猫の魔術師〜その猫がいずれ最強になるまでの話〜

翡翠由

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放任主義

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 六魔導

 それは魔術界における最も偉大な六人の魔術師である。

 〈凶弾の魔術師〉〈変化の魔術師〉〈激雷の魔術師〉〈堕落の魔女〉〈風円の魔術師〉そして〈虹の魔女〉の六人だ。

 それぞれが圧倒的な戦闘能力を保有し、研究の論文をいくつも発表しさまざまな新理論を生み出して魔術界の発展の貢献してきたことから、知識の多さと幅の広さは他の魔術師とは一線を画すほど。

 そんな人のもとで学ぶことができるというのは全魔術師の憧れである。

 ……のはずなのだが、

「いいか、まず俺がお前に教えることはない」

「え?」

『師匠』がいなくなったあとグレンが開口一番にそういった。

「俺は放任主義なんでな。別にちゃんとした理論を教え込むつもりはない」

 ポカーンとしていると、グレンが笑い出す。

「別に、意地悪で言ってわけじゃねえし、本当に鍛えてやるつもりはある。だが、お前は理論を学ぶよりも経験をしろってわけさ」

「経験?」

「魔術理論というのは、単純に多くの人にとって学びやすいというものなんだ。だが、必ずしも万人に合うわけではない。だからその時その時に自己流で学んでいくのが一番だと俺は思ってる。俺がそうだったからな」

「実戦で学んできたの?」

「あぁ……」

 ちょっと気まずそうに頬をかくグレン。

「俺の場合は紋章が低階級だったから誰も教えてくれなかったんだ。そんな奴らを見返してやろうと思って、大量に仕事をこなして実際に必要な魔術をその場で学んでいったんだ」

「あ、なるほど……」

 レインの持っている【水龍の紋章】は別に一番階級が高いわけではない。だが、一般的に見れば恵まれた紋章である。ただ、紋章なんていう魔術との相性をものともせず、自分の努力と天性の才能によって『六魔導』にまで上り詰めた男こそ〈凶弾〉のグレンなのである。

 グレンの言いたかったことについて納得し、軽く首肯で返す。

「はい、わかりました。それで経験はどうやって積めばいいんですか?」

「さっきも言った通り、仕事だよ仕事。いろんな魔術師の助手をやったり、一般の人から依頼された雑用や特別な任務……そして、俺の研究の補助だ」

「おぉ……」

 魔術師にとって研究とは実績であり、研究が終了するまでは秘匿されている。それの補助をさせてもらえるというのはとても信頼されている証だ。まあ、会ったのは今日が初めてなのだけど。それだけ『師匠』が信頼されていたということだろう。

「だがな、俺は〈虹の魔女〉ほど甘くはねえから覚悟しておけ」

「甘い?」

 あれが?

 一週間水中の中に猫を閉じ込めるような『師匠』が甘い?一体何を言っているのだと頭が痛くなる。

「まず、お前生活費は自分で稼げ」

「!?」

「メイドもいるらしいから別に生活費はかさむな……それと、お前は俺とは別の場所で寝泊まりしろ。最初に一週間だけ金は手配してやったから離れた宿を探せ。そして、俺が呼びつけたら走ってこい。魔術師だからって体力をつけないのはバカがすることだ、身体を鍛えておくことで魔力欠乏による症状を軽減することもできる」

「え、ええ?」

「毎朝十キロは走ってから、仕事をしろ。仕事の斡旋はしないぞ、自分で見つけ出せ。『六魔導』の弟子になったからって調子に乗らせてもいいことないし、恨むなよ」

 それに関しては不満はない。元々そこまですごい人たちと関わり合う機会があるとか思っていなかったから。ただ、少し不安なのは、人間ではないレインがいきなり人間のように仕事をこなして運動をして修行をするということを同時にこなせるようになるのか。

 ……いや待て、そもそもこの身体じゃ走ることすらままならないんだが?

 やっと最近人の身体を使って歩くことを覚えたばかりなのに……と、気分は落ち込んでいく。

 最初は猫の身体で走ることにしよう。幸いにしてグレンには偽装した肉体であることはバレたものの、レインが猫であることまではバレていないのだ。

「わかりました。がんばります」

「おう、頑張れよ」

「あの、早速仕事してもいいですか?」

「あ?」

 魔術師の仕事と聞いてウズウズしているレインを見てグレンは少し呆れ顔になる。

「仕事にそこまでワクワクできるやつは初めて見たな……ほれ、向こうにある受付に行ってこい。登録したての『初級魔術師』でもできる仕事を渡してもらえ」

「……『初級魔術師』?」

「なんだ?階級知らないのか?」

「いえ、そういうわけではなくて……」

 自分なんかがもう魔術師を名乗っていいのかと疑問に思ったのだ。魔術師とは何年もかけて知識を深めていくことでなれる職であり、ぽっとでのレインが少し齧った程度で名乗れるような簡単なものではない。

 そんな負い目を感じていると、グレンはまた頭をわしゃわしゃと撫で回した。

「大丈夫だ。お前は立派な『魔術師』だよ。お前の『師匠』がそう認めたんだからな」

「あ……」

『師匠』が連れてきてくれた。少なからず『師匠』は自分のことを認めてくれたのだ。初級ではあるものの魔術師を名乗ってもいいと。とても嬉しくて、口角が自然と上がる。

 ああ、感情が昂ると魔術の操作が……。

 やっぱりまだまだ学ぶことは多かったようにも思える。だが、『師匠』に成長した姿を見せるために、頑張ってここからもっと学んでいくんだ。

「行ってきます!」

「おう、仕事が終わったらまたここへ来い。その時に渡すもの渡してやる」

 この日、レインの魔術師としての新たな生活が始まった。
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