【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
98 / 238
本編

第95話 それぞれ止まれない歯車

しおりを挟む
「これ、私が……」

「そなたに頼られた勲章だ。もう消すゆえ、そう気にするでない」

 優しく赤毛にキスを落とされ、自分の状態に気づいた。乾燥して老婆のようだった肌は弾力が戻り、鮮やかな赤毛は艶を取り戻している。己の手足を動かして確認し、痛くない事実に頬が緩んだ。関節の軋みや熱がなく、軽い身体は元通りだった。

「よかった、イヴリースのお嫁さんになれるわ」

 死んでしまうと思ったけど、まだ隣にいられる。そう口にしたアゼリアを強く抱き締めた。壊れそうで儚かった姿を、追い払うように。

 アゼリアの肌についた擦り傷を治すイヴリースは、己の傷も消した。愛するアゼリアの爪が突き立てられた傷を残したいが、見えると彼女が気にする。しかたなく幻術で覆って治ったフリを装った。この傷を堪能するのは後だ。

 イヴリースの小細工に気づいたメフィストが、眼鏡を掛けて溜め息をつく。番を見つけてからの主君は、冷淡さや残酷な一面をそのままに、新しい一面を増やした。婚約者がつけた傷を愛でる異常さは、先代魔王にそっくりだ。危うさも含め……悪い場所ばかり似ましたね。側近は諦めを滲ませた笑みを口元に浮かべた。

 この感情のいびつさが、魔王たる強さの裏付けかも知れない。魔力が多く、手足の如く魔法を操る者は他にもいる。しかし魔王として立つ者は一様に、感情が乏しかった。他者へ向ける感情がほぼない。なのに番となる存在を見つけると、今までの感情をすべて注ぎ、激しく重い愛し方をした。

 相手のすべてを欲しがり、僅かな感情すら求めて懇願する。選ばれる番はそれに応じ、互いが分かたれた半身であるかのように寄り添った。だから喪われると壊れてしまう。

 少なくとも私には理解できません。その愛し方も、歪んだ感情も、つけられた傷すら愛おしむ異常さは受け付けない。私が魔王に向いていなかった理由がこれならば、素質を持たないことは幸せなのでしょう。

「そろそろ、かな」

 止まらない魔法陣による巻き戻しを眺めていたバラムが注意を促す。数十年分を狂わせた空間で、アゼリアの下で時間軸の違う魔法陣が作動していた。巻き戻し続ける時間に、人間や獣人が干渉されれば狂う。耐性があるのは魔族だけだった。

「魔王陛下、姫を魔法陣から出さないで」

 兄の魔法陣をよく知るバールの言葉に、イヴリースは深く頷いた。

「アゼリア、心配はいらぬ。何があろうと絶対に動くな」

 アゼリアを守るための魔法陣は、ひとつだけ逆回転だった。周囲が戻った分だけ、逆にまわり時間を固定する。これだけ大量の魔法陣を使いながら、バラムは逆転すら自在に操作する。その才能は研究者の面目躍如だった。

 失われ続ける兄の魔力を補うため、バールが背中に抱きつく。解呪の途中で魔力が尽きれば、主君や姫はもちろん兄も損なわれる。魔力を供給しながら、久しぶりに触れる兄の背に体重を預けた。

「少し……重くなった?」

「妹でも女なのよ、失礼だわ」

「いや、胸が大きくなったかなって」

 軽口で茶化した兄を、軽く叩いて黙らせたバールは幼い頃によく触れた兄の首筋に唇を押し当てる。よく魔力の制御に失敗した妹に、兄がしてくれたおまじないだった。そこに含まれた想いを知らずか、バールは魔力を流し込む。目を細めたバラムが、最後の仕掛けを解放した。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ
恋愛
 剣と魔法の国オルランディア王国。坂下莉愛は知らぬ間に神薙として転移し、一方的にその使命を知らされた。  そこは東西南北4つの大陸からなる世界。各大陸には一人ずつ聖女がいるものの、リアが降りた東大陸だけは諸事情あって聖女がおらず、代わりに神薙がいた。  予期せぬ転移にショックを受けるリア。神薙はその職務上の理由から一妻多夫を認められており、王国は大々的にリアの夫を募集する。しかし一人だけ選ぶつもりのリアと、多くの夫を持たせたい王との思惑は初めからすれ違っていた。  リアが真実の愛を見つける異世界恋愛ファンタジー。 基本まったり時々シリアスな超長編です。複数のパースペクティブで書いています。 気に入って頂けましたら、お気に入り登録etc.で応援を頂けますと幸いです。 連載中のサイトは下記4か所です ・note(メンバー限定先読み他) ・アルファポリス ・カクヨム ・小説家になろう ※最新の更新情報などは下記のサイトで発信しています。  https://note.com/mutsukihamu ※表紙などで使われている画像は、特に記載がない場合PixAIにて作成しています

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。 同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。 そんなお話です。 以前書いたものを大幅改稿したものです。 フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。 六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。 また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。 丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。 写真の花はリアトリスです。

追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜

三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。 「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」 ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。 「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」 メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。 そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。 「頑張りますね、魔王さま!」 「……」(かわいい……) 一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。 「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」 国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……? 即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。 ※小説家になろうさんにも掲載

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

処理中です...