長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

文字の大きさ
49 / 255

閑話:事故案件……神楽洞爺の場合 前編

しおりを挟む
「うむ、ウザインデス三世という試験官を頼む」

 洞爺は探索者ギルドで受付にそう伝える。
 その振る舞いは熟練の探索者ではなく騎士のような格好良さがあった。

 だが、受付のお嬢さんはそれどころじゃない。

「待ってください!! 再考を!! 絶対碌なことになりませんから!!」

 まさかの探索者ギルドの触れてはいけないあの人を『指名』したのだから。

「知っておる。
「し、試験で死人を出すわけには……」
「ほっほっほ、お嬢さん。儂はこれでも腕は立つ、身を護る位はどうとでもなるのだ」
「いえ、その……見た瞬間に心臓麻痺でも起こされると困るので」
「……そんなにか?」
「そんなにです」

 真剣な面持ちの受付嬢さんに洞爺もほんのちょこっと早まったかも、と思いつつも武士に二言は無いと前言を翻さなかった。

「ウザインデス三世で頼む」
「本気……なんですね」
「うむ、仲間の無念は晴らさねばならぬ」
「わかりましたトウヤさん……いえ、トウヤ様。その覚悟受け取らせていただきます」
「……頼む」

 こうしてぎせい……勇者がまた一人、試験へと挑む。



 ◇◆――――◇◆――――◇◆――――◇◆――――◇◆



 試験当日、洞爺は愛刀と共に試験会場へと現れた。
 朝一番で瞑想、素振りと気合十分に体を温め、ある人物も誘い……ここへ来た。

「洞爺じいちゃん……事と次第によっては僕覚えたての魔法でここら辺全部焼け野原にすることも辞さないよ」

 そう、瞳から光を失くした真司君である。
 魔法士ギルドで支給される戦闘用のローブ、出来上がったばかりの魔法発動用の杖。
 エキドナの勧めで一振り買った20センチほどのナイフ。

「真司、安心せい……儂がおぬしの闇を払って進ぜよう」
「じいちゃん……」

 ふわりとなびく洞爺の白髪、一本の芯が通った立ち姿。
 それはほんのわずかな希望を真司の瞳に宿した。
 そう、エキドナはただ単に相性の問題で翻弄されたに過ぎない。洞爺ならばと真司の期待も高まる。

「いくら理不尽の塊じゃと言ってもその技には必ず原理という物があるのじゃ。儂がそれを証明しよう……エキドナはほんの少し運が無かっただけ。ただそれだけなのじゃ」

 長年戦いに身を置く洞爺が経験した理不尽は数多く、その一つは邪竜族のレンが良い例だ。
 刀の刃が通らない生物など洞爺からすればそれこそ信じられなかった。

「人である以上、儂に斬れぬものなどない……神楽の一太刀は竜の角すら斬るのだからのう」
「……(なんか壮大なフラグにしか思えないとか言ったら洞爺じいちゃん嘆くかな)」
「ん? なんぞ言ったか? 呆けた顔して」
「え? ああ、うん。何でもないよじいちゃん。期待してる!!」
「うむ、見ておれ」

 ここまでは格好良かったのだ。
 前回も。

 そして、試験会場の入り口に立つ受付嬢が扉を開ける。
 すれ違いざま洞爺は無理を通してくれたその受付嬢に感謝する、と告げ。
 受付嬢もご武運を……と犠牲者とうやを送り出した。

 真司は二回目となる試験会場。
 先日の大崩壊からノルトの民の皆さんによってきれいに修繕されて、思わず別の場所かと錯覚するような光景の中。

 一人の少女が居た。

 真っ赤なドレスを纏い、フリルのついた長い純白の日傘を差し、ふんわりと巻かれた金色の髪を風に遊ばせて。

 数のなるような可愛らしい声で洞爺と真司に笑顔で問いかける。

「あら、貴方が受験者さんですのね? 初めまして、マリアベル・ウザインデス三世と申します」

 ぱたん、と閉じられた試験会場入り口のドアの音が響くほどに静けさが場を支配した。

「…………チェンジで」

 あのインパクトの塊でしかないフレアベルを別な意味で凌駕する少女。
 思わずエキドナと同じセリフが出ちゃう真司君、完全に魅入っていた。

「む? 受付嬢殿……相手が違うようだが?」

 さすがに洞爺は見惚れる事はなく、来るであろうフレアベル・ウザインデス三世の姿が無い事を受付嬢に確認するが……振り返ってもそこに彼女はいなかった。

 しかし、閉じられた扉の向こうから答えだけは帰ってきた。

「ご、ご要望の通り『ウザインデス三世』の試験官です。後は頑張ってください!」

 脱兎のごとく受付嬢は見捨てて走り去る。
 足音と気配でそれを察した洞爺が扉に手をかけるが、びくともしない。

「? ちょっと待て!! なぜ鍵をかけたのじゃ!? ウザインデス三世って一人じゃないのか!? 受付嬢殿! 受付嬢殿ぉ!!」

 がっちゃがっちゃと扉のノブを弄るが扉が開く気配はない。

「と、洞爺じいちゃん」
「むう、手違いがあったのじゃ……すまんのうお嬢さん。儂は同じウザインデス三世でもフレアベルという御仁を手配したつもりなのじゃ」

 仕方なく試験は日を改める事にしようとマリアベルに洞爺は謝罪をする。
 あらあらまあまあ、とマリアベルも苦笑しながら二人に近づく。

 が、洞爺の歩数にして12歩。 
 その距離に近づいた瞬間……

 ――ぞわっ!!

 洞爺の全身を怖気が奔る。

「お兄様より、わたくし強いですわよ?」

 洞爺の行動は早かった。
 真司のローブの襟をひっつかみ、素晴らしい脚力でマリアベルから距離をとる。
 ほんの一瞬、マリアベルが洞爺の『斬撃の範囲』に踏み込んだだけで洞爺に襲い掛かる圧迫感。

 そして……言い知れぬ違和感。

「ぐえっ!? じいちゃん!! ひどいよ!?」
「逃げるぞ……」
「へ? なんで?」

 戦闘感覚など無いに等しい真司では感じ取れず。
 洞爺の行動に理解が及ばない。

「あらあらまあまあ、久しぶりですわ。感じ取れる方は……」

 先ほどまで可憐だったマリアベルの背中から立ち上る気配を、洞爺は知っていた。

「何が変態じゃ……を指名した覚えはないぞい。まったく」
「うふっ」
「どういうことだよ洞爺じいちゃん!!」
「どうもこうも……こういう事じゃ」
「タギリマスワァァ!?」

 みちっ!
 
 膨れ上がる上腕二頭筋!
 盛り上がる肩甲骨!
 躍動する大腿四頭筋!

 ぐしゃりと握りつぶされる日傘の柄、その内側から真の姿を現した刀身。

 そして内圧に耐え切れず破れ散る深紅のドレス。

 マリアベル・ウザインデス三世が嗤う。

「……チェンジで」

 呆けた真司がぽそりとつぶやいた言葉は筋肉の躍動音でかき消された。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

【村スキル】で始まる異世界ファンタジー 目指せスローライフ!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は村田 歩(ムラタアユム) 目を覚ますとそこは石畳の町だった 異世界の中世ヨーロッパの街並み 僕はすぐにステータスを確認できるか声を上げた 案の定この世界はステータスのある世界 村スキルというもの以外は平凡なステータス 終わったと思ったら村スキルがスタートする

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

処理中です...