“元“悪役令嬢は二度目の人生で無双します(“元“悪役令嬢は自由な生活を夢見てます)

翡翠由

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それは幻に勝る者(ミハエル視点)

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「これが……幻花?」

 光輝く宝石、美しい自然の景色や美しい建物の風景を普段の日常から目にして、目が肥えている人間の私でさえ、それのあまりの神々しさに思わず見惚れ、体が動かなかった。

「これで、終わりですね」

 金鎧の男の声が後ろから聞こえ我に帰ると、肩に熱くなる感覚を覚える。

「きゃっ!?」

 肩にまるで立てかけるように刀を置き、その目は私にどけと言っているようだった。

「人間よ、私は機嫌がいい。今その場を退いてくれたら、殺さずにおいてあげましょう。どこへでも逃げていいですよ」

 仙人さんは槍を支えにして立っている。体全体に細かな傷が見え、かなりの激戦がうかがえた。それでもまだ金鎧の男に目立った傷はない。

「さあ早く選べ。この場で死ぬか、退くか」

 狂気じみた金鎧の男の目が血走る。

「私は……」

 幻花は私の目と鼻の先にある。そして、私は今それに手を伸ばすことができる位置にいる。

(ここで、諦めてしまったらベアトリスは生き返らない)

 それどころか、私は偽善者ですらなくなってしまう。命欲しさに最低限の善意を捨てたら、それこそ神から見捨てられてしまう。

「私は、ここを退くことはないでしょう」

「……なんですと?」

「私のことを殺したければ殺しなさい!だけど、絶対に幻花は渡しません」

「何をふざけたことを……あなたにそれを選択する権利はないのですよ?」

 絶対的な実力差。私がここで立ち塞がっても意味はないのかもしれない。

「だけど、最後まで私はここに立ち続けます。みんながまだ頑張っているのに、私が諦めるなんて……そんなカッコ悪いことできませんよ」


 ♦️


 金鎧を着て、本気になった友人は我をかなり追い詰めた。

 体はもうボロボロで、正直槍を握っている手に力が入らないほどだった。そんな時に、幻花が咲いて、友人はそちらに意識を持って行かれていた。

 こんなボロボロな体で幻花を守り切ることができるわけがない……ここで終わってしまうのだろうか?友人を狂気から救うことも、一緒に協力すると言ってくれたあの少女も……助けることができずに終わってしまうのだろうか?

 不甲斐ない……そう思っていた時。

「だけど、最後まで私はここに立ち続けます。みんながまだ頑張っているのに、私が諦めるなんて……そんなカッコ悪いことできませんよ」

 ミハエルの声は意識が若干薄れかけていた我の耳にしっかりと聞こえた。ミハエルの方に視線をやると、腕を広げて幻花を八光の仙人……我の友人から守るように立っていた。

 その顔は、死を覚悟しているような……生を諦めていないような、そんな顔。

(はははっ……馬鹿だったのは我の方だったか)

 力のない人間に何ができるのか、回復の魔法が使えればと思って連れてきたが、まさかこうなるとは思わなかった。

 我は、勝手に自分一人でなんとかしなくてはならないと思い込んでいた。自分にしかどうにもできないと思って、助けを得ようとしてこなかった。

 そして、勝手に諦めた。

(ふふっ……彼女はまだ諦めていないというのに、我が諦めてどうする?)

 我は彼を救いたい。そして、ベアトリスも救いたい。

 だったら、

「最後まで、無様に舞ってやろう」

 槍を掴み直す。足に力を入れて体を起こし、一歩前に踏み出した。

「うおおおお!」

「なっ!?」

 完全に油断していた八光が驚いた顔でこちらを見ていた。

「今だ!摘め!」

「っ……はい!」

 体が押し返されていくが、もはや一歩も下がる必要はない。

「最後まで、諦めるか」

 不思議と体に力が入る。

「なんだと!?その力、どこからっ!」

「うおおおおおお!」

 刀で防いでいた八光の足が地面に沈んでいく。

「舐めるなあああああ!」

 八光の体が燃えたぎり、浄化の炎が刀を伝って槍を燃やし、我の体を燃やし始めた。全身にどうしようもないほどの痛みが流れる。

 体の節々から骨の中までが燃えていく。

「ぐうっ……」

 だが、下がることはない。今下がったらミハエルの覚悟も、我の想いも全て無駄になる。

「仙人さん!?」

「先に行け!」

「で、でも!」

「我のことはいい!早く急ぐんだ!」

「そんな……」

 ミハエルは迷ったように、逡巡している。迷う必要はない、我のことなんて放っておいて、早くなすべきことをなすんだ。

 だが、ミハエルは我を見捨てることはなかった。

「私は……誰一人として見捨てたくないんです!」

 その瞬間、ミハエルの体が眩く輝いた。その光は仙人であり、光なんてあってないようなもの……眩しさなんて感じるはずがない我と八光ですら、目が痛くなるほどの光。

 それは、幻花の輝きなんて薄れてしまうほどのものだった。

 そして、その光と共にミハエルの背中から何かが広がった。バサッと音を立てて渓谷の横幅ギリギリまで広がるその『翼』は純白のとても清純で美しい色をしていた。

「まさかっ……そんなはずは!?」

 ミハエルの頭の上に光輪っかが生まれ、それは暗闇なんてないと言わせるかのようにミハエルの全身の光を吸収し、太陽のようなものへなった。

「絶対に誰も、死なせません!」

 光り輝く聖をその身に宿して、全ての人に慈愛を持って癒す。ああ、狐の亜神が私の胸を指していたのはこういう意味だったのか。

 それはもうここにあると。

 それは誰がなんと言おうと……

「天使……!」
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