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本編
第40話 なんだか狡いです
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「テユ、様?」
そんな気がしたのです。一度も見ていない竜のお姿ではないかしら。その直感めいた己の考えを否定できないうちに、庭に人影が降りてきます。よく見ると竜が手に掴んでいた物は、リオ兄様でした。
「リオ兄様!? テユ様!!」
驚いて兄を呼び、なんてことをしたのと婚約者を叱る。その響きを器用に使い分け、私は階段を駆け下りました。少しばかり足元のスカートを持ち上げて走ったのはマナー違反ですが、先に安全を確認しなくてはなりません。
竜に掴まれて空を飛ぶなんて、リオ兄様は大丈夫かしら。それからテユ様を叱って、人間は空を飛ばない生き物だと理解していただかなくては。
飛び出した中庭で、テユ様が大きく手を広げました。足早に近づいて、文句を言う前に抱きしめられます。
「テユ様、私怒ってますのよ」
「なぜだ?」
「リオ兄様が危険でしたわ」
「我が義兄殿を落とすわけがあるまい」
「わかりませんわ」
竜の強さや飛行技術を否定する気はないけど、落ちない保証はないでしょう。空の上で何かあったら……そんなこと想像もしたくありません。
「悪かった、我がすべて悪い。だから機嫌を直してくれぬか? 我はそなたの涙を見たくない」
興奮し過ぎて涙が滲んだ頬を、優しく手のひらが包みます。その温もりに絆されたところに、リオ兄様の声が聞こえました。
「僕を理由にして、仲がいいね」
リオ兄様はにこにこと笑いながら、遅れて駆け寄ったフランカを受け止めます。ふらついた様子はありませんね。
「ご無事で何よりですわ」
「意識を共有したゆえ、エミリオに空への恐怖はあるまい」
いま、聞き捨てならない言葉が混じっておりましたわ。意識を共有した、とか?
きょとんとした顔で見上げます。
「後で教えるよ。約束だ」
リオ兄様がそうおっしゃるなら、今は聞きません。お兄様は約束を破ったことありませんもの。
「あ、リオ。もう馬車が出たの。早く出掛けましょう」
フランカが強請るように黒髪を揺らして首をかしげると、尻尾のような黒髪を指先に絡めたリオ兄様が目を細めました。
「この髪型、素敵だね。フランカによく似合ってる。もちろんティファも」
照れて礼を言う私を抱き締めるテユ様は無言で、銀髪に顔を埋めています。とても恥ずかしいのですが? お兄様みたいにスマートに褒めてくださいとは申しませんが、犬属性から少し離れても良いのではありませんか?
竜の頂点に立つ帝でしょうに。
文句のひとつでも、そう思ったタイミングでテユ様が顔を上げました。
「この服は我と出掛けるために装ってくれたのか? とても似合っている。我の色と同じだ」
言われて気づきました。今纏っている服は淡い黄色系で、複数の薄絹を重ねた柔らかなラインのワンピースです。
首からデコルテまでレースで覆い、つるんとした艶のある手触りの絹でワンピースは仕立てられていました。もちろん袖もすべてレースで覆うため、全身が淡い金色に見えます。絹の染め色が薄いので、光の反射で銀色に煌めいて。
フリルやレース部分は少し色が濃く、それがテユ様の瞳の色に近い気がしました。全身をテユ様の色で包んだ――そう言われて、顔から火が出そうなほど熱くなります。
フランカの微笑みを振り返るまでもなく、彼女は知ってて選んだんだわ。私に説明しないなんて狡い。よくわからない感情で文句を言って、恐る恐るテユ様の表情を窺います。
顔をあげた彼の蕩けそうな笑みは甘くて、背筋がぞくりと痺れました。やっぱり私、テユ様を好きなのかしら。
喜んでくれるのが、嬉しいなんて。
「早く出ないと日が暮れますよ」
まだそんな時間じゃないわ。午前中も早い時間なのに、リオ兄様は意地悪なことを言います。揶揄する響きにテユ様が肩を竦めました。
何でしょうか。殿方は時々言葉もなしに通じ合ってる気がします。
「なんだか狡いです」
「ステファニー?」
「いいえ、行きましょう」
急かすように告げて、腕の中からそっと抜け出しました。
そんな気がしたのです。一度も見ていない竜のお姿ではないかしら。その直感めいた己の考えを否定できないうちに、庭に人影が降りてきます。よく見ると竜が手に掴んでいた物は、リオ兄様でした。
「リオ兄様!? テユ様!!」
驚いて兄を呼び、なんてことをしたのと婚約者を叱る。その響きを器用に使い分け、私は階段を駆け下りました。少しばかり足元のスカートを持ち上げて走ったのはマナー違反ですが、先に安全を確認しなくてはなりません。
竜に掴まれて空を飛ぶなんて、リオ兄様は大丈夫かしら。それからテユ様を叱って、人間は空を飛ばない生き物だと理解していただかなくては。
飛び出した中庭で、テユ様が大きく手を広げました。足早に近づいて、文句を言う前に抱きしめられます。
「テユ様、私怒ってますのよ」
「なぜだ?」
「リオ兄様が危険でしたわ」
「我が義兄殿を落とすわけがあるまい」
「わかりませんわ」
竜の強さや飛行技術を否定する気はないけど、落ちない保証はないでしょう。空の上で何かあったら……そんなこと想像もしたくありません。
「悪かった、我がすべて悪い。だから機嫌を直してくれぬか? 我はそなたの涙を見たくない」
興奮し過ぎて涙が滲んだ頬を、優しく手のひらが包みます。その温もりに絆されたところに、リオ兄様の声が聞こえました。
「僕を理由にして、仲がいいね」
リオ兄様はにこにこと笑いながら、遅れて駆け寄ったフランカを受け止めます。ふらついた様子はありませんね。
「ご無事で何よりですわ」
「意識を共有したゆえ、エミリオに空への恐怖はあるまい」
いま、聞き捨てならない言葉が混じっておりましたわ。意識を共有した、とか?
きょとんとした顔で見上げます。
「後で教えるよ。約束だ」
リオ兄様がそうおっしゃるなら、今は聞きません。お兄様は約束を破ったことありませんもの。
「あ、リオ。もう馬車が出たの。早く出掛けましょう」
フランカが強請るように黒髪を揺らして首をかしげると、尻尾のような黒髪を指先に絡めたリオ兄様が目を細めました。
「この髪型、素敵だね。フランカによく似合ってる。もちろんティファも」
照れて礼を言う私を抱き締めるテユ様は無言で、銀髪に顔を埋めています。とても恥ずかしいのですが? お兄様みたいにスマートに褒めてくださいとは申しませんが、犬属性から少し離れても良いのではありませんか?
竜の頂点に立つ帝でしょうに。
文句のひとつでも、そう思ったタイミングでテユ様が顔を上げました。
「この服は我と出掛けるために装ってくれたのか? とても似合っている。我の色と同じだ」
言われて気づきました。今纏っている服は淡い黄色系で、複数の薄絹を重ねた柔らかなラインのワンピースです。
首からデコルテまでレースで覆い、つるんとした艶のある手触りの絹でワンピースは仕立てられていました。もちろん袖もすべてレースで覆うため、全身が淡い金色に見えます。絹の染め色が薄いので、光の反射で銀色に煌めいて。
フリルやレース部分は少し色が濃く、それがテユ様の瞳の色に近い気がしました。全身をテユ様の色で包んだ――そう言われて、顔から火が出そうなほど熱くなります。
フランカの微笑みを振り返るまでもなく、彼女は知ってて選んだんだわ。私に説明しないなんて狡い。よくわからない感情で文句を言って、恐る恐るテユ様の表情を窺います。
顔をあげた彼の蕩けそうな笑みは甘くて、背筋がぞくりと痺れました。やっぱり私、テユ様を好きなのかしら。
喜んでくれるのが、嬉しいなんて。
「早く出ないと日が暮れますよ」
まだそんな時間じゃないわ。午前中も早い時間なのに、リオ兄様は意地悪なことを言います。揶揄する響きにテユ様が肩を竦めました。
何でしょうか。殿方は時々言葉もなしに通じ合ってる気がします。
「なんだか狡いです」
「ステファニー?」
「いいえ、行きましょう」
急かすように告げて、腕の中からそっと抜け出しました。
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