知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第3章 帝都潜入作戦

閑話24 コーモ・ノウム(対オムカ戦線砦守備隊長)

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 失態だ。

 いや、違う。
 これは当然の結果だ。

 最前線にもかかわらず、1万に満たない兵で守備を命じたあの将軍。
 ハルトとか言った、オムカ王都すら落とせず、ビンゴ王国とオムカ王国に手こずる弱卒の将。

「あいつのせいで、わしは……」

 怒りで昨日は眠れなかった。

 やぐらから外を見る。
 砦から少し離れた位置に約1万5千ほどのオムカ軍。
 朝っぱらから憎々しいほどに泰然たいぜんとしている。

『あー、俺たちは帝都まで退くから頑張って守ってね。教皇様のお告げでは、しばらく来ないだろうってことだから。ま、もし来ても少数だろうし、弱卒ばかりでしょ。もちろん誇り高き軍人の隊長殿は、打って出て敵を撃退してくれますよね?』

 くそ、あの若造が。全然嘘ではないか!
 いや教皇様のお告げは絶対。パルルカ神が我らを裏切るはずがない。
 ならばやはりあの若造が嘘八百を並べ立てたということだ。

 オムカ軍、予想以上の数、そして強さだった。
 おかげで大きく兵を減らし、こうして籠城に方針を切り替えなくてはならなかったのだが……。

「隊長! て、帝都から伝令です!」

「すぐに会う!」

 櫓から降りて伝令が待つ本陣へと移動する。
 そこには軽装の若者が膝をついて待っていた。

「帝都からの伝令と?」

「はっ! オムカ軍襲来の報を受け、大将軍が7万を率いて南下中! 2日後には到着するとのこと!」

 おお、さすが大将軍。
 我らを見捨てはしなかった。どこかの若造とは違う。

「あい分かった。さすが大将軍殿である」

「なお、大将軍は隊長殿にここの死守を厳命されました」

「死守?」

「はっ、オムカ王国軍を野戦で破るは簡単。しかし砦にこもられると厄介であると大将軍は懸念しております。そのため、隊長殿にはこの砦を死守していただかないと困ると」

「し、しかしあと2日であろう?」

 こちらは5千、相手は1万5千。
 無理ではないが、かなり難しい。

「7千の兵ならば囲まれても2日は持つ。そう大将軍はおっしゃっておりました」

 ぎくりとした。
 わざわざ兵数を言ったことに、何か言下に示すものがありそうだ。
 まさか野戦をして大敗したとは言い出せない。何よりこの若者、どうせそれを知れば嘲笑うに違いない。

「そ、そう……だな! ははは! もちろんだ! 大将軍には安心して向かってくださるよう返事くだされ!」

「……本当に、よろしいのでございますね?」

「くどい! わしがやると言っているのだ! 軍人に二言はない!」

「承知しました。では、ご武運を」

 そして伝令の兵は去っていった。

 くそ、どうしてこうなった。
 あと2日。本当に持つのか!?

 もともとここは最前線とは名ばかりの、お気楽な勤務地点だったのだ。通行税を取り、商人の荷物を改め、夜は女の体にうずくまる。それだけしていれば良い場所だったのだ。
 それがなんでこんな……。

「敵に動きがあります!」

 見張りから報告があったのはその直後だった。

 だから弾かれたように立ち上がり、そのまま櫓に登る。

 見れば敵は南に一部を残して東西の左右に、つまり3手に別れていた。
 恐らくそのまま北も包囲するつもりだろう。

 そうなれば相手は各方面に4千ほど。
 しっかりと防衛すれば、2日は持つ。いや、持たせる。

 1つの城門に犠牲を問わず投入されたら困ったところだったが、これならば何とかなるぞ。

 そもそもあのオムカ王国だって、5倍以上の包囲に対し7日も耐えてみせたのだ。
 このわしがそれができんわけがない。

 そんな希望の光が差し込んできたら、急速にやる気が出てきた。
 ここをしのげば、元帥府における大将軍の覚えも良くなり、こんな厄介な場所ではなく、帝都に招集されることもありえる。あるいは帝都を守る国門の守備を任される可能性もある。あれはほぼ敵の侵略もなく、通行と商売にかかる税を吸い上げるだけの安全で楽で儲かる仕事だ。

「やってやる……」

 声に出すとさらにやる気が出る。
 そうだ、オムカ王国がなんだ。

「すぐに迎撃の態勢を取れ! 各門は1千2百! 残りはわしが率いて遊軍とする!」

 それだけ命じて、敵軍の動きに目を凝らす。
 移動している2つの隊はそれぞれ西門と東門に取り付こうとする。
 そこから更に北門に向かう軍勢が出て包囲と――

「な……」

 ならなかった。
 敵は南、西、東の門を攻めるだけで、北門には見向きもしない。
 これは完全包囲より厄介だった。

 まず兵力の差がさらに出る。
 たった1千ほどだが、それが矢避けの盾を持つだけで完全に攻城力が上がる。

 さらに北門の備えを解くわけにはいかなくなった。
 北門の守備を他に回した途端、北門に軍勢が移動する可能性もある。

 どうする。この状況。

 迷う間も戦況は進む。
 各地の被害の報告を受けながらも、死守を言うだけでどうしようもない。

 味方が更に劣勢になる。
 このままでは落ちる。
 そうなればわしの輝かしい栄光も、何もかもが崩れ去る。
 何より死ぬ。
 大事なこの命が失われる。
 それは避けなければならない。

 ちらりと北門を見る。
 そこは敵はいない。
 今なら……こっそり……。

「も、もうダメだ! 北門に敵はいないぞ、逃げろー!」

 誰だ、わしと同じことを――いや、敵前逃亡など!

 櫓から見下ろす。
 北門の辺りで兵が騒いでいる。
 その兵は他の兵を糾合きゅうごうしているようで、北門の守備の兵に何か言い募っている。
 するとそれに当てられた兵士が、北門に取り付き始めた。

「ば、馬鹿! よせ!」

 言って届くわけがない。
 櫓を降りる。
 その間にすべてが終わっていた。

 北門が開き、そこを守っていた守備兵も我先に逃げ出す。
 するとその様子を見て取った他の門の守備兵も、うろたえ出し、ついには持ち場を離れて北門へと殺到した。

 ぐ、ぐぐぐ……こうなったら……。

「ぜ、全軍退却! 北門より離脱するのだ!」

 声を枯らして怒鳴りながら馬に乗り、北門へ駆ける。
 とにかく残った兵を集め、そして砦を捨てて北上するのだ。
 そうすれば後は逃げるもよし、いや、卑怯な手を使われて砦を落とされたことにして大将軍に合流できる。そうなればおとがめも最小限になるはずだ。

 だから今は脱出。
 北門を抜け、外に出た。

 昼の陽光が大地を照らす。
 だが心境は大雨だった。

 まだだ。
 わしはこのままでは終わらん。

 兵を集める。
 2千もいない。
 だがいないよりマシだ。

「これより我々は北上し、大将軍に合流する! 我に続け!」

 そして走り出す。
 ほとんどが歩兵だからそれほど急ぐわけにはいかない。

 それでも敵の追撃がないかと背後を気にして見る。
 来ない。
 前方に丘。
 そこを抜ければひとまずは安心だろう。

 だがその時だ。
 鉦の音が鳴る。
 見れば丘の上に軍勢。

「残念ながらここは通行止めっす」

 騎馬隊。
 いや、オムカ軍!?
 何故こんなところに!?

 騎馬隊が来る。
 逆落としの格好になった。
 そもそもこちらは歩兵だけで、馬止めの柵などない。

 意味が分からない。
 なぜこうなったのか分からない。
 どうすればいいのか……それだけは分かる。

「ふ、防げ! 防げ!」

 わしを守るために。
 わしを逃がすために。

 そう言うのがやっとで、歩兵を置いてとにかく馬を走らせる。

 わしがこんなところで死ぬわけがない。
 だってわしだ。これまで上手く立ち回って危険を回避してきたわしだ。きっとこの状況もギリギリで潜り抜ける。そして栄達の道を駆け上るのだ。

 そもそも卑怯な相手だった。その卑怯な手にわしはかかってしまった。だからわしは悪くない。それを大将軍に伝えなければ。この大事な情報。だからわしは悪くない。部下も散り散りになったが、それもわしのせいではない。あんなところに伏兵を置くのが悪い。だからわしは悪くない。

 だからわしは悪くないのだ!

 その時だ。
 背後から声が聞こえたのは。

「部下を置いて逃げる卑怯者、逃がすわけにはいかねっすよ!」

 誰が卑怯者か!
 そう怒鳴ろうとして振り返る。

 目の前に光があった。
 それだけだった。

 衝撃。すべてが暗転した。
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