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本年、我が国では異国から渡来したカメリアのある品種の栽培を禁止した。
とても美しい花を咲かせ、その種から作られるオイルは高い効果が認められるものであったが、人体に非常に有害な虫が付くということで全面禁止となったのだ。
そのせいで、他のカメリア種までもが誤って伐採対象になってしまったりもしたが、庭師からは手入れが大変なので逆にありがたいと好評なのだという。
カメリアオイルの生産および販売は国主体で行われることとなり、この騒動は急速に落ち着いていった。
人々は、その虫がどのような害を人体に与えるのか、など気にも留めなかったが、女性達の間ではカメリアモチーフが幾度目かのブームになっていた。
美しいカメリアの刺繍やブローチで銘々を飾り、男性達の目を喜ばせた。
不思議なことに、カメリア伐採令が出されてから、行方不明者が大幅に減ったという――。
「やはりわたくしには庭仕事は向いていなかったのね、育てていたカメリアはチャドクガにやられて駄目になってしまったの。わがままはもうやめるわ。後は貴方がたにお任せするから、素敵な庭にしてちょうだい」
「かしこまりました。イリーナ様」
ある晴れた日の伯爵家庭園。この家の庭師達の元を離れるイリーナは、この頃女伯爵としてさらに魅力を増していると評判だ。
「お庭が整いましたら、お茶会も開けますわね」
「そうね。ゴタゴタはあったけれど、わたくしももう一花咲かせなくてはね」
「まあ、もう十分に華やかな領主様でいらっしゃいますのに」
さあっと頬を撫でる気持ちのいい風を受けながら、侍女が暑くなってきたのでそろそろ次の季節のドレスを注文しませんと、とイリーナに提案した。
「そうね。あの流行りだけはご遠慮するけどね」
庭の片隅にちらりと目をやるイリーナに、心得たとばかりに頷く侍女。
好みは人それぞれとはいうが、イリーナを含め、特に近頃輝く貴婦人はカメリアモチーフをあまり好まないことを知っている侍女は、さっそくドレスメーカーへ希望を出した。
開け放したサンルームから聞こえる子供達の笑い声に、イリーナは柔らかな笑みを浮かべてそちらへ足を向けた。
「魅入られたのは······どちらなのかしらね?」
子供達にも今一度伝えなくては。不用意にカメリアに近づくなと。可憐な花に触れれば首が取れる。近づきすぎると、忌々しい『あれ』がやってくる。
今日もいい天気だ。陽炎が立つ。
とても美しい花を咲かせ、その種から作られるオイルは高い効果が認められるものであったが、人体に非常に有害な虫が付くということで全面禁止となったのだ。
そのせいで、他のカメリア種までもが誤って伐採対象になってしまったりもしたが、庭師からは手入れが大変なので逆にありがたいと好評なのだという。
カメリアオイルの生産および販売は国主体で行われることとなり、この騒動は急速に落ち着いていった。
人々は、その虫がどのような害を人体に与えるのか、など気にも留めなかったが、女性達の間ではカメリアモチーフが幾度目かのブームになっていた。
美しいカメリアの刺繍やブローチで銘々を飾り、男性達の目を喜ばせた。
不思議なことに、カメリア伐採令が出されてから、行方不明者が大幅に減ったという――。
「やはりわたくしには庭仕事は向いていなかったのね、育てていたカメリアはチャドクガにやられて駄目になってしまったの。わがままはもうやめるわ。後は貴方がたにお任せするから、素敵な庭にしてちょうだい」
「かしこまりました。イリーナ様」
ある晴れた日の伯爵家庭園。この家の庭師達の元を離れるイリーナは、この頃女伯爵としてさらに魅力を増していると評判だ。
「お庭が整いましたら、お茶会も開けますわね」
「そうね。ゴタゴタはあったけれど、わたくしももう一花咲かせなくてはね」
「まあ、もう十分に華やかな領主様でいらっしゃいますのに」
さあっと頬を撫でる気持ちのいい風を受けながら、侍女が暑くなってきたのでそろそろ次の季節のドレスを注文しませんと、とイリーナに提案した。
「そうね。あの流行りだけはご遠慮するけどね」
庭の片隅にちらりと目をやるイリーナに、心得たとばかりに頷く侍女。
好みは人それぞれとはいうが、イリーナを含め、特に近頃輝く貴婦人はカメリアモチーフをあまり好まないことを知っている侍女は、さっそくドレスメーカーへ希望を出した。
開け放したサンルームから聞こえる子供達の笑い声に、イリーナは柔らかな笑みを浮かべてそちらへ足を向けた。
「魅入られたのは······どちらなのかしらね?」
子供達にも今一度伝えなくては。不用意にカメリアに近づくなと。可憐な花に触れれば首が取れる。近づきすぎると、忌々しい『あれ』がやってくる。
今日もいい天気だ。陽炎が立つ。
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例え破滅の未来であろうと、魔性の男のような魅力的な男性に相手にして貰えるのなら、最高の幸せなんじゃないかなと思いました。
感想ありがとうございます!
またカメリア購入希望の方が······!
でもたしかに合法で理想のビジュアルの相手がやって来るのなら、現実に不満を持っている奥様や旦那様も、ついフラフラとカメリアを育ててみようとするかもですね。
たまご様の「言い聞かせる日々」というお言葉が、ものすごく刺さってしまいました。
深くて辛い。生きている限り、この男と結婚している限り、逃れられない倦怠と苛立ち。
魔に取り憑かれるのってこういう時なのかもしれないですね。
魔性の男、いいですねえ!! 男バージョンもいあかもしれない、と拝読しながら思ってしまいました。
創作意欲を刺激するようなコメントをいただけて、とても感謝しております。
お読み下さりありがとうございました。
私も、とある品種のカメリア欲しいです😏
感想ありがとうございます!
えっ、このカメリア欲しいのですか······??
怖いことが起きてしまう可能性大ですが、恩讐を連れ去ってくれるものが生まれるかもしれません。
お読みいただき、嬉しかったです。
何と言うか、個人的には美しい話だと思いました。
「カメリア」はサキュバスでも、肉体関係を持つような現実的な淫魔というよりは、夢の中で会う美しい夢魔というのが相応しい存在なのかなと思いました。青春時代の美しい初恋の思い出の象徴で、実体がない夢のような存在。でも、いつか、男を連れ去っていく恐ろしい存在。
その美しく恐ろしい「カメリア」が心の中に住み着いていた、夫ではなく、妻というところがちょっとミステリーで怖かったです。(深読みすると妻が夫をどうにかしたとも読めるのですよね。)
素敵すぎる感想をありがとうございます!
この話はあえて色々をはっきりさせないままにしているので、読みにくいのではと心配していました。
読んでいただいた上に、素晴らしい視点での解釈までしてくださり、とても嬉しかったです。
『彼女』は青春の中での昇華(消化?)しきれなかったあれこれが実体化したものなのか、はたまた昔話の死んでいった女たちの怨念なのか。
妻も夫も誰も本当のことは分かっていないけれど、とある品種のカメリアを育てると事件が起きてしまうことは明白なので、国は禁止することになりました。
椿を育ててると、すぐにチャドクガがやってくるので困るのですが、その関係が私には強い執着に感じられることがあったところから思いついたお話です。
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ありがとうございました。