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第三章 女王ゆえの傲慢
第12話 女王の覚悟(2)
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時間がない。
美しい肢体はすでに半分ほど食われている。人間ならばとうに死ねただろう。だが魔性である彼女は、死ねなかった。魔力が尽きるまで、その命は存在し続けるのだから。
つまり、最後の骨一片、血の一滴が失われるまで――死ねない。
どれだけ苦しくても、痛くとも、死ねないのは『呪い』だった。
あの黒衣黒髪の魔性が仕掛けた『最悪の呪い』だ。死ねない魔性の特性を誰より知るからこそ、一番長く苦しめながらも助からない方法を選んだ。
だが、あの男の思惑にハマってやる理由はない。
魔力が尽きるまで死ねないなら、魔力が尽きるまでにたどり着ければ助けられる――ということ。
「まだか!?」
「あと少しだ」
己の身を引き換えても! 覚悟を決めた数百の魔性たちがたどり着いた先。
彼女はまだ『残っていた』。
食べ尽くされず、胴体の半分ほどと顎から下、左手の指が数本。
「間に合った!!」
叫んで手を伸ばす側近だった男が、「なっ!」と叫んで息を呑む。
見える位置に彼女は横たわる。もう悲鳴を上げることすら出来ず、血塗れの豊かな胸は少しだけ動いていた。まだ彼女は死んでいない。
なのに――。
ああ、絶望を深める為だけに。そのためだけに、あの男は『尽くす手数を残した』のだ。
伸ばした手の先は、見えない何かに阻まれた。
魔力を叩きつけても、風や水をぶつけても壊れない『何か』――あの死神が立っていた魔法円だ。あの魔法円は彼を守る物ではなく、閉じた空間への侵入者による干渉を防ぐ目的で設置された。
「とどか、ない……?」
「ヴィレイシェ様!!」
「何とかならないのか?!」
叫ぶ魔性たちの目の前で、彼女は少しずつ小さくなっていく。届かない指をあざ笑うように、実力のない彼らを罰するように。
最後の一滴、一片が食べ尽くされるまで――。
「覚悟もなく手を出すからだ、アイツと戦うなんて……おれだってゾッとする」
己のために作り出した空間で、赤毛の青年は苦笑いする。
ヴィレイシェがジル――いや、ジフィールを拉致したときから、ずっと監視していた。それこそが彼の役目だ。
世界を監視して、記録するだけの存在。
「うーん、彼女は何を望んだんでしょう?」
向かいのソファでくつろぐ少年は金髪を揺らして首を傾げた。
貴族の邸宅の一室を思わせる部屋は、豪華だが上品な調度品が並ぶ。装飾過多なソファは金の彫刻が施され、深紅色の布を張られた美しい作品だった。華奢な猫足が目を引く。名のある職人の作品か。
全体にワインレッドを中心とした部屋は、アイボリーの壁に大きな鏡がかけられている。縁がゆらゆらと揺れて見える様は、水に写した鏡を髣髴とさせた。
猫足のソファで笑う赤毛の青年が、薄い水色の瞳を細める。
「ジルを好きだったんだろ、自覚がなかったみたいだが……復活したのに無視されて暴走したって感じか」
勝手な想像を呟きながら、彼らは目の前の鏡に視線を戻した。
――いくつもの視線の先で、女王と呼ばれた上級魔性は消えた。
美しい肢体はすでに半分ほど食われている。人間ならばとうに死ねただろう。だが魔性である彼女は、死ねなかった。魔力が尽きるまで、その命は存在し続けるのだから。
つまり、最後の骨一片、血の一滴が失われるまで――死ねない。
どれだけ苦しくても、痛くとも、死ねないのは『呪い』だった。
あの黒衣黒髪の魔性が仕掛けた『最悪の呪い』だ。死ねない魔性の特性を誰より知るからこそ、一番長く苦しめながらも助からない方法を選んだ。
だが、あの男の思惑にハマってやる理由はない。
魔力が尽きるまで死ねないなら、魔力が尽きるまでにたどり着ければ助けられる――ということ。
「まだか!?」
「あと少しだ」
己の身を引き換えても! 覚悟を決めた数百の魔性たちがたどり着いた先。
彼女はまだ『残っていた』。
食べ尽くされず、胴体の半分ほどと顎から下、左手の指が数本。
「間に合った!!」
叫んで手を伸ばす側近だった男が、「なっ!」と叫んで息を呑む。
見える位置に彼女は横たわる。もう悲鳴を上げることすら出来ず、血塗れの豊かな胸は少しだけ動いていた。まだ彼女は死んでいない。
なのに――。
ああ、絶望を深める為だけに。そのためだけに、あの男は『尽くす手数を残した』のだ。
伸ばした手の先は、見えない何かに阻まれた。
魔力を叩きつけても、風や水をぶつけても壊れない『何か』――あの死神が立っていた魔法円だ。あの魔法円は彼を守る物ではなく、閉じた空間への侵入者による干渉を防ぐ目的で設置された。
「とどか、ない……?」
「ヴィレイシェ様!!」
「何とかならないのか?!」
叫ぶ魔性たちの目の前で、彼女は少しずつ小さくなっていく。届かない指をあざ笑うように、実力のない彼らを罰するように。
最後の一滴、一片が食べ尽くされるまで――。
「覚悟もなく手を出すからだ、アイツと戦うなんて……おれだってゾッとする」
己のために作り出した空間で、赤毛の青年は苦笑いする。
ヴィレイシェがジル――いや、ジフィールを拉致したときから、ずっと監視していた。それこそが彼の役目だ。
世界を監視して、記録するだけの存在。
「うーん、彼女は何を望んだんでしょう?」
向かいのソファでくつろぐ少年は金髪を揺らして首を傾げた。
貴族の邸宅の一室を思わせる部屋は、豪華だが上品な調度品が並ぶ。装飾過多なソファは金の彫刻が施され、深紅色の布を張られた美しい作品だった。華奢な猫足が目を引く。名のある職人の作品か。
全体にワインレッドを中心とした部屋は、アイボリーの壁に大きな鏡がかけられている。縁がゆらゆらと揺れて見える様は、水に写した鏡を髣髴とさせた。
猫足のソファで笑う赤毛の青年が、薄い水色の瞳を細める。
「ジルを好きだったんだろ、自覚がなかったみたいだが……復活したのに無視されて暴走したって感じか」
勝手な想像を呟きながら、彼らは目の前の鏡に視線を戻した。
――いくつもの視線の先で、女王と呼ばれた上級魔性は消えた。
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