“元“悪役令嬢は二度目の人生で無双します(“元“悪役令嬢は自由な生活を夢見てます)

翡翠由

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過去の探検録④(ユーリ視点)

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 出るときはとても簡単なショートカットを作ってそこから出てきた。真上に穴を空けてそこから飛び出る。

 勿論穴をこじ開けるのにもそれなりの火力が必要だが、ボクらにとってはお茶の子さいさいだ。

 中から外へ飛び出すと、そこは火の海と化していた。森が尽きぬ炎にあぶられて倒れていき、植物は無抵抗に散っていく。

「ど、どういうことだ!?」

「落ち着いてゴーノア。早く火を消そう!」

「あ、ああ……アル!ついてきてくれ!」

 二人は火を消すために走り去っていった。

 ちらりと勇者の方を見ると、その表情は軽く絶望し青ざめていた。

「ど、どうして……?誰がやったんだ?」

「勇者さん、ほんとにボクらを騙してないよね?ボクらを引き留めるためにこんなことしたわけじゃ――」

「違う!本当だ!信じてくれ……いや、信じてはくれないだろう。だけど、俺はこんな残酷なことはしない!」

 仮にも人族はエルフとは同盟的な立ち位置にいる。よって、人族の代表である勇者がいきなりエルフの森を燃やすように指示は出さないはずだ。

「じゃあどうしてさ」

 ボクの方にもエルフの森を燃やすなんて情報は入ってこなかった。これでもボクは重役に位置づいているので、重要な侵攻計画は耳に入ってくる。

 そう考えている時、

「勇者様ー!」

「っ!その声は……大将か?」

 大将と呼ばれていたその男が、勇者とボクの元に近づいてくる。

「その鎧……どうして、完全武装をしているんですか?」

 その勇者の問いに大将は実にいやらしい笑みを浮かべていった。

「今は戦時中ですよ?すぐそこで戦争している最中ではないですか」

「それは……どういう?」

「いやぁ、勇者様がいてくれて助かりましたよ。あなたのおかげでこうして森へ侵攻することが出来たのですから」

「は……?」

 勇者の表情は更に青ざめて、何かを通り過ぎて白に変わってきている。

「勇者様、まさかあなたほどの有名人が無断でエルフの森に入れると思っていたので?」

「え……いや、だが……」

「同盟国とは言え、違う種族。その代表が勝手に自分たちの領土に入ってきたら『監視』せざるを得ないでしょう?」

「監視だと?」

 これにはボクも気づかなかった。探検に夢中になっていたというのもあるけど、エルフの監視と言えば、とても良い視力に更にスキルによる視力強化を行った斥候だ。

 ゴーノアのようなハイエルフであっても気づけなかったはずだ。

「そんな!どうしてこんなことをするんですか大将!」

「どうして?そんなの決まっているじゃないですか。魔族のとの戦争のためですよ」

「だが、同盟を結んでいるだろう!?なぜ攻撃した!」

「同盟を結んでいるとはいえ、違う種族同士なのです。つまり、潜在的敵国なのですよ」

「お前は……なにを言っているんだ?」

 大将は狂った妄言を吐いているようにしかボクには聞こえなかった。それは勇者も同じだったようだ。

「今回もご・活・躍・ありがとうございました」

 そう言い残して、大将は燃え盛る炎の元へ去っていった。

「勇者、さん?」

 呆然とただただ自身の手を見つめている勇者。勇者は人が良すぎた。だからあんな下種に利用されてしまったのだ。

「勇者さん、あなたは別に悪くないよ?」

 そんな慰めも届くことはなく、勇者は急に自身の剣を抜き放ち、それを自分に向けた。

「お、おい待て!?」

 だが、悲しきかな。勇者とボクとではステータスが違ったのだ。勇者の動きの方が一歩早く、勇者の剣が勇者の体を貫いた。

「あ……あぁ……」

「おい何してんだよ!?今回復を……」

「そんなこと……しなくていいよ」

「何言ってんの!死にかけてんだよあんたは!」

 構わず回復魔法をかけようとするが、

「君は……魔族だろう?」

「っ!?」

「俺が気づかない、とでも?」

 やっぱバレてたのか……そりゃあそうか。こんなところにひょっこりとひ弱な人間がうろついているわけないもんね。

 いくら横にハイエルフとドライアドがいたとしても、それが逆に不自然さを引き立てている。

「俺は、本当に馬鹿だった。あんな愚かな奴に従ってここまでのこのこと……」

「違うだろ。あなたはただ自分の正義に従っただけじゃないか……」

「愚かな人間に騙されるのもまた愚かさだな……俺が勇者として活動するのではなく、新たな勇者が現れたほうが世界は平和になるはず……だ。そして、もしよければ君にも……」

 その時、勇者の伸ばしていた手がだらりと落ちた。

「勇者が何簡単に死んでんのさ……しかも自殺だなんて!前代未聞だよ!」

 勇者は魔王を倒すために選ばれた異世界人。戦争もなく争いもない平和な時代を生きていた彼らにとっては、こんな仕打ちは耐えられないのだろう。

 勇者という者は必ずその時代に一人。勇者が死ねばまた新たな勇者が召喚されるだけだ。

「同じこと繰り返してるだけなんだよ……馬鹿」

 ほんの一時間前にあったような間柄だけど、彼が善良な人間だったというのは分かった。

 彼が望んでいたのは戦争で勝ち取る人間たちの平和ではなく、争いの起きない他種族間による共生だったんだろうな。

 ボクがそんな勇者を突き刺している剣を、せめて抜いてやろうと手をかけた時、ざざっと草木が揺れる音がした。

 そこに現れたのは、ボクにとっての友軍……魔族だった。

「こ、これは!?」

 明らかに勘違いをしている。

「違うぞ?ボクがやったんじゃ――」

「おお!流石上級魔族様だ!あの『勇者』を倒してしまわれたぞ!」

「これは次代の『魔王』になるしかないな!」

「い、いや……みんな、待ってくれ」

 ボクじゃないんだ。

「さあ、早く撤退しましょう。エルフと人族が仲間割れをしている隙に」

「……ああ」

 ボクは勇者の剣を持って立ち上がった。

「勇者さん。君が諦めるなら、ボクはやるよ?」

 戦争を平和的に終わらせて見せる。ボクだって戦争にはうんざりしてるんだ。

「ま、ボクが魔王になったら新しい『勇者』くんも悪いようにはしないさ。ボクの元へ来れたらだけど」

 最後に、勇者の目から落ちていた涙を拭いた後、ボクはその場を立ち去ったのだった。
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