【完結】最初で最後の恋をしましょう

関鷹親

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45 小さな晩餐会

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 テオドールから贈られた新たな服に身を包んだフェリチアーノは身内だけの小さな晩餐会で好奇の目に晒されていた。
 テオドールの姉でありグレイス侯爵家へと降嫁したミリアが主催の晩餐会なのだが、何故かフェリチアーノの目の前には座席を無視し、目を輝かせたミリアが陣取っており、根掘り葉掘りとテオドールとフェリチアーノの恋物語を聞かせろとねだった。

「あのテオがねぇ、素敵な人を見つけられて良かったわね」
「そうでしょう姉上。フェリは綺麗で可愛らしい所も素敵ですが、時に見せる格好よさもあって沢山の魅力を持ち合わせているんですよ」
「出会い方も素敵だわ、生垣越しだなんてほらなんだったかしら、そんな恋愛小説があったわよね? これからもきっと素敵な話が沢山聞けるんでしょうね」

 頬に手を当てうっとりとしながら微笑むミリアに、最初こそミネルヴァの様な野次馬の様なものを想像していたフェリチアーノだったが、蓋を開けてみればとても好意的で、何よりその瞳には少女の様な純粋な好奇心と喜びが見てとれた。
 その事にフェリチアーノは肩から力を抜き、ミリアが純粋に二人を祝福していると言う事実にじんわりと警戒心を溶かした。

 テオドールと盛り上がる話に耳を傾けていれば成る程流石テオドールの姉と言った風で、聞けば歳が近いミリアに昔から付いて回り恋愛小説を読ませたりとテオドールの乙女思考を確立させた人物でもあるようだった。

 楽しそうに話すテオドールを見て微笑んだフェリチアーノに気がついたテオドールは微笑み返し、手を取ると優しく口付けそのまま自身の頬に擦り寄せる。
 恋人ごっこを始めてからと言うもの、テオドールとのこうした遣り取りは常であったが、お互いの想いが重なってからはそこにあるのは好奇心ではなくなり、確かな恋情が伴っていた。
 それにくすぐったさはある物のフェリチアーノはそれが嫌ではなく、甘やかに溶けるテオドールの瞳を独り占め出来ている事に喜悦を覚える。

「まぁまぁ、本当に仲が良いのね! ふふ、とっても素敵!」

 そんな遣り取りを真正面から見ていたミリアは更に瞳を輝かせ、ハッ気が付いたフェリチアーノは恥ずかしさに頬を染める。
 そんなフェリチアーノが可愛い過ぎるとテオドールは更にくっ付こうとするのだが、ロイズからすかさず待ったがかかり渋々引き下がるのだった。



 小さな晩餐会は無事に終わるとミリアから強引に泊まって欲しいとお願いされ、フェリチアーノは同じ敷地内にある別邸の部屋へと案内された。
 テオドールはミリアの晩酌に付き合わされるらしく、苦笑しながらまた後でと深く口付けられロイズと共に部屋に残される。

「フェリチアーノ様、少し宜しいでしょうか」
「いいですよ、僕もお話したいと思ってましたから」

 向かい合う様に座った二人は手早く用意された紅茶に口をつけ、フェリチアーノは肺に溜まった重たい空気を吐き出した。

「こうなる事は想定外でした。いえ、殿下は可能性がありましたがまさか貴方までとは」
「そうですね、自分でも予想外でしたから……でも安心してください。最初のお約束通り時期が来たら身を引きますから」

 カップから視線を上げしっかりとロイズを見たフェリチアーノの目には憂いが灯っていた。

「テオ……いえ、殿下は時間はあるから一緒に考えようと言ってくれましたが、実際に婚約を無かった事にはきっと出来ないでしょうし。では僕を愛妾にするのかと考えるでしょうがあの方はそんな器用な事ができる性格ではないですし、向こうの国も許さないでしょう?」
「そうですね、そう思います」
「……何より僕の体が保ちません」

 フェリチアーノが力なく笑った途端に少し咳込み、ロイズは目を見開いた。

「彼は優しい。きっと気が付いてしまえば余計に離れようとはしないでしょう。だから共犯者のロイズさんにはさり気なくフォローをお願いしますね? 主人が苦しむ姿は見たくないでしょう?」
「貴方はどうなさるのですか」
「……そうですね、具体的にはまだ何も。時が来れば消えるだけです。それまでに教材として殿下のお役に立てれば良いんですが」

 小さな咳を繰り返しながらフェリチアーノはロイズに考えを伝えていく。

「家族もどうやら良く無い連中と関わり出した様なので、出来る限りご迷惑を掛けないようにはしますが……あぁ逆にかけた方が殿下の勉強にはなりますかね?」
「…対処を学ばれるには良いかと」
「そうですか、ではそのように」

 どちらも口をつぐみ沈黙が部屋を包んだ。カップに再び口をつけ中身を飲み干したフェリチアーノはポツリと囁きに近い声量で心の内を吐き出した。

「恋とはこんなにも苦しい物なんですね」

 ロイズはその言葉を否定したかったが、手を握り締めながら敢えてそれをしなかった。立場上それを否定する権利など持ち合わせて居ないとわかっているからだ。
 ただ普通の恋であればここまで苦しむ事も無い。たが既に始まりから歪な物は、歪さを保ったまま恋と言う物に変わってしまった。
 それがどれだけ当事者達にとって苦しいものかをロイズには正確に理解は出来ない。
 なによりロイズはその歪さの一端を担い、枯れゆくフェリチアーノに犠牲を強いている側の人間だ。そんな人間からの同情など面白い物ではないだろう。

 手助けしたい気持ちも同情する気持ちも十二分にあるが、誓約魔法によって他人からの明確な口出しなど出来るはずがない。
 歯痒さを刻まれながらロイズは重くなる空気を何とか耐えるしかなかった。
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