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第2章 冒険者アラタ編
第67話 命はとうに懸けている
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「ちょっと! お前らは短気すぎる! ちょっ、止まっ、止まれぇぇえええ!」
アトラの街中を引きずられるように連行されていく一人の男がいた。
あるクエストで死亡したがダンジョン内部で生き残っていた……とされている彼は本当のところ一度死んでいる。
彼の側には2人の貴族の子女、公爵家と伯爵家の女の子がいるわけだが、この2人の気性の荒さは折り紙付きだった。
今もこうしてアラタの制止に聞く耳を持たずドレイクの家に向かって爆進している。
事の発端は一枚の紙が屋敷に届けられたことだった。
「私たちに充てて手紙が来ています」
「アラタは今忙しいから私たちだけでも見てしまおう」
「えー、我が優秀な駒のアラタよ、身体の調子はどうじゃ? 完治したのなら2人を守るべくその命を使え。あと今度死んだら蘇生は出来ぬからそのつもりでよろしくぅ!?」
「片付け終わったよー。これから2人も掃除くらい……出来るように…………なって……やっぱり何でもないです」
彼の受難はまだまだ続きそうだ。
「アラタ、私たちは少し出かけてくる」
「どこに? 何をしに?」
「アラン・ドレイクを締め上げてくる」
こうして現在の状況に至るわけだが、アラタは別に手紙の内容を見たわけでも聞いたわけでもない。
怒髪冠を衝かんばかりに怒り、いたいけな老人をボコボコにしてくると言い放つ2人を放っておけないだけである。
恐らくドレイクが2人の逆鱗に触れるようなことを言ったのだろう、そこまで考えられれば後は早い。
『お主は再びここに来る。ワシには分かる』
2人を煽ってそれを止める俺を吊り上げようって魂胆なんだろう。
だけどこの2人を放置するわけにもいかないし、ああもう、くそったれ!
身体強化を使ってもこの2人を止めることは叶わない。
アラタが持っている力は基本的に2人も持っているし、アラタが持っていないものも2人は持っている。
つまり手詰まりだった。
「久しぶりじゃの、我が弟子よ」
「はぁ、はぁ、それは普通にズルい」
「ハハハ、何が言いたいかさっぱりじゃわい」
ドレイクは余裕綽々、それもそのはず、ドレイクの姿が見えた瞬間アラタの手を振り切り、彼に襲い掛かった2人はこうして罠にかかり宙ぶらりんになっている。
「ノエル様もリーゼ様も、ハンモックの寝心地は如何ですかな?」
「貴様がアラタに変なことを吹き込まなければ! そんなことしなければアラタは死ななかったんだ!」
「そうです! 降ろさないとお父様に言いつけますよ!」
フィクションの世界でしか見たことが無いような罠に引っ掛かっている2人を見て、アラタはなるほど、こういう戦い方もあるのかと感心していたがすぐに正気に戻る。
この2人なら罠にかかってもすぐに出てきてもう一度攻撃しようとするはずだと考えた。
「2人とも落ち着いて。確かに先生はアレだけど、そんなに怒らなくても」
「「アラタは黙ってて!」」
「……うぃ」
「アラタ、来い」
ドレイクは2人には目もくれずアラタを家の中に手招きする。
それを見て吊るされっぱなしの2人はさらにキーキー喚くがどうしようもないことはどうしようもない。
2人のフォローは面倒だからしばらく近づかない様にしようと心に決めつつ、アラタは玄関をくぐり第2の我が家のような家に入っていった。
いつもはほとんど地下の訓練施設に入りびたりになるが、今回ドレイクが用意した舞台はリビングだった。
テーブルに置かれたカップケーキは病み上がりのアラタの食欲をこれでもかと言うほど刺激し、今こうしてドレイクが淹れている紅茶はいかにそう言ったものに疎いアラタでも上等なものだと分かるほどいい香りがする。
「まあ食べなさい」
食べ物で懐柔しようって魂胆か。
その手には乗らないぞ、何より自分の命と食べ物、そんなアンバランスな天秤は意味ないでしょ。
席には着いたもののアラタは菓子にも飲み物にも手を付けようとしなかった。
当然と言えば当然だが、それでは話が進まないとドレイクは困ったような仕草をし、杖を取り出す。
「ここで始める気ですか」
ドレイクが攻撃態勢に入ると考えたアラタは昨日ノエルから受け取った刀に手をかける。
袋の中から取り出す手間があるが、最悪袋を雷撃で破壊すればすぐ抜ける。
「【存在固定】、発動」
「え」
杖を一振りし、一言発するとアラタの手がさび付いた機械のようにガクガクと動き始めた。
本人の意思ではないようで、アラタは目を白黒させながら抗っているが全く抵抗できていない。
アラタの右手はケーキのほうへと伸び、クリームがついてしまうことなど一切気にせずガッツリと上から食べ物を掴んだ。
そして掴んだカップケーキは乗せられたクリームをボタボタこぼしながらアラタの口元へと運ばれ、
「ちょ、違、そこ口じゃない!」
「ふむ、やっぱり難しいのう」
アラタのほっぺたにこれでもかと言うほど素材を塗り込み、アラタの手はそこで動作を停止した。
膝の上はクリームやスポンジやフルーツまみれ、顔もべとべと、手はもう取り返しがつかないくらいケーキで汚れ、アラタの目は死んでいた。
これ洗濯するの、自分なんですけど。
そんな意思が込められた無言の圧を放っている。
「すまんの。気を取り直して。ささ、紅茶でも……」
「先生、もういいです。そんなことしなくても話は聞きますから」
「……そうか。ではお言葉に甘えて。2人のところに戻る気になったのはどういう心境の変化じゃ?」
ドレイクはアラタに布巾を渡しながら聞いた。
どこまで本気で言っているのかアラタには分からなかったが、彼からすれば正直に答えるつもりだったしそうする以外特にいいことは無い。
「先生がリリーさんに説得を依頼したのでは?」
「はて、知らぬの」
「……もうそれでいいです。先生の思惑が何であれ、俺の行動は俺の意思で決めます」
「それはそれは。他に聞きたいことは?」
紅茶を口にする。
その長く深いひげで器用なものだとアラタは感心したが、普段から生えていれば意外と大丈夫なのかもしれないとすぐ脱線する思考を元のレールに引き戻す。
「なんで俺に本当のことを話したんですか」
「本当の事とは?」
「俺を捨て駒扱いしたことです。あの場でいくらでもはぐらかせたはずでした」
「そうさのう、お主がそれを知ったうえで2人の元に戻ると信じていたからじゃ」
「だからそれはリリーさんに依頼したんじゃ……いや、じゃあ信じていたとして、何故教える必要が? 何も知らないまま踊らされる人形でもよかったはずです」
「フェアではないからじゃ」
「は?」
「お主は知らぬかもしれんがの、これから2人、特にノエル様じゃな。あの方を取り巻く環境は熾烈さを増す。そうなればワシはまたお主を利用するじゃろう、今回は良くとも何回も利用すればいずれ気付く。それに……歳かの。何も知らぬままのお主を哀れに思ったのも多少はある」
「それを聞いて、俺が残るとでも?」
「選択に時間をくれてやったのじゃよ。早くから事実を伝え、来たるべきその時までに決断する暇をくれてやったんじゃ。ワシは良心的じゃろう?」
どちらにせよ利用されていた事実は変わらないけどな。
アラタは心の中で毒を吐いたが何となくドレイクのことを理解しつつあった。
異常なまでに2人を守ることに執着するこの老人は2人の一体何なのだろうか。
それはきっと聞いても教えてくれないけど、昔の知り合いの忘れ形見とかそんなオチだろう。
狂信的なまでの2人のファン、と言う線もなくは無いけど……まあないか、あの2人にアイドル活動は無理がある。
「ワシのスタンスは示した。後はお主がそれについてくるかどうかじゃ」
「俺は――――」
※※※※※※※※※※※※※※※
「おーろーせー! ウガァァァアアア!」
ゴリラか。
「申し訳ございませんでした。この件は本家の方に謝罪に行かせていただきます」
「もうっ……はぁ、分かりました。アラタはいいんですか?」
「ああ、いいよ。ノエルも落ち着け」
「グルルルル…………あれ、アラタから甘いにおいがする。ケーキだ! アラタお茶してたのか!」
「いいだろ別に何しても」
「あー私も食べたかったなぁー!」
本当に勘弁してくれ。
結構疲れたんだ、色んな意味で。
「どっかの店で買って帰ればいいだろ。ほら、帰るぞ」
「ウゥゥゥゥウウウ……うん」
こんな時、いつも一番最後まで不服そうにしているのはノエルだが、アラタは最近になって彼女の扱い方を覚え始めていた。
我慢行かなくてもうまく話題を逸らすことが出来ればひとまずその場は収まることを学習したのだ。
「アラタ、良いのじゃな」
「はい、ひとまず今は」
「なら良い」
3人は元来た道を引き返し、屋敷へと戻った。
ノエルとリーゼがめちゃくちゃにした屋敷内の設備は何とか復活し、ようやくゆっくりできるとアラタは自室のベッドに腰掛けた。
――お主がそれについてくるかどうかじゃ」
――俺は…………
「2人のところに残ります」
「何故?」
「あの2人のところにいれば、俺のやりたいことが見つかるかも、そんな気がするんです」
「じゃから戦いの日々に身を置くと? その程度の覚悟でお主は土壇場で命を懸けられるのか? 無理であろう?」
「2人のところでやりたいことを見つけたい。これが俺の今の考えです」
「なら……」
「俺は……2人に出会って、久しぶりに誰かに必要とされて、本当に久しぶりだったからまだどうしたらいいか分かっていないんです。でも、役に立ちたいと思った、仲間でありたいと思った、だからここに残ります」
「それでは分水嶺で命を懸けることなど……」
「忘れたんですか? 俺は一回死んでます。先生の言う分水嶺ってやつで、命を懸けて2人を守りました、死守しました。命なんてとうに懸けている」
「うぅむ、まあいいじゃろう。これからも2人を守れ、死守じゃ」
あの時言ったことに嘘はない。
前とは違う、今度こそ嘘じゃない。
いつかパーティーだって終わる時が来るし、しょうもないことで喧嘩してバラバラになる事もあるかもしれない。
でも、それまでは、少なくとも戦っている最中は命を懸けて2人を守ろう。
ノエルが俺を庇ったように、リーゼが治癒魔術でいつも助けてくれるみたいに、俺も全力で2人を守ろう。
そのための力、どんな効果があるのか知らないけど、役に立たないものじゃないと思う。
……【不溢の器】、起動。
「……【不溢の器】」
「…………………【不溢の器】、発動」
「…………………………」
「電源入らねえじゃねえかこのポンコツがぁぁぁぁあああああ!!!」
もう帰りたい。
前途多難であることはいつものことだったが、今度は、今度こそは精一杯最後までやり抜こうと心に決め、青年は前を向いて歩き始めたのだった。
※※※※※※※※※※※※※※※
第2章 冒険者アラタ編 完
次章 第2.5章 過去編 case Atara:
第2.5章 過去編 case Noel and Liese:
第3章 大公選編
随時更新予定
アトラの街中を引きずられるように連行されていく一人の男がいた。
あるクエストで死亡したがダンジョン内部で生き残っていた……とされている彼は本当のところ一度死んでいる。
彼の側には2人の貴族の子女、公爵家と伯爵家の女の子がいるわけだが、この2人の気性の荒さは折り紙付きだった。
今もこうしてアラタの制止に聞く耳を持たずドレイクの家に向かって爆進している。
事の発端は一枚の紙が屋敷に届けられたことだった。
「私たちに充てて手紙が来ています」
「アラタは今忙しいから私たちだけでも見てしまおう」
「えー、我が優秀な駒のアラタよ、身体の調子はどうじゃ? 完治したのなら2人を守るべくその命を使え。あと今度死んだら蘇生は出来ぬからそのつもりでよろしくぅ!?」
「片付け終わったよー。これから2人も掃除くらい……出来るように…………なって……やっぱり何でもないです」
彼の受難はまだまだ続きそうだ。
「アラタ、私たちは少し出かけてくる」
「どこに? 何をしに?」
「アラン・ドレイクを締め上げてくる」
こうして現在の状況に至るわけだが、アラタは別に手紙の内容を見たわけでも聞いたわけでもない。
怒髪冠を衝かんばかりに怒り、いたいけな老人をボコボコにしてくると言い放つ2人を放っておけないだけである。
恐らくドレイクが2人の逆鱗に触れるようなことを言ったのだろう、そこまで考えられれば後は早い。
『お主は再びここに来る。ワシには分かる』
2人を煽ってそれを止める俺を吊り上げようって魂胆なんだろう。
だけどこの2人を放置するわけにもいかないし、ああもう、くそったれ!
身体強化を使ってもこの2人を止めることは叶わない。
アラタが持っている力は基本的に2人も持っているし、アラタが持っていないものも2人は持っている。
つまり手詰まりだった。
「久しぶりじゃの、我が弟子よ」
「はぁ、はぁ、それは普通にズルい」
「ハハハ、何が言いたいかさっぱりじゃわい」
ドレイクは余裕綽々、それもそのはず、ドレイクの姿が見えた瞬間アラタの手を振り切り、彼に襲い掛かった2人はこうして罠にかかり宙ぶらりんになっている。
「ノエル様もリーゼ様も、ハンモックの寝心地は如何ですかな?」
「貴様がアラタに変なことを吹き込まなければ! そんなことしなければアラタは死ななかったんだ!」
「そうです! 降ろさないとお父様に言いつけますよ!」
フィクションの世界でしか見たことが無いような罠に引っ掛かっている2人を見て、アラタはなるほど、こういう戦い方もあるのかと感心していたがすぐに正気に戻る。
この2人なら罠にかかってもすぐに出てきてもう一度攻撃しようとするはずだと考えた。
「2人とも落ち着いて。確かに先生はアレだけど、そんなに怒らなくても」
「「アラタは黙ってて!」」
「……うぃ」
「アラタ、来い」
ドレイクは2人には目もくれずアラタを家の中に手招きする。
それを見て吊るされっぱなしの2人はさらにキーキー喚くがどうしようもないことはどうしようもない。
2人のフォローは面倒だからしばらく近づかない様にしようと心に決めつつ、アラタは玄関をくぐり第2の我が家のような家に入っていった。
いつもはほとんど地下の訓練施設に入りびたりになるが、今回ドレイクが用意した舞台はリビングだった。
テーブルに置かれたカップケーキは病み上がりのアラタの食欲をこれでもかと言うほど刺激し、今こうしてドレイクが淹れている紅茶はいかにそう言ったものに疎いアラタでも上等なものだと分かるほどいい香りがする。
「まあ食べなさい」
食べ物で懐柔しようって魂胆か。
その手には乗らないぞ、何より自分の命と食べ物、そんなアンバランスな天秤は意味ないでしょ。
席には着いたもののアラタは菓子にも飲み物にも手を付けようとしなかった。
当然と言えば当然だが、それでは話が進まないとドレイクは困ったような仕草をし、杖を取り出す。
「ここで始める気ですか」
ドレイクが攻撃態勢に入ると考えたアラタは昨日ノエルから受け取った刀に手をかける。
袋の中から取り出す手間があるが、最悪袋を雷撃で破壊すればすぐ抜ける。
「【存在固定】、発動」
「え」
杖を一振りし、一言発するとアラタの手がさび付いた機械のようにガクガクと動き始めた。
本人の意思ではないようで、アラタは目を白黒させながら抗っているが全く抵抗できていない。
アラタの右手はケーキのほうへと伸び、クリームがついてしまうことなど一切気にせずガッツリと上から食べ物を掴んだ。
そして掴んだカップケーキは乗せられたクリームをボタボタこぼしながらアラタの口元へと運ばれ、
「ちょ、違、そこ口じゃない!」
「ふむ、やっぱり難しいのう」
アラタのほっぺたにこれでもかと言うほど素材を塗り込み、アラタの手はそこで動作を停止した。
膝の上はクリームやスポンジやフルーツまみれ、顔もべとべと、手はもう取り返しがつかないくらいケーキで汚れ、アラタの目は死んでいた。
これ洗濯するの、自分なんですけど。
そんな意思が込められた無言の圧を放っている。
「すまんの。気を取り直して。ささ、紅茶でも……」
「先生、もういいです。そんなことしなくても話は聞きますから」
「……そうか。ではお言葉に甘えて。2人のところに戻る気になったのはどういう心境の変化じゃ?」
ドレイクはアラタに布巾を渡しながら聞いた。
どこまで本気で言っているのかアラタには分からなかったが、彼からすれば正直に答えるつもりだったしそうする以外特にいいことは無い。
「先生がリリーさんに説得を依頼したのでは?」
「はて、知らぬの」
「……もうそれでいいです。先生の思惑が何であれ、俺の行動は俺の意思で決めます」
「それはそれは。他に聞きたいことは?」
紅茶を口にする。
その長く深いひげで器用なものだとアラタは感心したが、普段から生えていれば意外と大丈夫なのかもしれないとすぐ脱線する思考を元のレールに引き戻す。
「なんで俺に本当のことを話したんですか」
「本当の事とは?」
「俺を捨て駒扱いしたことです。あの場でいくらでもはぐらかせたはずでした」
「そうさのう、お主がそれを知ったうえで2人の元に戻ると信じていたからじゃ」
「だからそれはリリーさんに依頼したんじゃ……いや、じゃあ信じていたとして、何故教える必要が? 何も知らないまま踊らされる人形でもよかったはずです」
「フェアではないからじゃ」
「は?」
「お主は知らぬかもしれんがの、これから2人、特にノエル様じゃな。あの方を取り巻く環境は熾烈さを増す。そうなればワシはまたお主を利用するじゃろう、今回は良くとも何回も利用すればいずれ気付く。それに……歳かの。何も知らぬままのお主を哀れに思ったのも多少はある」
「それを聞いて、俺が残るとでも?」
「選択に時間をくれてやったのじゃよ。早くから事実を伝え、来たるべきその時までに決断する暇をくれてやったんじゃ。ワシは良心的じゃろう?」
どちらにせよ利用されていた事実は変わらないけどな。
アラタは心の中で毒を吐いたが何となくドレイクのことを理解しつつあった。
異常なまでに2人を守ることに執着するこの老人は2人の一体何なのだろうか。
それはきっと聞いても教えてくれないけど、昔の知り合いの忘れ形見とかそんなオチだろう。
狂信的なまでの2人のファン、と言う線もなくは無いけど……まあないか、あの2人にアイドル活動は無理がある。
「ワシのスタンスは示した。後はお主がそれについてくるかどうかじゃ」
「俺は――――」
※※※※※※※※※※※※※※※
「おーろーせー! ウガァァァアアア!」
ゴリラか。
「申し訳ございませんでした。この件は本家の方に謝罪に行かせていただきます」
「もうっ……はぁ、分かりました。アラタはいいんですか?」
「ああ、いいよ。ノエルも落ち着け」
「グルルルル…………あれ、アラタから甘いにおいがする。ケーキだ! アラタお茶してたのか!」
「いいだろ別に何しても」
「あー私も食べたかったなぁー!」
本当に勘弁してくれ。
結構疲れたんだ、色んな意味で。
「どっかの店で買って帰ればいいだろ。ほら、帰るぞ」
「ウゥゥゥゥウウウ……うん」
こんな時、いつも一番最後まで不服そうにしているのはノエルだが、アラタは最近になって彼女の扱い方を覚え始めていた。
我慢行かなくてもうまく話題を逸らすことが出来ればひとまずその場は収まることを学習したのだ。
「アラタ、良いのじゃな」
「はい、ひとまず今は」
「なら良い」
3人は元来た道を引き返し、屋敷へと戻った。
ノエルとリーゼがめちゃくちゃにした屋敷内の設備は何とか復活し、ようやくゆっくりできるとアラタは自室のベッドに腰掛けた。
――お主がそれについてくるかどうかじゃ」
――俺は…………
「2人のところに残ります」
「何故?」
「あの2人のところにいれば、俺のやりたいことが見つかるかも、そんな気がするんです」
「じゃから戦いの日々に身を置くと? その程度の覚悟でお主は土壇場で命を懸けられるのか? 無理であろう?」
「2人のところでやりたいことを見つけたい。これが俺の今の考えです」
「なら……」
「俺は……2人に出会って、久しぶりに誰かに必要とされて、本当に久しぶりだったからまだどうしたらいいか分かっていないんです。でも、役に立ちたいと思った、仲間でありたいと思った、だからここに残ります」
「それでは分水嶺で命を懸けることなど……」
「忘れたんですか? 俺は一回死んでます。先生の言う分水嶺ってやつで、命を懸けて2人を守りました、死守しました。命なんてとうに懸けている」
「うぅむ、まあいいじゃろう。これからも2人を守れ、死守じゃ」
あの時言ったことに嘘はない。
前とは違う、今度こそ嘘じゃない。
いつかパーティーだって終わる時が来るし、しょうもないことで喧嘩してバラバラになる事もあるかもしれない。
でも、それまでは、少なくとも戦っている最中は命を懸けて2人を守ろう。
ノエルが俺を庇ったように、リーゼが治癒魔術でいつも助けてくれるみたいに、俺も全力で2人を守ろう。
そのための力、どんな効果があるのか知らないけど、役に立たないものじゃないと思う。
……【不溢の器】、起動。
「……【不溢の器】」
「…………………【不溢の器】、発動」
「…………………………」
「電源入らねえじゃねえかこのポンコツがぁぁぁぁあああああ!!!」
もう帰りたい。
前途多難であることはいつものことだったが、今度は、今度こそは精一杯最後までやり抜こうと心に決め、青年は前を向いて歩き始めたのだった。
※※※※※※※※※※※※※※※
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