猫の魔術師〜その猫がいずれ最強になるまでの話〜

翡翠由

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身体強化

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 レインは帝都の街にでたことはそこまで多くはなかった。レインがまだ猫の姿で暮らしていた時、その時はまだ人間の姿を手に入れてはいなかったものだから、街の中に出ようものなら自分よりも背丈の大きな人間たちに怯えていた。

 どうしても食べるものがなくなった時しか街にはでず、基本的に路地裏の中を行き来していたせいか、レインは誰よりも帝都の路地裏の中を知り尽くしていた。八年間もそこで暮らしていたのだから、もはや路地はレインの庭だ。

 例え優秀な護衛であったとしても全ての道を知っているレインには追いつくことはできない。曲がりくねった道の中には狭い道もあるから、大人の体では入れなかったりする。故に、逃げ切るのは簡単だった。

 護衛の人には申し訳ないことをしたという自覚はあるものの、これはもともとやる予定だった『訓練』とも関係してくるのだから許してほしい。言ったとしても許されないと思うけど。

「もうすぐ抜けるよ!」

 路地裏をアルフレッドの手を引っ張りながら突き進み、帝城の近くへとつながる道から出る。抜けた先に広がる世界はレインも遠目であれば見たことがあるような景色であった。

 古びていながら、荘厳とした佇まいでその空間に静止しているその帝城は帝国の国旗をはためかせながら、何百メートルもある高さは雲すら突き抜けている。人類の建築技術を軽く超えてくるような外観は圧巻の一言につき、その敷地は帝都の居住区域よりも何倍も広い。

「これの横に、それぞれの皇族が住む宮が何個かあるんだ」

「広い……確かに『師匠』のは小屋だ」

「?」

『師匠』が連れてきてくれたあのそこら辺にある家を何個も繋げたような大きさをしている建物ですら小屋という表現が正しいと思えるほど巨大だ。帝城の大きさそのものがこの帝国の威厳を示している。

 帝国の象徴なのだ。

「ねえねえ」

「言っておくが、中には入れないぞ?」

「むぅ、いじわる」

「さっきも言ったろ。入ったのがバレたら最悪レインは打首だぞ?」

「それは困るな。首が飛んだら、研究に支障をきたしそう……」

「いや、そこじゃないだろ?」

 若干アルフレッドに引かれつつもレインはその帝城の様子を眺める。

「ねえ、あのてっぺんに登ったことある?」

「ええ?」

 レインが指差す先にあるのは雲を突き抜けた帝城の最も高い場所だ。

「あるわけないだろ、あんなところ」

「登ってみたくない?」

「え、いやいやいや無理だから」

「登りたい!」

「無理だろ絶対!」

「いいの?今日この後魔術の訓練をしようと思ってたけど、あそこで」

「絶対嘘だ!」

「割とほんとだよ?」

 とにかく高い場所に登りたい。そこの方がきっと『風』が強いはずだから。

「……いいと言うと思うか?」

「うん」

「後悔すんなよ?」


 ♦️


 とは言ってもどうやって登るのかは迷いどころだ。今さっきこの国の第三皇子に許可は得たところだから、バレても打首にはならないはず……それよりもあそこまで到達する方法を探したい。

 最初は魔術界の建物を使って高いところに登ろうかとも思ったが、あそこに行って仕舞えば事情を知らない人がレインの正体をアルフレッドにバラしてしまう可能性がある。かといって街の外から出ることは子供だけではだめだ。そうなってくると一番高い建物は帝城ということになる。

「そもそも敷地にどうやって入るつもりなんだ?」

「それは適当にチョチョイと?」

「適当だなおい」

「まあ見ててよ」

 別にこういう時のために魔術を開発してきたわけではないのだが、活用するに越したことはない。何気に帝城の中に入るというのも初めてだから楽しみだ。やってはいけないことをしている時ってどうしてこんなに生き生きすることができるのだろうか。

 レインは体全身に溜まっている魔力を巡らせていく。とはいえ、魔力体は元から魔力で満ち満ちているため、表現として適切なのは、体内の魔力を循環させたが適切だ。

 魔力体の停滞した魔力の流れを動かし、それで魔術を発動させる。

 レインは昔から思っていたことがあるのだ。魔術師の敗因として高い、接近戦の弱さをどうにかして補えないかと。ついこの間開発に成功したこの無属性の魔術ならば、きっと役立ってくれることだろう。

 全身に巡った魔力は発動させた魔術陣に反応し、レインの魔力体にサークルを刻んだ。

「なんだそれ?」

 浮き上がったなぞの魔術陣にアルフレッドがそんな疑問を投げかける。

「強化魔術を他の魔術を介さずに自分に付与してみたんだ」

 そう、名付けるならば『身体強化』と言ったところだろうか。

「大丈夫、倍率はそれなりに調節し終えてる……多分」

「そっか、それならあんし……え?多分って言った今?」

 どこまで身体能力が強化されたのはよくわからないけれど、きっとなんとかなるはずだ。何せまだ一回も使ったことがないのだから分かれという方が無理難題なのだ。だからこそ、今ついでに実験して仕舞えばいいのではないだろうか。

 まさに一石二鳥!

「しっかり捕まっててね?」

「うお!?」

 アルフレッドの身体を軽々と持ち上げて、レインは自分の腕の中に収める。

「お、おい!降ろせ!恥ずかしいだろ!」

「それじゃあいくよ!」

「おい、話……うぉ!?」

 地面を蹴ったレインは次の瞬間には簡単に十メートルにもなる帝城の壁を超えてみせた。
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