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本編
第116話 国王陛下は白い兎の夢を見る
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見合いの顔見せなので、ヴィルヘルミーナはそのまま留まることが出来ない。婚約前の未婚令嬢を泊めるのも憚られた。もちろん国として預かることは出来るが、ベルンハルトは惜しみながらも馬車の前までエスコートする。
「次は俺が出向こう」
「一国の王でしょう? 無理ですわ。問題ありません、次は両親を連れて挨拶にきます」
警護の面からも、国王が国を離れるのは好ましくない。政治に関して勉強した公爵令嬢は一刀両断、ベルンハルトの申し出に首を横に振った。
転移なので旅の苦労はないが、女性に負担を強いることに難色を示す。その気遣いだけで嬉しかった。ベルンハルトの姿に、イヴリースが後ろから声をかける。
「一国の王であるからこそ、妻の実家に対し礼を尽くし義を重んじるのであろう。余がそうだからな」
ふふんと得意げに言い放ち、イヴリースは破格の条件を提示した。
「我が愛しのアゼリアの兄王とあれば、余が送迎してやっても良いぞ」
魔王自ら、同盟国の王の送迎をする。その言葉にアゼリア以外の全員が言葉を失った。
「さすが、私のイヴリースだわ」
褒め言葉を伝えてやる気を出させる。アゼリアの魔王操縦術は見事だった。どうやら彼女に言われて提案したようだ。魔力は余っている上、アゼリアに褒められたり尊敬される可能性があるなら、イヴリースにとって転移に手を貸すことなどお安い御用だった。
「陛下って……」
単純なのね。見送りに来たカサンドラの呟きは、途中で声にならず消えた。さすがに不敬だろう。その隣でアウグストが己の娘の腹黒い一面を知り顔を引きつらせた。魔族最強の王を手玉に取るとは……我が娘ながら恐ろしい。
「お見送りに感謝しますわ。では……お言葉に甘えて、迎えに来てくださる日を指折りお待ちしております」
ぷるぷると白く長い耳を震わせるヴィルヘルミーナの指先に唇を触れさせて挨拶し、魔法陣に包まれて消える馬車を見送った。いつまでもその場から動かないベルンハルトの頭上は、美しい星空が広がっていた。
――翌朝。
「……それでお風邪を召されたの?!」
呆れた、妹の溜め息混じりの声に小さく頷く。夜空の下、彼女と出会えた幸運と手に残る余韻に浸りながら……執事のスヴェンが叱り付けて回収するまで立っていた。獣人と人間のハーフとはいえ、ほとんど人間のベルンハルトは風邪を引いた。
ずるりと垂れた鼻を啜り、渡された水を飲む。苦い薬を用意した母にも叱られながら、顔をしかめて飲み干した。部屋を温める侍従が苦笑いしている。まだ本格的な冬にならないこの時期に、汗ばむほど部屋を温めることになるとは。
竜殺しを成し遂げ、ブレスを跳ね除けた父アウグストほど頑丈ではない息子は、薬と熱による眠気でうとうとしながら、白い兎の夢を見る。
「半分は知恵熱ね。まあ……互いに好きになってくれたみたいで、良かったわ」
ほっとした様子の母カサンドラの声が、言葉の意味をなさずに音として右から左へ抜けていく。それでも耳に慣れた家族の声に安心しながら、ベルンハルトは目を閉じた。
「次は俺が出向こう」
「一国の王でしょう? 無理ですわ。問題ありません、次は両親を連れて挨拶にきます」
警護の面からも、国王が国を離れるのは好ましくない。政治に関して勉強した公爵令嬢は一刀両断、ベルンハルトの申し出に首を横に振った。
転移なので旅の苦労はないが、女性に負担を強いることに難色を示す。その気遣いだけで嬉しかった。ベルンハルトの姿に、イヴリースが後ろから声をかける。
「一国の王であるからこそ、妻の実家に対し礼を尽くし義を重んじるのであろう。余がそうだからな」
ふふんと得意げに言い放ち、イヴリースは破格の条件を提示した。
「我が愛しのアゼリアの兄王とあれば、余が送迎してやっても良いぞ」
魔王自ら、同盟国の王の送迎をする。その言葉にアゼリア以外の全員が言葉を失った。
「さすが、私のイヴリースだわ」
褒め言葉を伝えてやる気を出させる。アゼリアの魔王操縦術は見事だった。どうやら彼女に言われて提案したようだ。魔力は余っている上、アゼリアに褒められたり尊敬される可能性があるなら、イヴリースにとって転移に手を貸すことなどお安い御用だった。
「陛下って……」
単純なのね。見送りに来たカサンドラの呟きは、途中で声にならず消えた。さすがに不敬だろう。その隣でアウグストが己の娘の腹黒い一面を知り顔を引きつらせた。魔族最強の王を手玉に取るとは……我が娘ながら恐ろしい。
「お見送りに感謝しますわ。では……お言葉に甘えて、迎えに来てくださる日を指折りお待ちしております」
ぷるぷると白く長い耳を震わせるヴィルヘルミーナの指先に唇を触れさせて挨拶し、魔法陣に包まれて消える馬車を見送った。いつまでもその場から動かないベルンハルトの頭上は、美しい星空が広がっていた。
――翌朝。
「……それでお風邪を召されたの?!」
呆れた、妹の溜め息混じりの声に小さく頷く。夜空の下、彼女と出会えた幸運と手に残る余韻に浸りながら……執事のスヴェンが叱り付けて回収するまで立っていた。獣人と人間のハーフとはいえ、ほとんど人間のベルンハルトは風邪を引いた。
ずるりと垂れた鼻を啜り、渡された水を飲む。苦い薬を用意した母にも叱られながら、顔をしかめて飲み干した。部屋を温める侍従が苦笑いしている。まだ本格的な冬にならないこの時期に、汗ばむほど部屋を温めることになるとは。
竜殺しを成し遂げ、ブレスを跳ね除けた父アウグストほど頑丈ではない息子は、薬と熱による眠気でうとうとしながら、白い兎の夢を見る。
「半分は知恵熱ね。まあ……互いに好きになってくれたみたいで、良かったわ」
ほっとした様子の母カサンドラの声が、言葉の意味をなさずに音として右から左へ抜けていく。それでも耳に慣れた家族の声に安心しながら、ベルンハルトは目を閉じた。
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