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8.言葉が通じるだけで泣けちゃう
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この世界が以前いた世界と違うこと。魔法がある世界ということ。異世界に迷い込んだ私は、前の世界で行方不明になっていること。最後に私のリュックや荷物はあの国ががめたこと。
周囲の国々の関係や歴史、様々な情報が頭の中を駆け巡り、やがて隙間を詰めるように埋めていく。
「何だったの」
激しい頭痛の治った私を抱き締める奥様が、優しく髪を梳いた。気持ちいい。
「契約は成立、これで私の娘よ」
「正確には主人でしょう」
「いいの! 娘とお母さんがいいのよ」
奥様の主張に笑ってしまった。この人達、聖獣だ。この世界の秩序を保つ存在で、聖女の守護者だった。
「違うわ、私達が契約した子が聖女になるの」
順番が逆よと指摘され、頷きかけて首を傾げた。私、今口に出したかしら?
「ああ、聞こえちゃうのよ。耳を澄ませたら私の心も覗けるわ」
そう言われると興味が湧く。どきどきしながら奥様を見つめる。目を合わせたら流れ込んできたのは「どうしましょう、可愛くて困っちゃう。他の聖獣にバレないように隠さなくちゃ。でもサラちゃんは可愛いから、いっぱい従えちゃうわよね」という、反応に困る内容だった。
褒め殺すってこういう場合に使うのかも。恥ずかしくて両手で頬を包む。くすくす笑う奥様の横で、アランさんが手を差し伸べた。
「僕とも契約していただけますか」
「間に合ってるわ」
「奥様に尋ねていません」
「いいよ」
返事をしたら、嬉しそうにアランさんが私の手を握る。明らかに小さな手を包むように、大切そうに頬に押し当てた。彼が作り出した魔法陣は奥様のと光の色が違う。奥様は金色っぽかったけど、アランさんは薄い水色だった。
ぶわっと全身を包むひんやりした空気の後、前回と同じ声が宣言する。
『契約は成った』
これ、毎回同じ文言なの? それって手抜きじゃん。思うけど、口にしないのが大人。今は子どもだけど。そういう名探偵いたよね。アニメはあまり観ないけど、たまに帰宅した時間に目にした。推理小説は好きだから、観始めちゃうと最後まで止まらなくて。
「これで言葉も気持ちも通じます。よろしくお願いしますね」
「あ、うん……ん? 言葉が通じるの?」
「ええ、理解できるようになったわ」
「こちらの世界と繋がる接点が必要で、契約により我々と繋がった影響でしょうね」
奥様とアランさん、どちらも私の言葉を理解してる。それだけで嬉しくて、涙が溢れた。だって、誰も私の言ったことを理解してくれなかったら、一人ぼっちと同じ。今まで日本で暮らしてきて、言葉が通じない恐怖なんてなかった。平和な日常がどれだけ恵まれていたのか。
「あらあら」
奥様が私を引き寄せて、アランさんが涙を拭いてくれる。その優しさが沁みて、涙が止まらなくなった。
「アラン、馬車の方は平気?」
「僕を追い出すおつもりですか。はぁ」
溜め息をついて文句を言うのに、アランさんは外へ飛び出した。まだ走ってる馬車のドアを開けて、黒い獣が走っていく。馬が嘶いてスピードが落ち、アランさんの声が聞こえた。
「もうすぐバーベナに着きます。準備してください」
「問題ないわ」
パチンと指を鳴らした奥様が、何かを取り出す。それを私の手に握らせた。
「街に入るまで声を出さず、これを握っていてね。サラちゃんの身分証がまだないのよ」
「あ、わかった」
受け取ってしっかり握る。これって不法入国みたいな感じだよね? でも異世界人に分類される私が、身分証なんて持ってるわけない。奥様は作ってくれるみたいだから、大人しくしてなくちゃ。模様が描かれた札のような紙を握り、私は息を殺した。
「サラちゃん、上手だけど息はしててね」
ふふっと笑う奥様に緊張は見られなくて、私も笑ってしまった。馬車が数台並ぶ列の後ろにつき、減速して止まる。どきどきしながら、札を何度も確かめた。
周囲の国々の関係や歴史、様々な情報が頭の中を駆け巡り、やがて隙間を詰めるように埋めていく。
「何だったの」
激しい頭痛の治った私を抱き締める奥様が、優しく髪を梳いた。気持ちいい。
「契約は成立、これで私の娘よ」
「正確には主人でしょう」
「いいの! 娘とお母さんがいいのよ」
奥様の主張に笑ってしまった。この人達、聖獣だ。この世界の秩序を保つ存在で、聖女の守護者だった。
「違うわ、私達が契約した子が聖女になるの」
順番が逆よと指摘され、頷きかけて首を傾げた。私、今口に出したかしら?
「ああ、聞こえちゃうのよ。耳を澄ませたら私の心も覗けるわ」
そう言われると興味が湧く。どきどきしながら奥様を見つめる。目を合わせたら流れ込んできたのは「どうしましょう、可愛くて困っちゃう。他の聖獣にバレないように隠さなくちゃ。でもサラちゃんは可愛いから、いっぱい従えちゃうわよね」という、反応に困る内容だった。
褒め殺すってこういう場合に使うのかも。恥ずかしくて両手で頬を包む。くすくす笑う奥様の横で、アランさんが手を差し伸べた。
「僕とも契約していただけますか」
「間に合ってるわ」
「奥様に尋ねていません」
「いいよ」
返事をしたら、嬉しそうにアランさんが私の手を握る。明らかに小さな手を包むように、大切そうに頬に押し当てた。彼が作り出した魔法陣は奥様のと光の色が違う。奥様は金色っぽかったけど、アランさんは薄い水色だった。
ぶわっと全身を包むひんやりした空気の後、前回と同じ声が宣言する。
『契約は成った』
これ、毎回同じ文言なの? それって手抜きじゃん。思うけど、口にしないのが大人。今は子どもだけど。そういう名探偵いたよね。アニメはあまり観ないけど、たまに帰宅した時間に目にした。推理小説は好きだから、観始めちゃうと最後まで止まらなくて。
「これで言葉も気持ちも通じます。よろしくお願いしますね」
「あ、うん……ん? 言葉が通じるの?」
「ええ、理解できるようになったわ」
「こちらの世界と繋がる接点が必要で、契約により我々と繋がった影響でしょうね」
奥様とアランさん、どちらも私の言葉を理解してる。それだけで嬉しくて、涙が溢れた。だって、誰も私の言ったことを理解してくれなかったら、一人ぼっちと同じ。今まで日本で暮らしてきて、言葉が通じない恐怖なんてなかった。平和な日常がどれだけ恵まれていたのか。
「あらあら」
奥様が私を引き寄せて、アランさんが涙を拭いてくれる。その優しさが沁みて、涙が止まらなくなった。
「アラン、馬車の方は平気?」
「僕を追い出すおつもりですか。はぁ」
溜め息をついて文句を言うのに、アランさんは外へ飛び出した。まだ走ってる馬車のドアを開けて、黒い獣が走っていく。馬が嘶いてスピードが落ち、アランさんの声が聞こえた。
「もうすぐバーベナに着きます。準備してください」
「問題ないわ」
パチンと指を鳴らした奥様が、何かを取り出す。それを私の手に握らせた。
「街に入るまで声を出さず、これを握っていてね。サラちゃんの身分証がまだないのよ」
「あ、わかった」
受け取ってしっかり握る。これって不法入国みたいな感じだよね? でも異世界人に分類される私が、身分証なんて持ってるわけない。奥様は作ってくれるみたいだから、大人しくしてなくちゃ。模様が描かれた札のような紙を握り、私は息を殺した。
「サラちゃん、上手だけど息はしててね」
ふふっと笑う奥様に緊張は見られなくて、私も笑ってしまった。馬車が数台並ぶ列の後ろにつき、減速して止まる。どきどきしながら、札を何度も確かめた。
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