猫の魔術師〜その猫がいずれ最強になるまでの話〜

翡翠由

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魔術界

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「一歩、歩いてみなさい」

「ど、どどど、どうやって?」

「片方の足を出してない方の足で支えるんですよ!」

「む、無理ぃ!バランス取れない!」

 おぼつかない足取りでカーペットの上に立たされているのは、水色の髪を短く切ってあり、アホ毛が少し立っている少年である。

 レインのことだ。

 作り上げられた肉体には、『師匠』も目を丸くしていた。「まさか一発で作れるなんて……」と舌を巻いていた。そして、『師匠』の持っている私服を借りて服を着てみた。

 魔力を操作しなければ、自分の体を動かすことができないというのは少しタイムラグが出てきてしまうので、ここは要練習が必要である。だとしても、ちょっと鈍臭いだけの下町少年と言われればまさしくと言えると思う。

 ただ、思わぬところで苦戦していた。二本足でバランスが取れないのだ。普段四本足で歩いている猫のレインにとって、二本足というのはどうにも感覚が崩れてしまうのだ。そこも要練習が必要だろう。

「紅茶をお持ちしましたー」と扉が開けられ、ロザリーが入ってくる。だが、レインの人間の姿を見て少々硬直したあと、その紅茶が乗ったトレーの投げ捨てた。

「きゃー!可愛いー!」

「ぐほっ!?」

 部屋に入ってきたロザリーは、いつもながらにレインに抱きつき撫で回す。

「ちょ、ちょっと……苦し……くはないけど」

 人間の身体……仮に、『魔力体』と呼ぶとする。魔力体でできた身体には痛覚を備え付けていないため、別に痛みは感じない。

 ただ、『実体』がいる足元あたりには痛覚が通っている。

 これも今後改善の必要がありそうだ。

「素晴らしいです!本当に……まさか人間の身体を手にするなんて!」

「ありがとう、『師匠』」

「ええ、まるで〈変化の魔術師〉のようです」

「〈変化の魔術師〉?」

「水と風を扱う、私の同僚です。魔術界ではそれなりに有名なやつですが、私の方が有名ですね」

 最後の部分は聞き流しながら、レインはふと思う。

「そのなんとかの魔術師っていうのはみんな持ってるの?」

「いいえ、実力と実績、知名度がある者が国や魔術界から与えられる、いわば称号のようなものです」

「かっこいい!僕ももらえる?」

「そうですね、もっと魔術の腕を磨いて仕事をこなして有名になれば、可能性はありますね」

「ほんと!?」

 不覚ながらも『師匠』の〈虹の魔女〉という称号もかっこよく感じてきてしまった自分がいた。路地裏出身の猫にもできるのだろうか?

「〈猫の魔術師〉って名前が欲しいな」

「気が早いですよ。あなたはまず一歩歩けるようになってから言いなさい」

「わっ!?」

 後ろから背中を押されて、ドンと前に倒れる。

 一歩踏み出すのには少々時間がかかりそうだが、それでも気持ちは不思議とやる気という力で溢れているような気がした。


 ♦️


 ーー数日後

「『師匠』!歩ける!もう転んだりしないよ!ほら!」

「おお、ついにあなたも人らしい歩き方になってきたではありませんか」

 今までは一歩踏み出そうとすると、すぐに前屈みに転んでしまっていたのが嘘であるかのようにスムーズと足を動かせるようになった。左にも曲がれるし、右にも曲がれるということに感動を覚える日が来るとは思わなかったが。

「そしたら、早速向かいましょう」

「え、どこに?」

「そんなの決まってます。『魔術界』にです」

 魔術界と呼んでいるそれは、別に他次元の話をしているわけではない。魔術界というのは世間一般でいうところの『組合』である。

 端的に言えば、魔術界というのは魔術師として名前を登録して、仕事を斡旋してもらえたりする場所である。そこで大きな成果を残したりするともしかしたら出世の道も見えてくるかもしれない。猫が出世して何か意味はあるのかと聞かれればないかもしれないが、レインはすでに魔術にハマっており、魔術師と周りから呼ばれることを待ち遠しく思っていたのだ。

「ってことは?」

「ええ、あなたの名前を登録しに行きます」

「やったー!」

「あ、今度はちゃんと言えるんですね」

 やた!が、わざとであるとバレてしまった。

「まあいいです。喜んでくれて何より……なのですが、まだあなたは喜べる立場にはいませんよ」

「え?」

 喜びが一点、不安になってきた。『師匠』は普段は優しいのだが、こと魔術に関しては鬼教官に早変わりするのだ。一体どんなことがここからレインを待ち受けているのかと恐怖していると、予想とは少し違うものが降りてきた。

「ここで、あなたとはお別れです」

「……………え?」
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