猫の魔術師〜その猫がいずれ最強になるまでの話〜

翡翠由

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 アルフレッドの成長速度はレインにも目を見張るものがある。ついこの間まで魔術が全くと言っていいほどできなかったアルフレッドがここまでになるとは思わなかった。

 アルフレッドの強みは、『視線誘導』だ。魔術で相手が隙を晒したタイミングで別方向から襲ってくる攻撃が非常に強力だ。人間の目は前にしかついていないため、自然と索敵技術を持っていないものであれば、これだけで脅威度は高い。

 これは使える。

 戦術がまた一つ増えた。レインの戦術といえば、正面切って押し切るか、肉弾戦に持ち込むかくらいしかない。そこに視線を誘導するということが加われば、肉弾戦を仕掛けて注意を引いている間に背後から魔術を繰り出すことができる。

 アルフレッドが魔術大会への推薦を手に入れたところで、レインは何があるというわけでもないのだが、なぜか嬉しくなった。自分でも意外に思う。そもそも他の猫にも人間らしい感情なんてものがあるのか……それとも自分だけなのか。

 そんなことを考えながら廊下を歩いていると、向かいからやってくるグレンと視線があった。グレンは任務が終わったというのに、いまだにこの学校に居座っている。何が気に入ったのか、居心地が良かったらしく研究をほっておいて教師をしている。

「おい、レイン」

「なんですか……」

 ニヤリとグレンが笑う。グレンがこういう笑みを見せる時は大抵良くないことが起きるのだ。

「放課後暇か?」

「え、別にすることはないですけど」

「じゃあ俺に付き合え」

「えー……」

「今暇って言ったからな。拒否権ねえぞ」

 一応、面倒を見てくれていた人でもあるので、グレンのお願い事はできるだけ聞くようにしている。それに、暇ではあるから行けるのは行けるのだが。

「グレンさん、変なことしませんよね?」

「ああ?しねえよ。それともなんだ?俺の実験の手伝いでもしてくれるのか?もちろんモルモット役だ」

「ついていきますから、モルモットにはしないでください」

 レインは深いため息を吐きながら荷物を置きに一度寮へと戻りに行った。


 ♦️


 グレンから指定された場所は、二階に観覧スペースがついている、いわば決闘場のような場所であった。レインが使ったことはないのだが、ここが本来の一対一の試合スペースである。最初の授業で試合をやらされたのは、学校長がいたからであって、本来なら普通の教師が決闘場でない場所で生徒を戦わせることは原則できない決まりとなっている。

「それで、なんでこんなところに連れてきたんですか?」

 グレンはいつもと変わらぬ表情で告げる。

「最近よう、身体が実験やら研究やらで鈍ってきてたんだ」

「は、はあ」

「だから、運動に付き合え」

「は?」

「試合だよ。相性的にはレイン、お前が有利なんだから文句ないだろ?」

「文句しかないですよ!」

 いきなり連れてこられたかと思いきや、いきなり試合だと?そもそも、レインは別に動きやすい格好をしているというわけでもない。丈が長い学校のローブを羽織っている。それはグレンも似たような格好をしているわけだが……。

「僕はグレンさんの相手が務まりません」

「大丈夫だろ。お前、特級魔術師だろ?最年少の若き天才だ。相手にとって不足はないはずだ」

 グレンは十年以上特級魔術師の席に在籍しているベテランである。圧倒的な炎の火力と、瞬時の判断力は高い評価を受けており、その判断力は圧倒的に不利な状況下でも冷静に判断を下せるということでもある。

 レインとの戦闘経験の差は如実であり、それに手数にも差があるのだ。レインが勝っているものといえば、死なないアドバンテージとそれからくる特攻を戦略に入れられることと、魔術の属性くらいだ。

「お前はあの〈虹の魔女〉の弟子だろ?」

「『師匠』が何か?」

「あいつはすごかった。俺が特級魔術師なりたての頃、それ以前から在籍してたあいつに勝負を仕掛けたことがあったんだ。だけど、俺は何もできずに負けた」

 グレンの功績は決して他の特級魔術師と比べて劣るようなものではない。様々いる強力な敵を粉微塵にしてきたその実績は明らか戦闘特化型であることを示している。生産力という感じじゃない。

「いや、無理ですよ。僕、『師匠』みたいに強くありません」

 実際に戦っている姿を見たわけではないけれど、魔術のことをわかってくると嫌でもわからされる。あの人は本当にすごかったのだと。

 そもそも一週間も部屋いっぱいを水で埋め尽くし続けるだけでも、相当な体力と集中力がいるはずなのだ。そこからも読み取れるだろう?

「お前はそれでいいのか?」

「え?」

「いつまでもそういうつもりはないんだろうがよ。お前はまだ満足しちゃいねえよな?魔術はまだまだ奥が深い、からこそお前は学ぼうとしている。それだけじゃねえだろ。『師匠』超えてからが楽しいってもんじゃねえか」

 グレンが拳を前に突き出す。

「さて、運動しようじゃないか」
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