11 / 21
11.成仏なさってください
しおりを挟む
食事中にお兄様と私で手短に状況を説明します。早朝から慌ただしい理由も、理解していただけました。問題があるとすれば、お父様の怒りが収まらなかったこと……でしょうか。
「まず王家は潰す。第二王子はミンチにして荒れ地に撒いてくれるわ」
まあ、魔王陛下が言いそうなお言葉ですこと。あらいけない。もうすっかり日が昇ったではありませんか。侍女を手招きして、来客予定を伝えます。茶菓子やお茶の種類は、私の好みに合わせて構わないでしょう。反論は受け付けませんわ。これでも悪役令嬢ですもの!
「お兄様、お父様の説得はお任せします」
「僕としては父上を止めずに、同行したいんだが」
「おやめください。王家を潰した後、誰がこの国の面倒を見るのですか?」
「「なるほど」」
怒りに任せて王族を排除するのは簡単ですが、その後の面倒ごとがすべて我が家に降りかかるのですよ? 各貴族家の揉め事や、他国との交渉から始まり……民の不平不満を抑え、税額を調整する。考えるだけでぞっとしますわ。そのうえ、王族だから我慢を強いられるのです。
現在時点で我慢を強いられてないとは言いませんが、今より対処する問題が増える事態は憂慮しなくてはなりません。しっかり現実を突きつけ、短慮で動かないようお父様とお兄様の手綱を握ります。お母様がいらっしゃれば、こんな苦労は……。
「お父様、お母様はどうなさいましたの?」
「一緒に行こうと暴れるので、ちょっと……閉じ込めてきた。あと馬の鞍も隠したが」
間違いなく、裸馬に跨って向かってると思われる案件です。どうしましょう、淑女の鑑として知られるお母様ですが、実はかなりお転婆だった過去をお持ちですの。裸馬を乗りこなす流浪の民の出身ですが……お父様の対応はまずかったですね。
怒り心頭でかっとんで来る……あ、玄関のベルが取れそうな勢いで鳴らされてます。これは確実に魔王陛下ではなくお母様です。怯えるお父様を放置し、私は足早に玄関へ向かいました。
「お母様……っ」
「よかった。無事ね……あの人はどこ?」
抱き締められ、軽くぼきっと音がしました。力加減が調整出来ておりませんわよ、お母様。痛む肩を撫でながら、お母様にも手短に事情を説明しました。足元がかつかつと高い音を立てるのは、足早に歩く私達の靴音です。お母様が各部屋を隈なく確認するのを、必死に追いかけました。
かつ……靴音が止まります。はあはあと肩で息をする私は、運動不足を感じておりました。鍛え直した方がいいかも知れません。朝からいい運動ですね、大量の汗が額を伝います。もう一度着替えないとダメかしら。
「いたわ」
にやりと笑うお母様は、整った顔が般若のように変化しました。この世界だと悪魔に憑りつかれたと表現すべきでしょう。奥の部屋で震えるお父様に歩み寄り、胸倉を掴みます。身長はお母様の方が低いのですが、怯えて背を丸めたお父様が引きずられました。
「お、穏便に……」
勇気を振り絞ったお兄様ですが、ぎろりと睨んだお母様の眼差しにすごすご退散です。お父様、成仏なさってくださいませ。両手を合わせて、祈るというより拝みました。
「まず王家は潰す。第二王子はミンチにして荒れ地に撒いてくれるわ」
まあ、魔王陛下が言いそうなお言葉ですこと。あらいけない。もうすっかり日が昇ったではありませんか。侍女を手招きして、来客予定を伝えます。茶菓子やお茶の種類は、私の好みに合わせて構わないでしょう。反論は受け付けませんわ。これでも悪役令嬢ですもの!
「お兄様、お父様の説得はお任せします」
「僕としては父上を止めずに、同行したいんだが」
「おやめください。王家を潰した後、誰がこの国の面倒を見るのですか?」
「「なるほど」」
怒りに任せて王族を排除するのは簡単ですが、その後の面倒ごとがすべて我が家に降りかかるのですよ? 各貴族家の揉め事や、他国との交渉から始まり……民の不平不満を抑え、税額を調整する。考えるだけでぞっとしますわ。そのうえ、王族だから我慢を強いられるのです。
現在時点で我慢を強いられてないとは言いませんが、今より対処する問題が増える事態は憂慮しなくてはなりません。しっかり現実を突きつけ、短慮で動かないようお父様とお兄様の手綱を握ります。お母様がいらっしゃれば、こんな苦労は……。
「お父様、お母様はどうなさいましたの?」
「一緒に行こうと暴れるので、ちょっと……閉じ込めてきた。あと馬の鞍も隠したが」
間違いなく、裸馬に跨って向かってると思われる案件です。どうしましょう、淑女の鑑として知られるお母様ですが、実はかなりお転婆だった過去をお持ちですの。裸馬を乗りこなす流浪の民の出身ですが……お父様の対応はまずかったですね。
怒り心頭でかっとんで来る……あ、玄関のベルが取れそうな勢いで鳴らされてます。これは確実に魔王陛下ではなくお母様です。怯えるお父様を放置し、私は足早に玄関へ向かいました。
「お母様……っ」
「よかった。無事ね……あの人はどこ?」
抱き締められ、軽くぼきっと音がしました。力加減が調整出来ておりませんわよ、お母様。痛む肩を撫でながら、お母様にも手短に事情を説明しました。足元がかつかつと高い音を立てるのは、足早に歩く私達の靴音です。お母様が各部屋を隈なく確認するのを、必死に追いかけました。
かつ……靴音が止まります。はあはあと肩で息をする私は、運動不足を感じておりました。鍛え直した方がいいかも知れません。朝からいい運動ですね、大量の汗が額を伝います。もう一度着替えないとダメかしら。
「いたわ」
にやりと笑うお母様は、整った顔が般若のように変化しました。この世界だと悪魔に憑りつかれたと表現すべきでしょう。奥の部屋で震えるお父様に歩み寄り、胸倉を掴みます。身長はお母様の方が低いのですが、怯えて背を丸めたお父様が引きずられました。
「お、穏便に……」
勇気を振り絞ったお兄様ですが、ぎろりと睨んだお母様の眼差しにすごすご退散です。お父様、成仏なさってくださいませ。両手を合わせて、祈るというより拝みました。
65
あなたにおすすめの小説
ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件
ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。
スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。
しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。
一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。
「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。
これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。
【完結】前世の記憶があっても役に立たないんですが!
kana
恋愛
前世を思い出したのは階段からの落下中。
絶体絶命のピンチも自力で乗り切ったアリシア。
ここはゲームの世界なのか、ただの転生なのかも分からない。
前世を思い出したことで変わったのは性格だけ。
チートともないけど前向きな性格で我が道を行くアリシア。
そんな時ヒロイン?登場でピンチに・・・
ユルい設定になっています。
作者の力不足はお許しください。
不愛想な婚約者のメガネをこっそりかけたら
柳葉うら
恋愛
男爵令嬢のアダリーシアは、婚約者で伯爵家の令息のエディングと上手くいっていない。ある日、エディングに会いに行ったアダリーシアは、エディングが置いていったメガネを出来心でかけてみることに。そんなアダリーシアの姿を見たエディングは――。
「か・わ・い・い~っ!!」
これまでの態度から一変して、アダリーシアのギャップにメロメロになるのだった。
出来心でメガネをかけたヒロインのギャップに、本当は溺愛しているのに不器用であるがゆえにぶっきらぼうに接してしまったヒーローがノックアウトされるお話。
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さくら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
悪役令嬢の私、計画通り追放されました ~無能な婚約者と傾国の未来を捨てて、隣国で大商人になります~
希羽
恋愛
「ええ、喜んで国を去りましょう。――全て、私の計算通りですわ」
才色兼備と謳われた公爵令嬢セラフィーナは、卒業パーティーの場で、婚約者である王子から婚約破棄を突きつけられる。聖女を虐げた「悪役令嬢」として、満座の中で断罪される彼女。
しかし、その顔に悲壮感はない。むしろ、彼女は内心でほくそ笑んでいた――『計画通り』と。
無能な婚約者と、沈みゆく国の未来をとうに見限っていた彼女にとって、自ら悪役の汚名を着て国を追われることこそが、完璧なシナリオだったのだ。
莫大な手切れ金を手に、自由都市で商人『セーラ』として第二の人生を歩み始めた彼女。その類まれなる才覚は、やがて大陸の経済を揺るがすほどの渦を巻き起こしていく。
一方、有能な彼女を失った祖国は坂道を転がるように没落。愚かな元婚約者たちが、彼女の真価に気づき後悔した時、物語は最高のカタルシスを迎える――。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる