ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学

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63 しょぼい爺さん

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 「マザルカ王国軍が陣を敷いた、アンザス領の割譲と賠償金金貨20万枚及びマザルカ国王陛下の公式な謝罪です」
 
 「無茶な!」
 「そんな法外な話があるか!」
 「足元を見すぎだろが!」
 「戦うべきです。陛下!」
 「己、セナルカの屑め」

 「黙れ! 先ほどの光景を思い出せ! 城内にあれを設置されてみろ。先程の言葉を思い出せ! 100人単位で兵を送り込まれて勝てると思うか。複数ヶ所に転移魔法陣を付けられてみろ、半日も持たず全滅するわ」
 
 「家臣の方々が納得されない様ですが、ヤールに集結した2万5千の兵はヘルザク司令官が降伏したのでそれだけで済みましたが、セナルカ、テレンザ、ヤマトの緊急展開軍の半数で、残り半数はそれぞれの国に集結し待機しています。各国での待機となりましたが、どれ程の費用が掛かっているのかご存知ですか。100人単位で転移魔法陣を使うのにどれだけ多くの魔力石が必要か、金貨20万枚ではとても足りません。然し、我々はマザルカを滅ぼすつもりもありません」
 
 細かな話は後日実務者同士で話し合う事になり、ヘリサン・ドワールは優雅に一礼して転移魔法陣から消えた。
 
 「お前達は、余程状況判断が出来ない愚か者揃いの様だな」
 
 「然し、陛下余りにも」
 
 「お前、ヘルザクがクリードまで8千の兵を率いて行ったが、兵一人頭どれ位の費用が掛かっているのか答えてみよ」
 
 「はっ金貨3枚程度かと」
 
 「だから愚かと言ったのだ。行軍だけで2ヶ月60日だ、準備と布陣期間も含めると80日を越える。糧秣やその他の輸送費諸々を含めると、一人金貨9枚ではとても足りぬ。戦えば死者や負傷者の世話に保障等含めればお前の領地等吹き飛ぶぞ。しかも、行けば帰って来なければならない。お前が馬車で行くのと行軍するのでは、速度は半分と見ておけ愚か者め! 以前調べた限りでは、転移魔法陣の使用には一回金貨5枚が必要で3名しか送れないのだ。それを100人単位で送るとなると、単純計算で165枚の金貨が必要だ。それを25.000人送り込んでいる。それだけで金貨41.250枚必要で、来れば帰らなければならないので倍の82.500枚必要だ。国内からかき集めた兵の移動を考えると莫大な金を使っている」
 
 国王に教えられて初めて、自分達が敵に回した相手が途方もない財力と力を持つ相手だと知り、愕然となっている。
 
 「お前達の進言を受け入れ、セナルカを少しでも切り取れればと考えた儂も迂闊であった。恐らくセナルカも、テレンザとヤマトにあっという間に制圧され、国王を排除しヘリサン・ドワールなる全権代理を立てたのだろう」

 * * * * * * * *

 「アルカート様ユーヤ様、アンザス領の割譲と金貨20万枚で承知しました。詳しい事は実務者で詰める事になりました」
 
 「ドワール殿、ご苦労であったな」
 
 「此で静かになれば良いがな」
 
 「おい!不吉な事を言うなよ」
 
 「いやいや、ダンジョンの事が有るからなぁ、気を抜けない輩が神殿にいるだろう。まっ後はドワールに任せるから宜しくね」
 
 「又丸投げか」
 
 「当然だよ、俺は気楽で平穏な日常を求めているのに邪魔が入るんだ。約束を守れっての」
 
 ヨークス様に言っても直ぐに忘れるからなぁ。
 ヨークス様が、想像以上のお気楽な性格だったと見抜けなかった、俺の負けかな。
 
 「所でヤマト3、テレンザ7セナルカ10でよいかな」
 
 「いやそれではテレンザが多過ぎるせめてヤマト4テレンザ6にしよう」
 
 「アルカートがそれで良いならそれでいいさ。ドワールは金貨10万枚を、出兵した領主と兵の手当と国の復興に使え。俺は各領主の館と代官屋敷に置く、通信筒転移魔法装置の制作と転移魔法陣設置に励むからさ」
 
 後は任せたと言って、ユーヤとアルカートが転移魔法陣から消えた。

 ヘリサン・ドワールは、ユーヤとアルカートが消えた転移魔法陣を見つめて溜め息を吐く。
 あんな無茶苦茶なユーヤ相手に、フェラード・セナルカ王も無謀な事をしたとものだとつくづく思った。
 元々考えの浅い、血統だけが自慢の男であったので自滅したともいえる。

 * * * * * * * *

 後日ユーヤに願い、マザルカ王城の一室に転移魔法陣の設置と通信筒転移魔法陣から通信筒転移魔法装置と名を改めた装置の配布を受けた。
 マザルカ国王も、転移魔法陣と通信筒転移魔法装置の便利さに、改めて国力の違いを思い知らされた。
 ドワール全権代理の話しに依れば、テレンザ王国とヤマト公国は各地に転移魔法陣と通信筒転移魔法装置が設置されていて、情報伝達の速さと人の往来に時間を要さない利便性を享受し、多いに利益を上げ潤っていると聞いた。
 
 転移魔法陣設置や通信筒転移魔法装置は厳しい使用条件があり、それに適わぬものは設置を拒否されたり取り消されて、使用不能になったものも多数あると聞いた。
 マザルカ国王は、国の発展に転移魔法陣と通信筒転移魔法装置は欠かせないと確信し、ユーヤにその設置を願い出た。
 
 返事はヤマト公国ブラウン代表に全権委任しているので、彼に会って許可を得よと素っ気無いものだった。
 マザルカ国王は、遷都から40年にも満たない年月で隆盛を極めると噂の、ミズホの街を自身の目で見て確かめたいと代表団を率いてミズホに跳んだ。
 
 総合政務庁舎の転移室に現れたマザルカ国王はブラウンの執務室に案内されたが、余りにも簡単に政治の中枢に入れ代表者との面談に驚いた。
 転移魔法陣設置の規約に全て同意した。
 準備が出来次第順次設置し、通信筒転移魔法装置は在庫を送り不足分は出来次第送ってもらう事になった。
 
 朝ミズホの街を訪れ交渉や契約を結び、夕べに自国に帰って寛ぐ事は新鮮であった。
 一日ブラウンの許可を得て、噂の大神殿を訪れた。
 巨大な漆黒の魔力石が等間隔に建ち並び逸れが二つの輪をなし、柱に支えられた平屋の屋根だけが設けられている全くの吹きさらしの場所である。
 
 何処からでも神殿に入れて、信ずる神々の御姿の浮かぶ石碑の前にて祈りを捧げ帰って行く。
 喜捨を求める箱すら無い、いや有るにはあるが所々にぽつんと置いて在るだけだ。
 まして神を讃え説教をする者も居ない常識外れで、教会から異端視されるのは無理も無いと思ったが、人々が絶え間無く訪れ祈り晴々とした顔で去っていく。
 
 神殿を訪れ祈る為だけに、遠くから来たと思われる人の何と多い事か。
 噂は大神殿を讃え、教会関係者は非難するが、来てみなければ解らぬものだと思う。
 一国の王として、創造神ヨークス様に祈りを捧げる為に跪き無心に目を閉じた。
 
 目を閉じた筈が、静寂に包まれた明るい場所にいて天も地も無く摩訶不思議な空間に、一人跪いている自分に気がついた。
 
 《ふむ、中々面白そうな面構えで在るな》
 
 しょぼくれた爺さんが、ぽつんと立っている。
 ヨークス様の神像の前で祈りを捧げる為に跪いたのに、似ても似つかない年寄りが現れたが此処は何処か。
 
 「どなたかな。ヨークス様に祈りを捧げようと思い跪いたのだが」
 
 《おお逸れよ、儂じゃよ。殊勝に祈るので興味が湧いてのう。ユーヤは達者かな、最近姿を見せぬので待っておると伝えてくれ》
 
 逸れだけを一人で喋ると姿が見えなくなり、不思議に思うが静寂だった周囲にざわめきが戻る。
 ざわめきに目を開けヨークス様の神像を見上げると、隆とした体躯に威厳と神秘を含む面立ちは、先ほどのしょぼい爺さんと大違いだと考えながら立ち上がる。
 
 噂では、時に神々の存在を感じると聞いたがあれは無いと思う。
 しょぼい爺さんの姿を思い出して苦笑いが出る。
 確かにこの神殿には何かを感じる、人々が集うのも頷ける。
 
 一日ミズホダンジョンを見学する、ダンジョン口を中心に三重の防壁が取り囲み地下道を通って冒険者ギルド出張所からダンジョン入口を望む。
 三々五々冒険者達がダンジョンに向かい、又ダンジョンからの収穫物の入った袋を持って出てくる。
 最初の柵が完成する前にダンジョン崩壊とスタンピードが発生した為、結構な被害を出しながらも防ぎきり、現在の繁栄を謳歌している。
 
 我が国とは根本的に違う。
 街は整備され道行く民には笑顔が有り、逸れなりの生活を営んでいるのが分かる。
 ブラウンの執務室に戻ると、真摯に何故これ程の繁栄を短期間に成し遂げたのか尋ねてみた。
 ブラウンは、ユーヤ様の指示に従って公平公正に民が富む事に心掛けた事。
 有るところから税を取るが取りすぎず、支配する者の暴利を許さずですかなと言って笑われた。
 
 ユーヤに挨拶して帰ろうと思い、ブラウンに尋ねると通信筒転移魔法装置で連絡をとり来て貰える事になった。
 ブラウン自らユーヤの執務室に案内してくれたのだが、何と通路を挟んでブラウンの真向かいの部屋で警備の兵すら立っていないではないか。
 
 通された陽の射さぬ質素な造りの部屋で、ユーヤと向かい合った。
 見掛けは成人前後の子供で、エルフの血を引くと聞いていたが確かにそうだろう。
 政治の表舞台には出ず、ブラウンに一任して時たま指示するだけと聞いた。
 
 色々と話しあい、去り際に思い出して神殿での出来事を話すと、巷では時に神々から加護を授かるらしいが、言葉を交わしただけとはと苦笑いされた。
 重い負債を抱えたが、三国に我が国を支配する意思が無いのは幸だと感謝し、出来る事であれば同盟を結び他国の攻撃に備えたいと考える。
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