知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

文字の大きさ
272 / 627
第3章 帝都潜入作戦

第47話 ある人物からの手紙

しおりを挟む
 ハワードの爺さんの葬儀を終えると、俺は少し夜風に当たるために王宮の庭に出た。
 考えるのはこれからのこと。
 けど、やはり身が入らない。

 なんだかんだで、ハワードの爺さんの存在は俺の中で大きかったらしい。
 心にぽっかり穴が空いたような、そんな虚無感を感じる。

 だがその穴から1つの感情が沸き上がろうとしている。

 帝国を、いや、赤星煌夜あかぼしこうやを俺は許せない。
 だから俺はこの国を守るために徹底的に戦うつもりだ。

 そう誓った。

 だがそれは本当にいいのか?
 その迷いが出てきた。

 それは戦乱を長引かせ、そして人々を苦しめる決断になるのではないか?

 オムカ王国の人たちだけじゃない。ビンゴ王国もシータ王国も南郡の5カ国も、そしてエイン帝国も。すべての人を不幸にする決断を、俺はしようとしているのではないか。

 けど、俺にも言い分はある。
 仕掛けてきたのは向こうだ。
 これで相手を認めたら、屈してしまったら、それこそ泣き寝入りだ。
 ハワードの爺さんから受け継いだオムカ王国は、独立など有名無実の形骸化し、またもとの帝国の属国になるのではないか。

 しかし一度でも受けて立ったなら、こちらにも責任が発生する。
 結局、どんな理由にせよ、剣を取った時点で同じなのだ。

 俺に背負えるのか。
 この世界に生きる。すべての人たちの命を。未来を。

「……馬鹿らし」

 それほどの人間か、俺は。
 俺の決断で、万余の人間の運命の運命を左右するほど偉い人間なのか。
 いや、偉い人間なら左右していいというわけじゃないけど。

 明日、皆と話そう。
 それで決めよう。
 いや、もっと色んな人の話を聞きたい。
 王宮にいる人だけじゃない。王都に住む人。その外に住む人、皆の話を。

 そうだ、リンだ。
 忙しさにかまけてリンとしばらく会っていない。
 元気だろうか、まだ花屋で働いているのだろうか、意地悪されていないだろうか。
 明日、会いに行こう。
 そう思った。そう決めた。

「あ、ジャンヌ様。良いところに」

 そんな時だ。
 王宮に仕える女官の1人が俺を見つけると話しかけてきた。

「ジャンヌ様宛てにこのような手紙が来ていますが」

「俺宛て?」

 誰だ。
 オムカ王国における知り合いはほぼ王都にいるから、手紙を出す必要はない。
 ということは国外。九神や水鏡、喜志田らに何かあったのか。

 手紙を預かると、執務室に戻りさっそく封を開けた。
 差出人は書いていなかった。

 いぶかしげに思いながらも手紙を開く。
 そこには手書きの文字で、

『8月1日の21時。オムカ王都の北20キロにあるユーネ教会にて待っています  リナ』

 リナ?
 里奈?

 まさかと思い二度見した。
 間違いない、リナと書いてある。
 漢字でないから一瞬誰かと思ったが、日本語だ。懐かしい。

 違う。
 どういうことだ。
 里奈からの手紙。
 生きていたのか。

 安堵するも疑念が湧く。
 ならなぜ手紙で知らせる。
 近くに来ているのなら、そのまま来ればいい。
 なぜ。

 いや、決まってる。
 罠だ。
 赤星煌夜が早速放ってきた第2の矢。

 そう簡単に乗るわけにはいかない。

 ……だが、無視するわけにも、いかない。

 どうする。
 8月1日といえば明日だ。

 もやもやする気持ちを抑えて、とりあえず今日は家に帰ることにした。
 葬儀の差配や進行などで心身共に疲れ切っていたからで、そんな状態で正常な思考など機能しないのは分かっている。

「おかえりなさい、って隊長殿。遅かったですね?」

「ああ……ただいま。ちょっと、な」

 家に帰ると食事の支度をしていたクロエが待っていた。
 ここ数日、爺さんの葬儀関連でろくに帰宅もできなかったから、ちょっと新鮮な光景だった。
 部屋着に着替えてお風呂を沸かしにかかる。
 それが終わると食事の準備ができていた。

 野菜炒め(この世界に炒めるという技法がなかったらしかったので教わったらしい)とビーフシチューに俺専用のお米といった夕ご飯。

「へぇ、なんかレパートリーが増えてるな」

「ふっふーん。これでも花嫁修業をしているのです! イッガーは、ああ見えて手先が器用なんですね。いや、正直あの根性なしがと見くびっていました。これでいつでも隊長殿と結婚できますよ」

 最後の言葉は聞かなかったことにしよう。
 そう、意外なことにイッガーは料理ができるらしく、クロエは彼を師匠として色々習っているらしい。元部下で今は別部署で料理の師匠。なんか複雑だなぁ。

 というか今の俺にそういった、仕事以外にやることがない。
 趣味を持つ、というわけじゃないけど、少し気晴らしに何かできるものがあった方がいいのかなぁ、とちょっと思った。

「……今度俺も料理習ってみようかな」

 ぽつり、と何気なく言った言葉だが、クロエがスプーンを落とし、金属音が響く。

「っ! そ、それは隊長殿!?」

「ん? どうした?」

「いえ……その……えっと、教官――ニーアから聞いたんですが……そのバレンタインでもにょもにょ」

「なんだよ、ぶつぶつと」

「いえ! 隊長殿のお食事を作るのはこのクロエの役割なので! レシピも増やしますので! どーんと構えていてください!」

「ん……そっか」

 そう主張されたらしょうがない。
 もうちょっと他のことに手を伸ばしてみるか。

 できれば何か物になるのがいいな。
 クロエに料理させてばかりで申し訳ないから、何かお返しでもできたらいいんだけど……。

 それからあとはまた手紙のことに頭は向いた。

「隊長殿? どうかされたんですか? 上の空で」

「ん? いや、別に」

「また抱え込まずに何でも言ってくださいね? 自分は力になりますので!」

「うん、ありがとう……」

 とはいうもののどうしたものか。
 手紙が罠だった場合、クロエがいるのはとても心強い。
 しかし双鞭のない(現在発注中らしい)状態でどこまでやれるのか。

 それに里奈のことだ。
 ザインを殺した里奈を、クロエはどう思っているのか。
 こないだは気にしないみたいなこと言ってたけど、そう簡単に恨みを忘れることなんてできるだろうか。

 そして悩んだ結果――

 翌日の午後11時前。
 馬を走らせて俺とクロエはユーネ教会を目指して走っていた。

「隊長殿を呼び出すとはどういうことでしょう」

「さぁ、な。ただ……」

 ほぼ確実に相手はプレイヤーだろう。
 里奈を知っていて、俺と里奈の関係性もある程度気づいている人間で、日本語を操れるとなるとかなり限られてくる。
 一晩考えて、煌夜という結論は捨てた。あいつならこんなまわりくどい真似をせず、自分の名前で送ってくるだろう。

 ユーネ教会。
 パルルカ教の教会で、戴冠式の時に読んだ神父もこの教会の人間だった。帝都にあった教会ほど大きくなく、まさに町にあるザ・普通の教会といったイメージのなんの変哲もない建物。

「クロエは扉の所で待っていてくれ。扉は開けておくから」

「お気をつけて」

 もちろん武器など持てないから、戦いになったらひたすらクロエのところまで逃げることになる。唐辛子爆弾も在庫切れだ。

 扉を開ける。
 暗い。
 一部、天窓から差し込む光が床を照らしているがそれはごく一部。
 しんとした建物の中。やはり教会というだけで澄みきった何かを感じる。

 その時、奥にある祭壇の下で、1つの影が立ち上がったのが見えた。
 暗くて誰だか分からない。
 だがその背格好から、男だろうと感じた。

 そして、その影が言葉を発した。

「よく来たな、ジャンヌ・ダルク」

 挑発するような侮蔑ぶべつするような声に、警戒感を抱く。
 その前にこの声。
 どこかで聞き覚えがある。

 1人、か……。

 周囲に気を配る。
 だが俺には人の気配を感じるようなスキルは持っていないし、そうなったらどうしようもない。

 だから覚悟を決めてゆっくりと、前へ足を進める。
 相手も動く。近づいてくる。

 そして影との距離が5メートルほどになった時、窓から差し込む月明かりがその人物を照らした。

「お前は――」

 月明かりに光る銀髪。
 黒ずくめの装束にくたびれたマントを羽織った、中肉中背でどこにでもいそうなただの青年。だがただの青年ではないのは、その瞳を見れば分かる。

 黒の三白眼で、どこか狂気を宿したような瞳。
 じっと睨まれると、どこか圧迫感を感じる。

 この男を知っている。

 去年の末、戴冠式の日に出会った男。
 エイン帝国のプレイヤー。

 その名は確か――

「尾田、張人はると!」

 俺の声に、尾田張人はにぃっと口を広げ、いびつに笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚  ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。  しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。  なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!  このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。  なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。  自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!  本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。  しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。  本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。  本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。  思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!  ざまぁフラグなんて知りません!  これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。 ・本来の主人公は荷物持ち ・主人公は追放する側の勇者に転生 ・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です ・パーティー追放ものの逆側の話 ※カクヨム、ハーメルンにて掲載

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

勇者をしている者なんですけど、キモデブ装甲のモブAにチェンジ魔法を使われて、身体が入れ替わった!? ありがとうモブA!やっと解放された!

くらげさん
ファンタジー
 雑草のように湧いてくる魔王の討伐を1000年のあいだ勇者としてこなしてきたら、キモデブ装甲のモブAに身体を取られてしまった。  モブAは「チェンジ魔法」のユニークスキル持ちだった。  勇者は勇者を辞めたかったから丁度良かったと、モブAに変わり、この姿でのんびり平和に暮らして行こうと思った。  さっそく家に帰り、妹に理由を話すと、あっさりと信じて、勇者は妹が見たかった景色を見せてやりたいと、1000年を取り戻すような旅に出掛けた。  勇者は勇者の名前を捨てて、モブオと名乗った。  最初の街で、一人のエルフに出会う。  そしてモブオはエルフが街の人たちを殺そうとしていると気付いた。  もう勇者じゃないモブオは気付いても、止めはしなかった。  モブオは自分たちに関係がないならどうでもいいと言って、エルフの魔王から二週間の猶予を貰った。  モブオは妹以外には興味なかったのである。  それから妹はエルフの魔王と仲良くなり、エルフと別れる夜には泣き止むのに一晩かかった。  魔王は勇者に殺される。それは確定している。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...