338 / 386
第二十一章 寿命という概念
第92話 朝食前は甘い蜜を
しおりを挟む
「なぜお前しかいないんだ?」
「全員オレ達より早く起きたんじゃないかな」
にっこりと笑顔で推測を述べるが、その言葉は間違っている。全員追い出したのだが、そんなことを白状するような男ではなかった。
部屋中がベッドだらけ、それもベッド同士をくっつけたため、部屋一面がベッド状態の一室は明るい。窓から朝日が差し込み、普段ならとうに起きている時間を示していた。
寝過ごした原因は、肌に朝日が当たらなかったことだ。窓際のベッドで日差しが顔にかかると、眩しさで起きる彼女にとって目覚まし代わりの日差しが、部屋の中央付近まで届かなかった。寝すぎたことで怠い身を起こし、額に手をついて溜め息を吐く。
「お前と知り合ってから自堕落になった」
「うん」
「わかっているのか?」
「ああ」
「こうやって寝過ごすなど、怠惰の極みだ」
「問題ないぞ」
「大ありだ! 宮廷魔術師だった頃は時間をきっちり守るのが自慢だった」
「ふーん」
合いの手を入れるジルは、満面の笑みで寝転がっている。まだ起きる気はないようで、ルリアージェの膝の上に頭を乗せて、腰に手を回した。自分たちの格好が外からどう見えるか、理解しているジルと理解していないルリアージェの間には深い溝がある。
「時間を守る必要なんて今はないだろ」
「……まあ、そうだが」
誰かと約束して慌てることも、仕事の時間に追われることもなくなった。追手がかかっていたのも、サークレラ国の公爵夫人という肩書でリシュアが黙らせたらしい。指名手配すら解除させたのだから、どんな脅しをかけたのか怖くて聞けなかった。
「オレはリアとのんびり過ごせたら満足だけど、リアは違うのか?」
そう問われると答えられない。のんびりした今の生活に不満はない。自分を大切にしてくれる人達が心を砕いてくれ、食べ物や寝る場所にも困らなかった。たまに襲撃されたりもしたが、危険な目にあっても彼らと離れようと思わない。
……何より、この男を好きなのだ。
悔しいような複雑な気分だが、この男と一緒にいたい。恋愛音痴な自分でもわかるくらい、恋愛の分類として好きだった。だから何も不満はないのだが認めるのも癪だ。
「どうだろう」
ちょっと意地悪な気持ちになって突き放すと、腰に絡みついたジルの腕に力がこもった。怪訝に思う間もなく、ゴロンとベッドに転がされる。上に乗り上げたジルの長い髪が、ルリアージェとジルの顔を隠した。
「本気で言ってるなら、意見を変えてもらう必要があるな」
くすくす笑う声が聞こえるから、怖くはなくて「どう教える気だ?」と挑発してしまった。後で悔いる行為だが、この時は売り言葉に買い言葉で。
「目を……閉じて」
言葉に従ったルリアージェの唇に、ジルのそれが重なる。舌で辿るようにされ、溺れる錯覚に口が緩んだ。そこを見逃さず入り込まれた舌が上あごの裏を丹念に辿る。呼吸が苦しくて、どこか甘い感覚に意識が絡めとられ……ルリアージェはいつの間にか終わった接吻けに、ぼんやりと目の前の男を見上げた。
黒髪が作る影に慣れた目が、ぺろりと自分の唇を舐めるジルの赤い舌を追う。口の端を伝う唾液を、ジルはちゅっと音を立てて拭った。再び触れた唇の感触に「ぁ……っ」と甘い声が漏れる。
「襲っちゃうぞ」
茶化したジルが苦しそうに眉根を寄せる。
「襲わせないわよ!!」
飛び込んだライラがドアを乱暴に開ける音で、ルリアージェは夢のような時間から覚めた。慌てて離れようとしてベッドの隙間に滑り落ちる。手を伸ばして支えようとしたジルも半分ほど落ち、ライラを押さえようとしたリオネルが吹き出した。
飛びこんだリシュアが手を貸してベッドの上に座ると、ルリアージェも声を立てて笑う。邪魔をされたジルがライラの三つ編みを引っ張り、呆れ顔のパウリーネが口をはさんだ。
「朝ごはんですわ。馬に蹴られますわよ」
後半はライラに向けた言葉だが、肩を竦めたジルが「オレが先に蹴飛ばす」と宣言した。騒がしい海辺の別荘は、今日も穏やかな日差しが降り注いでいた。
「全員オレ達より早く起きたんじゃないかな」
にっこりと笑顔で推測を述べるが、その言葉は間違っている。全員追い出したのだが、そんなことを白状するような男ではなかった。
部屋中がベッドだらけ、それもベッド同士をくっつけたため、部屋一面がベッド状態の一室は明るい。窓から朝日が差し込み、普段ならとうに起きている時間を示していた。
寝過ごした原因は、肌に朝日が当たらなかったことだ。窓際のベッドで日差しが顔にかかると、眩しさで起きる彼女にとって目覚まし代わりの日差しが、部屋の中央付近まで届かなかった。寝すぎたことで怠い身を起こし、額に手をついて溜め息を吐く。
「お前と知り合ってから自堕落になった」
「うん」
「わかっているのか?」
「ああ」
「こうやって寝過ごすなど、怠惰の極みだ」
「問題ないぞ」
「大ありだ! 宮廷魔術師だった頃は時間をきっちり守るのが自慢だった」
「ふーん」
合いの手を入れるジルは、満面の笑みで寝転がっている。まだ起きる気はないようで、ルリアージェの膝の上に頭を乗せて、腰に手を回した。自分たちの格好が外からどう見えるか、理解しているジルと理解していないルリアージェの間には深い溝がある。
「時間を守る必要なんて今はないだろ」
「……まあ、そうだが」
誰かと約束して慌てることも、仕事の時間に追われることもなくなった。追手がかかっていたのも、サークレラ国の公爵夫人という肩書でリシュアが黙らせたらしい。指名手配すら解除させたのだから、どんな脅しをかけたのか怖くて聞けなかった。
「オレはリアとのんびり過ごせたら満足だけど、リアは違うのか?」
そう問われると答えられない。のんびりした今の生活に不満はない。自分を大切にしてくれる人達が心を砕いてくれ、食べ物や寝る場所にも困らなかった。たまに襲撃されたりもしたが、危険な目にあっても彼らと離れようと思わない。
……何より、この男を好きなのだ。
悔しいような複雑な気分だが、この男と一緒にいたい。恋愛音痴な自分でもわかるくらい、恋愛の分類として好きだった。だから何も不満はないのだが認めるのも癪だ。
「どうだろう」
ちょっと意地悪な気持ちになって突き放すと、腰に絡みついたジルの腕に力がこもった。怪訝に思う間もなく、ゴロンとベッドに転がされる。上に乗り上げたジルの長い髪が、ルリアージェとジルの顔を隠した。
「本気で言ってるなら、意見を変えてもらう必要があるな」
くすくす笑う声が聞こえるから、怖くはなくて「どう教える気だ?」と挑発してしまった。後で悔いる行為だが、この時は売り言葉に買い言葉で。
「目を……閉じて」
言葉に従ったルリアージェの唇に、ジルのそれが重なる。舌で辿るようにされ、溺れる錯覚に口が緩んだ。そこを見逃さず入り込まれた舌が上あごの裏を丹念に辿る。呼吸が苦しくて、どこか甘い感覚に意識が絡めとられ……ルリアージェはいつの間にか終わった接吻けに、ぼんやりと目の前の男を見上げた。
黒髪が作る影に慣れた目が、ぺろりと自分の唇を舐めるジルの赤い舌を追う。口の端を伝う唾液を、ジルはちゅっと音を立てて拭った。再び触れた唇の感触に「ぁ……っ」と甘い声が漏れる。
「襲っちゃうぞ」
茶化したジルが苦しそうに眉根を寄せる。
「襲わせないわよ!!」
飛び込んだライラがドアを乱暴に開ける音で、ルリアージェは夢のような時間から覚めた。慌てて離れようとしてベッドの隙間に滑り落ちる。手を伸ばして支えようとしたジルも半分ほど落ち、ライラを押さえようとしたリオネルが吹き出した。
飛びこんだリシュアが手を貸してベッドの上に座ると、ルリアージェも声を立てて笑う。邪魔をされたジルがライラの三つ編みを引っ張り、呆れ顔のパウリーネが口をはさんだ。
「朝ごはんですわ。馬に蹴られますわよ」
後半はライラに向けた言葉だが、肩を竦めたジルが「オレが先に蹴飛ばす」と宣言した。騒がしい海辺の別荘は、今日も穏やかな日差しが降り注いでいた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ
O.T.I
ファンタジー
かつて王国騎士団にその人ありと言われた剣聖ジスタルは、とある事件をきっかけに引退して辺境の地に引き籠もってしまった。
それから時が過ぎ……彼の娘エステルは、かつての剣聖ジスタルをも超える剣の腕を持つ美少女だと、辺境の村々で噂になっていた。
ある時、その噂を聞きつけた辺境伯領主に呼び出されたエステル。
彼女の実力を目の当たりにした領主は、彼女に王国の騎士にならないか?と誘いかける。
剣術一筋だった彼女は、まだ見ぬ強者との出会いを夢見てそれを了承するのだった。
そして彼女は王都に向かい、騎士となるための試験を受けるはずだったのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる