民への影響が大きいし、田畑が荒らされたらただでさえ復興で頑張っている人たちに絶望を与えかねない。
ここならば、前に来た時に見た通り、民家も少ないし田畑もほぼない。
だからやるならここだ。ここで勝つ以外、俺たちオムカ王国が生きる道はない。
よし、ここまでの状況は把握した。
……てゆうかなんでいつも滅亡のふちで戦うことになるのかな。
「お、どうやら考えがまとまったようじゃな、ジャンヌ」
「さすが隊長殿です! さぁ、どんな策ですか!?」
ぎゃーぎゃー騒いでいた2人が一斉にこちらを向く。
なんでここだけ息ぴったりだよ。
てかまだ策も考えられてないし。
けどウィットも含め、期待した目を向けられるとどうも……。
しかたないなぁ。
「とりあえず俺たちに撤退はない」
そして撤退できない理由をざっくり話した。
「まぁ、そうだろうのぅ」
「えぇ、ちょっと待ってください。複雑でよくわからないです……」
「単純だろうが! 貴様……なんでそれで軍議に出ようと思った」
はい、クロエは無視して次!
「というわけで籠城か野戦かだが、これはもう爺さんと話した通り、籠城は無理だ。なら野戦で勝つしかない」
「野戦って……相手は10万ですよ。10倍ですよ!?」
クロエは算数も出来なかったか……。ちょっと勝った。
「正確には7から8万だから5倍くらいだ。それなら……多分、きっと、おそらく、なんとか、なる、と思う、はず」
「曖昧じゃのぅ」
「仕方ないだろ。とりあえず現状の理解からだ。作戦はこれから!」
「ええー、せっかく隊長殿のえげつない策が聞けると思ったのにー」
「仕方ないだろ。隊長の極悪な策はそうポンポンでるわけではないのだ」
「お主ら遠慮ないのぅ。せめて人でなしの策くらいにしておけ」
お前ら、俺で遊んでない?
てかいじめられてる?
「あ、そういえば隊長。せっかくなので用意してきたものがありますが……」
ふとウィットが何か思いだしたようにして言ってきた。
「用意?」
「ええ。新兵器の開発、ということで昨年末から用意してきたものの中で使えそうなものをいくつか」
え、それってまさか。
そしてその内容を聞いた時、俺は思わずウィットに抱きついていた。
「ウィット、お前、最高だ!」
目を白黒させるウィットと、その横でほぞを噛むクロエとハワードの爺さん。
恥ずかしい? 構うものか。
これで勝算が一気に跳ね上がる。
いや、賭けという部分はあるが、何もできずに蹂躙されることだけはきっとなくなる。
あわよくば、これで勝ちに行ける可能性は出てきたのだ。
「敵を欺くならまずは味方というじゃろう? ちゃんと呼んでおいたわ」
「それで俺に黙って逃げた敵を討たせた、かよ。ずるい爺さんだ」
ぶつくさ言いながらも砦に入る。
残った1千ほどの敵兵は投降した。あとは散り散りになったということか。
「しかし……『いしひっけつ』と言ったか? なかなか面白い策じゃのぅ」
「まぁ、敵の心理を突いたものだからな」
完全包囲されてしまえば、どんな愚将の下でも兵は必死になる。
だが1つ逃げ道を与えてやれば、逃げれば生き延びられるかも、という欲が出て、徹底抗戦の気勢がそがれるのだ。
「そしてイッガーと言ったか。あの諜報部隊の」
「あぁ。あいつがいたからやりやすかった。昨夜潜入させて、北門に向かって逃げる演技をする。命がけの仕事だったから不安だったけど、予想以上に城兵はヘタレだったのが助かった」
「うむ。その戦功はしっかり女王様に報告しよう。しかし……お主は会ったのだったのぅ。この砦の連中とは」
そう。アヤと共に一夜を過ごした連中。
そのどれだけが命を落とすことになったのか。
名前を知るわけじゃないけど、やはり辛い。
「そう、だな……」
「だが沈んでいる場合ではないぞ? すぐに敵の本隊がやってくる。その間にどうするか決めなければな」
「野戦か、籠城か」
「それじゃ」
「いや、籠城は無理だろ。南下してくる敵は10万に近いって話だろ」
「ま、恐怖は敵を多く見積もるからの。多くて8万か7万とかではないか?」
「だとしても、だ。王都の時と同じかそれ以上の規模の敵が来るんだ。王都ならまだしも、こんなちっぽけな砦で守れるわけがない。南郡の連中の尻を叩けば援軍は出せるかもしれないけど、少なくとも1週間以上はかかる。どのみち籠城は無理なんだよ」
「となると野戦か。ブリーダが加わって1万8千にはなったが……7,8万の前では焼け石に水だのぅ」
「過去に少数が多勢を破った例なんていくらでもあるだろ」
「どうかのぅ。それも相手の油断を突くであったりした場合じゃろ、今回のように。だが聞いたであろう? 南下してくる軍の旗は白地に金の縁取り。帝国軍最強、元帥府の人間じゃぞ。噂では北方で20万の異民族を5万で破ったとか。そんな大将が、そう簡単に油断してくれるかのぅ」
「それは……」
帝国軍最強。
あの尾田張人より上ってことかよ。
「ましてや相手は大軍。大将を討てば確かに勝つだろうが、そのためには多大な犠牲を払わなければ勝てぬぞ?」
「…………」
それを言われると辛い。
河越、厳島、桶狭間。
日本の三大奇襲と呼ばれて名高い戦みたく、敵の総大将を討ち取れる戦いばかりではない。
敵も必死の思いで防いでくるだろうから、よほど天運に恵まれるか、敵が暗愚でなければ勝ち目はないのだ。
兵たちが慌ただしく動いている。
籠城の選択肢もある以上、補修や防御の備えは必要だ。
「爺さんの想定は?」
「ま、野戦じゃろ」
「ん……じゃあ砦の補修とかする必要なくね!?」
「馬鹿者。10万が迫ってくると言って、落ち着いて休んでられるか。お主ほど肝の座ってる奴はなかなかおらん。だからまだ陽のあるうちは動いていた方が兵は楽じゃて」
「そういうもんか」
「そういうものじゃ」
やはり実戦に参加する身ではないから、どうもそこらへんが疎いらしい。
てかさりげなく今褒められた? 図太いと言われたようなきもしたけど。
砦の本陣に入る。
そこにはすでにウィットと、何故かクロエがいた。
クルレーンは自分の隊のところにいるらしい。
「隊長殿、お疲れ様です! お風呂にしますか、ご飯にしますか? それとも……ク・ロ・エ?」
「……なんでいるの?」
俺は所在なげにたたずんでいるウィットに視線を移した。
「それが……自分も軍議出るの一点張りで……」
「それはウィットだけがずるいからですー。私も副隊長なのに!」
はぁ……成長したと思ったら全然じゃないか。
「部隊は?」
「あ、それはマールに押し付――任せてくださいって言われたんで、しぶしぶお願いしてきました」
「貴様! そういうのを責任放棄というのだ! いい加減にしろ!」
「ふーん、ちょっと部隊を率いたからって先輩面? だったらウィットが部隊を見なさいよ!」
クロエの滅茶苦茶論理に、さすがに雷を落とそうと思ったが、
「まぁまぁ、いいではないか。若い女の子がいた方が華やかじゃて」
ハワードの爺さんがどうでもいい理由で宥めやがった。
エロジジイめ。ちなみに今の俺の方が若いけどな。
ん? それってつまり俺が華やかじゃないってことか?
……いや、いいけど。俺、男だし。悔しくないし。
「お、さすが総隊長殿。話が早い!」
「もちろんじゃ。どうだ、今夜?」
「ごめんなさい。私、隊長殿一筋なので!」
「ほほーう。さすがジャンヌじゃのぅ。去年よりもずっと心をつかんでいるようじゃ。何をしたんじゃ?」
そういえば爺さん、カルゥム城塞に来た時くらいしかクロエと会ってないのか。
あの時はクロエと出会ったばかりで、こんなじゃなかったのになぁ……。ちなみに俺は何もしてません。
ふとウィットの様子が変なのに気づいた。
クロエになんだか怒りのような、畏れのような複雑な視線を向けていた。
きっとクロエがハワードの爺さんに、ずけずけと物言いしていることに対する思いだろう。安心しろウィット。これが異常なだけだ。
「てゆうか! 敵が来るっつってんだろ! なんだこれ!?」
机を思い切り叩く。
この緊張感のなさ。ありえねぇ。
「まぁ焦ったところで仕方あるまい。今できるのは戦うか逃げるか、戦うとしたらどこで戦うか決めるくらいじゃろ。幸い地図は残ったまま。今からピリピリしても、2日後までもたんぞ?」
「そうです! だから隊長殿、今日は一緒にここのお風呂入りましょう!」
「おお、良いではないか。わしも良いかの?」
「お断りです! ちなみにウィットみたいに覗くのもノン正義です!」
「ほーーーう。なんじゃ、ウィット。お主、ジーンのような真面目な朴念仁かと思ったが、よろしくやってたってことか。やるのぅ。どうじゃ? ジャンヌの裸は見れたか?」
「はっ、いえ、その、あれは……事故というか……」
「お二人とも、それ以上はリンドーちゃん呼んで正義執行ですよ!」
はぁ……いつまで続くんだ、これ。
しょうがないから独り軍議でもしてよう。
地図は、あった。
ウォンリバー北岸の一帯。
この砦で歓待を受けて、次の日に竜胆と出会ったんだよなぁ。
あそこら辺の地形。
ところどこに小さい林があるくらいで見晴らしの良い平原だった。
つまり迂回とか奇襲とかそういうものが通用しにくい場所ということ。
さらに言えば、兵の数がもろに影響するということ。
1万8千対8万。
どう考えても、勝てるわけない。
じゃあもうちょっと別の場所……といってもダメだ。
あまりこの砦から遠ざかってしまうと、この砦を奪われるだけでなく、この砦を橋頭保としてヨジョー城が攻められるようなこともありうる。
さらに最悪のシチュエーションとして、砦に1万、俺たちに3万を張り付けて動けなくさせたうえで、残りの4万で南下すればヨジョー城どころか王都まで危なくなる。
つまりこの平原で迎撃するしかないのだ。
あとは……逃げるか。
聞くところによると、ハワードの爺さんは1万5千を早速作った中型船で、河を渡したらしい。
ただ1隻に150人くらいしか乗れず、何十往復もして一昼夜かかったという。
だからもし逃げるなら今のうちだ。
今から撤退すればギリギリ、敵が来る前に南岸へ渡ることは可能だ。
だがそれでどうする?
帝国軍はこないだのように河を渡ってくるかもしれない。
あの時は3万ほど。
今回は8万だ。
もちろん船で渡るという行為がある限り、兵力差はそのまま戦力につながるわけではない。
だがこないだの3万でも、なんとか勝ちを拾ったくらいなのだ。正直、撃退できるかというと全然自信がない。
そして一カ所でも渡河地点を作られたら後はなし崩しだ。
地震の影響でヨジョー城は守りに堪えられないし、王都近くの砦も同じ。
そうなるとヨジョー地方のどこかで野戦を挑むか、王都を盾にして防衛戦を行うしかない。
このヨジョー地方を手に入れたのが4月末。今は7月中旬。
たった3か月もしないままに、支配地域を奪い返されて去年に続き2度目の王都防衛戦をやるなんてことになれば、オムカ王国は国としての信頼を失う。
特に南郡が『オムカ弱し』と見て反旗をひるがえす可能性はある。西と東の戦線にも影響は出るだろう。
そうなると、ここで野戦するか、ヨジョー地方で野戦するかの二択となる。
それなら断然、ここでの野戦の方がいい。
土地に不慣れとはいえ、ここまで何もなければ不慣れも何もない。
そもそも自国内ではやはり国民への影響が大きいし、田畑が荒らされたらただでさえ復興で頑張っている人たちに絶望を与えかねない。
ここならば、前に来た時に見た通り、民家も少ないし田畑もほぼない。
だからやるならここだ。ここで勝つ以外、俺たちオムカ王国が生きる道はない。
よし、ここまでの状況は把握した。
……てゆうかなんでいつも滅亡のふちで戦うことになるのかな。
「お、どうやら考えがまとまったようじゃな、ジャンヌ」
「さすが隊長殿です! さぁ、どんな策ですか!?」
ぎゃーぎゃー騒いでいた2人が一斉にこちらを向く。
なんでここだけ息ぴったりだよ。
てかまだ策も考えられてないし。
けどウィットも含め、期待した目を向けられるとどうも……。
しかたないなぁ。
「とりあえず俺たちに撤退はない」
そして撤退できない理由をざっくり話した。
「まぁ、そうだろうのぅ」
「えぇ、ちょっと待ってください。複雑でよくわからないです……」
「単純だろうが! 貴様……なんでそれで軍議に出ようと思った」
はい、クロエは無視して次!
「というわけで籠城か野戦かだが、これはもう爺さんと話した通り、籠城は無理だ。なら野戦で勝つしかない」
「野戦って……相手は10万ですよ。10倍ですよ!?」
クロエは算数も出来なかったか……。ちょっと勝った。
「正確には7から8万だから5倍くらいだ。それなら……多分、きっと、おそらく、なんとか、なる、と思う、はず」
「曖昧じゃのぅ」
「仕方ないだろ。とりあえず現状の理解からだ。作戦はこれから!」
「ええー、せっかく隊長殿のえげつない策が聞けると思ったのにー」
「仕方ないだろ。隊長の極悪な策はそうポンポンでるわけではないのだ」
「お主ら遠慮ないのぅ。せめて人でなしの策くらいにしておけ」
お前ら、俺で遊んでない?
てかいじめられてる?
「あ、そういえば隊長。せっかくなので用意してきたものがありますが……」
ふとウィットが何か思いだしたようにして言ってきた。
「用意?」
「ええ。新兵器の開発、ということで昨年末から用意してきたものの中で使えそうなものをいくつか」
え、それってまさか。
そしてその内容を聞いた時、俺は思わずウィットに抱きついていた。
「ウィット、お前、最高だ!」
目を白黒させるウィットと、その横でほぞを噛むクロエとハワードの爺さん。
恥ずかしい? 構うものか。
これで勝算が一気に跳ね上がる。
いや、賭けという部分はあるが、何もできずに蹂躙されることだけはきっとなくなる。
あわよくば、これで勝ちに行ける可能性は出てきたのだ。
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しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
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