長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

文字の大きさ
92 / 255

迷子の迷子の保護者達、貴方の家族はどこですか? ④

しおりを挟む
「どう思う?」
「どうって……見たまんまよね」
「寂れているねぇ」
「開拓初期の私の領地みたいですわ……今は立派ですけれども」

 ドワーフの集落、先日まできっと各家から煙突の煙が立ち上り。金槌で金属を鍛える音が響く活気のある村と町の中間、そんなイメージだったのだが……

「単なる寄り合い……所?」
「本当にここが聞いていた場所か?」

 表を歩いているのはみんな子供と女性ばかり。身長はイメージとは違いみんな夜ノ華ほどの背丈はある。肌も日に焼けたのか褐色の物が多いが……表情が暗い。

「あっ……」

 ツタで作った籠を抱えた少女が夜ノ華たちの前で転ぶ。とっさに幸太郎が手を伸ばし少女を助け、灰斗が足のつま先で絶妙なバランス感覚を披露し籠を優しく地面に降ろす。
 
「大丈夫かい?」

 幸太郎は少女をゆっくりと立たせてあげて、優しく声をかけた。

 ――こくん

 少女は何が起きたのかよく分かっておらず。戸惑いながらも助けられたことに少したってから気づく。その様子はどこかぼんやりしていて幸太郎に不安をもたらした。

「ちょっといいかしら?」

 夜ノ華が幸太郎の肩越しに彼女の顔を覗く、その顔色はお世辞にも血色が良いとは言えなく唇もカサカサだ。この症状は夜ノ華に心当たりがある。

「貴女、お腹空いてない?」

 にんまりと笑顔を浮かべて夜ノ華が少女に問う。
 
「え……?」

 戸惑う少女の顔が夜ノ華への応えであった。

「幸太郎、キッチン用意して。レティ、あなたの作った保存用のお肉全部使うわよ。灰斗さんは追加で香辛料とか集められるだけ集めて。さあやるわよ! 出張キッチン」

 手のひらを叩き、夜ノ華が号令を飛ばす。
 こうなった夜ノ華に迷いはない、まずはお腹いっぱい食べてから……それが日下部家のルールなのだ。

「はいよ」
「わかりましたわ」
「やれやれ、肉も追加で調達かな。幸太郎、弓を貸してくれないかい。刀だけじゃ間に合わなさそうだ」

 三人ともそんな夜ノ華の考えに否などあるはずもない。
 調理は夜ノ華に任せてそれぞれ最善の行動をとり始める。そんな彼らを初めて集落のドワーフは視界に入れて興味深そうに眺める者、胡乱げな瞳で訝しむ者、排斥の意味を込めて睨む者、様々だった。


 ――二時間後


「おいしい!! おじちゃん、お代わり!!」

 周囲の大人と思われるドワーフの制止を振り切って先ほどの少女が食べ切った。
 それは穀物を水分を多めに炊いて、保存食にと作った干し肉の塩分だけで味付けした……いわゆる雑炊である。日本人だとお米が真っ先に思い浮かぶのだが穀物であれば可能だ。
 
「はい、まだまだあるからゆっくり食べてね」

 元々長旅を見越して備蓄はしっかり持っていたし、この集落で馬車を作って乗せればと幸太郎と灰斗がかなり多めに購入していたのが幸いした。足りなくなればまた一つ前の村に戻ればいいのだからと夜ノ華も次々作っていく。
 お腹に優しい薄味の雑炊から少し濃いめの味付けのスープ、狭い集落は瞬く間に食欲を刺激する美味しそうな匂いが満たされていった。それなのに……

「……警戒されてますね」
「そうですわね」

 灰斗が言う様に幸太郎が助けた少女を皮切りにして何人かの子供はおずおずと雑炊やスープを貰いに来てくれるのだが大人、その中でも女性陣の視線が夜ノ華たちに注がれる。好意的ではなく明確な敵意として。男性陣は欲しいけど……と表情が物語るのだがそんな女性陣の姿を見て頑として動かない。

「幸太郎だよね?」
「正確には弓ではないかと」

 理由は分からないが本人よりも存在感がある西洋弓ストライカーが原因だとレティシアが分析する。さて、どうしたものかと夜ノ華に相談しようとしていたら。夜ノ華の様子もおかしかった。
 だんだん目尻が吊り上がり、口元に八重歯がのぞいており……まあ、簡単に言えば怒っている。

「なんでですの?」

 ころころと表情と感情が変わる夜ノ華は見ていて楽しいが、怒るときもわかりやすく。普段おっとりしているレティシアにはその切り替わりの速さについていけない時があった。それを見て灰斗は苦笑を浮かべる。

「あれは僕でもわかります。レティシアさん馴染みがないと思いますけど……僕ら日本人はもったいない精神と言うか……お残しは許しません。みたいな感覚なので」
「ああ、なるほど。戦場でそういうお方いましたわ……じゃあ次は」
「ええ、多分」

 わかりやすい夜ノ華の行動は幸太郎にもとっくに察しがついていて、さりげなくお代わりを求めてきた子供たちをささーっと遠ざけた。どうせ次は夜ノ華お得意の『アレ』が来る、と。
 夫である幸太郎、夜ノ華の感情を理解したレティシアと灰斗は両手で耳を塞いだ。

「おなか空いたならちゃんと食べなさい!! 物欲しそうにしてる全員おなか一杯になるまで私作り続けるからねっ!! 良い大人が意地張ってんじゃないわよ!! さあ順番にならべぇぇぇ!!」

 器に中身をよそって、空っぽになった鍋を振り上げ。夜ノ華は手甲から鉄の爪を伸ばして怒鳴り声をあげる。その声は彼女の細身のどこから出てるのか不思議なほど、大気をびりびりと震わせドワーフたちが震えあがるほどの気迫があった。

「でないと後悔するわよ」

 座り切った眼差しと両手にある物から、ドワーフの何人かが気づく。
 アレだ。学校の教室で黒板を……

 ――ギィィィィィィ!!

 引っ搔いたのだ。

「「「「ぎゃああああああ!?」」」」

 背筋に上る不快な寒気と二の腕にびっしりと鳥肌が立つ。その悪魔の音から逃れたのは幸太郎の真似をしてきゃっきゃと耳を塞いでいたドワーフの子供たちと幸太郎たちだけ。
 力いっぱい夜ノ華が鍋を引っ掻いた音は集落の建物の中にいた人にまで届いてそこらじゅうで悲鳴が聞こえる。目と耳が良いドワーフにとっては音響兵器そのものだ。

「ご飯食べる?」

 鍋を引っ掻くのをやめて夜ノ華はにこにことドワーフの皆さんに問いかける。
 二撃目の準備をする夜ノ華にドワーフたちは無条件で頷き、理路整然に炊き出しに並び始めた。

「何この新手の脅し……」
「やってる事は親切そのものなんですけれども……私たちなんか悪者見たいですわね」
「でもまあ、食わないと倒れそうだしなぁ……」

 実際空腹に悩まされていたドワーフたちは一口食べると、先ほどの悪魔的所業(結局三回繰り返された)を行った人が作ったのか!? と目を見開いてその優しい味に舌鼓を打ったのだ。決してお玉を構える夜ノ華が怖かったわけではない。はず。きっと。多分……

「ちょっと! 幸太郎!! 食材追加速く!!」
「はい! ただいま!!」

 ひたすらご飯を作り続ける夜ノ華と幸太郎。

「なんか新婚時代を思い出しますわぁ」
「旦那さん、レティシアさんの尻に敷かれてそうですね……いい友人になれそうだな、と」

 くるりと踵を返してタバコを吸いにその場を離れる灰斗。その背中に白いひげを蓄えたドワーフが声をかけてくるのはほんの数分後だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。 だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!? 体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

【完結】追放された転生聖女は、無手ですべてを粉砕する

ゆきむらちひろ
ファンタジー
「祈るより、殴る方が早いので」 ひとりの脳筋聖女が、本人にまったくその気がないまま、緻密に練られたシリアスな陰謀を片っ端から台無しにしていく痛快無比なアクションコメディ。 ■あらすじ 聖女セレスティアは、その類稀なる聖なる力(物理)ゆえに王都から追放された。 実は彼女には前世の記憶があって、平和な日本で暮らしていたしがないOLだった。 そして今世にて、神に祈りを捧げる乙女として王国に奉仕する聖女に転生。 だがなぜかその身に宿ったのは治癒の奇跡ではなく、岩をも砕く超人的な筋力だった。 儀式はすっぽかす。祈りの言葉は覚えられない。挙句の果てには、神殿に押し入った魔物を祈祷ではなくラリアットで撃退する始末。 そんな彼女に愛想を尽かした王国は、新たに現れた完璧な治癒能力を持つ聖女リリアナを迎え入れ、セレスティアを「偽りの聖女」として追放する。 「まあ、田舎でスローライフも悪くないか」 追放された本人はいたって能天気。行く先も分からぬまま彼女は新天地を求めて旅に出る。 しかし、彼女の行く手には、王国転覆を狙う宰相が仕組んだシリアスな陰謀の影が渦巻いていた。 「お嬢さん、命が惜しければこの密書を……」 「話が長い! 要点は!? ……もういい、面倒だから全員まとめてかかってこい!」 刺客の脅しも、古代遺跡の難解な謎も、国家を揺るがす秘密の会合も、セレスティアはすべてを「考えるのが面倒くさい」の一言で片付け、その剛腕で粉砕していく。 果たしてセレスティアはスローライフを手にすることができるのか……。 ※「小説家になろう」、「カクヨム」、「アルファポリス」に同内容のものを投稿しています。 ※この作品以外にもいろいろと小説を投稿しています。よろしければそちらもご覧ください。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

処理中です...