斎王君は亡命中

永瀬史緒

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40.帰宿後、そして彼方の砂漠から

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「御身様」

 自分たちの部屋に戻ってすぐ、ユディが普段とは変わりない声音で、だが眉間の間に深い皴を寄せてルカへと呼びかけた。

 午前中から出かけていたせいで暖炉にくべてあった大きな薪も燃え尽きてしまい、夕刻少し前の室内は薄ら寒い。新しく薪をくべ直して、部屋が十分に暖まるまでは外套は脱がない方がいいだろうかと、思案していたルカはなおざりに返事をする。

「…うん」

 居間の、暖炉に近い安楽椅子の上におろされて、乱れた外套の裾を片手で直していたルカは、ユディがルカを腕からおろしたまま目の前に立ち止まっているのに気づいて顔を上げた。

「なんだろう?」

 ユディの眉間に刻まれた皴がいよいよ深みを増して、ルカはこっくりと首を傾げる。いつも冷静で、だが時に母親じみた小言をくれる侍従騎士は、彼の浅黒い肌に似合わないしわを眉間にくっきりと寄せて、すぐ間近に座るルカを見据える。

「御身様、宿に入る前から口紅がとれておいででした」
「……そうだったろうか?」
「はい」

 何の気なしに片手の指先で自分の唇をなぞってから、ルカは思い当たる事柄にあ、と小さく声を出した。

「シオン殿が車の中で口づけたので、とれたのならばその時だろう」
「……御身様」

 不意にユディが一歩を進める。もともとゼロ距離の場所に立っていたので、ユディの片足がルカの足の間を割って安楽椅子の正面下部に押し当てられた。

「シオン殿は、確かに今日のオトニエル王との面談を実現させてくださいましたが、それはそれ。私は、優先権を主張させていただきたく!」
「……優先権?」

 あまりに真剣にユディが言い募るのを、全く見当が立たずにルカが言葉を反復した。ユディはさらに歩を進めて、ルカの太腿の間、安楽椅子の座面に膝を着く。

「御身様、どうぞその花のかんばせの……唇を私にもお許しいただきたく」

 鼻先の触れる距離まで顔を寄せられ、そう囁かれてルカはやっと合点がゆく。

 なるほど、これは所謂嫉妬心という物の類だろうか。

 今までルカは己の容貌に対して、自分の顔貌に自信のある若い神官や、貴族のご令嬢等から嫉妬され、禄でもない噂やら中傷を流されたりはしたものの、自分の好意や行動について身近な誰かから嫉妬を向けられた事がなかったため、なんだかとても新鮮に感じられる。

 いや、そうではない。ついこの間、ユディはルカがシオンの毛皮の手入れをするのに腹を立てて、自分も櫛削ってくれと要求したではないか。

 これはきっと、あの時の続きのような物か。

 そう気づいて、ルカはこみ上げる笑いを辛くも飲み込む。胸の内に湧き上がるくすぐったさと、くすくすと笑いたくなる衝動を隠して、いつもの薄い笑みを口元に張り付けたまま、いっそ厳かに頷いてみせる。

 実のところ、ルカのその分析は微妙にずれているのだが、本人はもとよりユディも知るよしもない。毛繕いについては、大猫族の矜持と主人に対する敬愛の気持ちが強く、肉欲や独占欲の割合はかなり低い。

「勿論、そなたの望むままに」

 パッと表情を明るくするユディへと顎を上げて、顔を寄せ軽く目を閉じる。待ちかねたように重ね合わされる唇は暖かく、先ほど皆で喫した茶の香がした。

 片頬に添えられた暖かい手のひらは、いつのまにか手袋を脱いだらしく剣の稽古で鍛えられた硬い表皮の感触に、何故だか胸の内が暖められた。

「御身様」

 角度を変えて唇を重ねる合間に、掠れた低い声がルカを呼ぶ。その声につられるように片手を上げて、ユディの墨染の外套の肩口をそっと握る。それを合図と捉えたように、深く重ね合わされた唇を割って、ユディの、やや薄く熱い舌が口内へと差し込まれた。



「あーーー、全然来ない」

 砂漠にその国土の半分以上を覆われる商人の国、その首都の壮麗な大神殿を背後に、イスカは気の抜けた声をあげた。

 乾いた空気を通して届く陽射しは、春分を過ぎた頃だというのに既に肌を焼いて、生成りの麻布を他の人と同じように毛織の丸い帽子の上に被っているのに、イスカは明らかに日焼けしていた。

 一月の終わりに星都の神殿をこっそり抜け出して、東の端の国境に着いたのが二月の上旬頃。そこから昼夜を継いで空を駆け、途中旅芸人の男女を邪教とから助けたりもしたが、イスファへ入ったのが二月半ば。そして、イスファの首都ソレクの片隅にある小さな神殿にひとまず身を落ち着けて、大神殿へと通うようになって早ひと月以上。

 春分を越えてしまったというのに、イスカの待ち人たる斎王とその侍従騎士はいまだ到着しない。

「まーそりゃ、俺が着いた時にここにいないんなら、きっと御身様はポーラスタの王都に向かわれたんだろうけど」

 シェートラの指示に従って当初は大人しく待っていたものの、どれだけ待っても主人一行は来ない。そろそろ春分になろうというのに、一体彼らはどこにいるのか。

「ポーラスタのオトニエル様は御身様贔屓だって聞いたし、きっと王都ルステラで引き留められてるんだろうなぁ」

 ぼそぼそと呟くと、イスカと組まされている見習いが、道路脇に積み上げられた荷を確認する手を止めて顔を上げた。

「悪い、なんでもない」

 実はイスカは、現在のところこのイスファの首都ソレクにあるシャリヤ商会で見習いとして働いている。路銀はまだ余分にあるし、すぐに働いて収入を得ないといけない事情ではなかった。だが、商人が首長を務めるイスファでは本国ほどの権威のない神殿ではあるが、人の出入りだけはとにかく多く、ソレクの端の小神殿であっても常に巡礼者向けの宿坊は埋まっていて、イスカが客分として長期滞在するにはいささか居心地がよくなかった。

 それに、どうにも一部の神官がイスカを監視しているように思えてしまって、疑心暗鬼に苛まれるくらいならば、とシャリヤ商会を頼ったのだった。

 上手い具合に、アスカンタからソレクへと向かう国境の荒れ地ので、シャリヤ商会の隊商と出合っている。

 その時に、イスカは偶然に助けた旅芸人のエリとアロンを隊商を率いるギデオンに預け、さらにギデオンからシャリヤ商会へ見習いとして入れるとの一筆を取り付けた。万が一、神殿に身を寄せられない場合を思って頼んだ事だったが、商会長の指示書ゆえに全く身辺を照会されることなく、イスカは無事、シャリヤ商会ソレク支部の見習いに収まった。

「セミュ、そっちの茶葉の荷、数合ってたか?」

 イスカと同時期に見習いとして入った同僚、セミュの手元の書類を覗きこみつつ問いかける。本人に問うた訳ではないが、セミュは年の頃はおそらく16、7歳。イスファに多い、緩く巻いた黒髪を生成りの薄布を巻き付けて隠し、すこし薄い褐色の肌に気怠さを漂わせる焦げ茶の瞳をしており、面立ちはそれなりに整っている。

 彼らの上司である恰幅の良い中年男性(イスカはこっそりと「おっさん」呼ばわりしているが、おそらくそれを聞いても怒らないだろう気のいい人物)によって、同日に採用された二人が組まされたのはただの偶然で、なのでイスカはセミュに対しては少しだけ気を許している。

「あ、うん。……いや、なんか一つ足りないんだけど」
「え、見せてみろ。本当だ、俺ちょっと裏で探してくる。セミュは運搬用の竜車が来るまで見張っててくれ」
「判った」

 イスカとセミュとは、二人ともいかにも「見習い」と判る、身体の大きさよりも少しばかりだぼっとした生成りのお仕着せを着ている。麻と毛織の簡素な衣は、首元も袖口もがゆるく開いて、中午に近いこの時間でも動けば風が透って涼しかった。

 春分間近とはいえ、まだ3月だというのに照り付ける陽射しは暑く白熱して、布地の間からわずかに出た手や足首などがじりじりと灼けていく。

「えーーと。茶葉の在庫ってこっちだったか」

 イスファの首都ソレクでも、シャリヤ商会は一等地に支部を構えている。ソレクは複数のオアシスが比較的狭い地域に固まってあったが故に首都となった。したがって首長館を望める大通り沿いに居所を構えられるのは、ソレクの中枢に食い込む事がかなった商会や人物だけだった。

 荒涼とした砂漠に囲まれたソレクでは、降水が極端に少ない。それでもソレクを訪れる商人や旅人たちを十分に養う水に恵まれているのは、ソレクが不思議にも豊かな水量を誇る泉を抱えているからだった。

 それゆえ、砂漠の中の都市だというのに、飲み水の値は高騰せずに庶民の口を潤してくれる。

「あ、こんなところに。おーい、倉庫番さん! これ、俺たちんところの荷なんだけど!!」

 四角い大きな布を広げて屋根にして、四方の端を柱に結んだだけの簡易な倉庫は日干し煉瓦の建物に囲まれている。イスカの目にはいささか不用心にも思えるが、中庭には商会内の人間しか入れないのだから、さほど問題はないのだと、案内してくれた人の良い上司は言っていた。

「悪ぃ、今日は入荷が多くてな。そっちの端まで気が回らなんだ」
「俺が探して持ってくよ!」

 商会の車を曳く竜たちを擁する竜舎は、商会本体の建物の裏側、ひとつ細い通りを隔てたところにあった。朝には到着する竜舎が多く、陽射しの一番強い時間を避けた夕刻にはソレクから荷を積んで出荷する竜車が小さい通りに立ち並ぶ。

 数週間前に、スカはそれまで滞在していた小神殿から、竜舎の隣に立つ従業員宿舎に移っていた。小神殿の宿坊に泊っていたのはほんの一週間と少しの間だったが、口うるさい老年の神官に粘着質に付きまとわれて辟易としていたのだった。

 毎日ソレクの中心地に近いところにある大神殿まで通って、斎王達が到着していないかを確かめるのが日課のイスカを、あれこれと口実を作って小神殿に引き留めて、まるで小間使いのようにこき使ってくれた。

 どうやらその老年の神官は、イスカを奉公先から逃げて来た不良少年だと思い込んでいたらしく、彼なりの親切心からイスカを神官見習いにさせようと画策していたらしい。

 らしい、というのはイスカが「就職先が決まったので」と宿坊からの辞去を申し出た時に、小神殿の神殿長からそれとなく聞かされたからだった。

 そんなこんなで、春分を数日後に控えた今、イスカはイスファ首都ソレクの、シャリヤ商会支店で見習い商人をしている。

 倉庫番の、しっかりした体格の男が奥の倉庫から荷物の間を移動してくる。さっきイスカが声を掛けた時には、積まれた木箱に阻まれて、姿は見えなかった。日焼けして皴の刻まれた顔貌は、彼の年齢を老齢に見せているが、もしかしたらイスカの父親よりも若いのかもしれない。

 トーラオという名の倉庫番の男は、すっかり砂埃にまみれた上着の裾を掌で叩く。そうすると、天幕の間の、日光が差し込む場所だけに薄煙が立ち上った。

「イスカ、今日も昼休みは大神殿詣でか?」
「うん、毎日祈れば、きっと効果があるだろうって神官様が」
「田舎のお母さん、必ず良くなるさ。ソレクにはいい薬の材料も揃うから、しっかり働いて買って帰ってやれ」
「そうする」

 ここではイスカは、郷里の母親の病気快癒を祈願して大神殿を巡る巡礼者という事になっている。巡礼者はさまざまな理由で大神殿を巡る。念願成就、病気平癒、子宝祈願等、彼らは様々な思いを抱えて、アスカンタ王国を取り巻く属州属国の大神殿を詣で、最後に星都の北に位置する本殿、斎王を有する谷の大神殿へ詣でて巡礼の旅を締めくくる。

 イスカは床に並んだ木箱の荷札を目で追いつつ、じりじりと倉庫内を移動する。

「お、あった」

 小さく呟けば、少し離れた場所で心配そうに見守っていたトーラオが破顔した。イスカも唇の端を持ち上げて笑って見せてから、荷物を持ち上げるために屈み込む。

「トーラオさん、ちゃんと帳簿着けておいてくれよ」
「わかったよ、イスカ。荷物を頼むな」

 日焼けした顔に皴を寄せて笑う倉庫番のトーラオが片手を上げてイスカへ片目を瞑ってみせた。

 イスカが持ち上げた木箱は両手で抱える大きさだが、中身は茶葉だから見た目ほどには重くない。南方の国々で生産される茶葉は、未発酵の葉を焙じた物から茶葉が黒くなるほどに発酵させた物まで種類が幅広い。アスカンタ王国の中央から以南で広く栽培されており、特に中央以北の各国への出荷が盛んだった。

「セミュ、荷物見つけた。トーラオさんが運び忘れてたらしい」
「倉庫番、最近なんだか抜けてるな」

 イスカとセミュとは、週に3日主に茶葉の入出荷を担当する。シャリヤ商会はオリハン大公の麾下だから、オリハン領の特産品の黒糖、布、蒸留酒はもちろんだが、茶葉やその他の細々した工芸品なども扱う。

 殊に、オリハン大公の孫である斎王が顧客となっているために、各国の、特に信仰の篤い上位貴族を顧客に持つ。高品質の品を扱う、手堅い商人としてよく知られている。

 イスカが荷物を探しに行っている間に、セミュは最終的な積み荷の確認をして、竜車の到着を待ちつつ、直射日光が当たらないように天幕の調整をしていたようだった。

 積み上げた木箱の端に、きちんと彼らが座る空間が避けられており、そこに並んで二人で座る。母屋の方で待機している少年に片手を上げて合図をすれば、すぐさま黒糖をたっぷり入れた薄荷茶が盆で届られた。

「……今日の荷は、大神殿に一つ、首長館に二つ、それ以外はシレギア宛だったっけ」
「イスカは、今日も大神殿まで一緒に行くんだろう?」

 上客用の麗しいガラスの器ではないが、従業員用の陶器の杯に入った薄荷茶は甘くさわやかな味わいで、中午に近いソレクのからっとした暑さの中で飲むと熱いからこそ美味いと思える。

 二人はしばし、無言で薄荷茶の杯を傾けた。

「大神殿、大きいわりに古ぼけててあんまりご利益がありそうに見えないけど、よくみれば色焼きタイルが綺麗だし、神官さんたちも親切だよ」

 言外に、セミュも一緒に来れば、と誘ってみれば、黒髪に褐色の肌(少し薄めではあるが)という見慣れた配色の同期は、少し面倒臭そうに首を振った。

「いや、俺はいいや。故郷の神殿にはあんまりいい思い出がないし」
「……そうなんだ。星教の神殿ってどこも似たような感じだと思ってたけど、運悪く嫌な神官に当たっちまったのかな」
「そんなところ」

 中庭に通じる開口から風が吹き抜けて、イスカ達が竜車を待つ大通りでざあっと砂埃が舞い上がった。

「……暑い季節がすぐそこまで来てるな」

 ぼそりと呟くセミュの言葉に、イスカはふと首を傾げる。この、勤勉だが少し口の重い同僚は、確かソレクよりも北側の、シレギアの傍の小さな村出身だと言っていたのではなかったか。

 少し引っかかるな、と思いつつも、確かにシレギアも砂漠の一国ではあったので、季節に共通する部分もあるのかと納得する。

 なにしろ、シャリヤ商会に入るためには、確固たる保証人が必要だし、商会の方でも入念な照会をかける。

 イスカがそれらなしにすんなりと入会できたのは、一重に商会長ギデオンの紹介であったのと、本人が本性の姿に戻れる翼竜人であることが大きい。

 荷や人を載せて運べる翼竜人は、迅速さを必要とする商取引では重宝される貴重な存在なのだ。

 さらには、同じ竜族であっても竜人は、全ての竜種を意のままに従わせる事が可能なため、やはり貴重な存在となる。

 四族に合わせて重用される職種はそれぞれだが、どの仕事であってもある程度器用にこなせるのは人族が一番で、数の多い彼らはどの地に行っても安定した雇用率を誇っていた。

「お、竜車が来た」

 早めの昼食を済ませただろう隊商がシャリヤ商会の裏手の小道へと入ってくる。今日の午前中までに、あらかた荷を積み終わって、後はイスカ達が担当する茶葉を積めば、ソレクを発って長い商用の旅へ赴く。

 先頭の竜車の御者台には、ソレクーポーラスタ間の旅路に慣れたベテラン商人のアシルが座っている。彼はまだ三十そこそこの年齢だが、商会に入って既に二十年近いのだと聞いた。

 日焼けした肌はソレク滞在が長いからで、実はポーラスタの出身だという。北の人間に多い、茶色かがった金髪を短く切って、生成りの布で包んだ姿はいかにも遣り手のイスファ商人らしく、愛想の良さも相まってポーラスタ出身には見えなかった。

「イスカ、セミュ、さっさと荷を積んでくれ」
「承知!」

 のそのそと荷車を曳く強力は、正午過ぎの苛烈な陽光をものともせず、アシルの手綱さばきに従って大人しく歩を止めた。

「よし、三十きっかり。……俺たちも途中まで一緒に行くよ」
「イスカは前へ。セミュは後ろの車に乗せてもらえ」

 荷台で待ち構えていた隊員に茶葉の木箱を渡し終えて、イスカとセミュはそれぞれ御者台へよじ登る。

「イスカは大神殿までか? セミュは首長館まで行くのだろう?」
「そ、俺は大神殿で荷物を降ろして、注文取って戻るけど、セミュは首長館まで行って御用聞き」

 カラッとした笑みを向けられて、イスカは自然と笑みを返す。アシルは、ソレク支部ではイスカの素性を知る数少ない存在で、彼自身も熱心な星教信者であるがゆえ、イスカに協力的だった。おそらくだが、アシルがポーラスタ出身がゆえ、かの祭祀長である王に倣って斎王贔屓なのだと思われた。

「……ルステラに向かう方向にある門への道すがらに大神殿があるから、商会から出る隊商が寄るのは判るけど、首長館は東に逸れるのに、わざわざ寄って行くのはなんで?」

 大通りに出て、左右に賑わう露店や商店を眺めつつ、イスカは何の気なしに浮かんだ疑問を口にする。軽快に竜車を走らせていたアシルが、隣に座るイスカへ片目を瞑ってみせた。

「首長館で荷を下ろして、ラジ首長の商会からの荷を受け取るからな。首長館から商会までわざわざ荷を運んで揃えるよりも、時間と距離を短縮できる」
「ラジ首長の商会は、荷を運んでくれないんだ?」
「運んではくれるが、同業者からは送料をふんだくるからな」

 一瞬だけ眉をゆがませて、アシルが嫌そうな表情を作った。

「特に、シャリヤ商会には『他国の商会だから』と難癖をつけて、通常の倍の送料をふっかけてきやがる」
「……そりゃ、自分とこで竜車を持ってたら、取りに行くしかない」
「そういう事だ」

 大通りの両側を彩る木々の葉は小さく、だが豊かに茂って陽光を遮る。昼下がりの街を覆う陽光は白く熱く、だが軽快に進む竜車の御者台では渡る風が涼しい。

 今頃、きっと斎王達は小雪の降るポーラスタの空の下、震えているに違いない。一緒に行けなかったのは悔しいが、正直氷点下のルステラと、灼熱のソレクとどちらが良いかと問われれば、イスカは迷う事なくソレクを取るだろう。

 竜族は、とにかく寒いのは苦手なのだ。

「ソレクは初めて来たけど、世知辛いなぁ」

 そっと呟けば、耳ざとくそれを拾ったアシルが乾いた笑い声を上げた。

「まあ、目的を達するまでは大人しく商会で修行してろ」
「……そうする」

 わしわしと雑に頭を撫でられて、むくれて見せるのも役目のうち。そう納得はしているが、やはりアシルたち周りの大人のイスカに対する扱いが子供じみているように思えて、イスカはむくれた顔の影で苦笑を飲み込む。

 ああ早く、御身様が到着してくれないかなぁ。

 一日に何度も心のうちで繰り返す言葉をまた胸中に唱えつつ、イスカは眼前に近づく大神殿を眩しげに見上げた。


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