半身転生

片山瑛二朗

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第7章 紅玉姫の嫁入りと剣聖の片恋慕編

第510話 魔力でごり押しこそ至高

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 6家合同チームの指揮官は時計を見た。
 懐中時計の秒針は本格的な戦闘開始から2周している。
 畳みかけなければ、残り時間が彼にそう思わせた。

「エルモ殿、時間がない」

「分かっています」

 エルモは1個分隊を率いて前に進んだ。
 これで終わらせるつもりだ。

「殺すのは?」

「ノエル様が暴走しては手が付けられなくなる。気絶までだ」

「了解」

 満身創痍のアラタを前にして、エルモたちはただ武器を構える。
 上司と部下の関係だろうと、こうして戦場で相まみえることがあれば容赦してはならない。
 アラタも余計なことを教えたものだ。

「お前ら、抜かるなよ」

 エルモの平坦な声に、残りの3人も頷く。
 目指すのはアラタからの完全な勝ち星。
 クラーク家の行く末がどうとかはひとまず置いておくとして、彼らだって欲しい物の1つや2つくらいある。
 尊敬して信頼しているアラタから勝ちをもぎ取りたい。
 その一心だ。

「総員、かかれぇ!」

「お前らいくぞ!」

 指揮官とエルモの声は見事に被り、80名からなる合同チームの兵士たちがアラタに殺到した。
 その一方で、アラタは未だ逃げようとはしない。
 逃げようとしたところで逃げられるものでもない。
 彼の中での勝ち筋は、魔術制限とスキル制限を使っている人間を潰して万全の状態で相手をする事。
 現状はどちらも達成できていない。
 アラタは頼りがいの無いエクストラスキルに頼ろうとした。
 【不溢の器カイロ・クレイ】は成長上限を引き上げる能力である。
 スキルも育ってきて、能力に対する解釈を拡張することでスキルの適用対象も広がりつつある。
 だが、能力制限系の能力に対してどの程度レジスト出来るのか、アラタにとっても未知数。
 敵が迫りくる中で賭けるにはあまりにリスキーだった。
 それよりもまだ希望の持てる方に舵を切ることにした。

「リャン、そろそろ限界だろ?」

 刹那、アラタが体外に放出する魔力が跳ね上がった。
 放出されたそばからスキルの妨害を受けて霧散していくが、それでもなお一向に衰えぬ魔力の奔流。
 自分たちに残された時間が少ないとデリンジャーは悟り、味方に共有する。

「今しかない! 制限がかかっているうちにやり切るんだ!」

「分かってる!」

 カロンもデリンジャー同様、アラタの危険性を感じていた。
 アラタは持久戦狙いから、【魔術効果減衰】のスキルホルダーの体力を削り切る方向性に転換したのだ。
 いかにスキルと言えども、掻き消せる事象には限界がある。
 アラタが放出し、行使しようとする魔力の塊に対してスキルを使えば、当然能力者は消耗する。
 今までアラタが大人しくしていたのは、仮に自分が魔力を大量放出したところで相手の限界が来る保証がなかったから。
 相手はまだ余裕、しかし自分は魔力体力がからっ欠という状態を避けようとしていたからだ。
 もうそんなことを言っている場合ではない。
 彼は魔力に加え、スキル【狂化】の起動を試みた。
 当然スキルは立ち上がらず敵が迫る。
 エルモの攻撃はもう間合いに入っていた。
 アラタは刀を繰り出して防御しつつ、相変わらず能力の行使を続ける。
 ここが当落線、ここが分水嶺だと理解しているのだ。

「殺しきれ!」

「死なねえよ!」

 エルモとアラタの刃が交わり、その背後からカロンが迫っていた。
 黒鎧の隠密効果を使って死角から攻撃をねじ込みに来た。

「ぐふっ」

 アラタもギリギリで体を捻ることで回避を試みたが、即死の致命傷を避けることで精いっぱい。
 右横腹に深い傷が入り、アラタの右手から力が抜けた。
 いつもは大量に分泌される脳内麻薬と【痛覚軽減】で誤魔化している痛覚が何の遠慮もなしに彼の脳を殴りつけてくる。
 冷たい刃が体内に侵入してくるときの、まるで熱い鉄の塊を押し付けられたような感触とそのあと襲ってくる激痛。
 変な汗をかきながら、アラタはまだ諦めずに魔力を放出し続ける。

 カロンの後はデリンジャー、これはアラタも察知して回避に成功、左手にナイフを握り、折れた左腕の激痛に耐えながらナイフを投げて応戦する。
 デリンジャーはそれを躱し、意外にも一度引いた。
 何があったのかとアラタの中で疑問が沸き出した次の瞬間、アラタの横目に移ったのは灼熱の弾丸だった。

「ちっ、邪魔しやがって」

 カロンは味方のはずの魔術師を罵りながら、フレンドリーファイアを避けるためにアラタから距離を取る。
 あまりに多くの兵士が殺到し、手柄を立てようと好き勝手に攻撃するものだから、攻撃の密度が高まりすぎて近接格闘を得意とする兵士たちが自分の間合いに入れない。
 ここまでダメージを負わせたのだから、あとはエルモや残りの3人あたりに任せておけば片が付いたかもしれなかったというのに、ここにきて合同チームのダメなところが出てきた。
 アラタは口の端から血を滲ませながら笑う。
 こんなことすら徹底できていない相手に俺が敗けるはずないと。
 凡事徹底というスローガンを掲げるスポーツ強豪チームが多いのは伊達や酔狂ではないのだ。
 それが実はとてつもなく難しく、そして価値のあることだと先人たちは知っているからこそ、後輩たちにそう伝えるのだ。
 戦いの中心から30mほど南、茂みの中からアラタのことを見つめていた翠緑の瞳がその目を閉じた。

「はぁっ、はぁっ、ごほっ、限界です」

「リャン大丈夫?」

 ゴホゴホと咳き込むリャンを心配しているのは護衛のキィだ。
 結局アラタはリャンを倒そうとも探そうともしなかったので、結果論的にはキィという優秀な駒を遊ばせておく結果になってしまった。
 それもこれも、自分が手柄を立てることを第一に作戦立案を行った指揮官の責任だ。

「キィ、エルモたちを助けてください」

「痛いのはやだな~」

「もしアラタが興奮していたら、ついやりすぎてしまうかもしれません。エルモたちが死んだらアラタが悲しみます」

「……分かった」

 リャンの頼みもあって、ようやくキィが表に出て行こうとしたその時、寒空の下に青い光が迸った。

「やっとだ」

 バチバチと炸裂音を響かせるアラタの周囲には、相手の兵士たちがかなりの数横たわっていた。
 エルモたち2係は辛うじて脱落者ゼロで踏みとどまっているものの、超高性能装備である黒鎧の魔術回路が焼け落ちかけている。
 余程至近距離で回避のしようがない高速高威力な魔術が彼らを襲ったのだろう。

 アラタは治癒魔術で骨折を優先的に治療しつつ、刀を高く掲げた。

「我は熟慮する、真実を映し出す円鏡を前に」

 その一節をキィは良く知っていた。
 魔術師たちも、一部はその魔術詠唱を知っている。
 超高等魔術、必要な魔力量と精度を両立させなければならないという矛盾故にほぼ誰も使うことのできない上級魔術。
 1人では到底賄いきれないような魔力量を必要とし、複数人での共同行使では魔力制御に問題がある。
 どちらかを解決しなければ決して到達できない魔術師の高み。
 詠唱の意味を理解している兵士たちの顔が真っ青になった。

「やばい」

「やばいやばいやばい」

「……逃げるぞ」

 誰が言い出したのか、そんなこと今となってはどうでもいい。
 ただ、一度作られた流れはそう簡単に崩れないし、非常に大きな力をもって流れていくものなのだ。

「託された篝火を我が物として振舞うこと許さざれど、一視同仁に心扶翼されたのなら願う」

 いよいよ次で最終詠唱、既にアラタの周りからは人が消えつつあった。
 リャンは遠方からアラタの説得を試みる。
 例の魔術を撃とうものなら、流石に全員無事とはいかないから。

「アラタ! もう決着です! 周りを見て!」

「扉は既に開かれた。幽世から狙いを定め、我が身体を触媒に——」

「話を聞けぇぇぇえええ!」

「天炎百雷敵を穿て、炎雷」

 詠唱の後、周囲には雷鳴が轟き大地には火の絨毯が広がった。

※※※※※※※※※※※※※※※

「……ケホッ、俺はどうして生きてんだ?」

 周囲100m以上が焼け野原となった戦場跡で、エルモは自身の無事を疑っていた。
 もしかしたらもう死んだ後なのかもしれないと周囲を見渡してみると、自分と同じように不思議そうな顔をしている味方が何人もいる。
 ペタンと座り込んでいた彼の所に、黒髪の剣士が近づいてきた。

「もっと魔力を削ってから仕掛けるべきだったな」

「お前の魔力量なんざ知るかよ。また増えたろ」

「増えたと思っているなら把握したつもりになっていたってことでしょ? 甘いね」

 エルモは差し出された手を掴んで立ち上がった。
 マメだらけでデコボコの掌だったが、切り傷も火傷も擦り傷も何もなく指も欠損していない。
 治癒魔術まで完璧にマスターなんてどこの超人だとエルモはツッコむのをやめた。
 アラタの勝利、自分たちの負けは負けだ。

「【魔術効果減衰】を何だと思ってるんだよ」

「腐るなって。作戦自体は悪くなかったよ」

 アラタは余った魔力でエルモの治療を行っている。
 いくらスキルがあると言っても痛いものは痛いので、ありがたい話だ。
 ただ、高度かつ大量の魔力を消費する治癒魔術をこうしてかけられているということは、アラタはまだ余裕があったとも受け取れる。
 エルモはそれが腹立たしくて腹立たしくて、治療もそこそこにアラタの手を振り払った。

「あとは自分で何とかする」

「ま、それでもいっか」

 こうして一応極秘の演習はアラタの勝利で幕を閉じた。
 双方思い切り環境破壊に勤しんだせいで、貴族のモンスターハントの最中にとんでもないことが起こったことは何となく察知されてしまった。
 まあその内容がクラーク家の家督を懸けた争いなんて誰も想像しないわけで、貴族がお抱えの魔術師たちを使って大規模魔術の実験でもしたのだろうというところに落ち着いた。
 6家の人間たちは気の毒な事だが、これでリーゼの結婚相手はひとまずゼロベースとなり、ノエルのお見合いも延期及び白紙と相成った。

 アラタが敗ければ色々とゴタゴタが起きることは必至だっただけに、この結果で良かったのだろう。
 ただ彼の事情を鑑みれば、勝ったのはそれはそれでまた面倒ごとの種になることが分かっていたので、非常に頭の痛い話だった。
 いわゆる八方塞がりというやつだった。
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