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45.いかに特別な子か(SIDEセティ)
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*****SIDE セティ
イシスを膝に乗せて座ることで、この子がいかに特別かを示す。神が自ら選び取った供物なのだ。死と破壊を司るタイフォンに捧げる贄は、花嫁を意味した。知らずに選んだとはいわせない。
大司教に調べさせた結果は、最悪だった。豊穣の神アトゥムを信仰する隣国を目の敵にするこの国は、愚かにもオレの力を頼ろうとした。古に定められた贄を捧げ、神に娶られた子供を通じて願いを通そうとする。方法として、確かに神に声は届くだろう。
贄となる子は純粋で、神の色を持つことが条件だった。イシス以上に、条件を満たす子供は存在しない。この子の声はどこにいても届くのだから。
しばらく洞窟で飼ったが、神の反応がない。無駄な金がかかる贄を殺したいが、選んでしまった以上神の持ち物だ。勝手に殺すわけにもいかず放置した。その結果が洞窟の神殿の有り様だ。神の花嫁に教育もまともな住環境も与えず、食料を制限し、虐待した。
オレが神殿を離れて旅をしていた所為もあるが、イシスが祈りの形を知らなかったことも大きく影響した。何も知らない子供は、祈ることすらしなかった。ただ与えられる環境と物を受け取りながら生きるだけ。だから祈らない贄の声は、神に届かなかった。
元凶はこの国だが、この子を贄として差し出したのは属国のティターンだ。さて、どちらから先に滅ぼすのが正しいか。
目を細めて視線をやれば、イシスは絵本の表紙を凝視していた。タイフォンの神話が描かれてた絵本は、長い黒髪と紫の瞳のオレの過去の一部だ。国王の始祖となった男を従え、他国の侵略を食い止めた英雄譚だった。
オレは単に飛んでくる火の粉を払っただけだ。勝手に隣で戦った男がその後国を興した。だが人間は常に自分に都合のよい話を残していく。死者を司る面もあるため、わざわざ死人の名誉を穢す気もなく放置したら、いつの間にか真実として伝わってしまった。
懐かしい逸話を、嬉しそうに見つめる。気が向いて表紙を捲った。イシスの心が少し曇る。もう1枚捲ると、目を輝かせた。なるほど、神官と同じ白い服が気に入らなかったらしい。次のページは今と同じ青い服で、傍目に分かるほどイシスの表情が明るくなった。
まだ痩せすぎの哀れな子供は、飴を舐めながら足を揺らす。まるで動物の尻尾のようだ。この子ならば尻尾や獣耳を付けても可愛いだろう。試すなら何の動物が似合うか。兎、いや……尻尾を揺らすなら犬。くたりと柔らかく身を預けて膝に乗る姿から、猫も似合うと口元を緩めた。
揃いの青い服の下は、美しい赤い痕を刻んである。痣などという無粋な痕跡ではなく、ただただ愛しいと示すための印だ。この子はまだ意味を知らないが、これからゆっくり教えていけばいい。オレから離れられないよう、心にも身体にもオレを刻みつけてやろう。
話半分に聞いた大司教の声が途切れるのを待って、オレは顔を上げた。自分でページを捲っていたイシスが、ほっと息をつく。読み終えた本から顔を上げた途端、怯えたように身を硬くした。司教の白い衣に身を包んだ男が、イシスを睨みつける。その醜い心にオレの眉が寄った。
イシスを膝に乗せて座ることで、この子がいかに特別かを示す。神が自ら選び取った供物なのだ。死と破壊を司るタイフォンに捧げる贄は、花嫁を意味した。知らずに選んだとはいわせない。
大司教に調べさせた結果は、最悪だった。豊穣の神アトゥムを信仰する隣国を目の敵にするこの国は、愚かにもオレの力を頼ろうとした。古に定められた贄を捧げ、神に娶られた子供を通じて願いを通そうとする。方法として、確かに神に声は届くだろう。
贄となる子は純粋で、神の色を持つことが条件だった。イシス以上に、条件を満たす子供は存在しない。この子の声はどこにいても届くのだから。
しばらく洞窟で飼ったが、神の反応がない。無駄な金がかかる贄を殺したいが、選んでしまった以上神の持ち物だ。勝手に殺すわけにもいかず放置した。その結果が洞窟の神殿の有り様だ。神の花嫁に教育もまともな住環境も与えず、食料を制限し、虐待した。
オレが神殿を離れて旅をしていた所為もあるが、イシスが祈りの形を知らなかったことも大きく影響した。何も知らない子供は、祈ることすらしなかった。ただ与えられる環境と物を受け取りながら生きるだけ。だから祈らない贄の声は、神に届かなかった。
元凶はこの国だが、この子を贄として差し出したのは属国のティターンだ。さて、どちらから先に滅ぼすのが正しいか。
目を細めて視線をやれば、イシスは絵本の表紙を凝視していた。タイフォンの神話が描かれてた絵本は、長い黒髪と紫の瞳のオレの過去の一部だ。国王の始祖となった男を従え、他国の侵略を食い止めた英雄譚だった。
オレは単に飛んでくる火の粉を払っただけだ。勝手に隣で戦った男がその後国を興した。だが人間は常に自分に都合のよい話を残していく。死者を司る面もあるため、わざわざ死人の名誉を穢す気もなく放置したら、いつの間にか真実として伝わってしまった。
懐かしい逸話を、嬉しそうに見つめる。気が向いて表紙を捲った。イシスの心が少し曇る。もう1枚捲ると、目を輝かせた。なるほど、神官と同じ白い服が気に入らなかったらしい。次のページは今と同じ青い服で、傍目に分かるほどイシスの表情が明るくなった。
まだ痩せすぎの哀れな子供は、飴を舐めながら足を揺らす。まるで動物の尻尾のようだ。この子ならば尻尾や獣耳を付けても可愛いだろう。試すなら何の動物が似合うか。兎、いや……尻尾を揺らすなら犬。くたりと柔らかく身を預けて膝に乗る姿から、猫も似合うと口元を緩めた。
揃いの青い服の下は、美しい赤い痕を刻んである。痣などという無粋な痕跡ではなく、ただただ愛しいと示すための印だ。この子はまだ意味を知らないが、これからゆっくり教えていけばいい。オレから離れられないよう、心にも身体にもオレを刻みつけてやろう。
話半分に聞いた大司教の声が途切れるのを待って、オレは顔を上げた。自分でページを捲っていたイシスが、ほっと息をつく。読み終えた本から顔を上げた途端、怯えたように身を硬くした。司教の白い衣に身を包んだ男が、イシスを睨みつける。その醜い心にオレの眉が寄った。
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