【完結】帝国滅亡の『大災厄』、飼い始めました

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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第二十章 愛し愛される資格

第87話 螺旋の風が止まるとき(1)

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「早くしないと」

 パウリーネは大きな氷を作って砕いていく。隣でリシュアが砕く手伝いに風を叩きつけた。粉砕された氷が結界の中に詰められていく。上質の魔方陣が作り出した結界の氷球を幾つも並べ、パウリーネは大きく息をついた。

「リオネルから連絡は?」

「まだです」

 ジルの契約者、至上の宝であるルリアージェを攫ったのは、間違いなく風の魔王ラーゼン本人だ。大切な主を彼が傷つけない保証はなかった。ましてや風の魔王ラーゼンが動くなら、その原因は火の魔王マリニス絡みしかない。

 直情的なマリニスが、ルリアージェに接触する前に助ける必要があった。彼女自身に恨みはなくとも、マリニスは白炎のリオネルや死神ジフィールを恨んでいる。直接手が出せない実力者を最も傷つける方法として、ルリアージェは最上の人質だった。

「もう少し作るわよ」

 魔方陣を転写して氷を流し込む。無言で手伝うリシュアの苛立ちに、風が乱れながら氷を切り刻んだ。共同作業を無心に行う2人は、苛立ちや心配を魔力に流し込みながら表情を歪める。黒い城の広間に浮かんだ大量の氷球が、頭上から降り注ぐステンドグラスに輝いた。

「ダメね。追いきれないわ」

 ルリアージェの居場所を探っていたライラが戻ってくる。大地の精霊王である父親達が封じられた緑柱石まで使って、大地との接点を大陸中に飛ばしたが、ルリアージェの痕跡がない。もしかしたら何らかの封印か、大地が触れない場所に閉じ込められた可能性があった。

 空中に囚われたなら、風の魔王ラーゼンの結界越しではライラの力は及ばない。悔しそうに次の手段を模索するライラは、長い三つ編みを解いてひとつ息を吐いた。

「悪いけれど、しばらくわ。結界をお願い」

「氷の棺でよければ」

「お願いね」

 パウリーネの申し出に頷いたライラが床に横たわる。その身をあっという間に氷が包み込んだ。パウリーネが表現したとおり、棺にしか見えない。精霊王の娘であるライラは、他の魔族と違う能力をもつ。精霊として身体を脱ぎ捨てることで、隠されたすべての場所に到達できるのだ。

 本体を傷つけられると強制的に引き戻されるが、精霊である間は距離も時間も超越して動けるため、彼女にとって危険と隣り合わせの切り札だった。

 この氷は自然に溶けることはなく、高い魔力で砕くしかない安全な入れ物だ。その上に魔力を指定する魔方陣を刻む。これでライラ本人とパウリーネ以外の魔力を受け付けなくなった。作業が終わると、氷静のパウリーネの名に似合いの青い瞳を細める。

「ジル様……間に合ったかしら」
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