魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき

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第1章 

静まり返った森林

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「はぁ……。なんであんなゴミを連れてこなきゃいけないわけ? 効率が悪すぎるわ」

ギルドを出て数時間。グルニア森林へと足を踏み入れた僕たちの間に、ミリアの苛立ちを孕んだ声が響いた。 僕は三人の後ろで、彼らの予備武器や食料、キャンプ道具が詰め込まれた巨大な背負い袋を担ぎ、黙々と歩みを進める。

「いいだろ、ミリア。おかげで雑魚一匹寄ってこない。こいつが死ぬ気で鍛えたっていう『魔物避け』のオーラだけは、本物みたいだからな」

リーダーのアルドが、腰に下げた高価な剣を誇示するように鳴らして笑う。 確かに、僕が近くにいると弱い魔物は逃げ出していく。僕に使役されることを屈辱だと思っているのだろう。使役する魔物にすら見放されているんだ。この三年間、この体質のせいでテイムの機会すらなかった。今の彼らにとっては、便利な「聖水」のようなものなのだろう。

「…カイル。遅れるな。」 

大楯使いのガラムが無愛想に告げる。 

「あぁ。分かってるよ。」

肩に食い込む重い荷物。だが、僕は彼らの歩調を乱すことはなかった。 毎日、誰よりも早く起きて訓練場を走り込み、重い荷を背負って身体を追い込んできた。本職の剣士やタンクのような爆発的な威力はない。けれど、この過酷な道中を「当たり前」に歩き続ける持続力だけは、僕がこの三年間で培った唯一の武器だった。

森の奥へ進むにつれ、異変は静かに、しかし確実に忍び寄っていた。

(……おかしいな)

僕は周囲の気配を探る。 グルニア森林は、本来なら鳥のさえずりや小動物が草むらを分ける音が絶えない場所だ。 それが今は、不気味なほどに静まり返っている。風の音さえも、何かに怯えているかのように。

「……ねえ、アルド。少し様子が変だよ。魔物の気配どころか、普通の動物の気配もしない。一度、戻ってギルドに報告した方が――」

「黙れよ、レベル0」

アルドが振り返り、僕を蔑むような目で射抜いた。 「お前の『魔物避け』が効きすぎて、みんな逃げ出しただけだろ? スキル4の僕の直感が問題ないって言ってるんだ。臆病者が口を出すな」

「でも……」 

「非効率ね」 ミリアが冷たく言葉を被せる。 「私たちは薬草を採取しに来たの。まだ目標の半分も集まっていないわ。あなたの余計な不安に付き合って、報酬を減らすつもり?」

ガラムもまた、前方を凝視したまま動かない。 「異常なしだ。歩け」

彼らには聞こえないのだろうか。静寂の奥に潜む、獲物を狙うような鋭い「圧」が。 僕は唇を噛み締め、再び重い荷物を背負い直した。

その時だった。 先頭を歩いていたアルドが、生い茂る木々を乱暴に掻き分け、声を上げた。

「おい、見ろよ! なんだ、あれ!」

視界が開けた先にあったのは、古びた石造りの構造物だった。 周囲の巨木に飲み込まれそうになりながらも、その不自然な存在感を放つ遺跡。本来、このグルニア森林の地図には存在しないはずの場所だ。

「……遺跡? 隠し遺構かしら。魔力の残滓を感じるわ。つい最近まで強力な結界が張られていたみたいだけど……今は解けているわね」

ミリアが眼鏡の奥の瞳を輝かせる。 「おいおい、薬草採取なんてやってる場合じゃないぞ! ここを調査して持ち帰れば、一気にCランクへの昇進だって夢じゃない!」

アルドの顔に、下劣な功名心が浮かぶ。 彼らにとって、この遺跡は「危機」ではなく、自分たちの才能を証明するための「チャンス」にしか見えていないようだった。

「……待って! 結界が解けてるってことは、中にいた何かが弱ってるか、外から何かが入ったってことだよ! 危険すぎる!」

僕の必死の訴えに、アルドは鼻で笑って応えた。

「弱ってるなら好都合だ。僕たちの手で仕留めてやるよ。カイル、お前は黙って荷物を持ってついてこい。嫌なら、今ここで一人で森に取り残されるか?」

三人は僕を置き去りにする勢いで、暗い遺跡の入り口へと吸い込まれていった。 僕は背筋を走る冷たい汗を拭い、逃げ出したい足を叩いて、彼らの後を追うしかなかった。
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