猫の魔術師〜その猫がいずれ最強になるまでの話〜

翡翠由

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強敵の予感

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「うーん……もうちょっとだけ……」

「おい、レイン!もう朝だぞ!遅刻するぞ!そのセリフ今日何回言ってんだよ!」

 昨日の夜更かしが祟ったのかもしれない。ギルには散々怒られて、たっぷりと絞られてから寝たものだから睡眠時間は相対的に短くなった。元々ぐっすり眠るタイプではないのだが、昨日は久しぶりのまともな戦闘と緊張もあったから不思議とぐっすり寝れた。

 ただ、今日もまた授業がある平日である。今日もまた朝から授業があるのだ。

 頼むから、授業は午後にしてくれ。毎日二コマしかないのだから午後から始めたって終わるでしょ?

「もう知らないぞ!俺はもう行く!」

「うん……行って、らっしゃい……」

 結局、その日の授業は全部欠席した。


 ♦️


 起きれなかったわけではない。ただ、一度……もう一度眠りの中に入ってしまったらどうしても抜け出せなかったのだ。自分の意思で眠りの中から起きることはレインにはできない芸当であった。

 もうすでに放課後になり、それぞれが学校で残って勉強やら友達と話している中、レインは寮の中からその様子を眺めていた。

「……ま、まあ別に落第するわけではないし?」

 大丈夫、まだ大丈夫。

「そうだ、グラシアの様子を見に行かないと……」

 寝坊してしまったレインがいうのもなんだが、グラシアはもう起きているだろうか?グラシアには申し訳ないが、しばらくは尋問があることだろう。

 レインからされる……というより、魔術界からされる。レインももちろん質問して、答えてもらうつもりではあるが、やはり『異常現象』を目の敵にしている魔術界は生ぬるい尋問はしないだろう。

 流石に拷問の域にはいかないとは思うから、レインに必要な情報は先にいただいておく。秘匿されたら敵わないからね。

 寮から出ると寮母が眉を顰めながらこちらを見ている。ギルは周りになんて言ったのだろう?病欠扱いが一番いいのだが……「病気のやつがなんで外歩いているんだ?」という目で見られるのも嫌だな……。

 できるだけ、誰の目にもつかないように急いで使用人の棟に向かっていく。

 基本的に使用人というものは授業には参加しないし、校舎内で主のそばにいることもない。では、どんな仕事があるのかといえば、主人に変わっていない間に部屋を掃除したり、洗濯をしたり……陰で主のする仕事を減らしてくれている。

 大体の貴族はそれが当然だと思っているが、縁の下の力持ちとなってくれているのが使用人たちだ。

「今日一日、僕は部屋にいたからロザリーはまだ部屋の中にいるかな」

 ロザリーの住まう部屋は一人部屋であるため、誰にもグラシアの存在が知られることはない。

 使用人たちの視線を掻い潜りながら、レインは使用人の棟の中に入っていく。急いで、ロザリーの部屋の中へと向かい、忘れそうになりながらちゃんとノックをした。

「どうぞ」

「ロザリー?グラシアの調子は?」

 部屋を開けて先にいたのは、何かの絵本のようなものを読み聞かせているロザリーとロザリーの膝の上で読み聞かされているグラシアがいた。

 グラシアはレインの方に気づくと、膝の上から降りてこちらに駆け寄ってくる。

「昨日は、ありがとうなの」

「ああ、元気そうだね」

「元気!一緒にいてくれる人もいるし、あの『力』も感じないの!」

「あの力……鏡の魔法か?」

「そうなの」

 ひとまず、レインは扉を閉めた。誰も廊下にいないからと言って開けっぱなしにするわけにもいかない。

「鏡の力は完全に消えたのか?」

「多分そうなの。もう、力は使えないの」

「そうか……」

「グラシア、いらない子?」

「え?」

「力なかったら、取り柄がないの……」

「そんなことないよ!そんなこと考えてもなかったよ」

「よかったの!」

 きゃっきゃとはしゃぐ様子を微笑ましく思う気持ちがどこかにある。もう僕はこの子を『異常現象』として見てないんだな。

「今日はちょっと質問をしに来たんだ」

「いいの」

「わかった、とりあえずもう少し奥に行こうか」

 ロザリーがグラシアの背後でせっせと席を用意してくれていた。流石優秀なうちのメイドである。

「さて……」

 席に二人で腰を下ろす。

「昨日も聞いたけど、君は自分のことを『悪魔』って言ったよね?」

「『ソロモンの悪魔』72体の一人なの」

「その……ソロモンって?」

「知らないの」

 どうやらその名の語源はわからないらしい。

「72体いるとどうしてわかるんだ?」

「感じるの」

「感じる?」

「コアの中にいる力が呼応して、みんなを感じるの。今はもう感じられないけど」

 コアの中にある力はそれぞれのコアにつながっている。そして、本人同士もそれを感じることができるらしい。そしてコアは破壊されると何も感じられなくなるのか。

「グラシアちゃんたちはどこから来たんだ?」

『悪魔』たちは突然に現れた。おそらく『異常現象』が始まった半年ほど前の段階からだ。

「わからないの……気づいたら、私たちはバラバラの場所で存在してたの。それまでなんの意識も、感覚もなかったの」

「なるほど……となると、元凶がいるな」

 少なくとも、記憶を消したのか、生み出したのかしたやつがいるはずだ。こんな自然現象が存在するわけもない。

「でも、みんな初めは隠れていたの。自分たちの力が異常なものだって、みんなわかってたから」

「だから君も隠れていたのか?」

「そうなの……この場所」

 グラシアは手を大きく広げてみせた。

「この学校、広いから……住んでても誰にもバレないって思ってたの」

 帝都魔術学校の敷地は生徒がたとえ3万人以上いたとしても埋まらないほど広い。そんな場所なら、彼女も住みやすかっただろう。いや、そうでもないか。

「じゃあ、なんで生徒を操ったりしたんだ?」

「え?そんなことしてないの」

「……………は?」

 レインはコップを取り落とす。今回の調査の原因となった事件が別人による犯行だった。グラシアではない……別の誰か?

「でも、安心していいの。『あの子』はもう別の場所にいっちゃったの」

「あの子……てことは、他の『悪魔』だね?」

 なんと、この学校には二体もの『悪魔』が住み着いていたのか……どうして、初日で気づけなかったのだろうか……いや、存在を知っていても探し当てることはできなかっただろう。

 グラシアでさえ、自ら姿を現さなければレインには見えなかったのだから。

「そのもう一人の子のことは知っているのか?」

「ううん、あんまり知らないの。話しかけてもすぐに逃げて、いなくなっちゃったの……」

「そうか……」

「でも、一つだけ言えることがあるの!」

 グラシアは手を握りしめながら、いった。

「私なんかよりも、ずっと暴れるのが大好きで、イタズラするのが大好きな子だったの……それに、とっても強かった……」

「戦ったことがあるのか?」

「うん、バレたら危険だからって言って……でも、勝てなかったの。私の鏡の力、通用しなかった……全部、視られてたの」

 レインも苦戦したグラシアが勝てなかった相手……しかも、こっちは暴れるのが好きなのか。

 もうすでにこの学校は去ってしまったらしい。理由はよくわからないが、ただ気まぐれなのかもしれない。気まぐれである者が一番怖い。いつ、どういう気分で何をしでかすかわからないからだ。

「だから……気をつけて欲しいの。多分、今のあなたは勝てないから」
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