“元“悪役令嬢は二度目の人生で無双します(“元“悪役令嬢は自由な生活を夢見てます)

翡翠由

文字の大きさ
374 / 504

服屋の女性(ミハエル視点)

しおりを挟む
 日ノ本に来る前、私は服屋を営んでいた。営んでいたと言っても、集客はゼロ。なので、そんな店が続けられるわけがない、それは明白。

 だけど、私はお店を続けた。どういうことか……一人でお店を続けることはできない。

 だから、私は教会を頼った。教会にはちょっとした伝手があり、ある程度は優遇してくれるのだ。

 協会からの出資を受けて、私は儲かるはずのない店をやり続ける。そんなことに意味があるのかといえば、実は意味はあるのだ。

『いつか、店に【勇気ある者】が訪れるだろう。彼女らについて行きなさい』

 と啓示……ではないかもだが、そうとある司教に言われたのだ。

 話の通り、本当に一度も訪れなかった『お客』が現れたのを見て、思わず表情が動かなかった。とにかくそのお客に私はついていくことにした。

 理由なんてない、偽りの理由を伝えて私はなんとなくでついていくことにしたのだ。教会からの出資のおかげで私の手持ちは潤っている。そして、訪れた客はなんとSランクの冒険者。

 どこへ行っても困ることはないだろう、そう思っていた。

 だが、現実なんて甘くないのだろう。

 日ノ本では内戦が起きていて、彼女らはその内戦を止めるために日ノ本へ向かっていると話を聞いた。本当に勇気に溢れている。

 それをたった数人で成し遂げようとするなんて……いや、Sランク冒険者だからこそだろうか。

 道中いろいろなものを見てきた。多くの死体と絶望している表情……それだけではない。反乱軍の狂喜の顔やそれに対する怒りの顔も。

 それを見るだけでも私の心は怒りに染まっていった。でも、私自身には何もすることができない。

 偽善と言われても仕方がない。だからこそ、その偽善でもいいから行動するしかない。

「ベアトリスさん、私にも何か手伝わせてください」

 ベアトリスさんは快く私に仙人さんを任せてくれた。

 転移という摩訶不思議な術で消え去った後、私は仙人さんに向き、近づく。

「縫うわけではないな?」

「……はい、その通りです」

 服屋を営んでいたとは言ったが、裁縫は別に得意じゃないし、縫い合わせる程度で木津が治ったら苦労しない。

「では、どうするつもりだ?」

 私には魔法が使える。回復魔法だって一応は使える。

「やるだけやって見ます」

 手から暖かな光が溢れ、それを仙人さんへと向ける。淡い緑色の光で体を包み込むように魔力を操作していき、魔力の出力も上げていく。

 だが……所詮は力のない一般人。大した効力を発揮している様子はない。

「奴につけられた傷だからな。そう簡単に癒えやしない」

 仙人さんはそう励ましてくれた。だが、こればっかりは私の力のなさが原因だ。

 もっと私に力があれば……あるいは戦争で死ぬ必要がなかった人が何人もいたのではないか?私にもっと癒しの力があれば、仙人さんをすぐにでも治して、ベアトリスさんの負担を減らせるのではないか?

 《欲しいですか?》

 頭の奥から声が聞こえる。それは優しい女性の声だった。

 《力が欲しいですか?》

 その声の主に、私は心当たりがあった。だが、ここにいるはずがないのだ。今の私にこの人の声が聞こえるわけないのだ。

 その声は私が必要としている力を与えてくれると言った。私が困惑しているのに気づいたのか、仙人さんは優しく声をかけてくれた。

「落ち着け、何を考えているのか知らんが、我はお前に任せよう」

 もちろん仙人さんにはこの女性の声は聞こえていなかっただろうけど、察しはいいらしい。

 私は瞳を閉じる。

 確かに力は欲しい。だけど、私が欲しいのは、・だけだ。それは、癒しの力。

(私の……癒しの力を元に戻してほしい。他の力はいらない。だから、お願いします。

 《やはり、あなたが一番相応しい》

 突如として、私の体から溢れんばかりの光と力が湧いてくる。

「お前……何をしたんだ?」

「私に、任せてくれるんですよね?」

 私は体に感じるありったけの魔力を使い、仙人さんの体を包んでいく。仙人さんの周りを囲む眩いばかりの緑の光が爆発するように一瞬視界を奪った。

 次に視界が開けた時には、仙人さんが全身にうけた細かい傷から、深い傷まで……その全ての傷が跡が付くこともなく、元通りになった。

「戻った……私の力……!」

 私が自分の手を見つめていると、仙人さんは起き上がって埃を払う。

「まさか本当に治るとはな。我と対極をなすあいつの攻撃は、我には有効打だ。治療は絶対に無理だと思っていたが……」

 体の様子を不思議そうに眺めていた仙人さんが、ふと顔を上げて私の方を見た。

「お前は一体何者だ。この治癒力は……まるで『聖女』のそれだ」

 聖女

 教会に所属する癒しの第一人者。全てを慈愛でもって癒し、人類を勇者と共に守る麗しい女性。

 でも、私はそんな大層なものじゃない。私は聖女になれるような器ではない。それに、今の聖女はオリビア様だから。

 故に、私はただの服屋だと答えようとしたが、

「良い、本当のことを言いづらいのであれば言わなければいい」

「私はまだ何も……」

 いや、勘がいいのだろう。

 本当のことを伝えていいのかはよくわからない。真実を伝えるのもいいのかもしれない。だが、それを最初に伝えるのはこの内戦が終わった後にしておこう。

「私は……服屋を営んでいる、ただのシスターですよ」
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ひ弱な竜人 ~周りより弱い身体に転生して、たまに面倒くさい事にも出会うけど家族・仲間・植物に囲まれて二度目の人生を楽しんでます~

白黒 キリン
ファンタジー
前世で重度の病人だった少年が、普人と変わらないくらい貧弱な身体に生まれた竜人族の少年ヤーウェルトとして転生する。ひたすらにマイペースに前世で諦めていたささやかな幸せを噛み締め、面倒くさい奴に絡まれたら鋼の精神力と図太い神経と植物の力を借りて圧倒し、面倒事に巻き込まれたら頼れる家族や仲間と植物の力を借りて撃破して、時に周囲を振り回しながら生きていく。 タイトルロゴは美風慶伍 様作で副題無し版です。 小説家になろうでも公開しています。 https://ncode.syosetu.com/n5715cb/ カクヨムでも公開してします。 https://kakuyomu.jp/works/1177354054887026500 ●現状あれこれ ・2021/02/21 完結 ・2020/12/16 累計1000000ポイント達成 ・2020/12/15 300話達成 ・2020/10/05 お気に入り700達成 ・2020/09/02 累計ポイント900000達成 ・2020/04/26 累計ポイント800000達成 ・2019/11/16 累計ポイント700000達成 ・2019/10/12 200話達成 ・2019/08/25 お気に入り登録者数600達成 ・2019/06/08 累計ポイント600000達成 ・2019/04/20 累計ポイント550000達成 ・2019/02/14 累計ポイント500000達成 ・2019/02/04 ブックマーク500達成

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

処理中です...