半身転生

片山瑛二朗

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第7章 紅玉姫の嫁入りと剣聖の片恋慕編

第509話 化け物の倒し方

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 アラタの魔力は日々増えている。
 この世界にやってきた当初、彼の魔力量は常人のそれとほぼ同じ程度で、この先大幅な増加は見込めないと言われていた。
 そこから今日に至るまでの異常な魔力量の増加速度。
 そこには彼の所持するエクストラスキル【不溢の器カイロ・クレイ】の影響がある。
 ともあれ、膨大な量の魔力をもって彼は敵の点けた火を掻き消した。
 そしてこうして敵に所在を明かし、囲まれている。

 魔術…………スキルもか。

 対魔術師戦闘において重宝されるスキルとは。
 それはもちろん魔術効果を減衰させる系統のスキルである。
 アラタの知り合いの中ではリャン・グエルが【魔術効果減衰】を持っていて、ノエルのスキル【剣聖の間合い】も同様の効果がある。
 アラタは05式から魔力が消えていくのを感じ、それと同時に魔力的身体強化も消えたことを確認する。
 公国でも指折りの強者である彼に対して、敵が強気に出る理由が分かった気がした。

「魔術師、攻撃用意」

 緑がかった黒髪のクレスト家の男が指示を出す。
 総大将なのか、現場指揮官なのか、彼の指示に従って兵士が魔術杖を構えた。

「放て!」

 炎弾、水弾、風刃、雷撃、単一属性に絞らなかったのは、アラタの処理リソースを圧迫するためか。
 どちらにせよ彼は魔術を封じられているので躱す以外の選択肢はほぼない。
 【身体強化】で底上げしたフィジカルで攻撃を躱してから【気配遮断】で仕切り直しつつ削っていく、そうアラタの中で思考が纏まった時だった。
 鉛のように思い四肢はアラタを思わずよろけさせる。
 歴史上未確認の重力魔術やアラン・ドレイクのエクストラスキルでもない。
 ただ、彼の多重に起動していたスキルの悉くがその機能を停止したのだ。
 50mを3秒で走れると思っていたら、6秒と少しかかった。
 その差は非常に大きくアラタの脳内を混乱させる。

 しまっ——

 森の中で、鈍く大地を震わす轟音が響き渡った。



「包囲継続。魔術師1班と2班はポーション摂取」

 指揮官の指示の元、6家合同チームはその場に待機していた。
 魔術制限とスキル制限の二重制限の中で、アラタの処理能力を上回る攻撃を叩き込んだ。
 これで倒せていれば御の字、そうでなくとも多少のダメージは必至だった。

「……いってーなぁ」

「第2攻撃準備」

 砂煙の向こう側からアラタの声が聞こえた。
 怪我した痛みとそれに対する怒り、まんまとはめられた不甲斐なさで発狂しそうになりながらもギリギリ理性を保っている。

「おい、見えるか」

 指揮官は隣に控えていた兵士に訊いた。
 煙が濃くて肉眼では見えなくても、【暗視】もしくは【透視】系統のスキルがあれば確認が可能である。
 1回目の攻撃を叩き込んだ直後に確認しなかったことから察するに、彼の能力はそこまで汎用性が高いものではないらしい。

「います。立ち位置もそのまま」

「よし。まとめて撃ち込め!」

 またも同じ魔術攻撃。
 先ほどと違うのは、煙で視界が遮られているという事と、あと1つ。
 アラタはいま、自分のスキルが封じられていることを知っている。
 先ほどは攻撃が到達する直前に悟っただけあって対処が遅れた。
 今回は違う、同じ轍は踏まないと決めている。
 【暗視】も【身体強化】も封じられたこの状況下で、彼が頼れるのは己の肉体のみ。
 そのたった1つの武器は、アラン・ドレイクによって改造されている。
 長く強い薬物投与によって彼の知覚は大幅に鋭敏化した。
 それはもはや第六感とも言える代物になりつつあり、それが1つのスキルのようなものになっている。
 ただ、この能力はスキル制限の対象外であり、魔術制限からも逃れている。
 アラタには敵の攻撃がしっかりと見えていた。

 煙の隙間を切り裂くように殺到した魔術を、アラタは躱し、刀で撃ち落としていく。
 魔力強化の施されていない刀では、雷撃や火球を斬った時にダメージをうけてしまう。
 だからその他の魔術のみにフォーカスして、危険度の高い魔術は回避に専念する。
 扇形の魔術攻撃に対して、アラタは2度目こそ完璧に対処した。
 そして今度は彼が攻撃に転じる番だ。

「防がれました!」

「第4班前へ! 魔術師は下がれ!」

 日本刀を引っ提げて煙から脱出してきたアラタはボロボロだった。
 05式を脱ぎ捨てた彼は白いシャツを着ていたはずなのに、いつの間にか黒色のシャツに着替えている。
 服装面に関してはそれ以外変わりなく、体の所々に火傷や裂傷が見える。
 戦闘不能になるにはまだダメージが足りないらしい。

「殺しはしない。けど泣かす」

 アラタが狙いを定めたのは、最も前衛と後衛の入れ替わりにもたついている箇所。
 彼は敵の嫌がる事をすることに定評があり、目ざとく弱点を見つけていく。
 戦争まで経験したアラタにとっては簡単な事だった。

「ヒッ……」

 迫るアラタの気迫に兵士が怖じ気付いている。
 この攻撃は刺さる、そう思わせることが彼らの狙いだった。
 4つの影がアラタに接近した。

「ふっ」

 急ブレーキとともに刀を振り下ろし、敵がそれを防ぐ。
 向かって右から短剣を繰り出してきた敵に蹴りを入れると、投げナイフと魔術の併用をしてきた相手にカウンターで短剣を投げつける。
 流石にこれ以上の対処は難しく、残る1人の攻撃は躱し気味に防具で受けるしかない。
 魔術制限で魔力を外に流すことが出来ないので、新装備の純粋な物理的防御力のみに全てを託す。
 本物の刃がしっかりとついている鉈による一振りを左腕で受けると、ボキボキと嫌な音が鳴った。
 アラタは引き戻した刀で斬り返すと、敵から距離を取る。

「お前らは殺されても文句言うなよ」

「殺されたら文句言えないだろ」

「エ、エルモさん、あまり煽ったりしないでくださいよ」

 言い返したエルモの横でカロンが震えている。
 アラタに一撃入れたのは彼なのだが、アラタ前にして緊張するのはまだ治っていない。
 他にもバートン、デリンジャーの姿がある。
 アラタは彼らの手によって押し戻され、再び包囲の中心へと逆戻りした。
 黒鎧に身を包んだ元1192小隊、現貴族院近衛局教導部 魔道具試験課第2係の面々だ。
 骨折の痛みを和らげようにもスキルを封じられていて【痛覚軽減】が起動しない中、アラタは痛みから気を逸らすためか彼らに話しかけた。

「バートンから頼まれたのか?」

「少し違います。バートンは——」

「俺が頼みました」

 デリンジャーの言葉を遮ってバートンが断言する。
 どうやら紆余曲折ありそうな気配だが、アラタだって譲れない。

「お前らには悪いけど、今回は勝たせてもらう」

「アラタこそ、いつもお前だけ女の前でイイかっこしやがって。たまには俺らにも紹介しろ」

「勝たせてくれたら合コンセッティングしてやるよ」

「エルモさん、ダメですからね」

「分かってるよ」

 精鋭4名、それも自分が手塩にかけた部下たちと相対する状況というのは中々ないだろう。
 ただ、4人しかいないというのがアラタには引っかかる。

「リャンがいないな。それで魔術制限……リャンはスキル使用中でキィはリャンの護衛についてんのかな?」

 黒鎧を身につけた4人はまるで表情を変えず、何も悟らせてはくれない。
 アラタの中ではリャンが【魔術効果減衰】を使っているところまでは確定しているのだが、キィがどこで何をしているのかが掴めないのが怖い。
 リャンの護衛についているのならよし、そうでないのなら黒鎧と【気配遮断】を使用して潜伏していることになる。
 どこか決定的なタイミングで不意打ちを狙っている可能性があった。

 ——リャンがスキルを使える時間はそんなに長くない。
 それなら長くても数分で魔術は解禁される。
 スキルなし、魔術もなしでこいつらの攻撃を凌ぎ続けるか。
 現実的じゃないな。

「お前ら、あれだ、あの、その……」

「話に乗るな、仕掛けるぞ」

「よく訓練されてんなぁ!」

 エルモの合図で4人が突撃し、アラタはそれから逃げるように逆方向へと走り始めた。
 デリンジャー、バートンが腰の杖を抜き魔術を行使する。
 使ったのは共に雷撃だ。
 起動速度が速く、牽制に向いている。
 背後から迫りくる魔術と、前方で包囲を固める敵勢力の兵士。
 エルモたちは魔道具の効果と身体強化系のスキルで基礎体力を底上げしていて、生身のアラタより遥かに足が速い。
 追いつかれるかそれより先に包囲を突破するのか。

「気合い入れろ!」

「跳ね返せ!」

 貴族の私兵たちもただではやられない。
 盾の隙間に刃をねじ込まれて負傷者が出たものの、見事にアラタを包囲の内側に圧しとどめることに成功した。
 それはつまり、エルモたち2係の人間がアラタを捕捉したという事でもある。

「ぐっ! くそったれ!」

 即死系以外の魔術は装備で防ぎ、刃物による攻撃は躱すか刀で受ける。
 4人の攻撃を受けてワンセットで地面に沈まないのがアラタの凄いところだが、彼らだって伊達にアラタと戦場を共にしていない。
 アラタは緊急脱出的に煙玉を取り出すとそれを握り締めた。
 魔力もしくは着火による起動が一般的なこの装置、実は握り締めることで中心に仕込まれた信管が反応して動くようにもなっている。
 白煙が吹きすさぶ中、アラタはこの道具を開発したメイソン・マリルボーンに感謝しつつ離脱を図る。
 だが、

「俺たちにそれは悪手だろうぜ」

 いくらアラタの五感が強化されていると言っても、黒鎧と【気配遮断】と煙玉による視界不良の中では彼らの位置を見逃してしまう。
 そして今のアラタは05式を脱ぎ捨てていて【気配遮断】も封じられている。
 包囲している兵士たちが魔術で煙を振り払っている中、中心付近では金属同士が打ち合わされる音が鳴り響いていた。
 そしてそれも煙が晴れることには収まろうとしていた。

「全員! 中心に向かって攻撃! ありったけだ!」

 エルモの声に呼応して兵士たちが魔術を起動し、弓矢をつがえた。
 現場統括をしている男もそれに合わせて指示を飛ばす。

「総員、撃てぇ!」

 雨あられのような一斉射撃のあと、一陣の風が吹いたこともあって煙玉の効果は完全に消えうせた。
 霧が晴れた戦場で、【痛覚軽減】もなしにダメージにさらされ続けた男がいる。
 数本の矢が刺さり、左腕が折れ、火傷と裂傷、擦過傷も酷い。
 それを見た指揮官は満足げに笑った。

「流石は彼の部下たち。上司の殺し方は心得ているといった所か」

「えぇ、化け物の倒し方は履修済みです」

 そう言い放ったエルモの表情は、笑っても怒ってもいなかった。
 ただひたすらに無、そんな感じだった。
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