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39.逃げた王に価値はない(ベルSIDE)
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吹き飛んだ中央を進み、左側の奥へ進路を取る。そこにいるであろう王を見つけるのが目的だ。途中で邪魔しに入る者もいたが、敵ではなかった。
ドラゴンが踏み出すたびに人は逃げ出し、吸血鬼や森の賢者に狩られていく。圧倒的な戦力差は、残酷だ。ブレスが使える今のウェパル相手でも、人間は立ち向かえないだろう。それほどの差があった。
ウェパルが人間相手に傷を負う理由は、単に経験不足だ。戦い方も、人間という種族の扱い方も知らない。だから相手が攻撃を仕掛けるまで、威嚇だけで済ませてしまうのだ。この辺はいずれ教えるとして……いや、知らないままでいいか。俺が守れば済む話だ。
考えながら進んだので、時間を無駄にせず済んだ。大きな扉は、オリアスの尻尾が一撃で打ち壊す。その先に、王はいなかった。
「人間の王は愚かな者よ、玉座を明け渡す決意表明か?」
心底不思議で首を傾げたが、ヴラドは大笑いした。
「逃げたのでしょうな! 昔から危険が迫ると、人間の権力者は逃げ出す」
「残した民はどうする?」
「蹂躙されても代わりはいる、そういうことでしょう」
不機嫌さを隠そうともしない森の賢者は、横に長い耳を器用に動かした。魔獣なら尻尾を床に叩きつけるようなものか。珍しい仕草を気にしながら、俺は残された玉座を見下ろす。誰もいない椅子は、赤い革製だった。重厚さを出そうとしたのか、古木を用いているようだ。
「王がおらぬなら、この国は終わりだな?」
にやりと笑った俺に、はっとした顔でオリアスが追従する。
「では破壊致しましょう」
「一部を家畜とする許可をいただきたく」
「建物も使いづらそうなので、ブレスで焼き払ったらどうか」
ヴラドや耳長のフルーレティが同調する。それでも出てこない、か。すぐ近くに人の気配がするも、ここまで煽っても隠れたままだった。ならば、構わない。
「好きにしろ」
全面的な許可を与え、背を向けた。そのタイミングで、ようやく飛び出したのは若者だ。王ではない。剣を両手で構え、無言で突き出した。人間は攻撃する際に叫ぶ者が多いが、その点、少しは賢いと見える。だが、所詮は人間の技量だ。たかが知れていた。
振り返り様、伸ばした爪で弾く。キンと甲高い音が響いた。折れたのは剣の方だった。驚いた顔をする人間を、フルーレティの魔法が拘束する。城の壁に這っていた蔦を操ったらしい。器用に縛り上げ転がした。
「王はどこだ?」
「すでに逃したっ! あの方がいる限り、人間は負けない」
「……民を捨て、城から逃げ出す王に誰が従うのか」
捨て駒にされた人間の喉を切り裂き、玉座に放り投げる。与えられた命令を、特殊な音に乗せるヴラドの声が発せられた。これでこの都は終わりだ。
俺の大切な伴侶を攫い、傷つけた罰としては軽すぎるが……仕方ない。獲物がすでに逃げたとあれば、また狩りの場を設定するだけの話だ。急ぐ必要はなかった。
城の中庭だった場所に戻ると、オリアスがぺたりと首を付けて促す。跨った俺を乗せ、ひらりと舞い上がった。ウェパルの祖父ラウムが放ったブレスで、街の中央は焼け野原だった。その周囲で、魔族による狩りが血生臭い光景を作り出している。
「いかがでしょう」
魔王陛下のお気に召しましたか? そう問うたオリアスの首筋をポンと叩き、俺は声をあげて笑った。こんな気分は久しぶりだ、悪くない。
「ウェパルが待っている。さっさと片付けろ」
応じたオリアスが、ブレスを放つ。それは街を壊滅状態へ追い込んだ。
ドラゴンが踏み出すたびに人は逃げ出し、吸血鬼や森の賢者に狩られていく。圧倒的な戦力差は、残酷だ。ブレスが使える今のウェパル相手でも、人間は立ち向かえないだろう。それほどの差があった。
ウェパルが人間相手に傷を負う理由は、単に経験不足だ。戦い方も、人間という種族の扱い方も知らない。だから相手が攻撃を仕掛けるまで、威嚇だけで済ませてしまうのだ。この辺はいずれ教えるとして……いや、知らないままでいいか。俺が守れば済む話だ。
考えながら進んだので、時間を無駄にせず済んだ。大きな扉は、オリアスの尻尾が一撃で打ち壊す。その先に、王はいなかった。
「人間の王は愚かな者よ、玉座を明け渡す決意表明か?」
心底不思議で首を傾げたが、ヴラドは大笑いした。
「逃げたのでしょうな! 昔から危険が迫ると、人間の権力者は逃げ出す」
「残した民はどうする?」
「蹂躙されても代わりはいる、そういうことでしょう」
不機嫌さを隠そうともしない森の賢者は、横に長い耳を器用に動かした。魔獣なら尻尾を床に叩きつけるようなものか。珍しい仕草を気にしながら、俺は残された玉座を見下ろす。誰もいない椅子は、赤い革製だった。重厚さを出そうとしたのか、古木を用いているようだ。
「王がおらぬなら、この国は終わりだな?」
にやりと笑った俺に、はっとした顔でオリアスが追従する。
「では破壊致しましょう」
「一部を家畜とする許可をいただきたく」
「建物も使いづらそうなので、ブレスで焼き払ったらどうか」
ヴラドや耳長のフルーレティが同調する。それでも出てこない、か。すぐ近くに人の気配がするも、ここまで煽っても隠れたままだった。ならば、構わない。
「好きにしろ」
全面的な許可を与え、背を向けた。そのタイミングで、ようやく飛び出したのは若者だ。王ではない。剣を両手で構え、無言で突き出した。人間は攻撃する際に叫ぶ者が多いが、その点、少しは賢いと見える。だが、所詮は人間の技量だ。たかが知れていた。
振り返り様、伸ばした爪で弾く。キンと甲高い音が響いた。折れたのは剣の方だった。驚いた顔をする人間を、フルーレティの魔法が拘束する。城の壁に這っていた蔦を操ったらしい。器用に縛り上げ転がした。
「王はどこだ?」
「すでに逃したっ! あの方がいる限り、人間は負けない」
「……民を捨て、城から逃げ出す王に誰が従うのか」
捨て駒にされた人間の喉を切り裂き、玉座に放り投げる。与えられた命令を、特殊な音に乗せるヴラドの声が発せられた。これでこの都は終わりだ。
俺の大切な伴侶を攫い、傷つけた罰としては軽すぎるが……仕方ない。獲物がすでに逃げたとあれば、また狩りの場を設定するだけの話だ。急ぐ必要はなかった。
城の中庭だった場所に戻ると、オリアスがぺたりと首を付けて促す。跨った俺を乗せ、ひらりと舞い上がった。ウェパルの祖父ラウムが放ったブレスで、街の中央は焼け野原だった。その周囲で、魔族による狩りが血生臭い光景を作り出している。
「いかがでしょう」
魔王陛下のお気に召しましたか? そう問うたオリアスの首筋をポンと叩き、俺は声をあげて笑った。こんな気分は久しぶりだ、悪くない。
「ウェパルが待っている。さっさと片付けろ」
応じたオリアスが、ブレスを放つ。それは街を壊滅状態へ追い込んだ。
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