猫の魔術師〜その猫がいずれ最強になるまでの話〜

翡翠由

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新たな師の元へ

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「ど、どういうことですか!?」

「そのままの意味です。私と今日で一旦お別れです」

「どうしてそうなるんですか!」

 理解に追いつけていないレインと、二人のやりとりをじっと観察するロザリー。その二人に見つめられて、ため息を吐く『師匠』。

「あなたに教えるべきことはまだ山ほどあります。そして、あなたは私の『弟子』であり、他の誰にも渡す気はありません。ですが、時期が悪かった」

「時期?」

「レイン、あなたはいつも冗談だと思っているようですけど、私はこれでも〈虹の魔女〉。本当に本当に魔術界では名を馳せているすごい人なんですよ?」

 そういって苦笑いをする『師匠』。

「賢人会議と呼ばれるものがありましてですね。これは、世界中でそれぞれの分野で最も影響力のある者たちが集って、今後の世界情勢について会議する議会のことなのですが、私はこれに出席するために遠く離れた地まで行かなくてはいけないのです」

「え!?」

「私は魔術師代表として出席します。帰ってくるのは一年後くらいでしょうか?」

 レインは頭の中が真っ白になる感覚を覚えながら口をあんぐりと開けていた。こうなると予想はついていたのか、『師匠』は笑いだす。

「大丈夫です。あなたを捨てに行くわけじゃないので。魔術界に私の知り合いが何人かいるのですが、その人たちにあなたの面倒を見てもらうようにと、お願いをしておきました」

「……違う人?」

「ええ、私とは研究内容も違うような別人です。ただ、皆いい人なのでレインの成長の助けにはなってくれます。もちろん魔術師としても優秀ですし……あ、あなたが猫であるということはまだ伝えていないので、できるだけバレないようにしなさいね」

 そう、子供を送り出す母親のようなことを言い出す『師匠』に思わず声を荒げる。

「いやだ!僕、『師匠』と一緒がいい!」

 生きるのに精一杯で、他人のことなど気にせずに行きてきたただの猫が、初めて声を荒げて反抗したことに驚きを隠せない『師匠』。

「『師匠』のこと大好きだし、もっともっとたくさん教えて欲しいから!行かないで!」

「……ふふ、そう言われてもですねぇ」

「もういい子にするし、ちゃんと頑張るから……だから」

「レイン」

「……?」

 ゆっくりと、『師匠』が近づいてきた。そしてゆっくりと抱きしめる。

「……私の名前は『アメリア』です。半年以上付き合ってきて教えるのは今日が初めてなんてひどいと思いますが、覚えてくださったら嬉しいです。それと……すぐに戻ってきます。たった一年です、少しは辛抱なさいな」

「うぅ……」

「大丈夫、あなたが完全に成長し切るまで私はあなたの『師匠』であり続けます。あ、だからと言って一年間修行をサボるなんてことはしないでくださいね?そんなことしたら、一生魔術教えませんから」

 そういって顔をあげ、額にキスをする。こんな時になって、涙を流すということができない魔力体が恨めしい。

「私の代わりと言ってはなんですが、ロザリーがあなたのそばであなたのことを守ってくれるはずです」

「そう、なの?」

「ロザリーには給料を弾ませておきましたし、猫好きなのできっとどこまでもついてきてくれますよ」

 チラリとロザリーを見ると少しだけ寂しそうに手を振っていた。

「一年後、また会いにくると思います。その時に、成長したあなたの姿を見せてください」

 猫の一年とは長いものである。魔力体を手にしたところで、レインは種族的に猫であり、それは一生変わることがない。

 寿命としては十八年ほどだろうか……すでにレインはその半分ほどを過ごしている。たかが一年だが、それはレインにとってはとても長い時間であった。

 だが、

「『師匠』がそういうなら、僕、もっと強くなる。きっと強くなって有名になったら、『師匠』の『弟子』の名前が、『師匠』のいるところまで届くだろうから」

「ふふ、いいますね。では、私は楽しみに待っているとします……」

 すっと立ち上がると、『師匠』は呪文を詠唱し始めた。

「《開け》」

 出現したのは大きな扉であった。その扉はギィという重低音を響かせながらゆっくりと開く。本能的に感じた、扉の向こうはきっと魔術界の中へと繋がっているのだろうと。どういう原理で繋がっているのかはわからないが、ここを通って登録を済ませたら隣にいる『師匠』と別れなくてはいけないのだと。

「行きましょうか」

「……はい」

 そして、レインは新たな師の元へと送り出されていくのだと。
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