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9.これが大岡裁きってやつね
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あっさりと、驚くほどすんなり門を通過した。街を囲む塀も低くて、子どもじゃ無理だけど大人は飛び越せるくらい。つまり危険度は少ない都市なのね。窓から景色を見る私を、誰も気づかないみたいだった。門番の人も、アランさんが開けた扉の中にいた奥様に一礼して、私を見ないで扉を閉めたし。
この札、よくわからないけど凄い効果だな。お守り程度に思ってたけど、透明人間になれてるのかも!
「ふふっ、透明じゃないけど。存在を薄くする魔法なのよ」
動き出した馬車の中で、奥様が種明かしをしてくれた。いると思って見たらバレるけど、知らなければ見えなくなる。門番は「目に見える人が乗客」と思ってるから、私に気づかなかったわけか。乗客が二人いると思って眺めたら、私に気付いたんだよね。思ったより危なかった。
音や声を立てないように言われたのは、このせいだったみたい。馬車は宿が立ち並ぶ通りを抜けて、街の中心部へ進む。どの家も玄関や窓に花を飾っていて、とても綺麗だった。札を手放した私は窓から身を乗り出し、周囲を眺める。イタリアとかスペイン辺りの風景に近いかな。
前世の記憶は、徐々に曖昧になってきていた。それでも絵葉書で見た記憶がある。
「絵葉書……手紙に絵をつけるのね。それ、とてもお洒落だわ。流行りそうだもの」
「そういうの、ないんですか」
「普通に話してちょうだい。娘なのよ?」
笑う奥様に釣られて笑い、頷いた。娘にやたら拘るけど、何かあるのかな。
「絵葉書は知らないわ。便箋の隅に花や小さく風景の描かれたものはあるわよ」
奥様は後で見せてくれると約束した。私はお手紙出す人がいないけどね。気に入ったのがあれば、奥様やアランさんにお礼を書いてもいいかな。
石畳の上を進む馬車は、轍を乗り越えるたびに大きく揺れた。この轍、行政が直さないの? 子どもとか躓くじゃない。馬車が倒れるかと思う揺れに耐えて、右や左に数回曲がった馬車はようやく止まった。
「ここに用があるの」
アランさんが門番と話す声が届き、門が開かれた。分厚い門は飾りっ気もなくて、のっぺらい。縁の部分だけ、鋲を打ったような出っ張りがあった。通り過ぎると、閉じるけど音はあまりしない。イメージだと、ギギギと軋んだ音がしそうなのに。
中に入ったら、花がいっぱい。ほんの少し上り坂になった庭を馬車が進み、お屋敷の前で停車した。アランさんがドアを開けて一礼し、奥様に手を差し伸べる。先に降りた奥様に続こうとして、短い足に気づいた。これはステップまで遠い。
「こちらへ」
どうぞとアランさんが手を伸ばしてくれたので、素直に手を出す。が、まさかの脇を掴んでからの抱っこだった。不安定さを嫌って抱き着いたのは、本能だよ。怖かっただけだからね。
くすくす笑ったアランさんは、私を下さなかった。奥様が振り返って眉を寄せる。
「私のところへいらっしゃい、サラちゃん」
「サラ様は僕の方がいいみたいです」
「そんなことないわよね」
抱っこされたアランさんの腕から奪おうと、奥様が私の上半身を引っ張る。アランさんは抱き締めて抵抗した。これは知ってる、あれだ!
「痛いっ」
ぱっと二人が同時に手を離す。当然、宙に浮いた私は重力で落下した。
――二人とも本当のお母さんだった、ってやつ。
この札、よくわからないけど凄い効果だな。お守り程度に思ってたけど、透明人間になれてるのかも!
「ふふっ、透明じゃないけど。存在を薄くする魔法なのよ」
動き出した馬車の中で、奥様が種明かしをしてくれた。いると思って見たらバレるけど、知らなければ見えなくなる。門番は「目に見える人が乗客」と思ってるから、私に気づかなかったわけか。乗客が二人いると思って眺めたら、私に気付いたんだよね。思ったより危なかった。
音や声を立てないように言われたのは、このせいだったみたい。馬車は宿が立ち並ぶ通りを抜けて、街の中心部へ進む。どの家も玄関や窓に花を飾っていて、とても綺麗だった。札を手放した私は窓から身を乗り出し、周囲を眺める。イタリアとかスペイン辺りの風景に近いかな。
前世の記憶は、徐々に曖昧になってきていた。それでも絵葉書で見た記憶がある。
「絵葉書……手紙に絵をつけるのね。それ、とてもお洒落だわ。流行りそうだもの」
「そういうの、ないんですか」
「普通に話してちょうだい。娘なのよ?」
笑う奥様に釣られて笑い、頷いた。娘にやたら拘るけど、何かあるのかな。
「絵葉書は知らないわ。便箋の隅に花や小さく風景の描かれたものはあるわよ」
奥様は後で見せてくれると約束した。私はお手紙出す人がいないけどね。気に入ったのがあれば、奥様やアランさんにお礼を書いてもいいかな。
石畳の上を進む馬車は、轍を乗り越えるたびに大きく揺れた。この轍、行政が直さないの? 子どもとか躓くじゃない。馬車が倒れるかと思う揺れに耐えて、右や左に数回曲がった馬車はようやく止まった。
「ここに用があるの」
アランさんが門番と話す声が届き、門が開かれた。分厚い門は飾りっ気もなくて、のっぺらい。縁の部分だけ、鋲を打ったような出っ張りがあった。通り過ぎると、閉じるけど音はあまりしない。イメージだと、ギギギと軋んだ音がしそうなのに。
中に入ったら、花がいっぱい。ほんの少し上り坂になった庭を馬車が進み、お屋敷の前で停車した。アランさんがドアを開けて一礼し、奥様に手を差し伸べる。先に降りた奥様に続こうとして、短い足に気づいた。これはステップまで遠い。
「こちらへ」
どうぞとアランさんが手を伸ばしてくれたので、素直に手を出す。が、まさかの脇を掴んでからの抱っこだった。不安定さを嫌って抱き着いたのは、本能だよ。怖かっただけだからね。
くすくす笑ったアランさんは、私を下さなかった。奥様が振り返って眉を寄せる。
「私のところへいらっしゃい、サラちゃん」
「サラ様は僕の方がいいみたいです」
「そんなことないわよね」
抱っこされたアランさんの腕から奪おうと、奥様が私の上半身を引っ張る。アランさんは抱き締めて抵抗した。これは知ってる、あれだ!
「痛いっ」
ぱっと二人が同時に手を離す。当然、宙に浮いた私は重力で落下した。
――二人とも本当のお母さんだった、ってやつ。
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