魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき

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第1章 

レベル0の荷物持ち

「――判定終了。カイル、スキルランク『レベル0』。……不合格だ」

試験官の無慈悲な声が、静まり返った訓練場に冷たく響き渡った。 僕は、目の前で液体状に溶け去ったスライムの残骸を、ただ呆然と見つめることしかできなかった。

「……また、か」

喉の奥から絞り出した声は、自分でも驚くほど乾いていた。 冒険者であれば誰もが通る、最初の試験。テイマーとして判定された僕に与えられた課題は、最弱の魔物であるスライムと契約し、意のままに動かすこと。

それができれば「レベル1」として認められ、本格的な依頼を受けられるようになる。 だが、僕が手をかざした瞬間、スライムは例外なく狂ったように暴れ出し、自ら核(コア)を砕いてしまうのだ。

「ひどいもんだな。スライムに自殺されるテイマーなんて、前代未聞だぞ」 「魔物に嫌われる魔物使いか。存在自体が冗談みたいなもんだな」「お前に使役さるなら死んだ方がマシみたいだな」

昇級試験を見ていたギルドのメンバーたちから、遠慮のない嘲笑が飛ぶ。 彼らの視線は、道端に転がる石ころを見るような、無関心と蔑みが混ざったものだった。

3年前、祖父を亡くした。当時12歳だった僕は、祖父の親友であったギルドマスターに引き取られた。 冒険者だった両親を依頼で亡くしている僕は、祖父から「お前は絶対に冒険者になどなるな」と厳しく言われていた。祖父の元にいた頃は、スキル鑑定を受けることさえ許されなかった。 けれど、一人ぼっちになった僕の心にあったのは、やはり両親や祖父のような英雄への憧れだった。僕はマスターに無理を言って鑑定を受けさせてもらい、冒険者としてこのギルドに登録したんだ。

結果は『魔物使い』。 判定が出た時は、これで家族の背中を追えるのだと、止まっていた時間が動き出したかのように胸が熱くなった。 だが、その期待はすぐに絶望に変わった。 引き取られてからの3年間、僕は一匹の魔物も従えることができず、今日、その才能が皆無であることを改めて証明してしまった。

「……っ」

僕は震える拳を握りしめ、訓練場へ向かった。そこには、僕がこの3年間、毎日欠かさず振り続けてきた、ボロボロの木剣が立てかけてある。 魔物を扱えないのなら、せめて自分の身は自分で守れるようにならなければいけない。そう思って、誰よりも早く訓練場に来て、身体を鍛え、剣を振ってきた。手のひらはマメが潰れては固まり、岩のように硬くなっている。 けれど、その努力も、鑑定の石板が映し出す「0」という数字の前では、何の意味も持たなかった。

「先代は君を『原石』だと言っていたが……。どうやら人を見る目がなかったらしいな」

重厚な足音と共に現れたのは、現ギルドマスターのゼノスだった。 先代マスターの息子であり、合理的で冷酷な実力主義者。彼は僕を見下し、汚れ物を見るような目で吐き捨てた。

「今日限りで、君との専属契約を解除し、ギルドから追放する。先代への義理で3年も待ってやったんだ、感謝してほしいくらいだな。3回も試験を通れないような、レベル0を養っておく義理はない」

頭を殴られたような衝撃だった。ここだけが、僕に残された唯一の居場所だったのに。

「……っ、待ってください! 僕は、まだ…戦えます! 剣術だって、基礎なら誰にも負けないくらい……!」

必死の訴えも、ゼノスの鼻で笑うような声にかき消された。

「しつこいぞ、カイル。みっともない真似はよせ。お前は専門職である『剣士』ではない。いくら鍛え上げようが、本職の剣士相手ならルーキーにすら勝てないだろう? そんな基礎スペックを少しばかり鍛えたところで、このギルドには何の貢献もできないんだよ。お前のような荷物は、今の私のギルドには必要ない」

ゼノスの冷たい言葉に、心臓が凍りつく。 そこへ、追い打ちをかけるように聞き覚えのある声が響いた。

「父さん、剣士スキルの更新が終わったよ。レベル4突破だ」

不敵な笑みを浮かべて現れたのは、ゼノスの息子であり、僕と同い年のアルドだった。 その言葉に、訓練場全体が沸き立った。

「15歳でレベル4!? 本当かよ!」 「レベル5になれば『上位職』への限界突破が見えるぞ! 流石は三代目候補だ!」

アルドの背後には、同じく同世代のエリートである二人、魔法使いのミリアと、大男のタンクであるガラムがいた。彼らもまた、この3年で飛躍的な成長を遂げ、ギルドの期待を一身に背負っている。

「アルド、ミリア。ガラムも……」

「馴れ馴れしく呼ぶなよ、カイル。お前は、スキルレベル0の見習い未満。冒険者ランクも最底辺のG。もうすぐ上位冒険者になれる俺たちとは、君とは住む世界が違うんだ。」

このギルドでも有望株の3人。全員、スキルレベルを順調に上げ、冒険者ランクもDに達していた。
上位職の開放と昇進試験の達成により、Cランク冒険者になるのも時間の問題だろう。冒険者の8割は、Cランクへの昇進で阻まれている。


アルドは、僕が握りしめているボロボロの木剣を一瞥し、蔑むように肩をすくめた。 「そんな木の棒を振る暇があったら、自分の無能さを呪うべきだったね。才能のない世界にしがみつくのは、本人のためにならない。だろ?」

ミリアが、冷たく眼鏡を押し上げて同意する。 「ええ、妥当な判断ね。この3年間、あなたの存在はギルドの平均ランクを下げ、私たちの評価にまで響いていたの。消えてくれるのは、効率的で助かるわ」

大楯使いのガラムも、無愛想に重厚な楯を地面に置いた。 「守る価値のないものは守らん。それだけだ」

かつては同じ訓練場で汗を流したこともあったはずだが、彼らの瞳に宿っているのは、同情ですらない。ただの「無価値なもの」への切り捨てだった。

「ああ、そうだ。カイル。最後の一つだけ仕事をやる」

背を向けようとした僕に、ゼノスが思い出したように声をかけた。

「アルドたちの依頼に同行しろ。場所はグルニア森林だ。本来ならルーキーたちが受ける薬草採取の任務だが、周囲の魔物が活発化しているらしく、カイル達に頼んだ。任務での荷物持ちが必要だ。」

「弱い魔物といちいち交戦するのもだるいからね。お前のその、魔物を遠ざける奇妙な体質を、最後くらい役に立てろ。『魔物避けの道具』としてな」

アルドが笑いながら言う。

「ー道具」

僕は唇を噛み締めた。祖父と両親の背中を追って足掻いた3年間。 その最後の依頼が、仲間たちの荷物を運びか。

ここまで世話をしてくれた円台のギルドマスターへの恩義もある。
 「分かりました。お受けします」

僕は静かに答えた。
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