怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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7-2 わたしはあなたの side B

1 木星のⅢ、土星のⅠ、そして真鍮の器

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賢木さかき織歌おりかは、どうにも自身は「noblesse oblige高貴故の義務」から離れがたそうだ、と思う。
持たざる者か持つ者か、で言えば、なかなかの規模の経営者一族に属する織歌おりかは圧倒的に持つ者である。

それもあって、自身に起こる軽い不幸の異常なまでの連続は、もしこの世に幸せと不幸せの天秤があるならば、と思えば、「まあ、仕方ない」というように流していた。
そんな織歌おりかは、転機は、と問われれば、「先生」と呼ぶ紀美きみと会ったことだと答えるし、実際、それで不幸の連続については一つの解釈と、制御に行き着いた。
それでも、「noblesse oblige高貴故の義務」的な、どこか自己犠牲的な考えが今でもちょくちょくよぎることは多い。雀百まで踊り忘れず、三つ子の魂百まで、といったところなのかもしれない。

――そして、その上で、なんとなく、そのあたり、先生は自分と似ている、ような気がする。



「タマキはこれとこれ」

ロビンがクリアファイルから取り出した二枚の、七センチ四方ぐらいの紙を珠紀たまきの前に置く。
片方は昨日、和音わとに渡されたもののように青いペンで二重円と円の間のヘブライ文字、そして内側の円は四分割され、左上には円とそれを斜めに四分割したヘブライ文字の記入された図形、左下にはヘアピンカーブを二連続して突如鋭角に折れる図形、右上と右下にはそれぞれ異なるヘブライ文字が記入されている。
もう片方は黒いペンで描かれていて、変わらずに二重円と円の間のヘブライ文字、そして円の内側には四✕四マスに区切られた正方形のそれぞれのマスに、ヘブライ文字が一つずつ収まっていた。
どちらも、昨日帰ってから、織歌おりかに説明を投げ出してロビンが用意したものだ。

「これって、惑星の護符……?」
「ああ、まあ、シジルのメダルなんて持ってたから、知っててもおかしくはないか。本格的に作ったというには程遠いけど、多少はいろいろしてる」

そのいろいろの中身も織歌おりかは知っている。
まず、最初に時間をチェックして、戸棚の奥底から引っ張り出したお香をきつつ、ぶつぶつと何やら少なくとも英語でもない言語をつぶやきながら描いていた。
多少じゃなくて、十分、いろいろしている、と織歌おりかは思う。
それでも本式に満たないから多少、と言っているのだろうけれど。

「オリカ」
「はい」

そして、最後にロビンは織歌おりかにも同じサイズの紙を一枚差し出した。
事前に聞いていた織歌おりかはそれを受け取る。
円の上部左右に取っ手があり、その真ん中には穴のように半円が描かれていて、更に円の半ばより上の所にこの円を球体に見立てるように、湾曲してぐるりとヘブライ語で何かが書かれている。
そして、この円というよりは球体をささえるように、台形の脚がついていた。

――一応、念のため、緊急措置用に。オリカならたぶんこれを武器に変えられる、はず。

そう、事前に言われてはいた紙をひらりと裏返すと、ほのかに染みついたお香の匂いが香り、眼の前に現れた裏面には筆記体でBrass真鍮と走り書きがされていた。
昨日、ロビンがばたばたとせわしく準備をして部屋にこもってしまってから、織歌おりか紀美きみひろに事の次第しだいを説明して、そして説明を求めた。

結果的に織歌おりかが得られたのは、それらが西洋の魔導書グリモワール系列の呪い、その中でも有名どころで、だからこそロビンは即座に対応策の準備に入ったということだった。
まあ、下地的には妥当である。イギリスにおけるキリスト教が多少複雑でも、ロビンがそもそもその枠の外の妖精に干渉された人物であっても、この中では一番西洋系のものを扱うのにけていておかしくはない。
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