【完結】最初で最後の恋をしましょう

関鷹親

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78 シャロン

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 翌朝牢から解放されたマティアスの目は怒りで一睡もできずに血走っていた。ふらふらと屋敷に戻れば、シルヴァンがギョッとした顔で出迎えた。

「一体どうしたのですか、坊ちゃま」

 着衣も乱れ、屋敷を出ていく前とは異なる異様な空気を纏うマティアスに、シルヴァンは何とか声を掛けたが、ギロリと睨まれただけだった。
 マティアスが部屋に入れば、次に聞こえて来たのは物を壊す音と、何やら喚き散らす声だった。
 そんなマティアスの様子を他の面々は虫の居所が悪いだけだろうと、あまり心配はして居なかった。



 そんな中アガットが訪れた夜会でいつもの様に宝飾品の自慢をしていると、シャロンが取り巻きの令嬢達を連れ近づいて来た。

「アガットさん? お兄様はお元気かしら?」

 今まで聞かれた事の無かったマティアスの話題を出され、アガットは訳が分からず小首を傾げる。
 何も知らない事を察したシャロンは、ニヤリと扇子の下で笑むと、アガットにもったいぶった様に劇場で起きた事を話し出した。

「私もその日は劇場に居たのでびっくりしたんですのよ? 貴方のお兄様がフェリチアーノ様に殴りかかろうとして、恋人に別れを切り出されていたんですもの」

 シャロンの話に目を見開いたアガットは、漸くマティアスの機嫌が連日の様に悪く、一度も部屋から出て来なくなった理由を理解した。
 男は範疇外だと宣言していたマティアスは、ウィリアムと言う恋人が出来てからはそれまでが嘘のように楽しそうにしていた。
 それをフェリチアーノの前で恋人に別れを告げられれば、あの荒れようも納得すると言う物だった。

「最近の兄の取り乱しようはそう言う事だったのですね、納得しましたわ」
「まぁアガットさん、貴女他人ごとでは無くてよ?」
「え?」

 ポカンとするアガットに、シャロンは呆れた様に溜息を吐き、取り巻き達は理解しないアガットをクスクスと隠す事も無く嘲笑った。
 冷嘲的な視線が今やそこかしこから浴びせられるが、アガットは未だそれに気が付かない。

「貴女の弟のフェリチアーノ様は殿下の恋人でしょう? ねぇそんな方に身内とは言え殴りかかっただなんてねぇ? 勿論殿下やフェリチアーノ様に謝罪をしなければならないのは当然の事でしょう?」

 シャロンの言葉にアガットは眉を顰めた。何故マティアスが取った行動のせいで自身が謝罪あせねばならないのかと、気分は一気に急降下する。
 まるでデビュタント前の子供のように感情が全て外に曝け出しているアガットに、周りは益々蔑む視線を強めた。

「殿下がお怒りになってしまったら、困るのはデュシャン家でしょう? アガットさんは殿下から贈り物を貰う程親しくしていると仰っていたじゃない。ならば貴女が殿下に謝罪を一言申し上げておけば、きっとお兄様の事は水に流して下さるわよ」

 周りの取り巻き達も口々にそうだと答え、シャロンの意見を肯定していく。アガットを上手く持ち上げ、兄の尻拭いが出来る素晴らしい淑女であるアピールも出来ると周りから持ち上げられれば、アガットはそれもそうかと納得してしまう。
 簡単に口車に乗ってしまうアガットは、シャロン達にとって格好の的だった。

 暫くすれば高らかにテオドール達の入場が告げられた。
 揃いだとわかる衣装に身を包んだテオドールとフェリチアーノは、会場に足を踏み入れるとにこやかな笑みを湛えながら集まってくる人々に挨拶をしていく。
 その様子をシャロンは手に持つ扇子に力を込め、ミシリと軋ませる。テオドールの横に立つのは自分であると思っていたのに、現実に横に並んでいるのはシャロンではなくフェリチアーノだ。それがどれ程面白くない事か。

 家柄も容姿も何をとってもフェリチアーノより上であると自負しているシャロンにとって、家格も下で道化として扱われているデュシャン家の一員であるフェリチアーノが、テオドールの近くに居る事すらも許しがたかった。
 何よりも、ミネルヴァの家で開かれた茶会でテオドールの唇を堂々と奪って見せたフェリチアーノには苛立ちを隠せるはずが無い。
 その苛立ちをアガットを貶める事で抑えていたが、最近はそうも言っては居られない。二人は連れ立って頻繁に社交の場に姿を表す様になった為、幸せそうに寄り添うテオドールとフェリチアーノを嫌でも目に入れなければならないのだ。

 腹の底からムカムカとする重苦しい気持ちを押さえつけ、シャロンは笑みを顔に貼り付け、アガットに声を再びかけて、けしかけるのだった。
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