知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第4章 ジャンヌの西進

第5話 ダイエット大作戦

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 ――というわけで。

「はい、じゃあ行きますよ隊長殿。とりあえずは練兵場を10周してみましょう」

 休日。
 クロエに頼み込んで練兵場でトレーニングをさせてもらうことにした。

 俺って、意思弱ぇよなぁ……。

 というのもあの後、ベッドでひたすらに考え込んで眠れぬ夜を過ごした。
 そんな馬鹿なという否定と、あるいはニーアの言ったことは真実ではないかという肯定が激しく俺の脳内で合戦を繰り広げたからだ。

 そうなると止まらない。
 そこに、前々からあった少しは鍛えた方がいいという思いが重なって、ここにいるのだ。

「いやー、隊長殿が自分を頼ってくれたのが嬉しいです。教官……ニーアに言われたっていうのがちょっとイラっときますが」

「お前、まだ呼び慣れてないんだな」

「別にいいんですよ。いやいや、それにしても再びその御姿を見ることができるなんて……眼福です」

「いちいち感想言うな! 恥ずかしいから!」

 クロエの視線がもう変態オヤジだった。

 運動着なんて持ってないから、体操着を着た。
 トレーニングシャツの動きやすいもので、もちろん胸元には『じゃんぬ』とひらがなで書いてある。そして下は、あの絶滅危惧種のブルマー。そう、半年ほど前にやった運動会で作ったものだ。

 これ、言われるまでもなく恥ずかしいんだよな……。
 しかも俺1人というのがまたもう……。

 いや、俺はここから生まれ変わるんだ。
 というわけでトレーニング開始!

 なのだが……。

「はぁ……はぁ……」

 正直舐めていた。
 トレーニングの厳しさではない。

 自分の体力のなさに、だった。

「……え? 隊長殿、マジですか?」

 クロエが珍種の生き物を見るような目で見てきた。

 そりゃそうだよな。
 たった1周、100メートルくらいでぶっ倒れるとは思ってなかった。
 自分でもびっくりだ。
 そりゃクロエも変わり種の野菜を発掘した時のような表情もするさ。

 くっ、明らかにクロエの好感度がダウンしている。
 ここはなんとか知力99のナイスな返答で上手く誤魔化すしかない。

「……はぁ、はぁ……いや……これは、あれだ…………はぁ……はぁ…………」

 こ、声が出ない。
 馬鹿な。
 声が出なけりゃ、知力99だろうと大天才だろうと無力。うぅん、俺の新しい弱点が見つかった。よかったよかった。

 ――じゃなく!

 マジ死ぬ……。
 体が自分のものとは思えないほど重い。
 いくら酸素を吸い込んでも、血の巡りが全く活性化されない感じ。

 とりあえず5分くらい寝転んで、ぜひぜひ言ってるとようやく声が出るようになった。

「あーーーーーーー、きっつ」

「いや、隊長殿が体力ないのは初めて会った時から知ってましたが……悪化してません?」

「し、仕方ないだろ! 運動なんて馬に乗るくらいだし!」

 本当は乗馬も運動になるんだけど、持久力とはまた別の問題。
 というかそれ以外はほとんど執務室に籠ってるわけだから、まったく運動しないのはしょうがないだろ。

「帝都でも、外歩き以外はずっとごろごろしてお菓子とか食べてましたからねぇ」

「うっ……そこを言われると」

 あの時はほとんど部屋にいたからなぁ。
 うーん、確かに反省すべきかもしれない。

「ま、まぁ。今日は初日ですし。ゆっくり慣らしていきましょう」

「いーつも、すまないねぇ……」

 なんか介護を受けてるおじいさんの気分だ。
 本当にクロエには頭が上がらないな……。

 いきなりランニングは無理ということで、ちょっとした体操から始めることになった。

 ――が。

「無理! これ以上は折れる! 人間の関節はこっちに曲がらないから!」

「ただの前屈運動でわけのわからんことを言わないでください……」

 とか、

「はい、隊長殿のおみ足をこっちに……」

「つる! つるから! 圧倒的に足がつる! こむら返りぃぃ!」

 とか、

「はい、じゃあ片足をあげて30秒です」

「…………うん、ま、こんなもんだろ」

「え、なんで2秒で足ついて満足顔なんですか。遊んでます、隊長殿?」

 とか、色々。
 いやー、運動した。うん。今日はよく眠れそうだ。

「…………隊長殿」

「その憐れな子ヤギを見るような視線、やめてくんない?」

「うう、隊長殿。たとえ隊長殿が体力ゼロの運動音痴で体がバッキバキに硬すぎる超絶残念な運動神経の持ち主だとしても、クロエが養ってあげますからね!」

 俺、そこまで言われるほどなのか。
 てか養ってもらうもなにも、俺だって一応働いてるぞ。

 とりあえず今日はもう終わりだろう。
 そう思って帰ろうとした時に、閑散とした練兵場に声が響いた。

「ふっふっふ! 所詮そこまでのようね、クロエ!」

「その声は!」

「あたしよ!」

 ニーアが自信満々に姿を現した。
 まぁ、そうだろうよ。

「むむむ、何しにきたのよ」

「いや、なんかジャンヌがトレーニングしてるって聞いたから? 女王様にちょっと見て来いって言われただけで、他意はないわ」

「嘘つき! ただ隊長殿の格好を見に来ただけでしょ!」

「別にそういうわけじゃないけど……」

 ニーアの視線がこちらに向く。
 というか睨まれた。

 え、なんか怖いんだけど。
 あの目。
 昔、風呂場で殺されそうになった時と同じ目。
 ぶっちゃけアレ、トラウマなんだけど。

「え、てかジャンヌなんでクロエとやってるの? あたしたち言ったよね。一緒にやろうって。それ断ってクロエと一緒って。何? ジャンヌ裏切り? そういうことする? ふーん。そうかジャンヌってそうなんだ。あたしたちじゃ信用ならないってこと?」

「あ……いえ、その……えっと」

 ヤバい。めんどくさい奴だ。
 てかニーアとやったら確実に死ぬ未来しか見えなかったわけで。
 てかてか、そんなくだらないことで人を殺すような目をするな!

「ふっ、それは当然でしょう教官……いや、ニーア。あなたみたいなただ鍛えればいいっていう脳筋方法じゃあ、隊長殿が耐えられないのは自明の理! そう、こういうのはトレーニングだけじゃなく、食べ物や睡眠時間も管理が大事! つまり、寝食を共にしている自分こそ! 隊長殿のダイエット計画には必要不可欠ということなのですよ!」

 お前もあおるな、クロエ!

「へぇ? そういうこと言っちゃう? あたしの前で、そういう風にしちゃう?」

「当然! 隊長殿の身の安全、健康管理はジャンヌ隊のそれも副隊長の私が見ることになってますから!」

「ふん、あんたみたいにちんたらやってたら、いつまでたってもジャンヌは痩せないのよ。あたしにやらせなさい。3日もあれば、ジャンヌの美しボディに改造してあげる」

「む……確かに隊長殿の美しボディにはそそられるものがありますが……させません。隊長殿のことは私が一番よく知っているのですから!」

「ふぅん、じゃあ勝負する? あたしとあんた。どっちがジャンヌを痩せさせられるか!」

「望むところです!」

 あ、これヤバい奴だ。
 これまで数々の修羅場を潜り抜けてきた俺の警報機がガンガン鳴っている。

 よし、逃げよう。

 そう思って回れ右。
 だが悲鳴を上げている俺の足は、見事にもつれて盛大に転んでしまった。

 その音に反応したかのように、2人がぐりんと首をこちらに回す。

「というわけでジャンヌ?」

「というわけで隊長殿?」

「う……く、来るな……」

 2人の目つきつ手つきが異常だった。
 こ、殺される……。

「大丈夫、ちょっとハードなトレーニングになるけど。すぐに気持ちよくなるから」

「安心してください。朝も昼も夜も24時間つきっきりで隊長殿を美ボディに改造してあげますから」

 やばい、こいつら。
 マジで目がわってる。

 逃げよう。
 でもどこへ?
 足も動かないのにどうやって?
 それ以上にこの2人の強さは異常。俺が敵うはずもない。

 じりじりと距離を詰めてくる2人。
 背中に壁。追い詰められた!

「や、やめろ。お前ら、ふざけるな……うわああああああああああ!」

 憐れな子羊の悲鳴が、夕闇迫るオムカの王都に響いた。
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