ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学

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 《ヨークス様ユーヤです。秘蔵の酒を献上したいと申します、奇特な者をお連れしました》
 
 《おおユーヤ、秘蔵の酒とな》
 
 《ヨークス様、酒に釣られてホイホイ出て来ますか》
 
 《ワーッハッハッハッ、ユーヤ許せ許せ》
 《お主以外に、この地を訪れる者は無いからのう。ヨークス様も儂等の顔は見飽きておるでな》
 
 《皆様も大変ですねー。ヨークス様、隣の二人は、俗世で共に歩む者です。御尊顔を拝する》
 
 《あー良いよい、お前の敬語は寒気がするわい。名は何と申すのかな》
 
 「はっはい、アルカート・オルク・テレンザと申します」
 「長子アルホーク・オルク・テレンザで御座います。ヨークス様」
 
 《ユーヤと共に歩むとな、良きかな。加護を授けて遣わそう》
 
 《あー、ヨークス様も皆様も、酔っ払って加護の大盤振る舞いはしてないでしょうね。この神殿からは、良からぬ噂がチラホラ聞こえて来ますので、供物を止めようかとも》
 
 《ユーヤ殺生な事を申すな。お前の建てた神殿は、この世の頂点に立つ神殿だからな。多少の加護を与えて遣らねば、神力が有り余るのだ》
 《うむうむ、人の祈りの心地よき事よな》
 
《判りましたが、程ほどにお願いします。他の教会の妬みを買わない程度にね。これは二人からの献上の酒樽です。お納め下さい》
 
 《ユーヤ! 儂を無視するでない!》
 
 《はいはい、判っていますヨークス様。飛び蜥蜴のお肉に、エビと蟹に特製スープです》
 
 《お前達二人も、加護が必要ならこの神殿にて祈れ。ユーヤが怖いので、大盤振る舞いは出来んがのう》
 《ブワーッハッハッハッハツ》
 
 《では皆様失礼します》
 
 《息災に暮らせよ》

 * * * * * * * *

 アルカートとアルホークが、惚けた顔で俺を見ているが言葉にならないらしい。
 二人を促してさっさと神殿を後にする。
 二人を居間に座らせると、エバンにお茶を用意させる。
 
 「エバン、お茶に少し多めに酒を入れて遣れ、気付けが必要みたいだから」
 
 「ユーヤお前なぁ、一言教えておいてくれ。心臓が止まるかと思ったぞ」
 「まさか、現世で神々の御尊顔を拝する栄を賜るなんて・・・」
 「かなり親しい間柄の様だが、まさか、お前も神々の一柱では在るまいな」
 
 「無いない、俺はただの人族だよ。知ってるだろうエルフの血が四分の一入っているだけ。ヨークス様の話しでは、健康で長寿と言われたけどね」
 
 ルーシュを呼び出し、空飛ぶ蜥蜴のお肉を皿に置く。
 
 「ルーシュもヨークス様から頂いたのさ。長い時を、供に生きる伴侶と護衛としてね。ヨークス様に言った通り、長く友宜を交わし共に栄えたいからね。この話はこれで終わり」
 
 溜め息だけが漏れて返事が無いが、深く頷く二人におまけの一言を。
 
 「神様に祈りを捧げても良いが、供物は必要無いよ。先ほどの場所でなければ教会の神官達の懐に収まるだけだから。俺が何故酒樽を持っていて供物台に置かなかったか判ったろ」
 
 「ああ、其れに、ルーシュも全然成長してないな」
 
 「ルーシュは大きくなれるぞ、大きいルーシュだと怖がられるだろ。この大きさで、熊さんでも蜥蜴さんでも猫パンチで一撃だぞ」
 
 可愛く招き猫のポーズで、猫パンチをエイッ。
 
 「止めろ、お前がやると可愛さの欠片も無い」
 
 「ところでな、テレンザの歴史や他国の歴史はどうなっている。あー年表の事な」
 
 「れきし? ねんぴょう?」
 
 「えーと王国史、テレンザ王国の成り立ちから現在迄の流れを年月日で記したもの。他国のものも有れば知りたいのだが。例えばテレンザ王国の100年が他国の200年だったとして統一年月日を使用すれば判り易いだろ。片や統一年の1050年から国が興り、もう一方は800年からと見れば一目で250年前から存在する古い国だと判るよな。俺はテレンザ王国しか知らないからな」
 
 「成るほど・・・統一年月日か」
 
 「極端な話し神々の誕生から数えて何年目とか話せば判り易い。一国の興りから滅び迄が記され、他国も同じ年月日の中で連綿と続けば・・・」
 
 「何々王国何年と言われても、今在る国か滅びた国かすら判らないな。確かに一つの年月の中に纏めたら便利だ」
 
 「テレンザには古い書物も在るだろうから、過去に存在した国を全て調べ古い順に並べて欲しいんだ。一番古く確認の取れる国の興りを統一年月の始めとして、これからの文書発行の日付に使いたい。逸れならテレンザ王国〇〇〇年ヤマト公国〇〇年等としなくても直ぐに何年前とか理解しやすいだろう」
 
 「判った急ぎ手配して調べさせよう。これから発する全てのものにその年月日を使えば、ヤマトとテレンザでは年月の比較は混乱しなくなるな。便利だから多分他国も使う様になるはずだ」
 
 「その年表が出来たら、他国にも分けてやれば直ぐに倣うさ」

 * * * * * * * *

 アルカートをテレンザに送り届け、直ぐに引き換えしてオーエンの疑問に答えていく。
 
 先ずかわら版の意味を聞かれたが適当に誤魔化し、呼び名を摺り板版にした。
 意味が判らないアルホーク、エトナ、ヤザンに印刷の要旨を伝え、元の板を版と呼ぶんだと強引に納得させる。
 オーエンが横で、成るほど等と呟いているが無視だ。
 
 ・集める専門要員の書き出しから始めた。
 ・木の板の必要から木の加工職人。
 ・加工場所の確保と職人の住居。
 ・木彫り職人。
 ・木板から文字を彫り出す訓練。
 ・加工場所の近くに木彫り職人の住居。
 ・印刷の為にインクを大量に製造する職人。
 ・インク製造施設と保管庫の設置。
 ・紙に摺る為には摺り師が必要だが、説明が面倒なので後回し。
 ・職人の住居を加工場所の近くに設置。
 ・文書作成と内容確認者の養成。
 検閲になるが捏造文書配布で混乱を招いたり、嘘を広めない為には必要だ。
 総合庁舎内に専門部署を設置するが、人選には注意が必要。
 凝り固まった思考の持ち主や、権勢欲自己顕示欲の強い者は排除。 
 ・配布された物の内容を確認し全て保管管理する部署の設置。

 ・印刷所、紙の集配所、集配係の詰め所・・・
 ・配布人、張り出し場所の確保と張り出し人などは、後日決める事にした。
 
 書き出された物を見て全員唸っている。
 紙きれ一枚配布するだけなのに、膨大な仕事が待っていると判ったからだ。
 
 「ユーヤ様が何故私をこの机に座らせたのか、直ぐにこの部屋では収まらないと言われたのか、漸く判りました」
 
 「掲示板を紙に置き換えるだけで、これほど膨大な仕事になるのですか。一から見て学べと言われた意味が理解できます。エトナとヤザンは交代でテレンザに知識を持ち帰り組織を立ち上げてくれ。陛下には報告書を送っておく」
 
 「オーエンは今日から子爵を名乗れ。ブラウンには伝えておくので、屋敷はブラウンが手配するだろう」
 
 「ユーヤ様、ヤマトではそんなに簡単に爵位を授けるのですか」
 
 アルホークが、驚いて尋ねて来た。
 
 「簡単では無いぞ。国の重職ブラウンを筆頭に軍治経済民生等の重職者には、候爵位を授けているが一代限りで給金を与えている。職を退けば降格だ伯爵になり伯爵位の半給になる。家族は貴族位を名乗れない。屋敷も貸し与えていて、職を退けばは明け渡さねばならない。責任に見合った爵位は外面用だな。馬鹿な子孫が、先祖の功績で威張り散らす愚は犯させない。全てが出来上がり運営されればオーエンは伯爵となり仕事は丸投げだ。まっ丸投げは始めからだけど」
 
 苦笑いのオーエンに疑問が有れば呼んでくれと言いおき、居間に引き上げる。
 後は四人で検討して実行するだけさ、果報は寝て待てってね。
 仕事(苦労)は他人に、果実は俺に。良い言葉だね♪
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