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62 グレイス邸
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あれよあれよと言う間にフェリチアーノは、翌日には一度訪れた事があるグレイス侯爵家に居を移していた。
突然の事ではあったがミリアは快く受け入れ、またその夫であるジャンも張り切るテオドールに若いなぁと苦笑しながらも楽しそうに受け入れていた。
そんな二人にフェリチアーノは申し訳なさを覚えるが、穏やかで温かい空気に包まれたグレイス家に次第に慣れていった。
何があるかわからないからと、フェリチアーノはグレイス邸から外に出る事は許されなかった。だがそれでも日中はミリアの話し相手を務めたり、散歩や読書をしたりと退屈する事は無かった。
屋敷の雰囲気もデュシャン家と比べ物にならない程良い物だった。使用人同士がピリつく事も無く、いきなり押しかけて来たフェリチアーノを無下に扱う事もせず、かといって腫物を扱うような様子も無い。
まるで昔からフェリチアーノがこの屋敷に居たかの様に接してくるのだ。最初の内はデュシャン家で働く使用人達とのあまりの違いに戸惑いはしたものの、高位貴族のそれも管理が行き届き主人が素晴らしい家の者達はこうも穏やかになるのかと納得した。
変わった事はまだある。主治医となったディッシャーもグレイス家に滞在する事になり、朝と晩にフェリチアーノは診察を受けていた。
初めて倒れ、王宮で世話になった時にも診察を受けていたらしく、ディッシャーはフェリチアーノをとても不憫がり、漸く表立って治療も口出しも出来る事に喜んでいた。
ディッシャーの指導の下、フェリチアーノの食事は体に優しく消化の良い物になったし、処方される毒消しの薬と滋養強壮の飲み薬を飲むようになったのだが、しかし問題があった。
「さぁ飲んでくださいフェリチアーノ様」
ディッシャーの手により、朝食後のテーブルの上へとゴトンと置かれたグラスに並々と入っている物に、その場に居た者達の視線が釘付けになった。
「毎朝見るけれど、どうしてもそれでなくてはダメなの? ディッシャー……」
「これでなくてはなりませんミリア様。ただでさえフェリチアーノ様のお体は弱っているのですから、食事だけでは体力の維持も回復も追い付かないのですよ」
「それにしたって、その見た目と臭いはどうにかならないのかい?」
ここ数日毎朝お馴染みとなった光景だが、何度見ても慣れる事は無く、ミリアとジャンはフェリチアーノの目の前に置かれたグラスに怪訝そうな顔をする。
滋養強壮に良いとされる物をふんだんに詰め込まれたそれは、なんとも言えない色と臭いを漂わせていた。
初めて出された時などあまりの見た目の悪さと臭いにミリアが猛烈にディッシャーに抗議したのだが、逆に懇々とディッシャーに如何にこの飲み物が合理的かつどれ程体に効く物かと説明をされ、渋々フェリチアーノに飲ませる事を許可したのだが、やはり何度見ても見た目は良くないし、フェリチアーノ曰く味も最悪なのだと言う。
何度か深呼吸を繰り返して意を決したようにグラスを掴んだフェリチアーノを、食堂に居た全員が心配そうに見守った。
「偉いわフェリちゃん! さぁ早くお口直しをしましょうね?」
フェリチアーノが涙目になりながら飲み干せば、わっと歓声が上がりミリアに褒められすぐさま口直しの甘いお菓子が運ばれる。
まるで小さな子供扱いをされているようでフェリチアーノは恥ずかしいのだが、しかし温かさに飢えていたフェリチアーノはそれが嫌では無かった。
テオドールとはまた違った心地よさをくれるミリアやジャンにフェリチアーノの心は安寧を得る。
「全く大袈裟な、まるで私が悪者みたいに。これもフェリチアーノ様が早く治療しなかったせいなのですからね!」
「そうせめるなディッシャー、フェリチアーノ君が可哀想じゃないか」
「貴方方が人を悪し様に言うからですよ、私は正しく医者としての務めを果たしているのです、そもそもこんな体になるまでよくもまぁほおっておいたもんですよ」
「さぁさぁフェリちゃん、おじいちゃんのお話が長くなりそうだから朝のお散歩に行きましょうね」
和気あいあいとした様子を微笑みながら見ていたフェリチアーノを、ミリアはこれまた日課になっている散歩へとフェリチアーノを連れ出した。
外は朝だと言うのに少し歩けば汗ばむ様な陽気で、日傘を差したミリアと共にゆっくりと屋敷の周りを一周する。
領地を返上する事を提案してきたテオドールに最初は戸惑ったものの、体を治す事が先決でそれに専念する為には仕事などしていてはいけないのだと力説され、フェリチアーノが領地返上の書類にサインしたのはグレイス邸に来てすぐの事だった。
今までは追われるように仕事や金策に明け暮れていたが、今やそんな事もなく只々穏やかな時間が日々流れている。
そのお陰もあり体調は万全とは言わないが、疲れが抜けなかったり寝起きのダルさなどは徐々に軽減されている。
テオドールと共に生きたいと思ったからと言って、すぐには元の体に戻り健康体になる事も無いが、少しづつでも体の調子が良くなり死が遠ざかるのを僅かにでも体感できる事で、フェリチアーノはすり減った心を癒していった。
突然の事ではあったがミリアは快く受け入れ、またその夫であるジャンも張り切るテオドールに若いなぁと苦笑しながらも楽しそうに受け入れていた。
そんな二人にフェリチアーノは申し訳なさを覚えるが、穏やかで温かい空気に包まれたグレイス家に次第に慣れていった。
何があるかわからないからと、フェリチアーノはグレイス邸から外に出る事は許されなかった。だがそれでも日中はミリアの話し相手を務めたり、散歩や読書をしたりと退屈する事は無かった。
屋敷の雰囲気もデュシャン家と比べ物にならない程良い物だった。使用人同士がピリつく事も無く、いきなり押しかけて来たフェリチアーノを無下に扱う事もせず、かといって腫物を扱うような様子も無い。
まるで昔からフェリチアーノがこの屋敷に居たかの様に接してくるのだ。最初の内はデュシャン家で働く使用人達とのあまりの違いに戸惑いはしたものの、高位貴族のそれも管理が行き届き主人が素晴らしい家の者達はこうも穏やかになるのかと納得した。
変わった事はまだある。主治医となったディッシャーもグレイス家に滞在する事になり、朝と晩にフェリチアーノは診察を受けていた。
初めて倒れ、王宮で世話になった時にも診察を受けていたらしく、ディッシャーはフェリチアーノをとても不憫がり、漸く表立って治療も口出しも出来る事に喜んでいた。
ディッシャーの指導の下、フェリチアーノの食事は体に優しく消化の良い物になったし、処方される毒消しの薬と滋養強壮の飲み薬を飲むようになったのだが、しかし問題があった。
「さぁ飲んでくださいフェリチアーノ様」
ディッシャーの手により、朝食後のテーブルの上へとゴトンと置かれたグラスに並々と入っている物に、その場に居た者達の視線が釘付けになった。
「毎朝見るけれど、どうしてもそれでなくてはダメなの? ディッシャー……」
「これでなくてはなりませんミリア様。ただでさえフェリチアーノ様のお体は弱っているのですから、食事だけでは体力の維持も回復も追い付かないのですよ」
「それにしたって、その見た目と臭いはどうにかならないのかい?」
ここ数日毎朝お馴染みとなった光景だが、何度見ても慣れる事は無く、ミリアとジャンはフェリチアーノの目の前に置かれたグラスに怪訝そうな顔をする。
滋養強壮に良いとされる物をふんだんに詰め込まれたそれは、なんとも言えない色と臭いを漂わせていた。
初めて出された時などあまりの見た目の悪さと臭いにミリアが猛烈にディッシャーに抗議したのだが、逆に懇々とディッシャーに如何にこの飲み物が合理的かつどれ程体に効く物かと説明をされ、渋々フェリチアーノに飲ませる事を許可したのだが、やはり何度見ても見た目は良くないし、フェリチアーノ曰く味も最悪なのだと言う。
何度か深呼吸を繰り返して意を決したようにグラスを掴んだフェリチアーノを、食堂に居た全員が心配そうに見守った。
「偉いわフェリちゃん! さぁ早くお口直しをしましょうね?」
フェリチアーノが涙目になりながら飲み干せば、わっと歓声が上がりミリアに褒められすぐさま口直しの甘いお菓子が運ばれる。
まるで小さな子供扱いをされているようでフェリチアーノは恥ずかしいのだが、しかし温かさに飢えていたフェリチアーノはそれが嫌では無かった。
テオドールとはまた違った心地よさをくれるミリアやジャンにフェリチアーノの心は安寧を得る。
「全く大袈裟な、まるで私が悪者みたいに。これもフェリチアーノ様が早く治療しなかったせいなのですからね!」
「そうせめるなディッシャー、フェリチアーノ君が可哀想じゃないか」
「貴方方が人を悪し様に言うからですよ、私は正しく医者としての務めを果たしているのです、そもそもこんな体になるまでよくもまぁほおっておいたもんですよ」
「さぁさぁフェリちゃん、おじいちゃんのお話が長くなりそうだから朝のお散歩に行きましょうね」
和気あいあいとした様子を微笑みながら見ていたフェリチアーノを、ミリアはこれまた日課になっている散歩へとフェリチアーノを連れ出した。
外は朝だと言うのに少し歩けば汗ばむ様な陽気で、日傘を差したミリアと共にゆっくりと屋敷の周りを一周する。
領地を返上する事を提案してきたテオドールに最初は戸惑ったものの、体を治す事が先決でそれに専念する為には仕事などしていてはいけないのだと力説され、フェリチアーノが領地返上の書類にサインしたのはグレイス邸に来てすぐの事だった。
今までは追われるように仕事や金策に明け暮れていたが、今やそんな事もなく只々穏やかな時間が日々流れている。
そのお陰もあり体調は万全とは言わないが、疲れが抜けなかったり寝起きのダルさなどは徐々に軽減されている。
テオドールと共に生きたいと思ったからと言って、すぐには元の体に戻り健康体になる事も無いが、少しづつでも体の調子が良くなり死が遠ざかるのを僅かにでも体感できる事で、フェリチアーノはすり減った心を癒していった。
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