怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

文字の大きさ
19 / 266
1-2 逆さまの幽霊 side B

6 逆さまと呪い

しおりを挟む
紀美きみはしばみいろの目にはその端々はしばしに、光の加減で緑色に見える部位がある。まあ、はしばみいろの光彩にはままある事だが。
紀美きみの場合、それが見える程度にわずかに目を伏せた時、その目つきや首のうつむき加減は、紀美きみが思考を整理しながら話している時のクセだ。

だった?」
「うん。、それが文化的に持つ意味、ロビン、キミ、とっくにわかってるだろ?」

紀美きみが組んで浮かせている方の足を軽く揺らして、かすように薄く笑う。

「……またのぞきとか、あまさか、帰らせたい来客に対するホウキの立て方もだっけ? というかセンセイの得意分野で言えば『諷歌そへうた倒語さかしまこともっ妖気わざはひ掃蕩はらへり』でしょ?」
「うわ、ロビン、よく『日本書紀』なんて覚えてるね……」

自分から振っておきながら、予想外の答えでそんなにおお袈裟げさに引かないでほしい。
そういう非難を込めた視線をじっとりと紀美きみに送ると、紀美きみは降参と言うように両手を上げる。

「ロビン、目が怖い、目が」
「怖くしてるから」
「キミの場合、時々うっかりそれだけじゃないから困るの」
「それは昔の話」

そうすっぱりと切り捨てて、まばたきついでに、わずかに紀美きみから視線をずらせば、紀美きみがほっと息をついた。

「で、センセイの言いたかったところは、さかさ、というか、ぎゃく、それ自体がまじないじみた概念をふくんでるってことでしょ」
「そうそう、それそれ。普通であるに対して、はその反対だから、で異常なんだよ」
「……普通、そこで引き合いに出すなら、ハレとケじゃない?」

裏の裏の裏は裏というような少し回りくどい論理運びに、数瞬考える時間を取って理解してから、ロビンは自身の知る中で一番わかりやすい概念を取り出す。
しかし、紀美きみくちびるとがらせて、口を開く。

「ハレとケで言えば、確かに異常なのはハレの方だけど、ハレはどうしてもだろう?」
「ああ、うん、そういえば、そこは諸説あるもんね」
「だったら、で分けた方が手っ取り早い」

けろりと言ってのけた紀美きみに、ロビンはひっそりとため息をつく。
――こういった所が、やっぱりセンセイの難だ。
よぎったその考えを頭のすみに追いやりながら、ロビンは軽く肩をすくめてみせた。

「つまり、逆さまの幽霊っていうのはまじない的概念をふくめたの姿の幽霊ってこと?」
「そう。加えると、逆さまの亡者という図自体がその亡者の未練の強さだとか、恨みの強さを表すと考えられるものでもあるんだ。『東海道とうかいどう四谷よつや怪談かいだん』のおいわさんの絵とか、あれってよくよく見ると、提灯ちょうちんの中からぞろりとぶら下がって、上半身……というかこう、アシカとかオットセイみたいに身体からだを起こしているような図だろ?」

そんな言い方をされたせいで、ロビンの頭の中で、一瞬、幽霊絵とアシカとオットセイが並ぶ。
たとえとしてわからなくはないけれど、まずあってはならない絵面えづらだ。
というわけで、そう判断したロビンは表情を変えることなく、頭の中からアシカとオットセイを叩き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

三分で読める一話完結型ショートホラー小説

ROOM
ホラー
一話完結型のショートショートです。 短いけれど印象に残るそんな小説を目指します。 毎日投稿して行く予定です。楽しんでもらえると嬉しいです。

【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ
ホラー
【1~4話で完結する、語り口調の短編ホラー集】 ジャパニーズホラー、じわ怖、身近にありそうな怖い話など。 八尺様 や リアルなど、2chの 傑作ホラー の雰囲気を目指しています。現在 150話 越え。 === エブリスタ・小説家になろう・カクヨムに同時掲載中 【総文字数 800,000字 超え 文庫本 約8冊分 のボリュームです】 【怖さレベル】 ★☆☆ 微ホラー・ほんのり程度 ★★☆ ふつうに怖い話 ★★★ 旧2ch 洒落怖くらいの話 ※8/2 Kindleにて電子書籍化しました 『9/27 名称変更→旧:ある雑誌記者の記録』

霊和怪異譚 野花と野薔薇

野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。 静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。 『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。 一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。 語られる怪談はただの物語ではない。 それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。 やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。 日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。 あなたも一席、語りを聞いてみませんか? 完結いたしました。 タイトル変更しました。 旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる ※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。 エブリスタにも公開してますがアルファポリス の方がボリュームあります。 表紙イラストは生成AI

陰法師 -捻くれ陰陽師の事件帖-

佐倉みづき
ホラー
 ――万物には、光と陰が存在する。それは、人の心もまた然り。妬み嫉み、恨み辛み……心の翳りは、時に恐ろしいモノを生み出す。  人が抱く負の感情より生じた怪異による、人智を超えた怪奇事件。解決するは、影を操る陰陽師の末裔。  これは、陰をもって陰を制する怪奇譚。 ※こちらの作品はカクヨムでも同名義で公開中です。 ※表紙はかんたん表紙メーカー様にて作成しました。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...