幻獣を従える者

暇野無学

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119 ギルドの要請

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 プラシドの街に着く前からヴェルナとキングは注目の的で「ちょっとこっぱずかしい」とカディスやデイブが困惑しているし、ベックなんて顔を上げようともしない。

 キングタイガーを連れたヴェルナが貴族用通路に向かうと、警備兵が厳戒態勢で立ち塞がるが、ヴェルナの示した身分証を見て考え込んでいる。
 アッシュ達を待たせてヴェルナの横にいき「その身分証に何か文句があるのか」と態とらしく問いかけてみた。

 「何だ、お前は!」

 「俺、俺はその身分証の発行元でランディス・グレイン侯爵だが、何か?」

 警備兵がよく見える様に、俺の身分証を目の前に突き付けてやる。

 「フルンベルト伯爵より通達が出ている筈だが、まさか、知らないなんて言わないよな」

 「こんな巨大な野獣を連れて・・・」

 「ん、首から下がっているメダルをよく見ろよ。ホールデンス王国の紋章だぞ、まさか王国の紋章を知らないのか?」

 「何事だ!」

 おっ、上役登場。
 やって来た上役に俺の身分証を突き付ける。

 「ランディス・グレインだ。俺の配下が示した身分証を疑う奴がいるのだが、身分証の確認方法を知らないなんて言わないよな」

 「ランディス・グレイン・・・承知致しております。ですが、こんな大きな野獣を領都の中へ入れられては困ります」

 「そのキングタイガーの首から下がるメダルを見ろ。ホールデンス王国発行のメダルで、王城内にも連れて入れる許可証だ。それをフルンベルト伯爵領では許さないと言うのなら、ちょっと伯爵殿と会って話し合う必要があるな」

 「どうぞ、お通り下さい」

 「言っておくが、彼女は俺の配下なので余計な事はするなと伯爵に伝えておけ」

 敬礼する男を横目に、ヴェルナに冒険者ギルドへ行けと命じてから、今度は俺がアッシュ達を連れて警備兵の前を通る。
 どうもヘイラート様のように、絶対的に上から命令する貫禄がないので面倒だ。

 キングタイガーで驚いていた警備兵達は、アッシュ以下四頭の使役獣にも驚いて俺の顔を見ているが、俺の肩に止まるフラッグを見て変な顔になっている。
 王国のメダルは重いので付けてないが、此奴だって立派な幻獣だぞ。

 冒険者ギルドでも、お決まりの様に武器を構えた冒険者と職員が立ち塞がる。
 行く先々でこんな出迎えを受けていたら、そのうち切れ散らかす自信があるので、ヴェルナ達には悪いがキングを譲って良かったとしみじみ思う。
 困惑顔のヴェルナに替わり、侯爵家の紋章付きワッペンを胸に付けて前に出る。

 「出迎えご苦労さん。見たとおり王国の許可を貰っている使役獣だ。一応ギルドにも使役獣登録をするので通してくれ」

 「お前達はウルフの牙のパーティーだな。何故キングタイガーを連れている」

 「その事は中で話すよ。ラッヒェルのギルドから警報が出ているだろう」

 「お前は・・・タイガーキャットを従えているのなら、噂の侯爵殿か」

 「中へ入らせて貰おうか」

 「それは良いが、小さいタイガーキャットとブラックキャット以外は外で待たせてくれ」

 《あらあら、すっかり有名になっている様ね》

 《面倒事ばかりが増えていくよ》

 「判っているよ。解体場で話すが、余計な奴は中へ入れないでくれ」

 * * * * * * *

 カディス達がゴブリンの大群に襲われていた所から、救助とその後の事を伝えるとサブマスの顔が曇る。

 「その顔だと、他にも色々と問題が起きている様だな」

 「ああ。あんたが・・・侯爵殿がウルフレントの連中を助けただろう。その後でラッヒェルのギルドから警報を出せと言ってきたが、その間に三つのパーティーが消息を絶った。何時もなら4、5日に一度はギルドに顔を出すのだが、もう十日になる。もう一つ、此処から東へ四日ほどの所に小さな集落があるのだが、誰も顔を出さなくなってから半月以上になる」

 「ラッヒェルのギルマスは大繁殖と言っていたが」

 「多分そうだろう。100匹以上のゴブリンの群れなんて誰も信用しないぞ」

 「まぁ、魔石を抜き取る気分じゃなかったので放置したが、死肉に群がる野獣を討伐して来たので見てくれ」

 ドッグ系各種、57頭。
 ウルフ系各種、49頭。
 キャット系各種、18頭。
 タイガー系各種、13頭
 オークとハイオークを37頭。

 「ゴブリンを討伐した翌日に、死骸を喰いに来ていた奴だ。これ以外は別の日に狩ったのだが、獲物が湧いて出るって感じだな」

 「それは判っている。プラシド、ウルフレント、アレットを中心に野獣が増えているので、他のギルドに応援要請を出している。侯爵殿も冒険者の格好をしているのだ、手助けを頼みたい」

 此処で逃げ出す訳にもいかないので渋々了承したが、行動の自由は約束させた。

 その後で、キングの訓練中に狩った獲物を並べたが、オークからハイオークにオークキング。
 ウルフ各種にホーンボアやエルク等多数にのぼり、解体係が呆れていた。
 全てウルフの牙の獲物として査定を依頼する。

 「ランディスさん。これは受け取れませんよ」

 「カディス、よく考えろ。キングを連れていると食料もたっぷり必要になるんだ。ウルフの数倍は軽く食べるぞ。常に餌を狩りに行けるとは限らないし、新鮮な餌の備蓄は必要だ。売り払った金でマジックバッグを買え。出来れば時間遅延も20か30追加した物をな。それともっと強い弓も必要だし、マジックバッグに収まる、頑丈な防御柵も持っていないと死ぬぞ」

 「確かに、容量の大きなマジックバッグと頑丈な防御柵を持ち歩けていたら女房達も死なずに済んだかもな」

 「攻撃力は上がっても防御力が無いのだ、頑丈な柵が有れば危険を冒さなくても良くなるからな」

 マジックバッグは魔道具商で手に入るが、金貨がたっぷり必要な事。
 ランク4-10で金貨35枚、ランク5-10で金貨70枚なので出来るだけ容量の大きい物を買えと言っておく。
 その際に時間遅延は10時間単位で、金貨10枚に手数料が金貨2枚必要だと教えておく。

 お値段を聞いて唸っているが、解体場に転がっている獲物の代金はそれ以上になる筈だから、自分の命の値段だと思って目一杯の物を買っておけと薦めておいた。

 * * * * * * *

 キングの使役獣登録を済ませると、王国のメダルと付け替えていたのでそのまま付けさせておく。
 それを見ていた冒険者達が、カディス達の人数が半減している理由を尋ねたり、キングタイガーをテイム出来た理由を聞き出すのに必死になっている。

 ウルフの牙が半減した理由を知った者の中には、俺をパーティーに入れてくれとか、入れろと煩くせがむ奴が出てきた。
 キングタイガーを従えたパーティーなら、楽に稼げると思っている様な奴を仲間に加える気はない、とカディスが拒否している。
 ヴェルナは身分証を示して「侯爵様の許しを得たら仲間になれるわよ」と答えている。

 「お前達、俺の配下に好き勝手を言うのなら、相応の覚悟を持って言えよ」

 「誰でぇ、お前ぇはよう」

 「誰でぇとはまた酷い言われ様だな。冒険者の格好をしているが俺は貴族だし、胸の紋章を見てから絡んでこい! 等と野暮な事は言わないが、死にたいか。ウルフの牙に手を出したら、叩き潰してやるから覚悟してやれよ」

 「侯爵殿、脅すのはその辺にして貰えないか。此奴等も大事な戦力だからな」

 「それで、どの辺に野獣が多いんだ?」

 「それぞれ群れでの行動なので、一ヶ所に集中している訳ではないが、被害報告が届いているな。出来ればあんたに複数のパーティーを付けるから、群れを分散させてくれないか。分散出来れば各パーティーが討伐出来るので頼みたい」

 「良いだろう、訓練場を俺達の塒に使わせてもらうぞ」

 「訓練場を塒に?」

 「何時もは街の外にドームを作って寝ているのだが、一々呼びに来るのも大変だろう。訓練場で寝ていれば直ぐに行動出来るからな」

 「好きにしてくれ。侯爵殿につけるパーティーを選別しておくよ」

 * * * * * * *

 翌日カディス達が尋ねて来て、俺達が討伐した分だけでも17,420,000ダーラになったので、言われたようにマジックバッグを買いに行ってきたそうだ。
 金貨にして174枚有ったので、ランク5-10のマジックバッグに時間遅延を30付けて貰ったと報告してきた。
 合計金貨102枚使いましたと言いながら、革袋を差し出してきた。

 「それは商業ギルドへ持って行って預けておきなよ。ヴェルナに渡した身分証で各自の口座とパーティー用の口座を作れば後が楽だぞ」

 「キングの訓練中の獲物を含めると、金貨にして140枚は残っていますよ」

 「それじゃ金貨25枚ずつを各自の口座に入れて、残りをパーティー用にすれば良いだろう」

 「本当に俺達が貰っても良いのですか?」

 「俺って貴族なんだよ。領地は小さいけど、金は王国からがっぽり貰っているので大丈夫さ」

 女神教の教皇猊下や大教主様も寄付してくれるので、懐は温かいんだよ。

 「野獣討伐に駆り出されるので、身を守る防御柵を早いとこ用意しておけよ。それとキングタイガーを連れていると危険な所に回されるけど、臆病と言われても無理はするなよ」

 「はい、元々臆病なので、ウルフが居ても九人でやってましたから」

 女が二人居たのだ、臆病で無ければパーティーを長く続けられなかっただろう。
 これから先は、健闘を祈るとしか言いようがない。

 * * * * * * *

 「陛下。プラシド、ウルフレント、アレットの冒険者ギルドが、野獣の警戒警報を発しました。同時に街道沿いのギルドに対して応援要請をしております」

 「プラシドだと、以前の被害もプラシドだと言ったな」

 「はい。今回は三つの街と範囲が広がっています」

 「彼はラッヒェルに居たと思うが・・・」

 「最新の情報では、ツアイス伯爵より彼の訪問を受けたというものです。その時に、彼はキングタイガーを従えていたと報告が届いております」

 「キングタイガーとな、あれはタイガー種の中では最大種ではなかったか」

 「そう聞いております。あのタイガーキャットより二回りは大きいとの事です。ただ、幻獣ではないそうです」
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