【完結】ちょっと、運営はどこ? 乙女ゲームにラノベが混じってますわよ!?

綾雅(りょうが)今年は7冊!

文字の大きさ
18 / 21

18.残り物件は訳あり

しおりを挟む
 咀嚼した桃を飲み込み、ほっと一息ついてから紅茶を口に運びます。その間ずっと緊迫した様子で、私の発言を待つ家族に向き直りました。

「イアン王太子殿下は」

 ごくりと皆が喉を鳴らします。生唾を飲み込む音って、結構響くんですのね。

「リアルお人形遊びが大好きなんですの」

「はぁ?」

「人形……」

「つまり?」

 理解できなかったお父様とお兄様、眉を顰めるお母様。この国では淑女の鑑とされるお母様は、情報通です。何か思い当たることがあったようですね。眉を寄せたあと、大きく息を吐き出しました。

「殿下はよいお年になっても『お人形遊び』が大好きで、『様々な女性にドレスをプレゼントする』と聞いたことがあります。女性遊びが激しいと捉えていましたが、文字通り受け取ればよかったのですね」

「着せ替え人形がお好きなのですわ。以前にコレクションの一部を見せていただきました。その際に褒めてしまったので、趣味を理解してくれるとお考えなのです。リアルお人形として、私で着せ替えをしたいと仰っていました」

 しんと場が静まり返った。お父様は我に返ったように果物に手を伸ばし、お兄様は動揺も露わに紅茶に蜂蜜を入れます。普段はお使いにならないのにね。

 実害はないのだが、なんとも困る趣味です。いえ、着せ替え人形になれば実害はあるでしょうが……着飾ることがお好きなご令嬢をお迎えしたらいいと思います。宝石でもドレスでも、望むだけ購入してくれそうですもの。趣味を否定されると激怒しますので、そこだけ要注意でしょうか。

 ちなみに女性にプレゼントするドレスが、王太子殿下のデザインなのは言うまでもありません。あの方、意外な才能をお持ちでした。いっそ王太子の地位を降りて、デザイナーになられた方が幸せなのでは?

「……結局、良い物件は残っていないのだな」

「売れ残って申し訳ないですわ」

 うふふと口元を押さえて笑えば、お父様は複雑そうにしながらも微笑んでくださいました。

「まあ、可愛い娘がずっと居てくれるのも、父としては幸せだが」

「僕は大歓迎です」

 お兄様はお嫁さんをもらわないといけません。小姑が残るのは、お嫁さんに気が引けますね。どこか別邸か領地内の使ってないお屋敷をいただきましょう。

「お客様がお見えです。精霊王と名乗っておられますが」

 侍女がそっと声をかける。執事が客間に案内しているというので、最後の客人と対面すべく屋敷を再び移動します。靴を履き替えるのを忘れました。靴擦れが出来て、少し痛いです。

「お待たせしました」

 部屋に入った私は驚いて目を見開きました。あら、増えていらっしゃる? いえ、見覚えのある方ばかりなのですが……。

「すまない、押しかけてしまった」

 詫びるのは魔王陛下で、お隣で竜帝陛下もぺこりと頭を下げます。彼らの斜め前に立つ精霊王様が微笑んで一礼しました。

 共同戦線でしょうか。理解できない状況に、曖昧な笑みを浮かべて会釈しました。

「提案がある」

 そう切り出した精霊王様の真剣な眼差しに、椅子を勧めるのも忘れて立ったまま「どうぞ、お話になって」と応じてしまいました。淑女失格です。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

【完結】前世の記憶があっても役に立たないんですが!

kana
恋愛
前世を思い出したのは階段からの落下中。 絶体絶命のピンチも自力で乗り切ったアリシア。 ここはゲームの世界なのか、ただの転生なのかも分からない。 前世を思い出したことで変わったのは性格だけ。 チートともないけど前向きな性格で我が道を行くアリシア。 そんな時ヒロイン?登場でピンチに・・・ ユルい設定になっています。 作者の力不足はお許しください。

不愛想な婚約者のメガネをこっそりかけたら

柳葉うら
恋愛
男爵令嬢のアダリーシアは、婚約者で伯爵家の令息のエディングと上手くいっていない。ある日、エディングに会いに行ったアダリーシアは、エディングが置いていったメガネを出来心でかけてみることに。そんなアダリーシアの姿を見たエディングは――。 「か・わ・い・い~っ!!」 これまでの態度から一変して、アダリーシアのギャップにメロメロになるのだった。 出来心でメガネをかけたヒロインのギャップに、本当は溺愛しているのに不器用であるがゆえにぶっきらぼうに接してしまったヒーローがノックアウトされるお話。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さくら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

悪役令嬢の私、計画通り追放されました ~無能な婚約者と傾国の未来を捨てて、隣国で大商人になります~

希羽
恋愛
​「ええ、喜んで国を去りましょう。――全て、私の計算通りですわ」 ​才色兼備と謳われた公爵令嬢セラフィーナは、卒業パーティーの場で、婚約者である王子から婚約破棄を突きつけられる。聖女を虐げた「悪役令嬢」として、満座の中で断罪される彼女。 ​しかし、その顔に悲壮感はない。むしろ、彼女は内心でほくそ笑んでいた――『計画通り』と。 ​無能な婚約者と、沈みゆく国の未来をとうに見限っていた彼女にとって、自ら悪役の汚名を着て国を追われることこそが、完璧なシナリオだったのだ。 ​莫大な手切れ金を手に、自由都市で商人『セーラ』として第二の人生を歩み始めた彼女。その類まれなる才覚は、やがて大陸の経済を揺るがすほどの渦を巻き起こしていく。 ​一方、有能な彼女を失った祖国は坂道を転がるように没落。愚かな元婚約者たちが、彼女の真価に気づき後悔した時、物語は最高のカタルシスを迎える――。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

処理中です...