先輩、お久しぶりです

吉生伊織

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結実

1.

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待たせすぎるのは良くないと思いながら、美香に勇気づけられてもやっぱり先輩に連絡を入れることが出来ずにいた。

 
こうしてグズグズしている間にも昂良先輩の気が変わらないとも限らない。業を煮やして誰か他の人を好きになる可能性だってある。

 
そんなことを思うくらいなら、早く返事すればいいのにと普段の私なら他人に対してそう思うだろう。
それが自分のこととなると途端に逃げ腰になるのだから厄介だ。


「若宮ちゃ~ん、開発企画から赤井モールの工事管理の資料もらってたかな?」

「あっ、すみません!今すぐ行ってきます!」


徳田さんに言われすっかり抜けていたことに気がつき、慌てて階下の開発企画へ向かった。

 
秘書室は来年度から着工予定の大阪に出来る大型複合施設のプロジェクトに関わる資料集めに奔走している。
都市計画に関する内容を各部署からの資料に上乗せしてさらに詳細を集めているところだ。


だからぼーっとする暇なんてないはずなのに、この3週間色々考えすぎて仕事に集中できていないせいで凡ミスを繰り返してしまっている。
いい加減しっかりしないと業務に支障が出てしまう。


秘書室のある15階は秘書室と役員室があるのみで来客がなければ静かなものだが、開発企画は人の往来が激しくそこで働く人たちはイキイキと活動的に仕事をしている。


そんな活気ある雰囲気に慣れていない私は、気後れしながら解放されたままのドアを抜けて担当者のいる席へ向かった。


「秘書課の若宮です。遅くなってすみません、資料を受け取りに伺いました」

「あ、若宮さん、こんにちは。ちょっとお待ちくださいね」


担当の女性が立ち上がり、別の場所へ取りに行っている間フロアを見渡した。


あ!と気が付いたのも遅かった。ここは先輩がいる部署。どこかにいる可能性があることを忘れていた。
まだ心の整理が出来てないのに鉢合わせたらどうしようとソワソワしてくる。


「お待たせしました。この資料少し重いですけど大丈夫ですか?」


それほど間を置かず、すぐに持ってきてくれてホッとした。


「はい。なんとか持てそうです」


重さはコピー用紙500枚入が3冊分といったところ。このデジタル時代に紙媒体なんて経費も労力も無駄だと思ってしまうけれど、年配者が多い重役さんからするとデータでのやり取りは頭が痛くなるらしい。


だから仕方なく出力した資料を貰いに来たのだけど、なにぶんこの部署は周りが気になって仕方がない。
早く出て行って気持ちを落ち着かせよう。

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