【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
236 / 321

234.全能神に押し付けてやるさ(SIDEセティ)

しおりを挟む
*****SIDE セティ



 優しいイシスがいなければ、オレはガキどもを無視して素通りしただろう。助けてやる義理はない。信者かどうかではなく、興味がなかった。お腹が空くのはつらい、過去の経験で知るイシスが心を痛めるなら、何とかしてやるのは伴侶の役目だろう。

 この子達に一時しのぎの食事を与えるのは、逆に可哀想だ。そう告げたのは屋台の店主だった。残飯を漁るのを許してやり、客の食べ残しを別のゴミ箱に捨てる。それを施すので手いっぱいなのだ。彼らなりに孤児や浮浪児を見守っていた。

 子どもの誘拐が多いこちらの大陸で、これだけの子どもが無事なのは屋台の店主達のお陰だろう。施すのなら、今後も続く形にしてやる必要があった。金を与えて養わせる。それもひとつの手だが、いずれは破綻する。ならば……続く形を世界に焼き付ければいい。

「こういうのはガイアの方が得意なんだが」

 苦笑いしてイシスの後ろを歩く。手を繋いで一歩先を歩くイシスの手が揺れるたび、オレがどれだけ満たされているか。時々不安そうに振り返って、オレを見て笑う顔にどれだけ救われるか。イシスは気づかない。

 今にも崩れそうな低い屋根のあばら家が続く一角で、案内する子どもが足を止めた。中を指さす。だからお礼のパンを渡して、ノックするイシスを見守った。パンを貰った子もすぐにいなくならず、不安そうに中を窺っている。

「うわっ、なんだよ! パンはくれたんだろ」

 取り返されると思ったらしい。子どもは叫んで扉を閉めようとした。イシスが手を挟む前に、手で押し開く。慌てて奥へ逃げ込むが、僅かなスペースしかない部屋の中は一望できた。母親らしき女性が何とか身を起こそうとしている。

「動かないで。具合が悪い時は動いちゃダメ」

 イシスが駆け寄る。手が離れてしまったので屈んで中に入り、泥を固めた地面むき出しの床に片膝をついた。むんとした臭いは、病人の体を清潔に保っていないためだ。

「あの、うちの子が何か……先ほどのパンでしたら」

「ああ、違う。心配させて済まない。あのパンは、この子が自分の分を持ち帰ったから心配いらない」

 取り返したりしないと言われ、ほっとした様子で女性は体の力を抜いた。地面に枯草を敷いただけの寝床は不衛生で硬い。病人を寝かせる場所じゃないな。周囲の建物も似たような形状だったので、どこも同じか。

「セティ、僕の食べ物をあげたい」

「それはいいが、今後のために手を打とうか」

 きょとんとした顔で両手を持ち上げて、ぱちんと叩くイシスに噴き出した。言葉を文字通りに受け取った可愛い伴侶の頬にキスをして、手元に引き寄せる。こちらの大陸は、胸糞悪い全能神のじじいの管轄だった。だからガイアも手出しして来なかったが、今後のために苦労を押し付けてやろう。

 弱い神々を守るためだと言って大陸を分割し、様々な制約を設けたんだ。その責任はしっかり取ってもらうぞ。にやりと口角を持ち上げたオレの頬に、イシスがキスをする。

「ん?」

「お返し」

 可愛いことを口にする唇を奪いたいが、人前ではダメだ。キスの後の可愛い顔を誰かに見せたくないからな。迷った末に額にキスをして、茫然と見守る一家に提案をした。

「慈善事業に付きあう気はあるか? もっといい生活が出来るようになるし、食事も貰える。病の治療もしてやろう。もちろん金や子どもを奪ったりしない」
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました

水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。 新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。 それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。 「お前は俺の運命の番だ」 彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。 不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。 ◆お友達の花々緒さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。 ◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。

「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される

水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。 絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。 長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。 「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」 有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。 追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。 ⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

婚約破棄されてヤケになって戦に乱入したら、英雄にされた上に美人で可愛い嫁ができました。

零壱
BL
自己肯定感ゼロ×圧倒的王太子───美形スパダリ同士の成長と恋のファンタジーBL。 鎖国国家クルシュの第三王子アースィムは、結婚式目前にして長年の婚約を一方的に破棄される。 ヤケになり、賑やかな幼馴染み達を引き連れ無関係の戦場に乗り込んだ結果───何故か英雄に祭り上げられ、なぜか嫁(男)まで手に入れてしまう。 「自分なんかがこんなどちゃくそ美人(男)を……」と悩むアースィム(攻)と、 「この私に不満があるのか」と詰め寄る王太子セオドア(受)。 互いを想い合う二人が紡ぐ、恋と成長の物語。 他にも幼馴染み達の一抹の寂寥を切り取った短篇や、 両想いなのに攻めの鈍感さで拗れる二人の恋を含む全四篇。 フッと笑えて、ギュッと胸が詰まる。 丁寧に読みたい、大人のためのファンタジーBL。 他サイトでも公開しております。 表紙ロゴは零壱の著作物です。

処理中です...